僕と契約して魔王幼女になってよ!
(※この物語はフィクションです。本編に登場する人物・事件・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません)
なお、作者はタイトルの元ネタ(ま○マギ)知識があまりありません。(概要を少し知ってるくらい)
その上、魔法少女についての知識もかなり疎いです。(プリキ○アとか1度も見たことない)
あ、ついでに本作は日間ランキングでよく見かけるようになった流行(?)に乗っかった小説でもあります。
そんな駄作でよろしければ、読んでやってください。
「僕と契約して魔王幼女になってよ!」
「とりあえず年齢と性別確認してから出直してこい」
「ありがとう! 契約成立だね!」
「やるって言ってねぇだろずんぐりむっくり!!」
ぺかーっ!
……こうして、38歳会社員童貞の俺は、魔王幼女になった。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「で?」
「――げぼぁっ!? ふ、こんな短時間で魔王幼女の力を使いこなすなんて、君は最高のいつざ」
「(ズドン!!)――で?」
「よしわかった、話し合おう」
アニメキャラクターみてぇな丸顔と路地裏で遭遇してから1分後。
俺は縮んだ体に繋がる細っこい足で、吐血した奴の後頭部を地面に縫いつけ、通勤鞄から変化した黒っぽい少女向け玩具のようなステッキの先端を奴の顔から数cm横へ向けている。
ステッキが示した先の地面は綺麗な円形に抉れ、底が見えない闇を覗かせている。
ペラペラとどうでもいいことをしゃべりそうだった奴への殺意が真っ黒なビームになってほとばしった結果だ。
ちなみに、1分の内訳は以下の通り。
・発光が終わるまで5秒
・幼女になった現実を直視するまで40秒
・無言で丸顔を睨みつけて5秒
・「てへぺろ☆」と腕のような何かを頭にコツン☆とした丸顔を見て5秒
・真顔で半殺しにして5秒(ビームは除く)
「まず、あなたはナニ?」
「見てわからないかい?」
「なるほど。さっきまでしゃべってた真っ黒焦げのドーナツね」
「僕はナタシュ! 魔王幼女の契約獣だよ!!」
およそ肉体の半分を占めているデカい頭の中心に風穴を空けようと銃口(?)を移動させた瞬間、丸顔は意味不明な名乗りを上げた。
見た目は、まん丸な黒猫?
頭の上には三角の耳がピコピコ動き、2頭身未満な小柄で丸っこい体も猫そのもの。よく見ると背中にコウモリみてぇなちっこい羽がついてっから、悪魔の類かもしれねぇ。
ステッキでビーム放つ今の俺もたいがい摩訶不思議だがな。
「魔王幼女ってナニ?」
「この世にたくさん存在する正義の魔法少女と敵対する者のことさ! この世のすべての闇を背負ったような人間が選ばれる、唯一無二で絶対悪の存在なんだ!」
「とりあえずわたしと全国にいる社畜に謝ってくれない? 土下座で」
「ははっ、冗談はよしてくれよ。今僕は君のおみ足で頭を潰されそうになっ「あ゛?」すみませんでしたぁ!!」
器用に三つ指ついて膝を折った丸顔へ全体重を乗せて見下ろし、されど銃口(?)は固定したまま。
手足をジタバタさせてもがいている様は滑稽だが、俺を幼女にしやがった未確認生物への警戒心は上限を振り切れてる。
人語を解するっつっても人間じゃねぇんだ。
どんだけ珍しい生き物だったとしても、殺したところで背負う罪状は動物虐待とかだろうし、最悪でも死刑にゃならねぇから問題はほとんどない。
今なら刑務所へ転勤になっても構わねぇ、って物騒な考えを抱くくらいにはブチ切れてんだこっちは。
「なんでわたしなの?」
「君の才能に惚れたのさ」
「本音は?」
「見た目幼女の中身おっさんって面白そうじゃん! ぶっちゃけ誰でもよかったし!」
ズドドドドドドドドドドッ!!!!
