第17話 優しき精霊も悩みやトラウマを思い出すもの
魔装備というのは強力な威力を持つ反面、使用者の魔力を遠慮なく吸い尽くすのが特徴な武器だ。
俺はその弱点を克服して結果として外気の魔力を吸い出して使用する方法を考え付いたわけだが……。
「んーむ……」
それを武器にも使用出来る。使用出来るのだがどの属性を付けるのかが重要だ。
例えば剣や刀であれば風魔法を付与すれば切れ味が格段に向上する。斬撃に加えて風魔法による斬撃がプラスされるからだ。単純なものである。
しかし風魔法ではなく炎魔法を付与すれば破壊力が増す。剣や刀にはない斬撃ではなく破壊力を付与出来るのだ。
「どうしたものか……」
自分の命を預ける相棒を作るのだ。じっくりと長考する必要があるかもしれない。
時間的にはもう既に日が変わってしまっており、それどころか深夜の3時だ。こんな時間なら誰も起きていないだろう。
誰かの意見を聞きたかったんだけどな。仕方ない。今日は寝てしまって明日また改めて全員に聞いてみることにしよう。
手を洗って服を着替えて居間へと向かうと何やら誰かいた。薄暗い部屋に月明かりだけが差し込み、その中で誰かがソファに座っている。
「…………」
もしや不審者か? いや、そんなはずはない。この家はそういう防犯は結構されているはず。
ということは浅野でもないな。浅野は登録されていないから残念ながら普通に警報が鳴る。
「誰かいるのか?」
「え?」
そこにいたのはルナだった。薄暗い部屋の中、魔法に関しての本を読んでおり勉強中だった。
「ルナ、こんな時間まで勉強してるのか?」
「ご主人様……」
ルナっていつもこんな時間まで? いや、そんなことはないはずだが……。
「もしかしてお腹空きましたか?」
「いや、夜食あったしな。ありがとな」
「いえ」
ニッコリと笑顔で返してくるルナに若干の違和感を覚えた。いつもの笑顔と違う。
「何かあったか?」
「…………」
ルナは目を大きく見開いて驚いていた。俺はルナの隣に腰掛けるとルナの頭を優しく引き寄せて胸に抱き寄せた。
「見られたくないなら顔見ないから。話したくなったら話せ」
そのまま頭を撫でてやるとルナの手が震え始める。俺は反対の手でそれを掴んで握り締めた。
ルナも何かに悩むのだ。そんな当たり前のことを失念していた自分が恥ずかしい。ルナだって1人のか弱い女の子なんだから。
「…………すみません。不安になってしまっただけなんです」
「不安?」
「はい……ご主人様がどんどんとお強くなられて……いつか私の前からいなくなってしまうんじゃないかって思ってしまって……」
そんなわけがない、と言うのは簡単だ。しかしこれは恐らくルナの過去に起因しているものなのだろう。
俺よりも長く生きているのだ。そういう不安や恐怖というのを人一倍感じているはずだ。
「…………なぁルナ」
「は、はい」
ルナは目尻に溜まった涙を拭いて俺を見上げる。俺は精一杯笑い掛けた。
「そういう不安を抱くのも今が大切だって思ってくれてるってことだろ? ありがとな」
「え……?」
目を大きく見開いたルナ。俺が慰めるとか思っていたんだろうな。
しかし残念ながら俺は中途半端な慰めなどしない。無理なものは無理だと言うしどうしようもない現実に抗いはすれど受け入れる準備もしている。
「絶対にいつどんな関係でも別れってのは存在する。だからずっとお前のそばにいてやるなんて無責任なことを俺は言えない」
「は、はい……」
「でもお前が望んでくれて……俺が死ぬまではお前のそばにいる。だから俺といる間は笑って過ごしててくれ」
俺にはそれくらいしか言えないから。一緒にいたくてもいれないという関係性もあるかもしれない。
だか俺達が離れるという時はそういう時だ。片方が死んで片方が生きて。死別以外にないだろう。
「酷いです……酷い慰め方です」
「悪い。俺はそういうの得意じゃないからな……」
ルナはついに涙を流してしまう。やはり俺には慰めるとかそういうの駄目だな。向いてないらしい。
「ですが……」
ルナは涙を流しながらも嬉しそうに微笑む。その表情がとても綺麗でつい見入ってしまう。
「世界一嬉しい言葉です」
「お、おう……」
そんなこと言われると照れるだろうが。俺もそうだが今ので慰められるなんてこいつも変わってるんだろうな。
泣き顔を見られたくないだろうルナを胸に抱き寄せて落ち着くまで背中を撫で続ける。こんなことで悩むなんてな。
「私には魔法を教えてくださった精霊の師匠がいたんです」
「そうなのか?」
「はい」
魔法ってルナの独学じゃなかったんだな。まぁ確かに魔法陣の構造とか教えてもらわずに本だけで理解するのは難しい。
ルナの師匠か。会ってみたかったが、話の流れ上そういうことなのだろう。
「ですが師匠は呪法という禁じられたものに手を出してしまったんです」
「呪法?」
全く聞いたことがないものだ。呪いの魔法、という概念なのだろうか?
