ギガントベヒモス、襲来 #3
ズドン……といっていいのか、効果音をうまく表せない。
紫の巨体に俺の体がぶつかると、猛烈な破裂音のようなものが鳴り響いた。
というより早すぎてぶつかるまでのプロセスを理解できなかった。
「うおおおお……、どうだ、これ、動き抑えられてるのか!?」
この身体を動かす方法は、いわゆるイメージフィードバックだ。自分が想像するように動き、反射的な行動も反映される。
今のイメージといては、アヒルさんチームのキャプテンが戦車の中から相手の戦車を押そうとしているあれに近い。
体感としては押している感覚はあるのだが、実際にどうなのかは客観的に見れているわけじゃないから解らない。
『うーん、どうかしら。両者互角ってところじゃない?』
つまり、力は拮抗しているというわけだ。
相手の体制の悪いところに合わせてぶつかっていったのを考えれば、馬鹿正直に正面衝突していたら力負けしていたわけだ。
「しかしこれ、絵としては地味じゃないか?」
まるでフリーザ様が元気玉を押し返そうとしているかのような構図の俺は、見た目ではわからないだろうけど結構必死にこらえている。
『まあ確かに見た目は地味かもしれないわね。こんなとき、あの二コラって娘がいたら面白そうなんだけど』
その二コラは別行動をしているからここには居ないし、わざわざそんな華を作る必要もないと思う。
「グルァ……ッ!」
そうこうしていると、ベヒモスが焦れて来たのか正面からの押し合いを拒否してきた。
身体を捩るようにして俺の衝突をいなしてきたのである。
「おっと……って、やっぱ進路は変えないのね」
そのまま向かう方向も変わってくれればよかったのだが、そんな都合のよいこともなくまた街の方向へと向かい始めた。
街までの距離は、もう普通に目視できるくらいになってしまっている。
果たしてこの状態で街が消えて何とかなるのか自信がなくなってきたが、今は信じるしかない。
しばらくそんな感じで押っ蔵をしていると、ついに周りのギルド員が声をあげたのだった。
「煙弾があがったぞぉ!」
その一言に振り返ってみると、街の上空に赤い一筋の煙の柱が立っていた。
二コラが準備を完了した合図だった。
「一時帰還するぞ! いそげ!」
統率はないが、一斉に街へと駆け込むギルド員たち。
ちょっとまって、俺、これ抑えてるから戻れないんだけど!
街までもうそんなに距離はない。この状態で俺が離れれば、街が消える前に突っ込みかねない。
「うおおおおどうすんだこれ、っていうか、この後のことまで考えてなかったー!」
俺の予想としては、割ともっと距離を稼いだ状態でなんとかなるんじゃないかと思ってただけに、この後どうすればいいのかわからない。
どうすればどうすれば……
「ぉおおおおおおお……おぉ!?」
と、突如猛烈な力で押してきていたベヒモスの力が急に緩んだ。
今までいなしたり捩ったりだったのにどうしたものかと思いながら様子を見ていると、ゆっくりと、方向を変えて歩みだした。
「おいおい、どうしたんだよ。ひょっとして……」
間に合ったのかと街を振り返ると、そこにあったはずの広大な街が、跡形もなく姿を消して草原だけが広がっていた。
「やった……のか…?」
ベヒモスの様子を伺うも、こちらに攻めてくる様子はない。
どうやら、俺の予想通り建造物や人の姿などの目標がなくなったからあきらめたようだ。
「これでひと段落……か」
『随分あっけなかったわねぇ。ちょっと拍子抜けだしつまんなーい』
「うるせぇ! そりゃ見た目は地味だったかもしれないけど、実際に対峙した相手はラスボス倒した後の裏ボスみたいなやつだったんだぞ!? 異世界初心者にやらせるようなクエストじゃねーよ!」
でもまあ、今回の件でこのロボスーツの性能がいろいろわかったし、収穫はあった。
ギガントベヒモスももう姿が見えないくらいになったし、そろそろ俺も街に戻るとするか。
……………
………
?????
そういや、これどうなってるんだろう。
街が消えたのはいいんだけど、あれ、これ本当に消えてない?
「いや、いやいやいやいやいや……嘘だろ!? ほんとに影も形も……え、だってさっきまでここにあったじゃん! え、本当に草原しかないよ!? どこいっちゃったの!?」
もう大丈夫だと街に戻ろうとしたら、本当に何もなかった。適当に歩けば、姿を消してるだけで何かしらぶつかったりするだろうと思ってたのに、思いっきり素通りになってしまった。
「え、まって、マジックだよね? 街が転移したとかじゃないんだよな!? ちょ、俺これからどうすればいいんだー!?」
そして一昼夜このあたりをうろついて、街が姿を現したのは翌日の朝になってからだった。