第24話 大切なのは誰かと一緒にいられる強さ
ようやくやってきた最奥で待ち構えていたのは手配書通りの男だ。褐色した肌に群青色の短髪で頬に黒い刺青を入れている。
こいつもガタイが大きいなおい。それに幹部に比べると多少力があるんじゃないだろうか?
「侵入者が1人だと?」
「侵入者ってか冒険者だがな。お前の部下弱過ぎないか?」
とりあえず俺はどうするか……。ひとまずこいつにも聞いておこうかなと思ったんだが、話を聞いてくれる様子じゃないんだよな。
「ふざけやがって……!」
物凄くお怒りだ。多分俺じゃなくて部下に対してなんだろうけど。
「お前冒険者を前にして余裕そうだな……。仮にもお前を捕まえにきた奴だぞ?」
「貴様のようなガキを相手にはしてねぇんだよ! 黙って死んどけや!」
撃ち出された魔法。おおう、こいつは早い。ルナと互角だろうか? まぁルナはこの瞬間に上級属性魔法を撃つのに対してこいつは下級属性魔法だが……。
魔法を刀で斬り裂くと目を大きく見開かれた。この程度で驚くなよ。底が知れるだろうに。
「高額の賞金首だって聞いてたから警戒してたんだけどな……」
なんだこの体たらくは。期待はずれもいいところだしこの程度の奴らが情報を持っているとは思えないんだが。
人間でも強い部類に入るのってもしかしてこの程度なのか? それとも俺が異常なのだろうか?
いやいや、ムイとか見てたら分かる。もっと強い奴はごまんといる。こいつが強い部類に入るのかもしれないがその中でも最弱なのかもしれないしな。
「とりあえずもういいか……」
この程度ならすぐに終わる。俺はライジンで一気に近付くとその首に向けて刀を振るう。刀は首の皮一枚を斬り裂き、首から多少の血を流させた。
「ひっ!?」
カイル・レイルはその場に座り込むと顔を蒼白とさせる。とりあえずこの状態なら情報を聞き出せるかもしれないな。
「おい、死にたくなければ俺の質問に答えろ」
「な、なんだよ……」
「お前、魔人ってのに聞き覚えはあるか?」
魔人という言葉に全く無反応だった。ということはこいつも残念ながら無しか。流石にもう期待もしてないけどな?
「聞き方を変えよう。黒い目に角を持った奴を見たことは?」
「角? 片目が黒い奴は情報に入っているが……」
「え、マジで?」
これはもしかしてもしかするのか? いや、しかし片目だけ? それに角はないのか? それは魔人の特徴とは違うような……。
「こ、ここから北の街にアデラアというのがある。その近くの森で見たという情報がこの前入ってきたばかりだ」
「お、おう……」
アデラアね。予想外にも良い情報が手に入った。ラッキーだな。
明日にでも向かうとしよう。今日はもうそろそろ時間になっちまうしな。
「殺すのは勘弁してやるよ。ギルドには引き渡すがな」
「…………好きにしろ」
こういうところは男らしいのな。でもまぁ良い情報が手に入った。こいつの処遇は知らないが俺が手を下すこともないだろう。
しかし一応気絶はさせておこう。人質を取られてもこいつは俺の速度を認識出来ないようだしな。
「じゃあ眠ってもらうぞ」
「最後に聞かせろ、お前の名前は……」
「萩 刀夜だ」
俺は刀を峰打ちにしてカイル・レイルの腹部を斬り裂いた。カイル・レイルは潔くその一撃を受けて気を失った。最後の最後は男らしかったな。相変わらず弱いけど……。
カイル・レイルや幹部を引きずりながらどうしようかと考える。流石に部下全員を集めるのも骨が折れる。こっちの方が戦闘よりキツイんじゃないか?
とりあえず主要人物全員を引きずりながら奴隷達のいた広場へと戻ってきた。元奴隷達は一様に俺の姿を確認するなり喜んでいた。
「お前らの中で転移魔法使える奴っているのか?」
「俺達は全員使えねぇんだよ。こいつのせいでな」
男が鉄球を指差した。鉄球って魔法を使えなくする効力でもあるのか?
