第15話 譲り合いの精神というのは上手くいけば結構仲良くなるもの
夕食を終えると俺は全員に微笑み掛けた。
「昔の夢を見て泣いただけだ。過ぎたことだから気にしなくてもいいんだぞ?」
今日1日こいつらは俺の為に動いてくれた。やっぱり恩返ししないと……昨日もしたんだけどな。
こいつらの優しさに甘えることはしてもありがたみを忘れたくはない。いつまでも続くとは限らない日常の中でそんな考えは許さない。
「誰か話したの?」
「す、すみません。ご主人様が不審がっておりましたので、このままではどのみち楽しめないと思いまして」
ルナが正直に白状する。しかしその理由が分かるや否や納得した様子で受け入れていた。
「そう、なら仕方ないわね」
「ん…………やっぱり刀夜にはバレた」
俺のこと鈍感鈍感言ってるのに何故こういうのは気付くということがこいつらには分かるんだろうか? 本当にエスパーか?
「流石刀夜殿だ」
「何で俺は気付くって分かったんだ?」
俺が質問するとキョトンとされた。そして全員で顔を見合わせるとにっこりと微笑んだ。
「刀夜さんは乙女心には鈍いけれど私達には詳しいでしょう?」
「うん。だからすぐに分かるよね」
どうやらそういうことらしい。今回のは乙女心というよりもこいつらの恋人としての優しさということか。違いが分かんねぇ……。
「ガウガウ! ガウガウガウガウ!」
「リルフェンも参加したかったそうよ。刀夜さんを慰めたかったって」
「そういや昼間から見掛けなかったな。何してたんだ?」
「ガ、ガウ……」
何か少し警戒された? 何だいきなり。
「そんな質問するなんて野暮ね。女の子の用事よ」
「お、おう……。全く分からん」
お前らは乙女会議とかで色々とリルフェンの話聞いてんだろうけど俺は参加してないから分からないんだが。
「刀夜くんは本当に気にしなくていいよ。リルフェンも頑張ってるんだから」
「そ、そうか。まぁ努力しろよ?」
何頑張ってるのかは知らんが。とりあえず触れてはいけないようだ。
「さて、それじゃあ俺は鍛冶屋でも行くか……」
話も終わったことだし、昼まで寝ていたせいで眠くもないしな。
ライジンにライジンを重ねる構造も考える必要があるし。やる事が多いがそれだけまだ強くなる道が残っているという事だ。
「と、刀夜殿」
「ん?」
「きょ、今日は私とその……するんじゃなかったのか?」
控えめに抗議してくるコウハ。今日コウハと……あ、起き抜けにそんな話ししてたな!
「そうだったな。悪い悪い」
「…………私も中途半端だった。……欲求不満」
「私もバレてしまって、そこからその……中途半端でした」
ルナとアスールも何やら立候補的な感じか? えっと……な、何これ?
「あなた達よく持つわね……。昨日あんなに刀夜さんにしてもらったのに……」
「そうだね……」
アリシアとマオは何やら引いたご様子。でも今日は3人な訳だが。俺が持たない気がしてきた。
「ご主人様に愛していただけるならいくらでもいけます!」
「ん…………刀夜ラブ」
「あなた達刀夜さんの方に限界があるの分かってないでしょう……?」
マオは獣人。性欲も人以上だ。多分俺の身体を気遣ってくれてるんだろうな。流石だ。
「…………刀夜がマオを尊敬の眼差しで見つめてる」
「え? わ、私何かしたかしら?」
そういう細かな気付かない気遣いというのが大切だ。アリシアとマオには何か別の形でイチャイチャしよ。
「それじゃあ寝る前までは私とアリシアちゃんに譲ってもらおうかしら?」
「えっと……いいかな?」
あ、そういう形でおねだりするわけか。こうして上手いこと順番を確保してるわけだな。
「そうですね。そこまで求めてしまうのも悪いですし……」
「ん…………譲る」
「うむ。仕方ないな」
3人もあっさりと了承した。喧嘩にならなくて一安心。全員こうやって譲り合っているわけか。なんか俺だけすっごいワガママみたいな奴だな。
他のみんなが遠慮しているのに俺は1人でイチャイチャしてるわけだろ? すっごい罪悪感。
「じゃあ刀夜さん、あなたの部屋に行きましょうか」
「うん! したいこといっぱいしようね!」
2人に腕を引っ張られてそのまま連れられる。俺の部屋に来るなり2人はベッドに押し倒してきた。
「え、え?」
もしかしてこのまま致してしまうつもりか!? 何故俺ベッドに押し倒された!?
「ふふ、こうやって刀夜さんにくっつけるのは確かに嬉しいものね」
「うん、そうだね。刀夜くん良い匂い……」
何やら2人で俺の胸元に顔を埋めてきた。ちょっと可愛い……じゃなくて何故こんなことに?
