第11話 魔物の行動パターンの変化は人に大きな影響を与えるもの
少し先に進むと再度ゴブリンに襲われる。ルナは魔法によって殲滅することが出来るのだがそれは普段の話。この森はリアの故郷の収入源であるから殲滅的な炎魔法を使ってしまうと大火事になること間違いなし。
つまりルナは今行動を制限されて戦っているわけだ。俺もルナの身を守る為にも前線に出る必要がある。
「アイスボール!」
ルナの手の平から飛ばされた氷の玉がゴブリンを的確に撃ち抜いていく。これは初級魔法なのでダメージは少ない。
「ご主人様!」
「あぁ!」
ルナの意図を即座に汲んですぐに動いた。少量なりともダメージを負って動きが鈍くなったゴブリン達を剣で切り裂いた。
「流石ご主人様です♪」
ルナが喜んでくれる。うん、ルナのお陰なんだけどな?
「っ! ルナ!」
ゴブリンの1体がルナに向かって矢を放ったのが見えた。咄嗟に名前を叫んでしまうものの俺の速度じゃ間に合わない。
「やはりご主人様は凄いです!」
「お、おう……。俺はお前の方が凄いと思うけどな……」
ルナは全く見ることもせずに氷魔法を展開したその矢を防いだ。何でそんなことが出来るのだろうか?
ひとまずルナは援護とかいらなさそう。むしろこっちが援護してもらってるな。ルナ1人でも充分っぽい。
しかし初めてのルナとの共同作業がゴブリンの殲滅とか夢がなさ過ぎて笑っちまうな。はぁ……癒されたい。
「ご主人様、援護致しますのでラストをお願い致します!」
「あぁ!」
基本的にリアのしていたことの役割が俺に回ってきたというだけのことだ。ひとまず俺がすべき事はダメージを負ったゴブリンの殲滅か。
ここまで戦ってきて分かったのはゴブリンは近接攻撃をして来ない。武器が弓であることもそうだが力そのものが劣っていることを本能的に理解しているようだった。
「ご主人様! そのゴブリンでラストです!」
最後のゴブリンを切り倒すと黒い粒子となって散っていった。ひとまずこれで問題なさそうだ。
ルナの援護は凄まじい。まるで事前にゴブリンの居場所を分かっているかのような防ぎ方をする。ステータスには何もなかったのだから恐らくルナの本能的な危険察知の能力が高いのだと思うが。
「終わりましたね。流石ご主人様です。格好良かったです」
「俺にはルナの方が格好良いんだけどな……」
本当にどうやるんだろうか? 慣れとかそういう感じだろうか?
「何がでしょうか?」
本人全くの無自覚だったようだ。うーん。特に意識しているわけでもないのか?
「うわぁぁぁぁ!!!!」
突如として聞こえてきた悲鳴。俺達は驚いて同時に声のした方向を振り向いてしまう。
「ご主人様、どう致しますか?」
「…………助けに行くか」
「ふふ……はい。行きましょう」
ここで見過ごす事が出来れば良かったんだが。人としてはやはり助けに入るべきだろう。
しかし相手は本当にゴブリンだけなのだろうか? 確かにルナがいるからこそ俺も勝てるのだが普通の冒険者がゴブリンに負けることなんてあるのか?
悲鳴の方向を走ると複数のゴブリンに囲まれている4人組がいた。全員怪我をしておりかなり危険な様子だ。
何より気になったのはその相手。ゴブリンはまるで人間のように前衛後衛に分かれた統率力、そして何より近接武器を使わないはずのゴブリンが斧を持って立っていることから明らかに異質な集団なのだと予測出来る。
「ルナ、ゴブリンって斧持つのか?」
「私も初めて見ました」
つまりはこれが初めて。むしろ苦戦の原因がこれと見るべきか?
とにかく助けに入った以上は何かしら対策を考える必要があるわけだが。恐らく真正面から斬り合ったら俺の剣は負ける。だってまだまだ未熟な魔法だしな。
ここに来るまでにゴブリンは魔法というものを使用して来ない。このゴブリンにそれが当てはまるか分からないのでそれを確認してから行動に出たい。
「ルナ、近付くゴブリンは俺が引き付けるから遠距離からの支援を頼む」
「は、はい!」
呆然としていたルナだが俺の声に即座に我に返った。ゴブリンの近接武器持ちは初めてなので動揺しているのだろう。まだこの世界に馴染み切っていない俺はそういうものだろうという気持ちもあるので特に驚きはしないが。
とりあえず落ち着いて冷静に。ここは死の一歩手前、戦場だ。いつ誰がどう死んでもおかしくはない。
「グギギ!!」
前衛のゴブリン達が襲って来る。斧を振り回す様は素人そのものだ。力任せで攻撃も読みやすい。もちろん俺に攻撃を読む技術はないが!