「遺言はそれでいいのね?」
「ナマ言ってさーせんしたぁ!!」
クソ猫の輪郭をくり抜くようにビームを連射したらようやく大人しくなった。
マジで一発当てりゃよかった。
「っていうか、誰でもいいならせめて女の人に行きなさいよ。なんでおっさんを巻き込んだのよ?」
踏んで見下ろすのも疲れてきたので、逃げられないよう丸顔を左手アイアンクローで握りつぶして持ち上げた。
その上で右手の凶器を突きつけたまま、クソ猫と目をあわせて睨む。
キャラクター顔でかわいらしいが、言動にかわいらしさがないせいか憎たらしくしか見えねぇ。
「最近この国は少子高齢化が深刻だろう? 僕たちにとっても切実な問題で、声をかける女の子の数もどんどん減ってきて、もうなりふり構ってられないんだ。今じゃもう、能力さえあればビジュアルはこっちでイジるのが当たり前の業界なんだよ? 夢が叶うなら何でもやるって人間は意外と多いしね?」
業界って何だよ。
芸能界の裏事情じゃあるまいし、整形や枕営業みたいに言ってんじゃねぇぞ。
こんなんに憧れる奴がいるってことも知りたくなかったわ。
「ビジュアルイジってるのに、お肌が見えすぎじゃない? おなか冷えちゃうんだけど」
改めて自分の体をざっと見下ろす。
推定5~6歳の幼女がマント一枚にマイクロビキニとピンヒールとか、通報事案待った無しじゃねぇか。
魔王幼女なのは鞄から変化した凶器だけで、どっちかっつうと今の俺は変態な痴女だぞ?
「魔王幼女は強さと恐ろしさはもちろん、かわいさも両立しないとダメなんだ! だから変身後の姿をかわいさ重視の美幼女にしたら、コスチュームまで力が行き届かなかったんだ!」
「要するにあなたの悪ノリなのね。死ねば?」
どう考えても整形に制作費かけ過ぎだドアホ。
もはや前代未聞の児童虐待レベルな、どこに出しても恥ずかしい痴幼女だぞ、コレ?
むしろこんな格好で堂々と外に出られる奴は魔王じゃなくて勇者だよ。
「あとさっきから気になってたんだけど、なんでわたしの言葉遣いが変なの?」
俺的にはずっと普通に話してるつもりで、口から出るのは女言葉って地味に気色悪ぃんだが。
「中身がイカ臭い童貞のおっさんでも、今の君は魔王幼女なんだよ! 中身と同じクソみたいなおっさん言葉なんて需要がないんだから、自動で幼女言葉に変換するのは業界の常識じゃないか!」
「…………」
「怖っ! ハイライト消えた美幼女のレイプ目怖っ!! ちょ、まって! ステッキをほっぺにめりこませないで!!」
「はばたけダ――」
「ダメ! それは僕たちが決して口にしてはならない死の呪文だ!! すべて唱えたが最期、宇宙ごとこの世界軸は消滅してしまう!!」
知るか。
著作権で死ぬのは作家だ、俺じゃない。
「本当に落ち着いて! もし僕を殺してしまったら、君は魔王幼女の力を失うんだよ!?」
「一石二鳥だね♪」
「ヤンデルスマイルはご褒美ですっ!! じゃなくて! 魔王幼女から力を取ればただの住所不定幼女だよ!? 君はそれでもいいの!?」
「ちっ」
結局、元の姿を人質に取られてしまい、ド変態を喜ばせただけで実行には移せなかった。
住所不定幼女って何だよ? 幼女と無職はイコールなのか?
そこはただのおっさんに戻る流れだろうが、何で幼女ベースなんだよ。
今日もこれから仕事あんだぞ、どうしてくれるんだクソ。
「どうすれば元の姿に戻れるの?」
「うん、おきえうかあうえっきをおおかあういえ?
(うん、 教 えるからステッキを 喉 から抜いて?)」
羽根飾りとか宝石っぽい装飾でゴテゴテしているステッキを口へねじ込み、ビームの気配を出し入れしてクソ猫を脅す。
非常に腹立たしいが、魔王幼女とやらの力の使い方がだんだんわかってきた。
チュートリアルとしては易しいんだろうが、高血圧と脂質異常症とγ-GTPが気になる錆びた体としては現状すべてが優しくない。
血圧サージで突然死とかになったら覚悟しろよ。
俺の動脈瘤とテメェの頭は同時に破裂すると思え。
「魔王幼女と魔法少女が対になる存在だって言っただろ? 君が元の姿に戻るためには、魔法少女を倒して光の力を取り込み、魔王幼女の闇の力を相殺するんだ! そうしたら、元の不健康なおっさんの体に戻れるよ!」
「要は血液中のLDLが高めだから、生活習慣を改善してLDLは減らす。逆に、低めだったHDLは数値を増やして健康になればいいわけね」
「うん、何で悪玉コレステロールと善玉コレステロールでたとえたのかはわからないけど、おおむねその通りだよ」
少し前の健康診断でいくつか引っかかったんだよ!
