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第10話 ゴブリン退治も楽じゃない? いや、単体のゴブリンはただの雑魚ですよ

 色々と見ていて思ったのだが鍛冶師という職業は本当に色々と不便だ。まず強い魔法と言えば武具の精製と能力の付与である。

 鍛冶師は剣や鎧に何かしらの能力を付ける事が出来るようだった。それは火魔法だったり風魔法だったりと色々だ。他にも火魔法に耐性を持たせることも出来る。だからこそ市販で売られているものは強力なのだとか。

 もちろん素材にもこだわる必要がある。ルナの持つ魔力装備生成魔法は寝てしまえば自然と魔法が解けて消え去ってしまうものだからだ。

 更に鍛冶師の特徴として武器を再度鍛練することも出来るようだ。要は打ち直しが出来るという点である。打ち直しによって武器は強くも弱くもなる。

 鍛冶師という職業は多いに越したことはない。むしろ現状では数が少ないらしい。というのも冒険者の数が多過ぎて逆に鍛冶師の数が足りていないのだ。様々な職業があるこの世界でピンポイントで鍛冶師が天職な人間も少ないのだろう。もちろん少ないというだけで一般的な職業に変わりはないが。

 とまぁ鍛冶師はそんな感じの残念な一般職な訳だ。なので鍛冶師が使いやすい魔法に関しては基本的に一般公開されており、それが本となっている。それを読み解きながら何とか魔法を使えないかと試しているがまだまだ俺の理解の外らしい。


「えっと、こうですね」


 ルナは一目見て幾つかの鍛冶師の魔法を覚えてしまった。そんなにあっさり覚えられると困る。そしてルナには基本必要ない。


「全く覚えられん……」

「もう少しですよ!」

「そうか、もう少しか。ん、もうちょい頑張る」


 そこからは壮絶なまでの長い道のりがあった。3日くらい徹夜した。ルナが1人で稼ぎに行ってくれて本当に助かった。今の俺は完全にヒモ状態な訳だがもう少しで何とかなりそうだ。

 そしてようやく覚えた鍛冶師の魔法その1は作ったものに何かしらの能力を与えるもの。正式名は付与魔法と言うらしい。また、ルナに教わった魔力装備生成魔法も何とか形にはなった。ここまで来るのに何日掛けてるんだか。

 付与出来るのは属性と耐性、それにちょっとした非属性魔法というところらしい。剣自体を身体強化魔法で強化することは出来ない。強度的な問題は鍛冶師の腕次第ということみたいだ。


「こんなにも短期間に沢山の魔法を覚えるなんて凄いです!」

「いや、まだ3つだけどな?」


 初級属性魔法と魔力装備生成魔法、それに付与魔法の3つだ。どれもまだまだ未熟で発動させるのに時間も掛かるがそれは慣れ次第で早くなるらしい。

 ということで今日はギルドに顔を出していた。俺はずっと魔力装備生成魔法の魔法陣を展開と消失、展開と消失を繰り返している。この練習をしていればいつか早くなるらしい。魔法を発動させていないから魔力消費もないしな。


「あ、お待ちしておりましたルナさん」


 受付の女性がルナの顔を見るなり安心したような表情に。さらっと俺は省かれた。まぁルナは1人で顔を出していたわけだし知り合いとかにはなるか。


「どうかなさいましたか?」

「申し訳ございません。緊急の依頼です。こちらをお受けいただけませんか?」


 渡された依頼書を受け取ったルナは真っ先に俺に見せて来る。確かに読めるようにはなったけど自分が確認してからじゃないのな。


「えっと……あー、あのゴブリンの」


 内容は例のゴブリンの巣の話だ。かなり苦戦しているらしく世界の魔法使いと比べても強い部類に入るルナにお声が掛かったらしい。

 ルナと一緒に依頼書を見ながら相談。確かに報酬がかなり良いのだ。この依頼ならばまた3、4日は何もしなくても良いだろう。


「ご主人様、どうなさいますか?」

「いいんじゃないか? ということはまたリアとか?」

「いえ、リアさんは既に向かわれております。助っ人として参加していただければ」


 でも俺が行っても助っ人にならなそうな気がするが。大丈夫だろうか?


「ルナさんからとても頼りになる凄い方と聞いております。リアさんも褒めておりました。期待しております」

「いや、鍛冶師に期待されても……」


 何でそんなに高評価なんだろうか? 俺は特に何かした覚えはないんだが。


「そんなことはございません。ご主人様はとても頼りになる素敵な方です!」

「だからな? 俺は鍛冶師なんだが……。とりあえず受けるってことで大丈夫か?」

「はい。問題ございません」

「ありがとうございます」


 俺達が受けると受付の女性は綺麗に頭を下げた。


「んじゃ行こうか。あ、ルナ。俺もゴブリンと戦ってみてもいいか?」

「そんな! 危険です! ご主人様は応援だけしていただければ私は幾らでも頑張れます!」

「いや、限界あるだろ……? というか何で応援?」


 ルナの感性もよく分からない時があるな。まぁいいか。少し天然なところもルナらしいしな。

 ルナの転移魔法によって例の森の前へとやって来る。さて、これが俺の初めての戦いとなるわけだがとりあえず作戦を考えておかなければならないな。

 とりあえず武器にと展開していた魔力装備生成魔法で剣と鞘を創り出した。


「ほ、本当に戦うんですか?」

「あぁ。駄目か?」


 結局はルナに援護してもらうのだから負担になってしまう。ルナがそこまで駄目だというなら俺も引き下がるしかない。しかし多少危険を冒してでもやらなければ一向に強くなれないし成長もない。何より俺はルナにとって足手まといでありたくない。