まぁそういうことなら破壊すりゃいいか。俺は刀を抜くとライジンを使用しながら鉄球を破壊していく。
「……? 全然効くけどな」
鍛冶魔法を使用して打ち直したところあっさりと壊れた。この程度なら普通に破壊出来ると思うのだが。
あれだろうか。装着者にのみ作用するものとか? 鍛冶師としてこういうものは興味あるんだがな。まぁ破壊しちまったし仕方ない。後であいつらに聞いてみるか。
「これで問題ないか?」
「こ、この鉄球をあんな剣であっさりと……そ、相当凄い剣なんだね」
「いや、これは別に普通の刀だが。鍛錬魔法で破壊しただけだ」
さて、これで転移魔法が使える奴らが増えたことだろう。まぁ俺も何人かは連れて行くが。
元奴隷にも協力してもらい全員を街のギルドへと連行した。急に現れた大量の人間に驚きの声が上がっていたがどうでもいい。
「ほい、捕まえてきたぞ?」
「さ、流石です」
何やら驚かれていたが時間的にもそんなに驚くことじゃない気がする。かなり様子見しながらの攻略だったしな。意味なかったけど。
「こちら報酬になります」
「ん? なんかかなり高額じゃないか?」
「依頼達成に加えて賞金首を捕まえたのですが、当然賞金が出ます」
ああ、そういうことか。依頼も結構難易度が高い設定だったからな。まさかそこに賞金がプラスされるとは思わなかったが。
「お兄ちゃん!」
いきなり服の裾を引っ張られた。何事かと見ると午前中に会った男の子だった。
「ほ、本当にしてくれたんですね!」
「ちょ、さ、サイ……!」
慌てて姉も駆け付けてくる。そうだな、こいつらにやるか。どうせ目的の情報は手に入ったしな。
「サイって言ったな。お前、お姉ちゃんは好きか?」
「え、う、うん……」
戸惑いながらも素直に頷く。こういう年頃は普通は嫌うものだがそういう家庭環境ならば頷くのも仕方がない。
「なら今はお前が守ってもらう立場なんだろうけどな。将来はお前が守れるようになれ。男は女を守らないと強くなれない生き物だからな」
「お兄ちゃんもそうなの?」
「あぁ。俺がこうしてられるのも好きな奴らがいるからだ」
そうやって守って、守られて。互いに成長して。それを繰り返して今があるのだろう。
俺の仲間は支えてくれるだけじゃない。一緒に隣を歩いてくれる存在なのだと気付けたから。
「別に冒険者になれとは言わない。でもな、守れるくらいに強くなれ。どんな形でもいい。心を支えられるようにでもなれればいい。大切な人を失わないように考えろ。そうしないとあっさり失うぞ?」
俺と浅野がそうだったように。後悔するなというのは無理な話だ。でも最低限、大切な誰かを守れるようになればいい。
「僕、頑張ります!」
「あぁ、頑張れ」
乱雑に頭を撫でるとサイは髪をボサボサにしながらも笑みを浮かべた。
「報酬金はこの姉弟にでも渡してくれ。じゃあな」
「え、えぇ!? もも、貰えませんよ!」
「その弟の決意に対しての前祝いだ」
守りたいと思ったのだろう。守られる存在では何も成せないから。親を失ってそれは痛い程痛感したはずだ。
「お兄ちゃん!」
「ん?」
「名前、教えてください!」
名前か。別に名乗るほど大したことはしてないんだけどな。俺も俺の目的があってそうしたのだから。
でもまぁいいか。こいつがそうして踏み出すのならそれで。
「萩 刀夜。じゃあな、サイ」
「はい!」
「え、えぇ!? 萩 刀夜ってあの!?」
姉は驚いていたがとりあえずこれでいいのだろう。俺は転移魔法で姉弟に手を振りながら家へと戻った。
時間的にはギリギリ。つまりは全員いるわけだがその表情は物凄く暗かった。
「ど、どうした?」
「私達、何も情報を得られませんでした……」
「ん……ごめん」
「ごめんね刀夜くん……。私も何もなかったよ……」
こいつらのことだ、正攻法で探してくれたことだろう。俺も若干は回り道をしたものの普通に正攻法に聞いてきたわけだが。
「とりあえず家の中に入らねぇ? 俺は一応それらしきものが一件あるしな」
「そ、そうなのか!?」
「流石は刀夜さんよね……」
家に入るなり俺はカイル・レイルから聞いた話を聞かせる。アデラアの街近くの森だ。明日目指す場所は決まったわけである。
「な、なるほど……賞金首は盲点でした」
「そうね」
「流石は刀夜殿だ」
「ガウ!」
何やら盛大に褒められてしまった。しかし俺は運が良かっただけであって褒められることじゃない。
「それにしても人間って弱過ぎないか? あんなのライジンがなくても勝てそうだぞ?」
全員あっさりやられるし。そもそもやる気が感じられない。
「それは刀夜さんが強過ぎるからよね?」
「武器や魔法は基本的に聞きません。戦術もむしろ逆に立てられてしまうくらいですし勝てる要素がありません」
「そんな褒められてもな。いや……まぁ嬉しいんだけど」
でも使えるものは使うし相手の得意分野は極力潰すのが戦術の基本だ。最強であるならその程度は当然のことだ。
「まぁとりあえず今日はお疲れさん。疲れたし外食でも行こうぜ?」
「何か食べたいものがあるの?」
「ルナが好きなものだな」
「それってもしかして!」
ルナが過剰に反応する。久しぶりだもんな。そりゃそういうテンションになるだろう。
「久しぶりに海鮮丼でも食いに行くか」
正式名称なんだっけ? 忘れたな。もういいか。
ひとまずウキウキしているルナを見ていると俺も嬉しくなってくる。イメージ的にマオも好きそうだしな。
「それじゃあ行くぞ」
「はい!」
元気よく返事を返すルナに俺も笑みを浮かべながら店へと向かった。
その味は久しぶりに食べたこともあって、かなり美味い。マオも予想通り大変満足していた。
「ガウ……」
「す、すまん、お気に召さなかったか」
「ガウガウ……」
何やらあまり美味しくなさそうにしていたリルフェンに俺は帰り道にウィンナーのような肉を買う羽目になったのだった。肉食の生き物に魚は合わないらしい。
…………種族も違うのに全員が好物になれる食べ物なんてないかもしれない。