要は引き付ければいい。鬼の斧の間合いの半歩下がるこの距離感を維持する。ルナ達を巻き込まないよう円を描くように方向をずらす。
飛んでくる矢は基本的にルナが防いでくれるので心配はしていない。
ひとまず罠を仕掛けてみようか。遥か昔、マンモスを罠にはめることで仕留めたという歴史が存在する。もちろん事実かどうかは不明ではあるが試す価値はある。
俺は剣を鞘に納めると魔力装備生成魔法と付与魔法を同時に両手で展開し、新たな剣を創り出す。初級土魔法が付与された剣だ。
鞘に納めた剣を抜き、二刀流の状態で土魔法付与の剣で軽く地面を叩く。これでその部分の土が柔らかくなった。
「グギ!?」
先頭にいたゴブリンがそこに足を突っ込んでバランスを崩す。そこからはドミノ倒しのようにゴブリン達が倒れていく。
「ご主人様!」
「っ!」
ルナの魔法から逃れた矢が俺の首元に迫った。俺は咄嗟に右手で首を庇っていた。それは偶然か、はたまた魔法を使い続け、更には展開速度も上げようとしていて癖になっていたのか。俺の意思に反して展開された魔力装備生成魔法から小さな短剣が創り出されて偶然矢に当たって弾いた。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
そのままバランスを崩して尻餅をついてしまう。本当に死ぬかと思った…………。
「サンダーボルト!」
ルナが俺の目の前で倒れ込んでいたゴブリン達を落雷で倒してしまう。俺はその間に立ち上がると同時にルナのいる方へと走った。
「ご主人様! 大丈夫ですか!?」
「い、いや、し、死ぬかと思った!」
「うぅ……ご主人様をそんな危険な目に遭わせてしまうだなんて……メイド失格です……」
いや、むしろ俺がルナに頼り過ぎていた。この数のゴブリンだ、はっきり言ってルナ1人ではきついだろうに。
「悪い。俺が冷静さを欠いていた。でも今ので前衛のゴブリンは全員片付いた。後はいつも通りなんだろ?」
「はい! ご主人様がまとめて動きを止めてくださったお陰です!」
「俺もあんなに上手くいくと思ってなかったんだけどな?」
とりあえず戦況的にはこちらがかなり有利になったと見ていい。後はいつも通りと言ったが俺にとってはいつも通りとは違う。
「…………」
まず走る速度を上げるか。あと空中で動けるようにしたいな。流石に初級魔法でそこまで望むのは無理か?
鍛冶師というのは製作するのは武器だけではない。鎧などの防具も製作する。だからこそ俺は鍛冶師という職業をこう評価することにした。
汎用性が高く、どんな局面でも対応出来る最強の職業であると。
初級風魔法を付与した靴を創り出すとそれに履き替えた。これで風魔法を発動させることで速度の上昇を図れる。しかし空を駆ける事は出来なさそうだ。これはまたルナに中級や上級辺りの魔法を教えてもらうまでは我慢だな。
「一時期は絶望もしたが……今はこの方が良いかもな……」
「ご主人様?」
おっと。とりあえず俺が強くなればなるほどルナが楽を出来るのだから頑張らなくては。今までの恩を返す為にも頑張る必要がある。
「ルナ、援護頼む」
調子に乗っている場合じゃない。実際つい先程死に掛けたのだから。戦場において油断や慢心は死を意味するのだろう。
「俺達もやるぜ」
「いつものゴブリンなら手負いでも問題ないもんね」
「うむ!」
怪我人だがゴブリン相手なら問題ないらしい。じゃあいいか。放っておいても死なない……よな?
そこからはほとんど俺は何も出来なかった。というのも何もさせてもらえなかった。主にルナに。
森という地形だ、隠れて攻撃するのに適した場所で近接攻撃は不利になるという判断らしい。分かるんだけど……分かるんだけど俺も強くなりたいんだよ!
「改めて助けてくれてありがとな!」
「お陰で助かったわ」
「うむ!」
とりあえず礼を言われまくった。でもほとんどルナさんのお陰。俺は敵を引き付けて逃げ回っていただけである。
「どうですか! ご主人様はとても強いお方なのです!」
「いや、ルナ? ほとんどお前だろ……?」
あと俺が凄くてもルナが胸を張る事じゃない。だから揺らしちゃ駄目。男達全員見ちゃってるでしょ?
とりあえず靴の方の検証は次の機会だな。どれだけ速度が上がるのだろうか? 初級魔法だしあんまりだろうな。
「これでベースキャンプに戻れる!」
「ん? ベースキャンプ?」
それって基地的なあれか。この森の中にあるのか?
「流石にこんなにゴブリンがいて1日で掃討出来るはずがないからな! ベースキャンプを作ってしまう方が得策だろう?」
確かにそうだろう。それに1日というか10日以上掛かっているわけだが。ひとまず俺達もそこを目指すか。
「俺達も行っていいか?」
「もちろん!」
ここで断られたらどうしようかと思った。まぁ断られる理由もないし、それに俺達は一応助っ人だ。主にルナさんだが……。
「ベースキャンプですか。何だか壮大な依頼になりそうです」
「そうだな。まぁ気張っていこうか」
「はい」
俺達にとっては初めての依頼の延長戦だ。こうも序盤から長くなってしまうと後々が楽に感じそうだが。まぁ今回もルナさんが頑張るんだろうな。
俺に出来ることは一刻も早く魔法を覚えて役に立つことだ。ルナにだけ苦労はさせない。むしろ楽させたい。
「それじゃあ案内するから付いてきてくれ」
「おう」
「はい」
俺達は怪我人に連れられるという謎の構図でベースキャンプへと向かって歩き出した。