「俺も役に立ちたいんだ。頼む」

「ご主人様…………」

 

 ルナは真剣に悩んだ後に渋々頷いた。ルナは優しいが優し過ぎる。他人の危険まで自分で背追い込もうとする。

 俺がルナに出来ること。それはルナよりも強くなってルナが安心して頼れるようになることだ。その為にも一刻も早く魔法を覚えなければ。


「で、ですが無理や無茶だけは絶対にしないでくださいね。ご主人様がいなくなったら私……」

「まだ死んでないから涙目にならないで欲しいんだけど……」


 もうその顔はどうしようもない。俺も泣きそうだ。


「とりあえず行くか?」


 森の中からは以前はしなかった人の声が聞こえる。多分中で誰かが戦っているんだろうな。俺達はその援護に来たのだから当然仕事はしなければならない。


「は、はい。あ、あの、本当に気を付けてくださいね!?」

「分かったから。心配性だな……」


 やっぱり早く強くならないとな。じゃないとルナが過労で死にそうだ。割とマジで。

 森の中に入るなり早速ゴブリンに襲われる。しかし何かから逃げてきたのか1体だけだ。これはもしやチャンスでは?


「ルナ、俺にやらせてくれ」

「は、はい。こんなチャンス二度とないかもしれません」


 そんなに貴重な経験なんだな……。これは何が何でも戦闘方法を掴まなくてはならない。


 俺は剣、相手は弓。単純に考えて間合いを詰める方が有利だ。しかし俺はゴブリンの攻撃パターンをよく知らない。何か近接攻撃してくる可能性もある。

 俺は剣を地面に滑らせるように振り上げた。発生した氷が地面を伝いながらゴブリンに向かっていく。

 これが魔力装備生成魔法と付与魔法の合わせ技。この世界での武器が強い理由の1つである。


「グギ!?」


 ゴブリンは予測していなかったのか驚いたように目を見開いた。瞬間足元が凍り付いて動きが止まる。

 その間に一気に距離を詰めた俺は剣を思い切り握り締めて振り下ろした。剣道などしたことがなかったが大丈夫だろう。

 剣は見事にゴブリンの身体を真っ二つに切り裂き、黒い粒子となって消し飛ばした。うん、ゴブリン弱くね?


「流石ご主人様です! もう 付与魔法も使いこなしていて凄いです!」

「いや……ゴブリンが弱いだけじゃないか?」


 流石に一撃はないだろ……。いや、この世界はゲームではなく現実だ。だからHPという概念もほとんど希薄じゃないか?

 どれだけ体力が高くとも首を切り落とされれば終わる。この世界はそういう世界なのだから体力という概念も希薄なのかもしれない。


「…………」


 それはつまり逆も言える。こちらも危険だが相手も一撃死する危険があるということだ。もちろんステータスは高い方が良いがそれでもどうしようもない現実はあるということだろう。


「ご主人様?」


 ルナが心配になる気持ちもよく分かる。ここは一歩間違えればいつでも死ぬことが出来る残酷な世界なのだ。異世界という魅力はあれど死の恐怖とは常に隣り合わせだ。

 この1000年間、ルナは沢山のものを失ってきたのかもしれない。だからこそ失うくらいなら自分の命を差し出す覚悟をしていたのかもしれない。


「あの、ご主人様? ボーッとなされてますがどうかされましたか?」


 ルナがキョトンとした表情で俺の顔を覗き込んでくる。俺は小さく笑みを浮かべながらルナの頭に手を置いた。


「ご、ご主人様?」

「お前は良い子だからな。そんなに俺のことは心配しなくてもいいぞ」


 何だかんだ俺は1人でやってきたのだ。もちろん小さい頃はおじさんおばさんのお世話になっていたが高校生ではもう一人暮らしもしていたくらいだ。


「嫌です」

「え?」

「私はご主人様の心配をしたいです。心配して欲しいです。私はご主人様のこと……」


 そ、それってもしかしてこ、告白か!? まさか告白されてるのか俺は!?


「ご主人様のことが大好きなメイドですから!」


 あ、全然違ったわ。メイドとしてだったわ。勘違いした上にちょっとショックなんですけどね?


「ご主人様? どうかされましたか?」

「いや、何でもない……。行くか……」

「ご、ご主人様!? どうして落ち込まれていらっしゃるんですか!? ご、ご主人様!?」


 ルナの慌てた声も今の俺の気分では返事か出来そうになかった。とりあえず癒されたい。ルナに。

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