ギガントベヒモス、襲来 #4
「なあ、お前の魔術って、本当にトリックなんだよな? 魔法は使ってないんだよな?」
やっと姿を現せた街の中に戻り、ギルドの食堂で豪勢な食事をしている二コラ一行を捕まえて問い詰める。
というか、なんでこんな豪華な食事をとってるんだ。
「トリックとは聞き捨てなりませんね。いいですか、私のは大魔術です。お間違え無きよう」
「うん、あれはすごかったね。確かにあんな魔法はみたことないし、何か人為的な工作でできる規模でもなかったと思うよ……?」
席を同じくしているメアリスが、腕を組んで神妙な面持ちで二コラに同意している。
「ふざけんな! まあ結果としては街が無事だったからいいけど、こっちはおかげでモンスターのはびこる大草原で一夜過ごさなきゃならなかったんだぞ!」
「まあまあ、いいじゃないの一夜くらい。こんな仕事してれば、そんなの珍しくないわよ?」
とは言えロザリオさん。俺ってこの世界に来たばっかで、野宿なんてしたこともないんですよ。健全な都会っ子は、キャンプすらしたことないんですから。
「とりあえず俺にも飯食わせてくれ。あれから何も食ってないんだ」
真っ先に文句を言ってやろうと考えてて、言い終わったら腹が減ってきた。
目の前でこんなご馳走見せびらかされたら唾液も出るわ出るわ。
「それなら、まずクエストカウンターに行ったらどうでしょう。撃退成功報酬がでてますよ。私とあなたは作戦のかなめだったので、結構上乗せされてるみたいですし」
なるほど。それでさっそくこんな無駄遣いをしてるのか。
まあ俺の活躍は一緒についてきてたギルド員たちが見てたし、言わずもがなだろう。
「それを速く言えよ。さて、報酬はおいくら万円くらいなんだろうか」
現金なもので、収入が入ると聞くと怒りも冷めてくる。そりゃ、あんなラスボス級を倒せずとも撃退したんだから、ご褒美もあるか。
「すいませーん。如月悟志ですけど、報酬受け取りに来ましたー」
「「「!?!?!?」」」
あれ、なんだろう。受付の人たちの反応がたどたどしい。
そうか、レベル90以上のモンスターと対峙した新人の誕生に動揺してるんだな?
「あのー、今回の報酬ってどうなるんでしょうか」
すると、一人のギルド受付嬢がやってきて、申し訳なさそうにこう口を開いた。
「その、キサラギサトシさんですね? 今回は本当にお疲れさまでした。それで、報酬なんですか……」
いくらくらいだろう。
コボルトやトロールで10万リンズなんだから、緊急でボスクラスとなると100万とか?
それだけあれば、もっと豪勢な宿とかとれそうだし、生活に余裕ができるんだけどなぁ。
「サトシさんに支払われる報酬は、1億リンズとなりま」
「一億!?」
うっそだろ!
いや、一周回って当然か。
これだけの何万人と暮らす街を救ったんだから、億ってのはあり得るのか!
まさかこんな発達していない世界で大金をつかむことができる日が来るとは、思いもしな……
「すいません! 一億リンズとなるんですが、実は今回のクエストはサトシさんを受注者としてこの街のギルド員がほとんど参加しているので、それも分配になってしまうんです!」
「……は?」
「ですから、今回のクエストに参加したのは総勢140名ほどです。そこから分配すると、一人当たり大体70万リンズに……」
「うっそだろ! いや、だって……え!? これ緊急クエストってことで呼び出しあったよね!?」
「も、もちろん今回の立役者のサトシさんと二コラさんには特別配分を用意してあります! お二人にはそれぞれ500万リンズ渡せるように個々の分配は抑えたんですが……」
「な、なんだそれなら安心した。いや、500万でも駆け出しの俺には十分すぎるほどだよ。もともとそこまで行くとも思ってなかったし、特に気にしないから……」
「本当に申し訳ありません! 別に支払わないとは言わないのですが、現在ギルドの金庫には支払えるだけの予算がなくなってしまったのです! 二コラさんの魔術で外部の他支社や本部とも連絡が付かなくなってしまって、今すぐサトシさんに報酬を支払うことができないんです! せめてもう少し早く受け取りに来ていただければ優先してお渡しできたのですが……」
「……はは…は…」
そんなこと言われても、二コラの仕業で街に戻れなかったのだから、受け取りようがない。
ただいま残金、2万リンズ。
どうしてこうなった。
話によると、幸いベヒモスが襲来したせいで他のモンスターはあらかた身を隠してしまっていて、討伐任務や収集任務もない状況らしい。
しばらくギルドは閉鎖され、ほかの街のギルドから資金を得てから受注を再開するらしい。
突然の事なので、再開するまでどれくらいかかるかは未定との事だ。
どうやって生活していくんだよ。
「じゃあ、ま……後日きます」
なおも頭を下げる受付のお姉さんも可哀想になってきて、仕方なくその場を後にすることにした。
そうだ、二コラは報酬を貰ってるんだよな? じゃあ分けてもらって後で返せばいいじゃん!
思い立って、すぐさまほっこり顔で会話をする三人娘の元へ向かった。
「二コラ、お前500万もらったんだろ? なんかギルドの予算がないとかで受け取れないから、貰えるまで半額貸してくれ! いや、10万でもいい!」
「何言ってるんですか。そんなお金、もう借金返済で使ってしまいましたよ。あれだけの大魔術、無料でできると思ったんですか? 下準備のために結構お金を使いましたからね、ほとんどそれの返済に消えてしまいましたよ」
「は……?」
じゃあなんでそんな金のかかりそうな食事を……
「ああこれ? ロザリオさんからのおごりだよ。なんでも、自分の役割でもらったお金はいただくけど、臨時報酬みたいなお金は皆で分け合う主義なんだって」
「そうなのよぉ。自分で稼いだお金なら気兼ねなく使えるんだけど、頂き物って遠慮しちゃわない?」
「ぐおおおお……」
あまりの絶望に、俺はその場に崩れ落ちる。
「まあまあ、とりあえずこれでも食べて元気出してください。あなたの活躍はみんなが知ってますよ。お金が入らないわけじゃないんだからいいじゃないですか」
そうかなぁ。そうだな。
ギルドが再開するまでの我慢なんだから、2万でもうまくやりくりすれば何とかなるか……。またあの狭い宿で寝泊まりしなきゃならんと考えると、鬱になる。
「しゃあねえ。奢りってんなら、今のうちに食ってやる!」
そして、この街に訪れた第一の危機は、なんとなく去って行ったのであった。