異世界人の目標が微妙なのは一体……?
パーティーのバランスはとれたが取れてない。この矛盾をどうしようか。
早速入った収入で、仲間たちとの親睦を深めるために食事をしているが、これからどうしたものかと頭を悩ませる。
というか、そもそも俺はこの世界で何を目標にすればいいのだろうか?
当初としては、SF未来な宇宙空間で、メカニックな強機体ロボットで無双するような考えだったのに、なにを間違えたのだろう。間違えられたのだろう。
「なあ、この世界には魔王とかいるの?」
「魔王ですか……? それはどういった……王と名のついてるのですから、偉い人なのですか?」
「え、そりゃ、なんというか……ほら、モンスターたちの元締めみたいな偉い奴?」
当たり前の疑問を二コラとロザリオの二人にぶつけてみると、お互い見つめあって「?」みたいな表情をしていた。
「そういうのは聞いたことがないですよ? まあ確かに、モンスターがどこから発生してるのかとか、はっきりは解ってませんけど……」
「そうねぇ。それぞれのモンスターのボスみたいのはいるのだけど、全てのモンスターの総締め……というのは聞いたことないわ」
「え? そうなの?」
てっきりモンスターがいるのだから、当然魔王がいてそれを倒しに行く王道なパターンだと思ったんだが……
「そんな君に、ピッタリの答えをあげようじゃないか」
じゃあなんでこの世界に送られたんだと悩む中、また新しい聞いたことのない女性の声が聞こえた。
「君、日本人でしょ?」
振り向くと、いかにも盗賊然とした短パン小僧……ではなく女の子が、俺の肩に手を置き、人差し指を振り向いた頬に突き刺すというイタズラをされた。
顔立ちはまさしく日本人のそれで、長い黒髪と耳に着いたイヤリングがなければ、中性的な顔立ちからきっと男だと勘違いしていただろう。年も俺とそう変わらないだろう。
現代人って、割と髪の毛長くしてる男の人って多いしね。
「日本人ってことは、君もあのくそ女神に連れてこられたクチ?」
「あれ、反応薄いね。普通美少女にこういうことされたら嬉しいもんじゃないの?」
「嬉しいは嬉しいけど、すでに美少女なのにダメな系の奴らとつるんでるから、裏があるんじゃないかと疑っちゃってね」
金髪美少女魔法使いが、ただの手品師だったり、おっとりお姉さんプリ―ストが暴力系殴り僧侶とか、もう何を信じていいかわからない俺に対してこんなことをすれば、疑いは一層深くなること請け合いである。
「それで、魔王の是非についての答えってのは?」
「ああ、そうそう。私はメアリスね。君が悟志君でいいんだよね」
なんで俺の名前を知ってるのか気になるが、それよりも名前がメアリスって、どう見ても日本人なんだが。少なくともアジア系だ。
「ん? 日本人じゃないの?」
「日本人だよ? だけどこの世界で漢字読みってなんか違和感あるじゃん。だから、ネットで使ってたハンドルネームで名乗ってるんだ」
なるほど、確かに二コラとかロザリオとか横文字の名前が並ぶ中、日本名だと浮いてる感じはするな。
「それで答えだったね。君もアマテラス様に転生させてもらったんでしょ? そのとき、神様たちの暇つぶしだって言われたと思うんだけど……、私たちはそれぞれの国ごとに、転生先の首都を分けられてるのさ」
あんな女神に様の敬称をつける必要はないと思う。。。
「で、私たちは毎年、街ごとにどれだけ活躍できたかっていうのを競わされてるの。それで一位になれれば嬉しい特典が貰えるってすんぽーさ!」
つまり、神様の暇つぶしというのは、それぞれの国を治める神々が自分の国の死んだ人間を転生させて、その国ごとで競争させることが目的らしい。
ひょっとすると、俺に特典をつけた際のペナルティというのは、このバランスが大きく崩れるからなのかもしれないな。
「その特典っていうのは?」
話に置いてけぼりになってしまい、二人で会話する二コラとロザリオを置いといて、メアリスと続けて話をする。
「まあいろいろだよ。私は貰ったことないけど、ロクさんは日本の最新ゲームハードを貰ったとか言ってたっけ」
なんだそれ。つまり、一年間で頑張ってトップの成績をとると、願い事を叶えてくれるってことか?