仕事でストレスためたら暴飲暴食しちまうからな!
今はテメェのストレスで自暴自棄になりそうだわ!
「うん? ――だったらあなたのせいでわたしの悪玉コレステロールが基準値を超えたんじゃない!! どうしてくれるのよ!!」
「それは君自身が原因だろ!? 僕は君に飲酒や喫煙を勧めた覚えも、ラーメンを頼めば必ずチャーハンを一緒に食べる食生活を促した覚えもないんだ! 完全な濡れ衣じゃないか!!」
「おさけは飲むけどたばこは吸ってない! それに、ラーメンのおともは半チャーハンだからセーフよ!!」
俺の親父がヘビースモーカーだった反動か、煙草はやってねぇよ!
酒で現実逃避した結果アル中(※アルコール中毒)っぽいけどな!
それにラーメンとチャーハンはセットで注文するのが店への礼儀でもあるんだよ!(※個人の見解です)
「ハッ! 待って、静かに!!」
すると突然、丸顔は真剣な表情になって周囲を警戒しだした。
「な、なによ……?」
あまりにマジな空気感だったため、俺もわずかに怯んでしまう。
「よくよく考えたら、見た目幼女の君が突然死のリスクとか暴飲暴食の悩みとかを大声で叫ぶのは危険だ。僕たちの活躍を見てくれている少年少女たちの夢を壊しちゃうじゃないか」
「へぇ? ここにきて盗撮と盗聴の自白とはおそれ入ったわ」
コイツの危機感と俺の危機感には致命的なズレがあるらしい。
話せば話すほど殺意が湧く相手なんて初めて会ったよクソが。
「何を言っているんだい? 僕たちの業界はカメラや集音マイクや絵師や声優なんてなくとも、全世界の少年少女たちに24時間を監視・記録・編集されるスケルトン生活が普通さ。
君もせいぜい、言動には気をつけるといい。一気に好感度を下げてしまえば、たちまちSNSで袋叩きからの大炎上だ。視聴者だけじゃなく、保護者も安心できる個性作りが長生きの秘訣だよ。
特にお風呂は要注意だ。シャワーは湯気と背後に、入浴は照明の明るさと水面の反射具合が重要なんだ。少しでも角度の計算をミスってカメラに局部が映ると、シーン丸々全カットもありえるから気をつけてね。
昨今は過激な性描写でグレーゾーンを渡ろうとする同業者も多くて、放送倫理協会の目も厳しいんだ。とはいえ微エロは視聴者の需要が高いから、制作側も僕もなるべく長尺で確保したいのが本音だね。そこは魔法幼女の腕の見せ所さ!」
「二次元と三次元をごっちゃにしないで!」
魔法少女物に限らず、アニメが密着取材で作れるわきゃねぇだろ!
むしろ全カットの方が盗撮被害者としてはありがたいわ!
――っつか、そう考えたらアニメのキャラって私生活を隠し撮りされた上、無許可・無報酬で公共の電波に公開されてる、んだよな?
……そうか、お前たちも社畜か。
「ところで、君はそろそろ動き出さなくてもいいのかい?」
「なに? あなたのせいで会社に行けないんだけど?」
「いや、出勤じゃなくて。ホラ、後ろ」
後ろ?
「 な っ ! ? 」
――ブォン!!
