ギガントベヒモス、襲来
ベヒーモス。
それは、RPGとかではよく見る、割と上位の凶悪なモンスターである。
俊敏な動作と獰猛な爪や牙。紫色の体皮が弾けんばかりの筋肉を覆い、その破壊力たるや岩など木っ端みじんである。
そんなモンスターに『ギガント』というネームが付く。
その意味するところが、目の前の掲示板にでかでかと張られた緊急クエストの張り紙である。
「おい、これもう、どうしようもないだろ。逃げようぜ?」
目の前の張り紙には、ギガントベヒモスの詳細情報が書かれていた。
ベヒーモスの脅威度は前述したとおり。やばいのはその大きさのほうだ。
比較図として表示されてるこの街の大きさの半分くらいのサイズに書かれてるのだ。
これは言ってみれば、ゴジラが四足歩行で高速で移動してくるようなものなのだ。そしてゴジラより圧倒的に巨大である。
格熱光線を出せるかは知らないが、こんな世界なのだからあってもおかしくない。
「まあ、ロクさんがいるからなんとかなるでしょう。様子を見てからでも遅くは……」
「みなさん! 今回の任務に、英雄ロクはいません! 私たちはこの危機を、私たちの力で乗り越えなければならないのです!」
二コラの言葉をさえぎるように、ギルド受付のお姉さんが大声で絶望的なことを叫んでいた。
「やっぱまずいだろ。なあ、俺はまだこの街に来て日が浅いし、未練もないから違う街で頑張ってみようと思うんだが、早く逃げないか?」
正直、こんな相手とは思ってなかったし、たとえやり合うとしても、俺の装着状態でどこまで力を出せるのか思索してない状態で戦うのは危険すぎる気がする。
この街のギルド員がどれくらいの実力なのか知らないが、基本的に依頼の上限が60レベルまでということは、それ以上は少ないのだろう。
掲示板のギガベヒのクエスト張り紙には、難易度90~とか書いてあるし、少なくとも駆け出しの俺たちではどうにもならないだろう。
「それはだめだよ!」
と、突如現れたのは、メンバーから外れたはずのメアリスだった。
「いーい? 私たち日本人の異世界人は、この支部でのポイントしか入ってこないの。個人でトップをとるなら別の支部に行っても構わないんだけど、日本支部としてトップをとるにはこの街はなくてはならないんだよ!?」
「なるほど。……でもなぁ。俺の叶えてもらいたい願いって、個人トップじゃないとダメそうだし、支部でのトップって特典微妙なんだろ……? 俺は命のほうが惜しいし、逃げる準備をしたいんだが……」
「ああもう、なんだってロクさんはこんな時に他支部の大型討伐なんて行ってるのさー!」
まわりのギルド員もざわついてるし、やっぱり、結構絶望的な状況なのだろう。
「というか、そもそもなんでこっちに向かってきてんだ? ほかのモンスターもそうだけど、なんで都合よく街を襲いに来るんだろう」
「それはやっぱり、人がいるからじゃないかしら」
確かに、ロザリオの言うのも一理あると思う。でも、街はぐるりと外壁に囲まれてるし、遠くからでは人がいるとか見えないと思うんだが。
魔王とかがいるわけでもない以上、何らかの理由があると思う。
「そうだ、何年か前にも来て撃退されたって言ってたけど、倒すことはできなかったのか?」
「うん。ロクさんを含めて、何人かの凄腕が対峙したんだけど、倒すまではいけなかったみたい。極大魔法で土煙とかがすごくて、どうなってたのかまでは解らないけど……。この街を横切るようにしてどこかに行っちゃった」
ふむ。
となると、何かしら条件がそろえば撃退は可能……?
なんであんな狂暴そうなのが引き返したんだろう。
というか、横切ってそれからどこに行ったんだろう。
「なあ、ギガントベヒモスってのは何年かに一回訪れるっていうけど、それってほかの街も同じなのか?」
「うん、そんな報告は聞いてるけど……」
なんか、全体像が見えてきた気がする。
ひょっとして、ベヒーモスの進路ってのは決まってて、その進路上に街があるだけなんじゃ……
あるいは、進路の近くに街があるから襲ってからいこう、みたいなそんな感じなんじゃないだろうか。
だから、自分にとって面倒だったり脅威が現れると、進路をずらして逃げていく……
だとすると
「二コラ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「なんでしょう、英雄ロクさんがいないとなった今、この街に残る理由はないので荷物をまとめたいんですけど」
さっきまで余裕かましてたのに何言ってんだこいつ。
英雄がいないと聞いたとたん、すごい手のひら返しだな。
「お前の大魔術とやらで、この街を消したりできるか?」
テレビとかでよく見るマジック。
カメラ越しの東京タワーとか巨大ビルが、一瞬にして消えてしまうというあれである。
実際は、カメラごと乗せられた台がぐるっと回って違う方を向いているというだけのタネだったりするが、若干の期待を込めて二コラに聞いてみる。
「え? できないことはないですけど……今からやるには時間が結構がかかりますよ?」
できるのかよ。ほんと有能なのか有能じゃないのかわからないな。
「一つ作戦を思いついたんだけど、賭けるつもりはあるか?」
目の前の三人の美少女は顔を見合わせると、ゆっくりと頷いた。
「そっかぁ。たったこれだけでよかったんだ」
俺は、今の姿を見てなぜこれに気づかなかったのかと感動していた。
『つまんなーい。せっかく格好いい超合金フォルムなのに、そんなマントで体隠しちゃったら意味ないじゃーん!』
心の中にアマテラスの声が響いてくるが、気にしない。というか、その発言を聞くとやっぱりお前が原因かと言いたくなるが、マイナスの部分を隠せる方法を見つけたのだから口には出さないでいてやろう。
そう、俺は美少女型ロボットに変身している。そしてそれを、大きめのマントですっぽりと覆っているのだ。これなら、周りから見られても「ロボット」的な外観はみられないはずだ
最初に出した例でいうと、ABCマントを羽織ったノーベルガンダムにドモンカッシュが乗っている、みたいになってしまっているが、もう気にしたら負けなんだろうな。
そんな俺は、街から数十人の腕利きのギルド員と一緒にギガントベヒモスの足止めに向かっている。
俺の立てた作戦。それは、聡い読者ならすでにわかっているだろうが、「街があった、なら襲っていこう」というのがギガントベヒモスの思考なのならば、街が無ければ襲ってこない、というものである。
街を消すのは、二コラが何とかできるという。しかし、それには数時間の魔術詠唱……もとい、種仕込みが必要らしい。
ギガントベヒモスがそんな悠長に待ってくれるはずもなく、せめて足止めをしようという部隊が我々である。
倒すわけでもない、撃退するわけでもない、足止めだけなら何とかなるだろうという考えだ。
前提問題として、そもそも街を消されたからと行って進路を変えないという問題もあるが、それこそ『賭け』なのだから勘弁してほしい。
どちらにせよ、あのままでは何もできなかったのだから、行動できるだけましである。
『ちょっとー。聞いてるー? 割とこっちは暇だから話し相手になってほしいんだけどー』
お前神様だろ。そんなのが暇とか言っちゃっていいのかおい。
いや、そもそも暇つぶしみたいに異世界に人間を送ってるんだから暇なのか。