ザ・二コラ・マジックショー #2
「ってバカ野郎! いきなり何晒すんだ! 死ぬかと思ったじゃねぇか!?」
「おお、ほんとに戻ってきたぞ!」
グリフォンにパクっとされた瞬間、気が付けば俺は大空を漂っていた。
というか急降下していた。
「どぉいうことだよぉぉぉ!」と叫びながらも、なんとか地面とごっつんこする直前に変身に成功して無事に着地することに成功したが、まさか異世界に来てパラシュートなしスカイダイビングをする羽目になるとは思わなかった。
着地する瞬間に巻き上がった土煙に紛れて変身を解き、四つ足で地面に現れた俺は、周りからはまるで飲み込まれた瞬間にどこかに飛ばされて、今ここに出現したように見えたらしい。
ものっそい歓声を受けている。
「あれおかしいですね。ほんとは街の入り口あたりに出るはずだったんですが……何か特別な力に邪魔された感覚です」
腕を組み片腕を右頬に当てて「あれぇ~?」と唸る二コラ。
街の入り口どころかはるか上空だったんですけど!?
というか脱出マジックなのにグリフォンに丸飲みにされるってどういう展開だよ!
「まあ無事に戻ってきたので成功としましょう。ほら、ギャラリーに応えてください」
よくねぇよ。
一瞬頭ひっぱたいてやろうと思ったが、観客に両手を振っているニコラに片手をあげた瞬間、グリフォンにキッと睨まれて、そのまま仕方なく背中を掻いた。
というかこの魔物どうするつもりだよ。
「それでは今日の演目はここまでとなります。次のステージでお会いしましょう!」
と、ニコラはグリフォンに跨ってそのまま空へと消え去っていった。
……出演料は!?
「いやーすみませんすみません。あれだけの大魔術を披露した私が、歩いてその場を後にするなんて地味すぎるじゃないですか。あ、これが今日の分け前です」
その夜。
宿にてニコラの帰りを待った俺は、何とか命をつなぐ資金を受け取ることに成功した。
そして今は、ロビーで軽食を取りながら談話している。
「いや大魔術っていうか、お前のそれ奇術に近いよな。奇跡的な意味で」
実際、どんな仕掛けで鶏の卵からグリフォンが出てきたのかとか、グリフォンに丸飲みにされたはずの俺が上空に転移させられたのかとか何も種が解っていないのだが、本人曰く魔法的な要素は使っていないらしい。
「そもそも、なんで手品……魔術師なんてしようと考えたんだよ。なんか魔法自体はそれなりに使えてるみたいだし、こんな世界じゃ普通に魔法使いやって稼いだほうが安定するだろうに」
こんな世界だからこそ、クエストに行くのは普通に考えたら危険なのかもしれないが、逆にいえば、ある程度の実力があって安全マージンを確保さえしていれば確実に蓄えもできるくらいには生活できるはずなのだ。
なのに、ニコラはなぜか手品師なんてことをしている。実に非効率だ。
こんな廃れたカプセルホテルの中世期版みたいなところにいる必要もないと思うのだが。
「考えというか……私はそもそも、これが魔法だと思って練習してましたから」
「何がどうしてそうなるんだ。そもそも、魔法ってのは、なんか本を買って暗記とかして使えるようになるものじゃなかったっけ?」
確かメアリスがそんなことを言っていた気がする。
「ええ、そうです。魔法とは文章の理があり、それを記憶……魂に刻むことで顕現できるようになるんです」
「それがなーんでわざわざ小細工を使うような手品なんて……いや、魔術なんて、どういう勘違いから?」