「ふぎゃっ!? ――っだぁ!?!?」
とっさにクソ猫を遠くの地面にたたきつけ、目の前まで迫っていた拳を回避。
そのまま距離を取るようにその人物から離れ、ついでにピンヒールでクソ猫の眉間を踏みつける。
「うそ、あれを避けるの!?」
「……あなた、だれ?」
「あ、おまたのスジがぜっけい(ヴォン!)ボクハタダノニンギョウダヨ!」
いきなり俺を殴ろうとした少女へ警戒しつつ、ステッキの先から変態の喉元数cmに迫るビームの刃を形成した。
……よし、まずは落ち着け、俺。
切っ先がクソ猫に向いたからだろう。
目の前の少女にとっては過剰戦力な力がビームの刃に注がれちまっているのが感覚でわかる。
会話で時間を稼いでいる間に、ゆっくり力を制御して静めていけば――
「わ、私はこの世界に混沌と絶望を振りまく魔王を倒す、正義の魔法少女・アカネ!」
「その正義の魔法少女とやらが、わたしになんのごようかしら?」
「(あれ? このおっさんおまたの眺めもそうだけど、意外とお尻と太ももがむっちりしてる?)」
「そんなの、言わなくてもわかるでしょう?」
「敵だから、ということね……」
「(おかしいな、僕の監修じゃここまでエロくなかったんだけど――はっ! まさか、おっさん自身の皮下脂肪か!?)」
「どれだけ強い魔王でも、魔法少女は悪に屈したりしないんだから!」
「なるほど、とっても立派な決意だわ――」
「(これだけの武器があれば、幼女好きな支援者側の膝の上に座らせたバナナボート接待(意味深)の交渉が使えるかも? 中身はおっさんだから半端に潔癖なJCより扱い方はわかるだろうし、童貞も処女も喪失するなら似たようなものだから、意外とノリノリでやってくれ――)」
「――ねぇ?(ヴォン!!)」
「「ひいっ!?!?」」
――この小声がうるせぇクズを今すぐ八つ裂きにして海に沈めてぇ!!
俺の怒りに呼応したステッキビームソードは加速度的に力を増やし、とうとうあふれ出した余剰エネルギーが鎧となって体を包むと、クソ猫(と少女)が涙目になる。
中年太りにエロさを求めんな!
変態オヤジの枕なんざやるわけゃねぇだろ!
童貞と処女は希少価値が一緒じゃねぇよぶっ殺すぞ!!
そもそも見た目5~6歳の幼女に売春させんな鬼畜!!
魔王幼女が世界の悪っつうより、魔王幼女の世界が邪悪すぎるだけだろ!!
そりゃこんな年齢の幼女でも魔王やるほどキレてグレるわ!!
「わたし、いまとてもきげんがわるいの――」
「ちょっ!? 鼻! 鼻に先っぽ当たってる!?!?」
「よかったら、このままみのがしてくれないかしら?」
「そっち! そっち、喉!! 太い血管切ったら致命傷だよ!?!?」
「だまれゴキブリ」
「――はい」
(ブルブルブルブル!!)
(クソ猫への)怒りと(クソ猫への)憎悪で今にも爆発しそうな俺は、少女にとってどう見えているのか?
先ほど見せた威勢の良さは吹き飛び、恐怖故か全身が震えて泣き出してしまった。
俺という実例があるから年齢も性別も不祥な相手とはいえ、俺だって良識のある大人だ。
見た目が中学生くらいの女の子を泣かせたのは非常に申し訳ないと思う。
気休めにしかならないが、安心してほしい。
俺が心から殺したいと願うのは、足下で蠢く蛆虫だけだ。
『待ちなさい!!』
穏便に蛆虫とのオハナシができると思った刹那、俺の前に新たな魔法少女が姿を現した。
「大丈夫、アカネ!?」
「私たちも一緒に戦うから、負けないで!」
「アオイ!? レモン!? ――ダメ!! 逃げて!! コイツは、私たちじゃ勝てない!!」
「(今の内――に゛っ!?)」
「(どこいくつもり、1頭身?)」
「いつも強気なアカネがそこまでいう敵か……確かに強そうね」
「そういう割に、アオイも退く気はなさ気じゃない?」
「戦っちゃダメ!! コイツは、本当に危険なんだ!!」
「(しっ、失礼な! どうみても僕は1.5頭身じゃないか!!)」
