俺のパーティーメンバーが頭おかしいんだが一体……? #3
翌日である。ギルドへと赴いた俺は二コラの出迎えを受けた。
「おはようございます。昨夜は良く眠れましたか?」
「お前よくあれで寝れるな。体の節々が痛くて仕方ないんだが」
二コラに紹介された格安の宿は、もはや宿とは言えないようなぼろぼろの建物だった。
三畳間の広さで、なおかつ畳ですらなく、布団も用意されてない、本当に横になるためだけのような空間だったのだ。
寝ようと思っても、そこそこ身長のある俺は、四角形の部屋で斜めに寝なければ足と頭が壁にぶつかってしまうという惨状だ。
まあ、寒くて丸まって寝てたからそんな心配はすぐになくなったが。
二コラはたぶん寝具なり用意しているのかもしれないが、俺は着の身着のまま泊まったから寒いし固いしで散々だった。確かに安かったけど、あれなら多少値がついてもちゃんとした宿に泊まりたい。
「そんな珍しい事じゃないんですけどね。駆け出しのギルド員なんてこんなものですよ」
まあ、確かにどこかの作品にも「ホテルで寝泊まりするフリーターなんていねぇ」なんて言ってたが、その通りだ。
これは早急に金策にいそしむ必要がある。
「で、今日はどうしますか? せっかく仲間になったんですから、大魔術ショーの練習でもしますか?」
「しねぇよ。というか、それで稼げないからクエストをすることにしたんじゃないのか?」
「それは一人でやる見栄えの無い魔術に、観客の飽きが来たからです。二人でやる魔術ショーなら、お客様は満足するはず!」
何を根拠に言っているのだろう。
まあいい。別に俺はそれに付き合う必要はないし、最悪一人でもクエストをこなせることがわかっているのだ。
手品なんて親指がなくなっちゃった、くらいしかできない俺をどうしようというのか。
まずはちゃんとした仲間を集めることから始めよう。
「ふっふっふ。まあ落ち着けよ。俺は今日から必要なものを用意してきたんだ。これを見ろ!」
「な……っ!!」
バーンと突き出すその羊皮紙には、現代日本の高級コピー機にも負けないような鮮やかさで描かれたパーティーメンバー募集の要項が書かれていた。
宿が個室だったのをいいことに、あのこっぱずかしい格好でできることをいろいろと試していたのだが、これがその能力の一端だ。
文字が読めることからもしやと思っていたが、脳内で想像した構図をそのままコピーするという荒業をこなすことができたのだ。
カラーとまではいかないが、インクで手書きするしかないらしいこの世界では画期的である。
それと、変身する際は「変身」ではなく、「装着」や「合体」、果ては「パイルダーオン」など、最終的に変身するような意図の単語であればなんでも良いことが判明した。
……だから、なんかこれじゃないんだよなぁ。万能なのはいい事なんだけど。
「…………!!」
俺の募集張り紙を手に取りプルプルと震える二コラ。まあ驚くのも無理ないか。こんな中世の世界で新聞の一面みたいな完成度の張り紙を見せられたら、誰だって……
「ぬあああああ!! なんでこんなもの作ってるんですか!? 私がいるじゃないですか! プリ―ストとかアーチャー、シーフはともかく、ウィザードまで募集してるのはどういうことなの!?」
ビリィっと俺の書いた渾身の張り紙を破きながら、二コラはそれを俺に投げつけてきた。
「あああぁぁぁ! なにしやがんだ、この売れない手品師が! おま、これ書くのいろいろと面倒くさいんだぞ!?」
どうしよう! せっかく恥ずかしい格好してまで書いたのに、また宿に帰って変身しなきゃならないじゃないか!
敗れた破片をくっつけてもとに戻せないかと試してみるが、ピカソの絵のようなくっつき方になってしまって見栄えは非常に悪い。
「募集の張り紙は私が張ってあるので心配いりません! とりあえず、午前中はショーの打ち合わせをしながらパーティー参加者を待ちましょう。誰も来なかったら、二人でクエストに行きましょう」
「だから俺は手品なんてできないぞ?」
仕方ないので二人してテーブルに座り朝食を注文して食べることにする。まあ、変な世界ではあるけど、料理はそこそこ美味いので我慢はできる。
「あのぉ、募集を見て来たんですけどぉ」
届いた洋風な食事を食べようとしたとたん、横から声がかけられた。
振り向いてみると、ピンク色のローブに身を包んだ穏やかそうな顔をした女性が立っていた。
「なんでしょう。パーティー募集の件ですか?」
間髪入れずに二コラが応えると、女性は頷いた。
「そうです。わたしプリ―ストなのですけど、よろしければ仲間に入れていただけませんでしょうかぁ」
おお、プリ―スト!
回復と支援をしてくれる心強い後衛ポジションじゃないか!
「ぜひ、俺とパーティーを組んでくれませんか!」
これは逃す手はないと、自ら乗り出す。
こんなパーティーに目をつけるということは、彼女もそこまでレベルの高くないギルド員なのだろう。
だとすれば、俺の変身機能を隠したまま、普通の人として前衛で戦ったりする環境ができるかもしれない!
そう、チート能力がなくとも、普通にレベル1から頑張ることだってできるはずだ!
「え、あの……お二人はお仲間じゃないのですか?」
顔を近づけすぎたからか、女性は若干顔を紅潮させながら質問してくる。
おっといけない。こんなことで怖がらせてたら仲間になってもらえないかもしれない。
「いいえ、仲間ですよ。私が魔術師で、彼が前衛の戦士。これでプリ―ストのあなたが入ってくれれば、バランスの良いチームになれると思います」
そのうち一人は、後衛なのにヘイトを集めるという、よくわからない役回りだけど。
「いや、俺はどちらかというと別のチームを……」
「さあ、自己紹介しましょう! 私は大魔術師二コラ。この男は鎧の戦士サトシ」
「私はロザリオ・シェルツと申します。お見知りおきを」
無理やりぎみに二コラに一つのチームとしてまとめられてしまった。
くそ、何が何でも逃がさないつもりだな……
「では、さっそく新しい仲間もできたことですし、クエストを受けにいきましょうか」
「おいちょっと待て。俺まだ食い終わってな……」
「いいクエストは限りがあるんです。ほら行きますよ!」
俺は無理やり腕を引っ張られてカウンターへと連れていかれた。