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第1話 起きたら異世界でいつの間にかご主人様になっていた件

 あり得ないことが起こった。そう、あり得ないこと。


「えっと……?」


 ここはどこだ? そして俺の隣にいる裸の美女は誰だ?

 俺の隣には金髪の美女が心地良さそうに眠っている。整った顔立ちをしておりおっとりとした雰囲気を放っている。身長が高く、スタイルも抜群だ。外国人なのだろうか?


「ドッキリ……とかじゃないよな?」


 可能性はなくはないな。でも俺別にタレントでも芸人でもないんだが?

 そもそもここはどこだ? 全く見慣れない一室だ。茶色のテーブルとタンスとベッドがあるくらいの本当に何もない部屋だった。

 いや、そんなことは大した問題ではない。本当に問題なのはこの人だ。


「これは見てもいいのか?」


 見て、触っても良いものなのだろうか? 裸で男女が寝ている。いや、俺は裸じゃなくてジャージなんだけど。こうなったらもうアレしかなくないか?

 しかしそんな素敵な記憶が全くないのだ。ならば今の内に揉んだりして堪能しておくべきだろうか?

 布団をめくれば桃源郷。良識と常識と性欲が恐ろしいくらいに葛藤しているのが自分で分かる。


「くっ……!」


 静まれ! 俺の右手よ! 流石に睡姦はよろしくない!

 うぅ、いかんいかん。俺の欲望で右手が制御不能だ。誰か助けて!


「ん……」

「っ!?」


 女性の目がうっすらと開いた。ビックリした……セクハラする前でよかった……。


「ご主人様……?」

「はい? 何言っとりますのん?」


 何ご主人様って。そんなこと言われたらテンション上がっちゃうだろうが。

 美女はそのエメラルドグリーンの綺麗な瞳を俺に向けながらゆっくりと掛け布団で身体を隠して上体を起こした。


「おはようございますご主人様」

「マジか。何か知らんが夢なら覚めないで欲しい」


 美女にご主人様と呼ばれるとかどんなご褒美?


「ご主人様?」

「いや、ちょっと待ってくださいな。状況を整理するんで」

「あ、はい」


 えっと、俺は昨日自分の部屋で寝たな? で、起きたら見知らぬ美女とベッドインしてると。それでその見知らぬ美女は俺のことをご主人様と呼んでいるのが今のこの状況ということだ。うん、オーケー把握した。


「あの……あなたは俺のことを知ってるんですか?」

「え? いえ、全く知りませんが、ここでこうして一緒にいるということはご主人様ということで間違いないかと思っております。魔力も繋がっておりますし」


 何言ってるのかよく分からんが今俺はこの人の主人であり、魔力が繋がっているらしい。はあ、何そのファンタジーみたいな話は。


「とりあえず俺は全くこの状況を理解してないんですけど。ひとまず先に確かめたいことがあるんですけどいいですか?」

「はい、何でしょう?」

「あなたは俺の従者であり俺の命令には絶対服従と」

「いえ、私はご主人様の奴隷です。命令に服従しなければいけない立場でございます」


 俺が思ってたやつと違うわー……。俺は自分の意思で仕えてくれる人がいい。


「じゃあ命令」

「はい、何でもおっしゃってください」

「あぁ。これから先俺の命令に従う必要はない。自分の意思で選べ。以上」

「え?」


 何を言われたのか分からないのかキョトンとしていた。いや、だってなぁ?


「そ、それはつまり……解雇ということでしようか……?」


 ここで予想外。美女は涙目で俺にそんなことを聞いてきた。えー、俺が悪いの?


「ちょっと待ってマジで待って? 普通は強制される方が嫌じゃないですか?」

「それはそうですが……で、でも私は他に行き場が……」

「いや、勘違いしてます。俺は今あなたに離れられると何をどうすればいいのか分からないんですけど」

「えっと……どういうことでしょうか?」


 この人は俺のこと何も分かってないのな。何で勝手に主従関係が結ばれているのだろうか? 全く訳が分からん。


「えっとですね、実は俺は何故ここにいるのか全く分かっていません」

「え? ここはご主人様のお部屋ではないのですか?」

「全く違いますね。というか俺がここどこなのか知りたいくらいなんですけど……」


 ヤバイなこれ。お互い何が何だか分かっていないんじゃないか?

 俺は立ち上がって窓から外を眺めて見ると全く知らない街並みが広がっていた。白い建物が幾つも並んでおり、街の中だというのに川が流れて綺麗な自然もある。

 更に気になるのは街の人間がいかにもな武装をしているわけだが。これはあれか、異世界というやつか?


「ん……」

「ん?」


 美女が声を出したので振り返ってしまった。しかし俺の予想に反して美女は服を着ていた。赤い着物を。


「え……早着替え?」

「え? あ、いえ、魔法で服を作っただけですよ?」


 魔法! なるほど。やはりここは魔法がある世界、つまりは異世界なわけか。


「魔法か……。俺も使ってみたいな」

「使ったことがないのですか?」

「はい、ないですね」


 そもそも異世界だしな。ん? そういやこの人の名前知らないな。


「あの、お名前だけ聞いても良いですか?」

「私に名前はございません。ご主人様のお好きにお呼びください」

「そうなんですか。ならえっと……」


 名前がないなら付けなければ。何かあるだろうか?

 金髪だからキン……いや、ないな。金色の……月みたいだからツキ? 安直過ぎるか。ムーンはダサいしな……。あ!