「(は? 1.3頭身がサバ読んでんじゃないわよ。もうすぐ1頭身になるんだからどっちでもいいじゃない)」
「気持ちで負けちゃダメよ、アカネ。私たち3人なら、どんな敵でも倒せる」
「今までもそうだったし、これからもそう。私たちは、3人で最強の魔法少女なんだから!」
「アオイ……レモン……、わかった。私も、戦う!」
「(横暴だ! 僕が君に何したって言うんだ!? ただちょっと強引な契約で魔王幼女にジョブチェンジさせて、仕事とプライベートと友人と家族と性別と戸籍と将来と人権と尊厳を奪っただけじゃないか!!)」
「――あ゛?」
「「「「ヒイィッ!?!?」」」」
3人に増えた魔法少女をガン無視してクソ猫の逆ギレを聞いていた俺は、未だ底が知れない力をさらにあふれさせた。
なんか空間に亀裂が入ったり時間の流れが遅くなったり重力が増したりした気がするが、とりあえず置いておこう。
「今のわたしにケンカを売るつもり? ――いい度胸じゃない。そんなに死にたいの?」
「(あ、アカネ!? なんなの、あのばけものは!?)」
「(こわいこわいこわいこわい……)」
「(だ、だからいったでしょ!? わたしたちじゃ、かてないんだよぉ……っ!)」
「無駄だよ。ここにいる僕を殺したところで、第二第三の契約獣が現れて、君を必ず住所不定幼女から魔王幼女に仕立て上げる。後戻りも再契約もさせないよ。それだけの力を、君は持ってしまったんだ。
魔法少女と魔王幼女の戦いは、いうなれば光と闇の力――資源の奪い合いだ。契約したが最後、無限に続く新しい敵と力の増幅は徐々に自分の手じゃ足りなくなり、膨れ上がった力への渇望に気づけば行き着く先は破滅しかない。
そんな絶望的な未来を回避し、契約前の自分を取り戻すために、魔法少女と魔王幼女はお互いの力を奪い合い、己の光と闇を相殺するんだ。
力の覚醒と成長は、もうすでに始まっているんだよ。君はもう逃げられやしない。待っているのは、魔法少女と永遠に戦い続ける運命と、おおきなおともだちに人知れずprprされる未来だけさ」
「――それがどうしたっていうの?」
青・黄・赤の信号トリオが体を寄せ合うのを視界の端に収めつつ、俺は開き直ったクソ猫の胸ぐら……首? をつかんでメンチを切った。
「わたしはあきらめない。この先わたしがどんな屈辱を受けて、どんな困難があったとしても、ぜったいにあなたの思い通りになんてされてやらないわ。
確かに、小さいときに憧れた夢や希望なんてもう思い出せないし、すべてに絶望しきったわたしは惰性だけで何となく生きているような社畜でしかない。
――でもね? たとえ裸同然の幼女になっても、わたしはどこまでいってもわたしなの。
弱くて、
みじめで、
情けなくて、
どうしようもなくても。
――俺は俺でいいんだって、ちっぽけなプライドは、まだ残ってる。
社畜がいるから、世界はいつも通りに回っている。
社畜がいるから、世界はわたしを受け入れてくれる。
社畜がいるから、世界はいつもこんなにも輝いている。
今までも、これからも、俺は勝手にそう信じてる」
思い出すのは、仕事でミスして上司にクソほど怒鳴られた日の夜。
テンションダダ下がりでボロアパートに帰り、家飲みのヤケ酒でベロベロに酔ったときに叫んだ、自分を慰めるための言葉だ。
即行で壁ドン(※近隣住民への物理的クレーム)されて黙ったが、そんな風にでも思いこまなきゃ安月給でサービス残業なんかやってらんねぇっつうの。
「消費者には消費者の意地がある。
運営もよく覚えておきなさい。
どうしようもない社畜でも、サーバーダウン程度の覚悟はとっくにあるんだから!」
『っ!!』
クソ猫(と信号トリオ)が息をのむ音を聞く。
何の取り柄もねぇ俺でも、PCとネット環境がそろってんならDos攻撃くらいはできる。
限界までF5連打とメールボムして、運営に抵抗し続けてやろうじゃねぇか。
俺は黙って(処女を)食われてやるほど、行儀のいい契約者じゃねぇんだよ。
「……ふ、いい殺気だ。それが君の、戦う覚悟なんだね?」
