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第11話 この世は分かり合えない関係しか存在しない

 とりあえずは落ち着いて話をしたい。俺達は居間へ向かうと簡易的に状況を説明する。すると全員頷いた様子だった。


「異世界の刀夜さんのこと聞かせてくれたら許すわ」

「はい! とても大切なことですね!」

「う、うん……私も聞きたいなぁ」


 意外だったのは妙な交換条件を出されたところだ。というか日本の俺の話を聞いても誰も得しないような気がするが。

 ここで更に予想外だったのは浅野も結構乗り気なところ。ちょっと反応に困る。


「もちろん大丈夫だよ。萩くんは日本でね」


 普通に話し始めやがった。もういいんだが……。俺の心配を返せ。


「あー……色々損した……」


 もういいや。俺鍛冶屋に戻ってもいいだろうか?

 手っ取り早く強くはなれないがある程度の方法は考えている。今のライジン装備を更に性能を向上させるという点だ。

 おっさんに教えてもらってある程度の知識は増えた。魔法というのは重ねて使用する事で更に強くなるらしい。

 また同時に弱点の魔力属性を吸えば出力が上がるのだとか。

 属性というのは炎、水、雷、土、風の5種。弱点は炎なら水、水なら雷、雷なら土、土なら風と相性がある。ここで重要なのは次の特性だ。

 例えば炎は周囲の魔力を酸素の代わりとして燃えているらしい。だから炎属性に風属性の魔法をぶつけると炎の威力が増すようだ。

 しかし水魔法は炎魔法と相性が良いがかき消すことは出来ても更に強くはならない。これは炎魔法のように魔力を吸うことがないからだという。

 逆に言えばライジンが吸収する外気の魔力を水属性の魔力に変換してやればいい。そうすることでライジンは更に性能を底上げ出来るというわけだ。

 また、魔法の重ね掛けは複合魔法の原理だ。普通はしないものらしい。無駄に魔力を消費するから。

 炎魔法に炎魔法をぶつけると合わさって大きくなるらしい。もちろんそれだけの理由でありそうなるように魔法陣をいじるのも大変。効率が悪くなる。

 デメリットしかないのだからそれならば魔法を二度発動させればいいのだろう。しかし外気の魔力を吸うライジン装備であれば重ね掛けすれば速度が上がるだけ。デメリットは存在しないというわけである。

 この2点を加えたライジン装備を新たに作る必要があるわけだ。そしてもう一つ、風魔法を使用して空中を移動出来るようにしたい。

 方法としては簡単だ。ブレスレットのようなものを作り、それをジェット噴射のように下向きに飛ばすと出来るわけだ。

 足で空中を自由に移動しようとするとコントロールが難しい。風魔法を射出する際に向きを自由に変えれる方がいい。

 空中で横向きに移動しようとするならば足を横に向けなければならない。それでは体勢が崩れてしまう。腕なら最低限で済むことから腕を選択した。


「…………」


 問題はそれだけで足りるのかというところか。こいつを基準に考えたとして、恐らくまだ速度は足りない。

 しかし現状視認も出来ず反応すら出来ないのでは意味がない。そこに追いつけるだけの何かが必要だ。


「考え事かな?」


 何やら盛り上がっている様子のルナ達。その集まりから抜け出したアリシアがキョトンとしながら聞いてくる。


「まぁな。それより浅野はどうだ?」

「怖い雰囲気もあったんだけど今は何も感じないね。それに刀夜くんの話をしてる時は楽しそうだよ」


 うん、それはなんか複雑な気分だ。俺もあいつも男だからな。


「…………刀夜くんはどうしてあの人のことを好きにならなかったの?」

「…………」


 どうして、と言われると性別だろ。いや、違うな。俺は別に男だからどうとかいうのじゃない。


「建前上は男だからだな」

「建前上はってことはやっぱり理由があるんだよね?」

「理由らしい理由はないな」


 残念なことに。はっきりと言えればいいんだが俺はそれを言葉に出来ない。友達でいたいというのは先に進みたくないってことなのか。それともその境界線から動かしたくないということなのか。