「ルナっていうのはどうですか?」

「ルナ、ですか?」

「はい。月っていう意味で」


 本当は月の女神の名前なのだが、まぁよく分からないみたいだしいいか。それにいきなり初対面の人間に女神っぽいとか言われても困るだろうしな。


「月から取ってルナ、ですか。はい、響きが綺麗でとても素敵なお名前かと思います」

「ありがとうございます。俺の名前ははぎ 刀夜とうや。異世界人です」

「異世界人……ですか?」


 キョトンとされてしまった。やっぱりいきなり過ぎたか? いやでもこのまま俺が外に出ても右も左も分からないんじゃ結局困らせるだろうしな、先に言っておいた方がいい。


「えぇ、ということで俺は全くこの世界のこと何も分かってません」

「そ、そうだったんですか。異世界から来られる方は珍しいですね」


 ということはなくはないんだな。流石異世界だ。


「異世界から来られる方は特別な力をお持ちだと聞きます。有望なご主人様で私も大変嬉しゅうございます」

「あー、えっとですね。だから別に俺はご主人様じゃないんですけど」

「いえ、ご主人様です。命令により絶対権は剥奪されましたがそれでも私のご主人様に相違ございません」


 やべぇな。この人根っからのメイド気質だ。ちょっとテンション上がる。


「それではご主人様、私はこれからどうすればよろしいでしょうか?」

「いや、うん……。これからどうするべきなんでしょうか?」


 右も左も分からないのに判断が付かない。どうするべきなんだ?


「まずは金か? どこの世界でも金がないと困るだろう……」

「あの……ご主人様は敬語で話される必要はございませんが……」

「え? あー、俺のいた世界では年功序列っていうのがありまして。年上は敬うものなんですよね」


 独り言が敬語じゃなかったからか。妙な所に気が付く人だな。


「ルナさんこそ俺に別に敬語である必要ないですよ?」

「いえ、私の敬語は生まれつきですので。ご主人様も私のことはルナと呼び捨てにしてください。敬語も不要です」


 そうなのだろうか。まぁ本人がそう言うならそうするか。


「俺は敬語苦手だしな。そうさせてもらおうかな。ルナも俺のことは刀夜でいいぞ?」

「いえ、それはなりません」

「だからな……。あー、もう平行線辿るだけか」


 このまま話してても仕方がない。この人との関係がきちんと定まるまではとやかく言う必要はないか。


「とりあえず分かった。仮で俺が主人としよう」

「仮ではありませんがかしこまりました」


 んー、やはり分からん。この人は生まれながらのメイド気質なのは確かだろうけどそれだけじゃない気がする。

 魔力が繋がっているって言っていたか。これがどう言う意味なのか分からない。しかし仮にそれが奴隷の契約であるというのならば先程のルナの発言から大体の予想は立てられる。

 先程、ルナは絶対権は剥奪と言っていた。つまり俺の命令によって強制力は消え去ったということだ。勿体無いことをした……俺に惚れろと命令してからするべきだった。くそ。

 とりあえず落ち着け。ルナはどの程度知識を有しているんだ? もし皆無だったら俺と同じ状態、つまり一から情報を集める必要性が出てくる。


「ルナ、この世界の常識って分かるか?」

「常識ですか? 極一般的な知識は有しておりますが」

「よし。ならオレにこの世界での生き方を教えて欲しい」


 それだけは最低限なければならない。働くのも面倒だが仕方がないな。


「それはもちろん構いませんが……。ご主人様自ら動くおつもりなのですか?」

「当たり前だろ? 金がないんだから」

「私が調達することが出来ますが」


 それはちょっとな。ヒモみたいになってしまうような気がする。楽だと思うが。


「流石に全部押し付けたりとかしないぞ? 俺ドSじゃないからな?」

「それは……ですがご主人様を働かせるわけには……」


 ああ、そこまで極めてるのね。もうメイドとかそういうの通り越して世話好き。いや、介護好きというレベルだな。


「気にしなくていい。そもそもご主人様だからこそ働くべきだろ」

「そうなのですか?」

「メイドというのはだな、働いているご主人様を支えるからこそ良いものなのだ! 辛い日常が溢れる中でのオアシスなんだよ! 働かずに命令だけしてるやつはただのクズだ! メイドのありがたみというものをまるで分かっていない!」


 おおっと、メイドについて熱く語ってしまった。しかし事実だ。


「メイド……ですか?」

「あぁ、メイドだ。もしかしてこの世界にメイドってないのか?」

「いえ、ありますけれども……。奴隷である精霊をそう仰る方は初めてです」


 そうなのだろうか? まぁ奴隷だっていうんだから位を上げてメイドにするって奴もいないか。奴隷のままの方が都合がいいもんな。


「つまりご主人様は癒しが欲しいということでよろしいでしょうか?」

「いや、まだ何もしてないのに癒しもクソもないんじゃないか?」

「そうなのですか? 今私の相手をしてくださっているではありませんか」


 コミュニケーションを仕事みたいに言わないで欲しい。そもそも美女と話せて疲れる男はいないと思う。


「もういいから早速今からでも金を貯めに行かないか?」

「はい、ご主人様がそう仰るのでしたら」


 ルナは優雅に頭を下げた。その所作ひとつ取っても綺麗だなこの人……。

 何故こんな人が俺のメイドやってんだろうか? そもそも俺が異世界転移している意味が分からない。


「まぁいいか……」


 どうせ日本に何かあるわけでもなし。どの世界でも結局はやることは一緒だろうしな。


「どうかなさいましたか?」

「いや、早く行こうか」

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