「そうよ。わたしは、あんたなんかの思い通りには――」
『やあぁっ!!!!』
とりあえすこのクソ猫一発ぶん殴るか、と拳を握ったところで、背後から3人の魔法少女が走り迫る。
「私だって、私たちだって魔法少女になった覚悟はできてるんだ!」
「契約獣から聞いた『世界の危機』を救おうって決めたときからね!」
「だから! どんなに怖くても、私たちは魔王を倒さなきゃいけないのよ!」
軽く振り向くと、赤が大気ごと焼き尽くす勢いの炎を拳に宿し、青がデカい氷の剣を何本も空中に作り出し、黄が不定形に放電する巨大なハンマーを振りかぶる。
おそらくは、彼女たちの力を最大に込めた攻撃――いわば必殺技のようなものなんだろう。
ちょっと気になるワードも出てきたが、俺がやるべきことは一つ。
「わりこみ禁止!」
『ぅごっほ!?!?』
決め台詞泥棒をした堪え性のねぇ小娘に、1人一発鳩尾で教育的指導。
それぞれ瞬間移動のような一歩で肉薄できたが、相手が抹殺対象じゃないせいか意識して手加減しなくとも過剰暴力にならず、信号トリオを生かしたまま無力化できた。
「――まだ、わたしが話してる途中でしょうが!!」
「く、びっ、キマっ、こきゅっ、できっ……!」
某北国で生まれた名台詞のオマージュで盗まれかけた決め台詞を取り戻し、気絶したっぽい少女三人へない胸を張って見せる
すると、首をつかんだまま急加速と急制動を繰り返したせいか、完全にクソ猫の頸動脈がしまったらしい。白目で苦しげな声を上げ、口の端から泡も吹いていた。
「…………」
「うげぇっ!?!? (パンパンパンパン!!)」
――はっ!?
危ない危ない、無意識にトドメを刺すところだった。
本気のタップで手の力を緩め、地面へ無様に転がるクソ猫を見下ろす。
「ん……」
あれ? 殺っときゃよかった? と一瞬それた思考を深追いする前に、視界の隅から光が飛び込んでくる。
何となしに視線を向けると、そこには魔法少女の変身が解けたらしい3人の中学生くらいの少女。
「……んんっ?!」
え、モノホンの女子中学生!?
「どういうこと!? 少子化うんぬんの話は!?」
てっきり俺と同じ――とはいわずとも年齢性別がバラバラのごった煮トリオになると思っていた。
が、魔法少女の外見的特徴が変身前後で服装しか変化がないと知った俺はクソ猫へ詰め寄る。
「けほっ、こほっ! そ、そりゃそうさ。魔法少女はみんな現役のJSやJC、時々JKだよ決まってるじゃないか。自称魔王なイタい幼女やってるいい年齢したおっさんなんて君くらいだよ」
「殺す」
「落ち着こう。人は言葉でわかりあえる」
遠くへ落ちていたステッキを不思議パワーで引き寄せ、再び闇の力で刃を作り出しクソ猫へ向けた。
するってぇと、何か?
ぱっと見は女子小中高生が集団で幼女を袋叩き。
実際はアラフォーのおっさんが寄ってきた女子小中高生に暴行(物理)。
……どっちにしろ完全におまわりさん案件だろ!
誰が得するんだこの対立構造!!
「何はともあれ、君はもう最強の魔王幼女になったんだ。降りかかる火の粉は払わないと、君の命が危ないのは本当だよ? さぁ、その身に宿した闇の力を使いこなせるように頑張ろう!」
「たぶんわたしはあなたを殺すためならどれだけ深い闇でも支配できる気がする」
「ステイステイ。ハッタリにもシャレにもなってないよ」
試しにステッキの先端へ純粋なエネルギーの塊を生み出し出力を高めてみせると、丸顔は俺をなだめるように真顔で白旗を振る。
この時点でもブラックホールじみててヤバいと直感がささやいたが、コイツの反応を見る限りマジっぽい。
魔法少女を相手にするより、契約獣を相手にした方が絶好調だ。
感覚的に、相手がテメェならまだまだ力を上げられる余裕を感じるぞ?
「それに、まだ君は契約獣を殺す覚悟はあっても、幼女として生きる覚悟はないだろう? 魔王幼女ならまだしも、戸籍すらないただの幼女が普通の人生を歩めると思う?