「まあ、差し込むコンセントもネット環境もないから意味ないじゃねーかって地面に叩きつけてたけどね」
可哀想に……
「それって、元の世界に戻りたい、とかも可能なのかな」
「どうだろう。帰ったって人は聞かないけどなぁ。もともと希望してこの世界に送られたわけだし、わざわざ戻りたいとか思う人って少ないんじゃない? あ、これ貰うね」
ひょいっと俺の取っておいたエビフライのような料理をつまみ取られたことは後で言及するとして、うまくすればSF世界に行ける可能性はあるってことか……
「まあいいや、それで、私もパーティーに加えてほしいんだけど、いいかな?」
「え、それは構わないが……」
もとは日本人ということだし、盗賊職とはいえ、この二人よりはまともそうなので大歓迎である。
それに盗賊といえば簡単な魔法から自分への支援魔法、ダンジョン内でのトラップ対策など、割と万能な職業だ。
今のところ、名前だけなら戦士、魔法使い、プリ―ストというパーティーにはちょうど良い穴を埋める人材であるといえた。
「新しい仲間ですか? 大歓迎です! それもシーフじゃないですか! 私のショーにも広がりが見えるというものです!」
「私はなにも異存はないけれど」
それまで二人で駄弁ってた二コラとロザリオが、メアリスがパーティーに入りたいと聞いて食いついてくる。
「まあ、うちのメンバーもそういってるし……、逆にこんなパーティーにはいっちゃってもいいの?」
こんな、魔法を魔法として使おうとしない手品師と、支援を貰うのに金を要求してくるプリ―スト。そして普通の姿では一般人の能力しか持たない前衛戦士の仲間になってもらっちゃっていいものなのだろうか。
「別に問題ないでしょ? 戦士に、魔法使い、プリ―スト。そこに私が加われば、完璧なチームになるじゃない」
まあ、本人がそういうのなら、巻き込まれて貰おうか。
そして、ちょっと悪い顔で不幸は分担しようじゃないかと心のそこで企んだのだった。
宿。
一泊して、夜と朝の食事のついた、高くはないけど何の不自由も感じない宿。
俺はこの世界に来て初めて安息の夜を過ごすことができた。
初日こそ物の物価や装備品を整えるのに金を使ってしまったが、二日目はそんなこともなかったので、貯金できる額は少なくなったが、まともな宿をとることにした。
二コラは相変わらず、あの貧相な宿で宿泊しているらしく、俺のことを少し恨めしい顔で見ていた。
そもそも、稼ぎは俺と同じはずなのになんでそんな生活をしているのかと聞いてみると、魔術に用いる道具を買うのに資金はいくらあっても足りないらしい。自業自得だ。
ロザリオはプリ―ストらしく教会に借りている部屋があるらしく、そちらに寝泊まりしているらしい。
そして、この宿はメアリスから紹介してもらった。
「その、ロクさんってのも日本から来た人なのか?」
「そうだよ。いやもう凄いんだから。凄腕の魔法剣士で、トップの成績をとれたのは一回だけど、大体上位五人くらいに入ってるもん」
メアリスも同じ宿に宿泊しているようで、今は俺の部屋に情報共有に来ている。
それによると、先ほど名の出たロクさんというのも、日本人らしい。
「ちなみに、この街に異世界人はどれくらいいるんだ?」
「うーん。ざっと50人くらいかな」
「意外と少ないんだな。もっと何百人もいるものと思ってた」
「そりゃ異世界人だけの括りでみたら何百人規模だろうけど、日本人の異世界人で言ったらってこと。というか、50人でも少ないってことはないと思うんだけど」
なるほど。
つまり、大体50人づつの異世界人が、この世界の各街に散らばってるってことか。
「そうだ、それより聞きたかったことがあるんだ……これ!」
メアリスが懐から取り出して突き出してきたそれは、朝ニコルがビリビリに破いた俺のパーティーメンバー募集の張り紙だった。
とりあえずテープで張り付けて掲示しておいたんだが、見てくれる人はいたのか。
「それがどうかしたか?」
「どうかしたかじゃないよ! 何この綺麗な文字。日本のチラシをそのまま持ってきたのかと思っちゃったもん!」
そりゃそうだろう。そういう感じに作ったんだから。
「この世界、ファンタジーゲームみたいで楽しいっちゃ楽しいんだけど、機械なんてものは普及してないの、なんでこんな物が作れたの!?」
「企業秘密だ」
教えてやってもいいが、そうなると俺の変身機能を教えることになる。
まあ、そう時も経たないうちにバレそうな気もするが、あの姿は見られたくない。
こっちの世界の人間になら、最悪「そういう鎧だから!」でごまかせるだろうが、日本からきた異世界人からは絶対笑われる。
しかも、普通異世界転生した人間は特別な力なんて貰わないらしく、俺だけこんなチートの能力を持ってると知られたら嫉妬される可能性もあるのだ。
教えるなら相手とタイミングを選ばねばならない。