異世界人の目標が微妙なのは一体……? #2
「う~ん。それにしたってこれ……まあいいや。しかしがっかりよね。異世界に来たってのに、何の特別な能力もないなんて」
この言葉に一瞬ぎくりとなるも、冷静になれと自分に言いつける。
「そ、そうだな。そういえば、そのロクさんってのは強いっていうが、レベルってのはどうやって上がるんだ?」
「レベル? モンスター倒してたらそのうち上がるよ。ほら、さっきも説明したポイント制度。あれがそのまま経験値らしいの。強力な敵を倒せばそれだけポイントと経験値が貰えるし、かといって複数人で討伐すれば、そのポイントは現住人と異世界人であっても均等に分配されちゃう。だから、古参の人たちほどこのレースって有利なのよ」
古くからこの異世界にいる異世界人ほどレベルも高いから、一人でポイントの高いモンスターを狩ることができる。
これに対抗するには、新参はチームを組んでレベルをあげながら数を倒してポイントを稼がなければならない。
圧倒的に後から来た異世界人不利である。
「あれ、それってあまりに不公平じゃないか? だって、同じ条件で転生させられたなら後の人間が絶対不利じゃないか」
「まあね。でも、個人で一位をとれなくても、日本支部として一位を取れればそれでも特典が貰えるの」
「ああ、そういう……」
「ただ、その場合の特典は個人賞よりランクが下がるけどね。もっと俗物的な、お金が欲しいとか、一定期間のレベル上昇効果を貰うとか」
「なんかそれ、微妙だな」
普通に会社で働いててもらう、ボーナスとか昇進みたいなものじゃないか。
「それでも、貰えないより全然ましだよ。それに、うまく個人で強い人にとりなせば、チームでの特典を譲ってくれる時もあるらしいし」
つまり、協力した日本人がトップをとり、個人賞も貰ってた場合、お礼として特典を選ぶ権利を譲ってくれるらしい。
「あれ、でも、それじゃあメアリスも、ロクさんってとこのパーティーに入ったほうがよかったんじゃないか?」
俺んとこみたいな新参者のパーティーに加わるより、よっぽど建設的だと思うのだが。
「そりゃ入りたいけど……。う~ん、なんというか、あそこは異質なのよねぇ……」
「なんだそりゃ。ああ、そうか。凄腕ってことは古参だもんな。すでにメンバーも一杯だろうし、実力がかけ離れてたら入りにくいもんな」
「いや、……まあ、それでいいや」
そうだよな。オンラインゲームとかやってても、強い人ばかりで凝り固まっちゃったクランとかギルドって入りずらいもんなぁ。
何か会話に齟齬があるようだが、問題はなさそうなので話を進める。
「あと、魔法とかってどうやったら習得できるんだ? ギルドカードとかにはそういうスキルとかは記載されてないけど……」
「ああ、それね。基本的に、魔法ってすごい面倒くさいのよ。簡単なものならそう大変でもないんだけど、高度なものになると高い魔法書を買って、その呪文を丸暗記するの。ものによっては国語の教科書とかに出てくる短編小説くらいの長さとかね。それを暗唱できるようになると、次から簡易的な呪文で行使できるようになるの。だから、剣も魔法も使えるロクさんって、ほんと化け物みたいなものなのよね」
話を聞いてると、ロクさんって一体何者なんだと心底思うようになってきた。
だけど、簡単なものであれば呪文も短いというので今度試してみたいともう。
「でも、高等魔術書の値段って千万リンズ超えたりするのよ?」
……時間があるときにでも試してみるさ。
それに考えてみれば、最悪俺の場合は、前衛系は能力に頼ればなんとかなるのだから、魔法関係の習得に専念するという選択肢もある。
「ちなみにメアリスはどんな魔法が使えるんだ?」
「わたし? わたしは、風系の簡単なやつと着火の魔法、あと姿暗ましと消音の魔法くらいかな。あとの本格的な盗賊職の魔法は値段が高くて手が出ないのよ」
試しにやってみてくれと頼むと、アリマージと唱えて指先にろうそくサイズの炎を出して見せた。
ほお、100円ライターみたいな感じだけど、この世界では結構便利そうだな。