断言しよう。軽はずみな行動で僕を殺してしまえば、君は絶対(性的な意味で)おっさんの食い物になる。それでもいいのかい?」
「――ホント、あなたって性格悪いわね」
自信満々にほくそ笑むクソ猫に、俺は仕方なく……ほんっとぉ~に仕方なく! ステッキを下ろした。
いつかぜってぇミンチにしてやる。
「そういえば、この子たちどうするの?」
腹殴った後は適当に寝かせているが、放置してたらまた襲われるんだろうし。
「あ、ついでに魔法少女の光の力を奪って無力化しちゃおうか。君が元に戻る一歩にもなるよ」
「どうやるの?」
「一定量の体液摂取だね。血液だったら400ml、尿だったら200ml、汗だったら100ml、鼻汁や唾液だったら50ml、愛液や腸液だったら10mlだよ。好きな犯り方を選んでね♪」
「バッカじゃないの!?」
寝てる女子中学生相手にやんのはどれもハードル高ぇよ!!
全部が全部、猟奇的性犯罪の臭いがプンプンしてんじゃねぇか!!
ちょいちょい下ネタぶっ込んできたのも、このオチのためか!?
絶対にもっとマシな手段あるだろうが!!
「もういい! わたしで勝手にやる!」
俺は感覚頼りに闇を動かし、少女たちの皮膚から体内へ入り込ませる。
すると、数秒で違和感のようなものを見つけて引っこ抜くと、光の球みたいなものが闇に包まれて出てきた。
「普通にコレでしょ!? おっさんに何ヤらせようとしたのよあなた!?」
「ちょ、魔王幼女の伝統を無視しちゃダメだよ! 様式美って大事なんだよ!?」
「そんな頭のおかしい狂った伝統、今すぐ捨てちゃいなさい!!」
「まったく、君はおかしな魔王幼女だなぁ。歴代の魔王幼女はみんな、喜んで元・魔法少女たちのおまたに突撃していったのに」
「それってただの性犯罪者どもってことじゃない! さらっとわたしになんて肩書き背負わせてくれちゃってんのよ!?」
もう嫌だ! 早く元の社畜に戻りたい!!
「まあいいじゃないか。これから長い付き合いになりそうだし、よろしくね。そういえば、まだ君の名前を聞いてなかったね? 教えてくれない?」
「絶対いや」
クソ猫がフヨフヨと浮き、改めてこちらに握手を求めてきた手を思いっきり払いのける。
「え? いいの? じゃあ僕が勝手に君の芸名を決めちゃうけど?」
「ぐ、っ」
「そうだな~、地面につきそうなほど立派な黒髪ツインテだし『暴虐の二つ結い』とかどうかな? 他には、見た目が完璧に黒ギャル淫魔だから『大人の便器』なんてよさげじゃない?」
「いいわけないでしょ特に二つ目!!」
それっぽく適当な読み方したつもりでも、テメェが込めた悪意はダダ漏れだからな!!
見た目に関しては100%テメェの趣味だろうがさりげなく俺の性癖にしてんじゃねぇよ!!
「じゃあ本名は?」
……俺自身が好きじゃない本名を名乗るのは嫌だったが、これ以上変な名前で呼ばれるのはもっと嫌だ。
ぐいぐいくるクソ猫のにやけ面を手で払いのけて、渋々名乗る。
「……夢咲 陽よ」
すると、クソ猫が目と口をおっ広げた後で盛大に唾を飛ばしてきやがった。
「なんだって!? 38歳拗らせ童貞な老け顔のくせに、芸名を考える必要がないほど名前が幼女っぽいなんて詐欺じゃないか! そんなの絶対おかしいよ!!」
「38年背負ってきた業を抉ってくれてありがとう。お礼にあなたのよく見える両目とおしゃべりな舌を抉り取ってあげるわ」
「暴力じゃ何も解決しないよ! 人はいつだって、話し合い(という建前をした屁理屈の殴り合い)で平和を勝ち取ってきたじゃないか!」
「今は暴力でしか平和なんて勝ち取れないわ。ほら、(殺しはしないんだから)何も怖いことなんてないよ? わたしに身をゆだねて?」
「そんな……暴力しか方法がないなんて、(絶対僕が痛い目を見るから)悲しすぎるよ!」
「人は暴力で発展してきた生き物なの。珍獣に納得しろとはいわない……ただ、(あなたを半殺しくらいにはしておきたいってことを)わかって?」
「わからないよ! 僕は(幼女っぽい名前を恥ずかしげもなく名乗ってるキモいおっさんの気持ちなんて)、わかりたくない!!」
「おねがい! こうするしか(腹の虫が治まら)ないの!!」
無駄に壮大な応酬をしつつ、副音声はクソ猫の目と舌を潰すための不毛な攻防を続ける俺たち。
――ちっ、本気で抵抗したら意外と腕力あるな、コイツ。
いっそのこと、素手で千切るより力を使って吹き飛ばすか……?
