俺のパーティーメンバーが頭おかしいんだが一体……?
さて、それじゃあ何のクエストを受けようかなと思う前に、さすがの初心者の俺からすると仲間がほしい。
最初からへまやったとしても、サポートしてくれる仲間がいればこれほど心強いことはない。
「パーティー募集の張り紙はっと……相変わらず読めん」
変身すれば便利機能のおかげで読めるんだろうけど、こんなところであの姿を見せびらかしたら仲間になろうなんてやつはいないだろう。
なんて厄介な能力を与えてくれたんだあのくそ女神。
「君、君。パーティーメンバーを探してるんですか?」
募集の張り紙を眺めながら、そのうち文字も読めるようにならなきゃなと思っていると、後ろから声をかけられた。
振り返ると、金髪の小柄なお嬢ちゃんがいた。
大きめのシルクハットに肩まで届きそうなミドルヘアー。
スーツのような服をローブで隠している。
ひょっとするとこの娘もギルド員なのだろうか。
「まあ、探してるんだけど、君はいったい……?」
「私は魔術師。前衛兼助手となる人を募集しているんですけど、お兄さんなんかどうでしょう。先ほど見ていた限りだと、一瞬で鎧を着れる特技をお持ちのようだし、前衛職なんでしょ?」
魔法使いか!
それはいいな。ということは、ひょっとすると俺にも魔法が使えるのかも?
あまり乗り気じゃなかったファンタジーだけど、こうしてみると結構楽しそうだぞ。
「そりゃ願ったりかなったりだけど、大丈夫? 俺、この世界事態初心者みたいなもんだけど」
「大丈夫です。手伝ってくれるだけで十分なんですから!」
なにが大丈夫なのかわからないけど、仲間に入れてくれるというのなら、そうさせてもらおう。
魔法使いというのなら、頭も悪くないだろうし、この世界についての知識に疎い俺をいろいろサポートしてくれるかもしれない。
そのあたりも、ギルドに登録するまでの工程を見ていたみたいだし、初心者であるのは理解してくれているであろう。
「それで、ほかの仲間はどこだ?」
「お兄さんが助手1号ですよ?」
助手ってなんだ。
とりあえず、向こうも仲間募集を始めて間もなかったみたいだ。
「まあいいや。さっそくなんだけど、俺無一文だから、何かしらクエストでもやらないと今晩の食事もままならないんだ。正直、武器を買う金もないんだけど、なにかいいのない?」
「え、それはさすがにまずいんじゃ……。うーん。今はショーで稼げるかわからないし、クエスト受けるしかないか……」
ショーという単語が気になったが、稼げる算段はあるらしい。
「じゃあこの、オーガ討伐なんてどうでしょう。一匹あたり10万リンズらしいですよ」
「いや、初心者にはレベル高くないか? オーガって鬼みたいなもんだろ? 割と終盤の敵キャラじゃないか。そして、武器すらもってないんだって」
俺には変身というチート能力があるということだが、今のところその機能は翻訳しか確認していない。あの間違い女神のことだ。いざ戦ってみたら装甲は紙レベルだった、なんてなったら目も当てられない。
「そうですか? 注意をそらせば割と何とかなりそうだけど……。じゃあトロールなんてどうでしょう。報酬は下がりますが、それでも一匹5万リンズですよ。あと、武器は下位のものならレンタルできます」
オーガと大差ないじゃねぇか。
「わがままですねぇ。じゃあ……サイクロプs……」
「なあお前、なんかでかいものに執着でもあるのか!?」
この娘、さっきからモンスターとしては巨大で強力な部類ばかり挙げるが、なにかこだわりでもあるんだろうか!?
それとも、自分の魔法に絶大な自信を持ってるとか? だとしたら何とかなるんだろうが、俺はもうちょっとチュートリアル的なのが欲しいんだよ!
