俺のパーティーメンバーが頭おかしいんだが一体……? #2
「クエスト完了で、報酬はお一人1万5千リンズになります」
クエストの完了報告にギルドに戻ると、受付のお姉さんがギルドカードを確認して報酬を渡してくれた。
どうやら、お金の換算は百リンズで銅貨一枚。千リンズで銀貨一枚。一万リンズで金貨1枚だという。小銭……まあ金貨だから小銭なのだが、もっと細かい単位の通貨はどうなるのかと思ったが、そのあたりはきちんと最低単価が百リンズで統一されているらしい。
「さて、説明してもらおうか」
「それはこちらのセリフです」
さっそく手に入った金で食事を頼みつつ、二コラと向かい合ってテーブルに座る。
まず、魔術師と言いながら、戦闘で手品をやっていたことを説明してもらいたかったのだが、レディーファーストということで質問する順番を譲る。
「めちゃくちゃ強いじゃないですか! え、なんでパーティーメンバーとか探してたの? か弱い乙女を捕まえて『えへへ、俺って強いだろ、俺の女にならない?』みたいな、新たなナンパ方法ですか? でもあの鎧のセンスには難ありですが、確かに強さだけなら惹かれるので効果的だとは思いますけど」
「ちょっとまて。その完全に俺がダメな奴みたいな言い方はやめてもらおう。それにあのセンスは俺の物じゃない。そこを理解してもらおうか」
確かに、どんな形状のロボットとは伝えなかったが、美少女になりたいという願望とチートロボットという要望二つを勘違いして一つにしたのは、あの勘違い女神アマテラスだ。
「えー。でも、あの動き尋常じゃなかったですよ? レベル60越えって言ってもおかしくないくらいですもん」
「レベル? この世界はレベルで強さがあらわされるのか?」
「え、知らなかったんですか? ギルド員じゃなくても知ってる常識だと思ってたけど……。本当に異国から来たんですねぇ」
腕を組みながらまじまじと俺の制服姿を見つめる二コラは、届いた食事に目を輝かせてから説明を始めてくれた。
「一般の人は無理ですけど、ギルド員になると実力をレベルに表すことができるんです。最初に登録するときに水晶に手をかざしませんでしたか?」
「そういえばそんなこともあったな」
「あれでその人の実力を測るはずなんですけど……その時になにか言われませんでした?」
「何も? いたって普通です、としか」
「あれぇ? おかしいな。まあいいです。基本的に様々なパラメータや使える特技や魔法をまとめて評価してレベルが算定されます。それで、ある程度受けられるクエストと受けられないクエストがあるんですけど、この街で受けられる依頼がレベル60くらいまでなのです」
「コボルドはどれくらいの難易度なんだ?」
「あれは、15くらいかな? まあ群れの数がどれくらいか、にもよるんですけど……、一匹当たりレベル10相当でしょうか。それをあっさり倒しちゃうんですから。でもおかしいな、クエスト受けるときは、パーティー上限のレベルが30までだったんだけど……」
それはたぶん、俺の実力が本当に低いからである。たぶん、あの状態……何か名前を付けよう。変身状態? 装着状態? なんかいまいちピンとこないな……
あの状態になったときに、機械のアナウンサーにでも聞いてみよう。
ともかく、あのロボット形態の力は実力に換算されないんだろう。
「今度はこっちの質問の番だ。二コラ、お前なんで手品師なのに魔術師なんて嘘ついたんだよ。というか魔法使えるのならそれで戦ってくれよ」
別に手助けがなくても勝てたとは思うが、魔法で援護してくれると思ってたのに、そうじゃなかったのは驚いた。
それに、やっぱりこういう世界に来たからには、前衛の戦士と後衛の魔法使いみたいな戦い方をしてみたい。
「手品ではなく魔術です。魔法は手品を派手に見せるための道具であって……じゃなくて、魔術に必要な影の力なのです。直接戦闘に使用するなんて無粋は……」
「お前いま手品って言ったろ」
「言ってない」
これはダメな気がする。
そもそもこいつのレベルはどんなものなんだろう。
遅れて運ばれてきた鳥の丸焼きみたいな料理をどう食べようかと悩みながら、パーティーレベルで30までのクエストが受けられたというところから予想してみる。
俺のレベルが10ないとして、だとしたらそれを補うために50近くあるのか?
いやいや、10レベルの人間が3人いて30レベルという数え方もできるから、高いとは限らない。
「二コラってぶっちゃけ、レベルいくつなの?」
「その女性に年齢を聞くみたいな聞き方は気になりますが、別にいいじゃないですかレベルくらい。ほら、ごはん冷めちゃいますよ?」
この反応、さてはレベル低いな?