 仮にあいつが恋人を作ったとしても俺は多分何も感じない。あいつが友達であるという点は変わらないから。

 俺はあいつと対等な関係でいたいだけのだろう。愛だの恋だのといった煩わしいものが嫌いだったから。

 この世界に来てルナと会って、それにアスールやアリシア、コウハにマオ。貴重な出会いがあるからこそ今ではその愛や恋というのが何なのか分かった。

 今の俺ならこいつも好きになれるかもしれないしなれないかもしれない。自信を持って拒否することも出来ないのだ。


「まぁなんだ……そういう関係を望んでないっていうのが正しいのかもしれない」

「そうなの?」

「友達のままでいて欲しいっていうのが願いなんだろうな。でもあいつは違う。だから分かり合えなかった」


 日本ではそうだった。同じ過ちを繰り返してしまうかもしれないけど。

 俺はまた俺自身を見つめ直さないといけないだろう。同性だから、なんて理由じゃない。別の理由を……本当の自分の気持ちというのを気付くまで。


「分かり合えなくてもいいんじゃないかな?」

「え?」

「私だって刀夜くんのことを完璧に分かるなんて無理だよ? 人と人は分かり合えないんだから」


 それはいつかアスールに言った言葉だった気がする。


「分かり合えなくても一緒にいることは出来るよね? 難しく考えてもどうせ分かり合えないんだから諦めて一緒にいればいいんじゃないかな?」

「お、おう。お前だんだん俺に似てきたな」


 なんというか、悪影響を与えている気しかしない。大丈夫だろうか?


「刀夜くんはどうしたい?」

「それは……まぁ友達として一緒にいたいかな」

「ならそれでいいんじゃないかな?」


 そうか。確かにそうなのかもしれないが。

 別に同棲したいだとか一生そばにいて欲しいとかではない。

 多分そういうものとはまた別の特別なのだろう。それは恋愛的な好意ではなく友情的な好意。


「そんなワガママがまかり通るとは思えないけどな」


 そんなものは浅野の気持ちを蔑ろにしているのと何も変わらない。浅野はそういうものを求めているわけではないのだから。


「そうかな? 本当に好きな人なら私はその人の思いや考え方を尊重したいよ」

「…………お前の方があいつを理解してるんだろうな」


 俺はそんな考え方は出来なかった。ただ目の前のことでいっぱいいっぱいになってしまってあいつのことを一切考えてやれなかった。


「あいつと一緒にいたはずの俺が……付き合いの長いはずの俺が誰よりもあいつを理解してないといけないはずなのにな。本当に情けないったらねぇな……」


 本当に。こんなんじゃ愛想を尽かされても文句は言えないな。

 結局はあいつの好意に俺は甘えているだけなのだ。その上気持ちを踏みにじっている。


「じゃあこれから知っていけばいいんだよ」


 アリシアは優しく微笑みながら俺の頭を優しく撫でた。


「慣れないことも分からないことも、これからがまだあるんだから」


 死ねば全てが終わる。もちろん死んだ後に何があるのかを俺は知らないが。

 でもまだ俺達は死んでいない。だからまだこれからがあるんだろう。


「浅野さんも私達のことを受け入れようと頑張ってるから。私達も怖がってる場合じゃないね」


 好かれるように努力することが大切なのかもしれないな。そういう簡単なようで難しいことをするのは確かに俺は苦手だ。

 人の気持ちなど分からない。でも俺の為に一歩進もうとしている浅野をないがしろにしていい理由はないはずだ。

 甘えるということや甘やかすということは直接的な意味の他にこういうことも指すのかもしれない。

 相手の迷惑になったり、相手の気持ちを蔑ろにしたり。

 そういえばルナに言われたな。1人でも最強。でもみんなといても最強でいられるようになればいいと。


「刀夜くん?」

「…………いや、なんでもない。気にしなくていいぞ」


 俺はくすりと笑みを浮かべると歩き出す。一歩引いて見ていたその輪の中に入る為に。


「浅野は日本じゃかなり弱虫だったからな。俺の話ばかりしてるみたいだがお前の話もしてやろう」

「そんな!? 萩くん酷い!」


 今はこうしてそばにいて何気ない日常を楽しもう。こいつのこともそうやって分かっていけばいい。

 アリシアのお陰だな。いつもの俺ならもっと遠ざかっていたことだろう。

 分かり合えないのは当たり前……か。確かにその通りだ。だから俺と浅野の関係も当然の話なのかもしれない。

 もっと前向きに、そして単純に。こうして同じ時を重ねて生きていけば何か分かるかもしれない。

 こいつの気持ちも。そして自分の気持ちにも。

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