灯油とか敵にぶっかけて着火したら面白いことになりそうだ。
「なんか物騒なこと考えるね。せっかくの異世界なんだから異世界らしい戦い方しようよ」
悪いが、俺の望んだ世界とは違うから、そこにこだわる必要はないんだ。
「あ、あと、文字ってどうした? 俺、全然読めないんだけど」
「あれ、おかしいな。私たち転生者って、みんなこっちに来るときにアマテラス様が読み書きできるようにしてくれてるはずなんだけど……」
あのくそ女神、こんなとこでも失態してやがる。他の人間はちゃんとやってるのに、何か俺に恨みでもあるのだろうか。
「私たちは特に不自由なく読めるけど……日本語もそのまま読めるよ。というか、あなたの作った張り紙に日本語があったから話しかけたんだし」
そういえば、同郷の者がいると思って、下の部分に日本語でも募集の宣伝を書いていたんだった。
効果はあったみたいだな。
「まあいいや。聞きたいことは大体聞けたし、今日はもう寝るとするよ」
「そ。じゃあ明日からよろしくね」
手を振りながら部屋から去っていくメアリス。
この世界に順応してるんだなぁと思いながら、頼もしくも思う。
はてさて、このパーティーの戦い方を見たらなんて思うだろうか……
先行きを憂いながら、俺は眠りについたのである。
「さあ、ご覧あれ! この私の羽織っているマント! 浮遊の魔法もかかっていないのに、このように床に敷いてから乗ると……浮かぶのです!」
今日の討伐対象はイエティである。
いわゆる雪男だが、この世界では雪がなくても降りてくるらしい。
というか、むしろ寒いのが苦手で積極的に山から下りてくるらしい。名称こそイエティだが、実際は山男としたほうが正しいかもしれない。
大きすぎず小さすぎず、中型モンスターの彼らは、群れで動くタイプのモンスターである。
そんなモンスターたちの頭上を、まるで魔法のじゅうたんのようなマントに座った二コラが、ふわりふわりと漂っていく。
イエティたちはそれが不思議なのか敵と認識しているのか、頭上に何度も腕を振り叩き落そうとしている。
っていうか、本当にどうやって浮いてるんだあれ。草原なんだからワイヤーとか使えないだろ。
「え、あれどうやってるの?! そもそも浮遊の魔法なんて聞いたことないし、風の魔法を操ってる気配もないよ!?」
先輩ギルド員であるメアリスでさえ驚いている。
ともあれ、注意がそがれたので、今日こそは残ったお金でロザリオに支援魔法をかけてもらってイエティに斬りかかる。
筋力が数倍に引き上げられた俺の斬撃は、深くイエティの足に食い込み動きを封じる。
「えいっ」
という掛け声とともにメイスを振りかぶるロザリオも、同じように自分に支援をかけて、凶悪な殴打撃を繰り広げている。
「え、なんでプリ―ストが前に出て戦ってるの? 私たちが怪我したとき、誰が回復してくれるの!?」
「回復は、簡単なものから500リンズだから、気を付けて戦ってねぇ」
「食っちゃべってないで、メアリスも戦ってくれ! あと三体いるんだぞ!」
後ろで何事かわめいてるメアリスに、早く戦えとせかす。
こいつら一匹で3万リンズなのだから、今回の報酬は期待できるのだ。
イエティは山から下りてくる割りには臆病な性格らしく、数が少なくなると逃げ出すという。
逃げ出したモンスターはまた繁殖をして、数を増やしてまた攻めてくるのだ。好戦的なモンスターは割と報酬が安く、逃げやすいモンスターが報酬が割と高いのはそういう理由からだった。
俺とロザリオで2匹倒したから6万リンズになるが、分け前は4分割。残りを逃せば、儲けは初日と同じ1万五千リンズになる。
残り三体もきっちり仕留めれば、15万リンズも手に入るのだ。ロザリオに支払った支援料金を差し引いても、1人当たり3万5千リンズは固い。
「わ、わかったよ」
ようやく腰の短剣を抜いたメアリスも参戦し、残りを駆逐することに成功した。
狩り終わって「なんでこんなパーティーに入っちゃったんだろ……」という呟きが聞こえたが、残念だったなとしか言いようがない。