「仕方ないですね。若干安上がりですが、コボルドにしましょうか」
「そうそう、そういう奴だよ! いるんじゃんちゃんとしたモンスターが!」
なんでこんな「らしい」モンスターがいるのに避けてたのかわからないが、それくらいなら苦戦するかもしれないけど、俺が時間を稼ぐ間にこの……そういえば名前聞いてなかったな。
「俺は如月悟志。君は?」
「ずいぶん変わった名ですね。私は二コラ。二コラ・ギルバッシュです」
街の門をくぐりフィールドに出ると、さっそくそこかしこでモンスターと戦っているギルド員などの姿が見えた。
別に密集して、いたるところで戦っているわけじゃないが、モンスターというのはそこそこの頻度で街の近くまでやってくるようだ。
放置すればモンスターたちは自分たちの領域としてどんどん増えていき、こうして常に対処していないと気づいた時にはモンスターハウスならぬモンスターフィールドと化すらしい。
しばらく歩いていると、街に近づいてくる数体の群れのコボルトを発見した。
ゲームのように盾や剣は持っていないが、布きれを身にまとい、両手には鋭い爪が確認できる。
「おいどうするよ。あんなに何体もいるとか聞いてないぞ」
「何言ってるんですか。モンスターは小形なものほど群れるものです。だから、少人数で討伐に行くときは単体の大型モンスターのほうが、むしろやりやすかったんですが……」
「そういう事はもっとはやく言ってくれよ!」
今更逃げようにも、コボルドは俺たちをロックオンしたようで、すでに戦闘態勢に入っているようだ。
犬を二足歩行にさせたような彼のモンスターは、四足歩行へと切り替えどうやら俺たちを逃がす気はないようだ。
「しょうがない、俺がなんとか時間を稼ぐから、その隙に……」
「私が大魔術で気を引くので、あとは頼みますよ!」
と、俺が頼りない木製の盾と安っぽそうなロングソードを構えて前衛を申し出ようとすると、二コラは俺の肩をたたき後ろに下がる。
よし、初めての実戦だが何とかしてや……おい魔術で気を引くってどういうことだ。
一歩前にでつつ、後ろで二コラが何をするのかを見る。
その頭にかぶっていた帽子を手に取り、右手に持っていた短い杖で、ワン・ツー・スリー……バサバサバサ…!! ハトが何羽も飛び出していった。
「………」
「………」
俺とコボルトがそれを見てあっけにとられる。
「なにやってるんですか!? 今のうちに攻撃してください!」
魔術師ってそっちかああああああああああああああ!!!
「変身!」
半ばやけくそ気味にロボット形態に変身する。こうなりゃ頼れるのはこの姿だけだ。
頼れると思った仲間がただの手品師だったなんて誰が予想できようか。
『あ、やっと装着した。ちょっと、その姿でいてくれないと会話でき……』
「うるせぇ! おま、この装備で本当に戦えるんだろうな!」
変身すると同時に頭に響くアマテラスの声に怒鳴りながら、正気を取り戻したコボルトに向き直る。
本当はこんな訳の解らん美少女ロボットなんて姿にはなりたくなかったが致し方ない。
『それは大丈夫。試しに一発、そいつを殴ってみなさいよ』
まずは一発、この手違い間違い勘違い女神をぶん殴りたいところだが、目の前に迫る危機を無視できない。
ファイティングポーズをとり、鋭利な爪で襲い来るコボルトにカウンターのライトクロスを食らわせる。
ドッ
そんな効果音のあと、俺の目の前でコボルトが空中で何回転もぐるぐると回っている。
あ、普通に強いんですね。この姿。
『いいじゃんいいじゃん。そのまま殲滅しちゃいなよ』
完全に観戦モードに移行してる女神を放っておき、第二陣に備える。
コボルトの数はおよそ10。今1体倒したので、残りは9匹だ。
「さあさあご覧あれ。お次はこのローブの中から大量の花びらが出てきます!」
え、なにそれ。
後ろを振り返ると、二コラがローブを右手でバサっと煽ると、どこに隠してたの? というほどの量の花びらをはためかせ、風の魔法でコボルトたちの頭上に舞わせていた。
いや、魔法使えるのかい。
ともあれ、その隙をついて今度はこっちから一気に間合いを詰める。
高性能バランサーでも搭載されているのか、自分でも認識できないほどのスピードで踏み込んだのに、バランスを崩さずアッパーの態勢をとれている。
「ちょ、これ早すぎだろ!?」
≪スローモーション機能を作動しますか?≫
叫んだ直後、アマテラスとは別の機械的な音声が脳内に響いた。
しますします! とつぶやくと、急に視界がスローモーションになる。自分の速度はさっきほどじゃなく、今までの自分の感覚だが、驚愕するコボルトの反応が非常にゆっくりだ。
スローモーションというより、加速装置に近いかもしれない。
その動物的に突き出た顎に、鋼の――材質は解らないが――拳を下から打ち込む。
頭をはじかれたコボルトは、そのままゆっくりと後ろのめりに倒れていった。
あれ、これ本当にチートじゃね?
美少女型というのが残念だが、性能は確かにチート級だった。
『あー、こりゃペナルティ貰うわけだ……』
アマテラスが何かつぶやいていたが、なんだか楽しくなってきた俺は、無駄な手品を披露する二コラを背後に、流れるように残りのコボルトを退治していった。