「呪法を使用出来るのは精霊だけだと言われています。人間の間では知られていないものです」
「それをあっさりバラす辺り、お前天然だな……」
「ご、ご主人様なら問題ございません!」
まぁそうか。というか別に秘密にしなくても精霊しか使えないなら…………いや、絶対に使える方法があるな。
例えば契約者が命令した時だ。俺は一番最初にルナに従わなくていいとその絶対厳守の契約を破棄した。それをしていなければ強制力が働いてしまう。
あぁ、だから俺なら問題なしってことか。もう俺が命令しても無駄だもんな。
「呪法というのは呪いです。絶大な効果を発揮する反面、使用者にも同じものが返ってくるというものです」
「マジかよ」
死ぬレベルの呪法なら相手を殺せば自分も死ぬわけか。確かにそんな危険なもの使わせるわけにはいかないな。
「使用方法は精霊の核を削ってという噂がありますが残念ながら謎は解明されておりません」
「まぁそれが有力だな」
精霊の核は精霊しか持ってないもんな。そりゃ精霊しか使えないだろう。
「私の師匠は魔法に関してとても博識でした。ソーサリー様に並ぶ程です」
「そんなにか」
魔法に詳しいルナが見ているのだからその評価に間違いないだろう。だとすれば相当強い奴なんだろうな。
「はい。とても素敵で格好良い方でした」
「…………そいつもしかして男?」
「いえ、女性ですが……。どうかなさいましたか?」
いや、普通に男なら嫉妬してただけだが……。でもまぁよかった。そうか、初めての相手俺だって言ってたもんな。でも初恋がその男だったらと思うと今後のルナの対応を考えなければならないところだった。正確には俺に惚れるように尽くすくらいだが。
「格好良い女性か。コウハみたいな感じか?」
「確かに凛としていらっしゃいますがコウハ様とは正反対ですね。クールで近寄り難い雰囲気です。どちらかと言いますとご主人様に似てますね」
さらっと俺近寄り難いとか言われた? ルナに言われると何気に傷付く。アスールとかマオとかは平気なのに。
「とても聡明で色々なことを考えておりました。まさにご主人様です」
「お、おう……。女版の俺って考えりゃいいのか」
そいつかなり捻くれてるな。反面教師的な役割でルナがここまで真っ直ぐに育ったのかね。
だとすればグッジョブ! ルナが良い子なのはあなたのお陰です!
「ですが魔法を極めすぎてしまい呪法に手を出してしまったんです」
それが自分の命を削ることになっても成し遂げたい何かがあったのかもしれない。そう考えるとおっさんも何かあるのか?
魔法というのはそれだけ魅力の詰まったものなのだろう。呪法もそれは変わらないということか。
「師匠はすぐに亡くなってしまいました。それからです……私も魔法の探求を始めたのは」
「何で師匠がそんな目に遭っててお前が探求することになるんだ?」
普通は逆のような気がするが。そんなものを見てしまってはやる気も失せる。
「師匠がどうしてそうなってしまったのか知りたかったんです。私も魔法を極めれば師匠の気持ちが分かるかと思いまして……」
そういうことか。ルナは俺が思っているよりも優しく強い女性だ。そんな当たり前のことを再認識する。
成長するということは何も強さだけではない。心の持ちよう、考え方、知識、感情。その全てが変化する。
こいつが師匠を理解したいと思ってから今までで何もかもが変わっていったのだろう。
人の気持ちなんて理解出来ない。それが出来るのなら争いなど起こりはしない。意図的に起こらせる事すら理解されてしまえばもうどうしようもない。
ルナはそんな不可能な願いを持っているのだ。絶対に師匠には追い付けない。こいつの師匠とルナが歩いている道は決して交わることはないのだから。
「それでその師匠と俺が重なったわけか」
「は、はい……」
そりゃ似てたら重なるものだろう。そうか、俺がルナ先生と慕うようにこいつも俺のことをそんな風に慕ってたのか。
こんな夜中まで勉強していたのも一刻も早くその気持ちを理解したかったからかもしれない。
交わることはない道。でも限りなく近付けることは出来るから。
「ルナ、無理は禁物だ」
「それはご主人様には言われたくありませんが……」
まぁ俺もこんな時間まで鍛冶屋にいたわけだしなぁ。俺が言っても説得力の欠片もないだろう。
「まぁ今からでも寝ようか。俺も丁度寝るとこだしな」
「い、いいんですか?」
「もちろんだ。あ、でもエッチなことは控えてくれよ?」
流石にこの前したばかりだしな。それにそうだとアリシアとマオに申し訳なくなる。
「はい、もちろんです。私も今日はエッチなことではなくご主人様と触れ合いたいです」
本当に嬉しそうに微笑むルナの頭を撫でる。めいいっぱい甘やかしてやろう。とりあえず俺は我慢だ。
「ご主人様と添い寝……ふふ……楽しくて眠れないかもしれません」
…………頑張れ俺の理性。