先行きが不安になる。
「というか、そんなんでよくギルド員なんてやってられたな。仲間ができても、すぐ離れていっちゃうだろうに」
「そうなんです。なぜかみんな戦闘クエストにいくと『いや、この戦い方は何か違う』って言ってパーティーから抜けちゃうんです」
そりゃそうだろう。みんな後方から魔法で援護、ないし強力な魔法を叩き込んでくれると期待してるのに、本来前衛の役目である『ヘイト集め』をしてるんだから。
「今までどうやって金稼いできたんだ? そんなんじゃ、一人で討伐もできないだろ」
「だから、私は大魔術師です。仲間ができないときは、ストリートショーをしておひねり貰ってます」
だめだこいつ。誰か何とかしてくれ。
明日からちゃんとした戦闘ができる仲間を探そう。
「じゃあ、とりあえずクエストの受け方とかわかったし、今日はありがとう。明日から、また仲間探し頑張れよぉぉぉぉ!?」
食事の乗ったお盆を持ち上げて、別のテーブルに移動しようとしたら、二コラに両腕でのど元をつかまれた。
しかも、いつの間にか両足に糸が巻かれて逃げられないようにされてる。
その技術を戦闘に生かせよ!
「まあまあ待ってください。せっかく知り合えたんですから、この街の事まだよく知らないんでしょ? いろいろと面倒見てあげますので、見捨てるのは勘弁してくださいお願いします」
語尾になるほど切迫した感じになっていく二コラの言葉には、結構緊迫感があったので、どうせ逃げられないし話を聞くことにした。
「その、ですね? クエストを受けられないと、お金が貰えないわけじゃないですか。それで、路上で魔術を披露してお金を貰ってたんですけど、何回もやると飽きられてくるわけで……。最近では、おひねりの代わりに『さっさと種を教えろ!』なんてヤジが飛んでくる始末で……貯金が、その……」
手品で稼いでいて最初の頃はウケもよかったが、新しいネタもなくなってきて商売にならなくなってきたからギルド員としてクエストをこなして働かないと食っていけないと、そういう事だった。
だからと言って、俺が慈悲をかけてやる義理はない。
「そうか。じゃあ、その大魔術とやらでモンスター討伐にいそしんでくれ。こんな身動き封じる技を持ってるんなら、きっと一人でもやっていけるさ」
「お願い! パーティーから抜けないでください! というか養ってください! 正直、小型のモンスターなら何とかなるんですけど、小型モンスターは群れで動くので不確定要素が多いんです! 一匹動きを封じたところで違うモンスターに狙われるし、大型モンスター相手にはこんな小手先の技が通用しないから、一人じゃどうしようもないんです!」
うわあ、なんか厄介なのに捕まったなぁ。
頷かないと拘束されてるのほどいてくれなさそうだし。
変身しちゃえば無理やりほどけると思うけど、あの姿を公衆の面前に晒すのも気が引ける。
正直、二コラの見てくれはかなりいい。
小柄で綺麗な金髪が、涙ぐむ整った幼い顔立ちを際立たせる。おそらく、ストリートショーで一定の人気を保っていた要因の一部でもあるのだろう。
しかし出会って一日もたってないのに『養って』と言われてもなぁ。
せめてまともに戦力になるなら考えるんだが……
「そんなんでよく一人で討伐に行ったりして帰ってこれたな。それだけ体験談があるってことは、試してはみたってことなんだろ?」
「そりゃ、私だってギルド員ですから。一度は試してみました。結局だめで、透明化の魔法で帰ってきましたけど……」
「お、透明化か、すごいじゃないか。というか、この世界の魔法はサポート系のしかないのか……?」
魔法といえば、呪文で炎を出したり水を出したり、風の刃で敵を切り刻んだりといったものだと思ってたけど、この世界はそういうのがないのだろうか。
「そんな戦闘向きの魔法を習得して、魔術のなんの役に立つんですか? 私の習得する魔法は、全て魔術に生かせるものばかりです」
だめだこいつ。早く何とかしないと。
「まあ仕方ない。俺も一人じゃまだ立ち回れないところもあると思うから、優良物件が見つかるまでという事なら……」
「ありがとうございます!」
現金なもので、とりあえずまともなパーティーが見つかるまでという条件を出したとたん拘束を解いてくれた。
それから、冷めかけてきた料理を食べつくして、その日は宿をとることにした。
「ところで、二コラって宿はどうしてるんだ?」
「なんですか? 同じ部屋には泊めませんけど。養ってとは言いましたが、超えてはならない一線があると思うのですが……」
「そそそ、そうじゃなくて、俺この世界……じゃなかった、街に来るの初めてだから、泊まれるところ探してるんだよ」
「そういう事ですか。じゃあ、私が泊ってる宿に空きがあるか聞いてみましょうか」
そしてニコラの伝手で、格安の宿を何とか手配することができたのである。