俺のパーティーメンバーが頭おかしいんだが一体……? #4
今日の盗伐対象は、昨日の経験を踏まえてトロールである。
トロールとは、緑色の巨躯で力もすごいが、大型モンスターの中では特に知力の足りないモンスターである。
普段は森の奥に生息しているそうなのだが、時たま武器の使用を覚えてしまったお馬鹿さんが、自分がとんでもない力を手に入れたと勘違いして街まで赴いてくるそうなのだ。
いつもはその狩りやすさから我先にと依頼がとられるのだが、二コラの不思議な話術で奪取することができた。
「今日からやっとまともな戦闘ができそうだなぁ」
と、俺は購入したばかりの安い直剣を鞘から抜いて眺めてみた。
ちなみに、今の所持金はほぼゼロである。
昨日の1万5千リンズから宿代が2千リンズ。食事代に4千リンズ。仲間募集のための羊皮紙代が千リンズ。剣と盾にそれぞれ4千リンズで、ちょうどなくなってしまったのだ。
だから、今日の盗伐も成功させないと大変困ったことになる。
とはいえ、形とはいえ魔法使いと、新戦力のプリ―ストがいるのだから、俺も生身のままで何とかなるのではと考えている。
「あ、いましたよ。武器を持ったトロールです」
二コラが指さす先に、ほかの小型モンスターを、手に持つ長いこん棒で蹴散らすトロールの姿があった。
なるほど、モンスター同士なら頭が悪い分、単純に力の強い奴が勝てるのか。
見る限りでは、トロールが武器を大ぶりしていて、いわゆるオーバースイングになっている。見極めるのは簡単そうで、俺でも躱したりいなしたりはできそうだ。
雑魚モンスターは、真っ向からぶつかろうとして、その怪力に押し負けているといった感じだった。
「よし、いくぞ。それじゃロザリオさん。俺に支援魔法を貰ってもいいかな?」
買ったばかりのカイトシールドと直剣を構えた俺は、戦闘するにあたって有利になるために、支援魔法を要求した。
「はい、それじゃあ、筋力増加に五百リンズ、速度上昇に五百リンズ、回復系はエイドから順繰りに五百リンズづつ上がっていくので、計画的に戦ってくださいねぇ?」
「は、金とるの!?」
待て、プリ―ストといえば聖職者で、そもそも一緒に戦う仲間なんだから金とるとかおかしいだろ!?
「当り前じゃないのぉ。私も前線で戦う以上、立場は対等……そんな人から支援魔法まで貰おうというんだから、お布施をいただくのは当然のことよぉ?」
と、ロザリオは腰にぶら下げていた武器を取り出した。そして、ワンドだと思っていたそれは、銀色に輝くメイスであった。
え、それより前線で戦うってどういう……
「シェルター! ストレンジ! スピダス! ……さあ、いくわよぉ!」
そして、ロザリオは自分にだけ防御と筋力と速度上昇の支援をかけて、こちらを発見したトロールへと向かっていった。
まじかよ。
仕方なく俺も追いかけて並走する。
そのタイミングに合わせるようにトロールが棍棒を頭上から叩き落してくる。
盾があるとはいえ、あの破壊力をそのまま受けるのは危険と判断した俺は、ロザリオに避けるように指示を……
「ええい!」
バコン!
かわいらしい掛け声とともに、ロザリオが打ち下ろされる棍棒にメイスを打ち上げると、すさまじい威力で棍棒をはじき返した。
うっそ~ん。
「いまです!」
度肝を抜かれつつも、今がチャンスだと判断した俺はトロールに剣を向ける。
どれほどの力でひっぱたかれたのか、完全に体制を崩している。
片足で立っているその軸足を、思い切り斬りつける。
ザクっという感触と共に、深く切れ込みを入れられたのがわかる。
「やった!」
と思ったのもつかの間、転んだトロールの傷口は見る見るうちに塞がっていった。
「おおい、なんかこいつ回復してるぞ!」
「まあ、トロールは一応妖精の仲間だというし、そういった能力もあるのかもしれないわ」
と、転んだトロールに追撃を……というか、目を覆いたくなるような殴打撃をくりかえすロザリオが説明してくれる。
え、まって。プリ―ストってそういう職業じゃないよね?