「刀夜さんの匂いって完全に魔性よね。人間でも良い匂いだと感じるのね」
「うん、そうだよね。いつまでも嗅いでみたい匂いだよ」
「俺なんておっさんの匂いしてそうなんだが」
「「それはない」」
2人に同時に否定された。そんなに良い匂いするか? 自分ではよく分からん。
でも特別臭いだろうとも思ったことはないな。人並みだと思っていたが……。
「女殺しの匂いだよね」
「そうね。すぅ……いつまでも嗅いでいたいわ」
「何かお前ら変態みたいだぞ……」
いや、言われて嬉しいのは確かなんだが。人によっては引くだろ。
これも心配を掛けた反動なのか? 2人とも色々と遠慮がないというか。
俺は2人の頭を優しく撫でる。すると不思議そうに顔を上げた。
「私達頭を撫でられるようなことしたかしら?」
「さ、さぁ……もしかしてサービス?」
何のサービスだそれ。ただ単に2人の事を思ってしただけなのに。
「色々心配掛けて悪かったな。別に特別悲しい気持ちにもなってないから安心してくれ」
「刀夜くん……」
「刀夜さん……」
2人は同時に俺の名前を呼ぶと同時に俺の頭も撫でてくる。
「気にするよ。泣く程悲しい事だったんでしょ?」
「そうよ。気にするななんて無茶言わないで」
どうやらどうしようもないらしい。心配してくれるのは嬉しいが本当にもう俺の中では整理がついている問題だ。思い出したりして泣いてしまったところでもうスッキリもしている。
「んじゃ話題変えた方がいいか。そういやマオ、人間嫌いだろ? アリシアは大丈夫なのか?」
「え? えぇ。普通に良い子だもの」
「そ、そうなの?」
自覚がなかったのかアリシアはキョトンとしていた。そういえばこいつらが2人一緒っていうのはあんまり聞かないよな。
「私好き嫌いは激しい方よ?」
「夜の方も激しいの好きだもんな」
「そういう問題じゃないわよ」
そんなこと言ったらアリシアもなんだけどな。まぁそれは置いておいて。
「こんな風に我慢して長時間一緒にいられるはずがないでしょう? もし嫌いなら間違いなく刀夜さんが気付かないようにアリシアちゃんを暗殺してるわね」
「流石に気付くだろそれ」
人1人殺されて気付かないなんてあるのかよ。そんな暗殺者怖い。
「そ、そうなんだ……」
アリシアは少し嬉しそうだった。確かにこうもはっきりと人間なんて嫌いと言っているマオが特別視してくれるのは嬉しい。気持ちは痛い程に分かる。
「逆に聞くけれど2人とも獣人族に抵抗ないの? 刀夜さんは変わってるから仕方ないけれどアリシアちゃんは平気なの?」
「ちょっと待て。俺が変わってるってのは聞き捨てならないな」
「いや、刀夜くん変わってるよ? その……そういうところが素敵なんだけど」
「そうね」
変わってるから素敵? どの辺が変わってるんだろうか。これでも確かに少し変わってるが至って一般的な人間だったと思うが。
環境のせいでやはりそういった部分で他者との違いが目立つ。でもそれくらいのもので獣人族が怖いとかキモいとかそんなの持たないのが普通じゃないのか?
「あのなぁ。ケモミミ美女を怖がるような奴は男として失格だろ」
「それだとほとんどの人間は男として失格になるわよ? もちろんその通りなのだけれど」
「そ、そこまで!? で、でも確かに刀夜くん以上の人なんていないよね」
そこまで過大評価されても困るんだが。俺は俺なりに行動してるだけで普通に思春期の男の子なんですが。
「仮に刀夜さんを100として他の人はどの程度が平均かしら?」
「うーん……大体20から30くらいかな?」
「低っ」
一般人もっと頑張れよ。アリシアが随分な評価付けるくらい人間腐ってるぞ。大丈夫かこの世界の男は?
「そう。私は間違いなく0から5ね」
「それは低過ぎないかな!?」
まぁマオのは人間嫌いが最初に入って来ちまうからな。そうなっちまうのは仕方ない気がする。
「ちなみにアリシアは?」
「アリシアちゃん? そうね……80くらいかしらね」
「私高いね!?」
そりゃあ高いだろ。むしろ80とか俺からすればないな。100だろ。いや、120だろ。
「ふふ、それでも刀夜さんは不満そうよ?」
「えぇ!?」
「お前ら2人とも俺からすりゃ120だからな」
「上限は100のつもりだったのだけれど……」
まぁ上限を超えることなんて多々ある話だろう。ということで問題はない。
2人の頭を優しく撫でながらくだらない話に花を咲かせる。このままこうして平和な日常が続けばいいのに。
しかしそう上手くはいかないようだった。この日から数日経っても浅野が俺の家を訪ねて来ることはなかった。