確かにオンラインゲームとかだと、たまに殴り僧侶とか、灰魔法使いとかで、なぜか打撃に特化した能力に育成する人がいたが、まさかこの人もその類なのだろうか。
「さあ、それではこの空気を和ませましょうか。この何もない草原にあら不思議、このなんの変哲もない小麦粉を振りまくと花畑になってしまうのです!」
それまで後ろで待機していた二コラが、急に懐から小麦粉を取り出してトロールとロザリオの周りに風の魔法で振りまき始めた。
そんな馬鹿なことがあるはず……あるのかよ。
風に舞う小麦粉が地面に付着すると、そのあたり一帯が一気に色鮮やかな花畑へと変貌した。
「うふふふ」
こうして、神々しい花畑の中でトロールに馬乗りになってタコ殴りにするプリ―ストという、世にも奇妙な構図が完成したのである。
ちがう、これじゃない。
しばらく殴っていたが、どうも打撃では致命傷にならないらしく、トロールが立ち上がったこともありロザリオは一度退いた。
というか、あれだけ殴られてたのにもう傷口がふさがってる。
「どうしましょう、あまり致命傷にはならなかったみたいですねぇ」
おっとりと呟くロザリオさんだが、そのローブにはトロールの返り血が付着している。なんで俺の周りにはこんなのしか集まらないのか、訳が分からない。
まさかアマテラスがそういう、運命さえ操作して面白がってるんじゃないだろうな。
しかしこうなると、こちらも火力不足になる。
本来火力を担当するはずの魔法使いは訳の分からない奇術をやってるし、前衛を強化するプリ―ストは自分に支援をかけて、他人に支援をするのは金をとるという。無一文に近い今の俺では支援を受けられない。
となると……
「……装着」
投げやり気味に変身し、トロールと対峙した。
「まあ、その姿は……?」
「……言わないでくれ」
本当に、男なのに美少女スタイルのスカートはいたような姿になるのは抵抗があるのだ。
プリ―ストが仲間に入ったことで何とかなると思ったんだけど……はぁ。
「あまりこの姿で長居するつもりはない。何か火力の出るものは……」
この機械の知能に問いかけるようにつぶやくと、答えをくれた。
≪装備中の直剣に高周波機能を付与することができます。付与しますか?≫
おおう、サイボーグニンジャァ
まさかの機能に嬉しくなるが、美少女型ロボットが高周波ブレードを振り回す姿とか、これ本当に何がしたいのかわからないな。
「ウゴァ!」
スローモーション機能を使って、迫りくるトロールの棍棒を高周波ブレードで何度も斬りつける。スローが終わると、まるでアニメのワンシーンのように棍棒がスライスされ、残ったのは柄の部分だけになった。
「ォウ?」
とぼけたように自分の頼りなくなった棍棒だったものを見つめてうろたえ始める。
そして、慌てたように森のほうに逃げ帰っていった。
「あれ、なんで逃げてるの?」
「ああ、武器がなくなったからですよ。もともと、武器を手に入れて強くなったと勘違いして……まあ、武器がなくとも脅威には違いないですけど、頼れるものがなくなったから帰っていったんです」
あれ、それってつまり、ロザリオがトロールの動きを抑えてるうちに棍棒を隠してしまえばよかっただけで、この姿になる必要ってなかったんじゃ……?
『その通り。棍棒は重いけど、二コラちゃんと二人で持ち上げれば運べる重さだろうから、装着損ね。いやぁ、面白いもの見れたわ!』
茶化すようにアマテラスの声が聞こえてくるが、もうこいつは気にしないでおこう。
そして討伐対象もいなくなったことだしギルドに戻ると、一応撃退成功ということで報酬はきっちり受け取れた。
5万リンズなので、3人で分けると1人当たり1万6千リンズ……。昨日より千リンズ上がっただけか……