…………いや、ダメだ。
コイツを殺さないよう加減できる自信も、女子中学生3人を巻き込まねぇ自信もねぇ。
「――わかった、ここは間を取って『魔王』と『陽』をもじった芸名で『サタナキラ』と呼ぼう。君だって、あの子たちみたいに本名で名乗る気はなかっただろう?」
「それは、そうだけど……」
何が悲しくて毎回女子小中高性に自分の特大地雷を暴露せにゃならねぇんだ。
コイツのネーミングセンスからしたらまだマシだし、妥協するっきゃねぇか。
「それにしても君が夢咲……とりあえず、全国の夢咲姓の女の子に謝ってよ。土下座で」
「わたしの知ったこっちゃないわよ。文句ならわたしの親戚に言ってよね」
っつっても、婿養子だった父方の姓は『明津』だったそう。
それはそれで見た目が中国人ぽい上に語感が悪い名前になってたから微妙なんだよな。
「頑張ろうね、サタナキラちゃん♪」
「ええ、あなたをぶっ殺せる日を楽しみにしてるわ♪」
……こうして俺は、会社員と魔王幼女、二足の草鞋をはくことになったんだ。
・ ・ ・ ・ ・ ・
「今何時だと思ってるんだ夢咲ぃ! 重役出勤とはいい度胸だなぁ、えぇ!? どこほっつき歩いてたグズ! ボケ!! 役立たず!!」
「すみません、すみません……」
その後、奪った魔法少女の力で一時的におっさんに戻れた俺は何とか出社。
仕事をミスった部下に怒鳴り散らし、会社のPCでエロサイトを巡るのが仕事の部長に頭を下げながら、世の中は本当に理不尽だと思う。
二十分の遅刻で一時間説教ってコスパ悪すぎだろ。
「(な、なんだココは!? 魔王幼女候補がいっぱいじゃないか!?)」
「(テメェ口閉じろマジ殺すぞ)」
なお、変身解除後に鞄のキーホルダーになったクソ猫はこっそり握りつぶして黙らせる。
……はぁ、ストレスで死にそう。
(アニメ風BGM~♪)
――☆次回予告☆――
ったく、ひとまずは元に戻ることができたが、これからどうすっか……
ぺかーっ!
――え? うそ!? もう時間切れなの!?
慌てて隠れた部屋から聞こえるのは、一緒におしごとしてきた大切な社畜たちの声。
何度も扉を殴る音と『早く出てこい!!』という罵声に、わたしは頭を抱えてふるえるばかり……。
でも、今のわたしの姿を社畜に見られるわけにはいかない!
だって、ココは――!!
次回 おっさん幼女★サタナキラ 第2話
トイレで幼女に逆戻り!?
大便の個室で響く、正社員と契約獣の下ネタ!!
来週も、あなたの眉間に風穴空けるぞ♪
ぶちょう、女の子アニメをそんな風に見てたの……?
(※この次回予告はフィクションです。登場する人物・事件・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。なお、この作品は続く予定がないのであしからず)
以上、寝起きで思いついたネタに全力を込めた作者の悪ふざけでした。
中年のおっさんと10代の少女(だいたい義娘)がキャッキャウフフする小説をよく見かけるようになったので、私も書いてみたら中年のおっさんとマスコットのドツキ漫才になった。何故だ。
しかも、契約獣のせいで設定が日曜朝じゃなくがっつりエロゲ寄りになった。何故なんだ。
鬱憤晴らしの側面が強いのもあってか、私が流行に乗ろうとして短編を書けば大惨事になることが判明しました。強く生きよう。
ちなみに作者、魔法少女は知らないけどホグ○ーツ魔法学校なら映画で少し知ってるおっさんです。
キャラ設定
・夢咲 陽
38歳会社員童貞。
8年前に魔法使いに至り、魔導師(40歳童貞)への昇格を前に変態に介入されて魔王幼女にルート分岐した本作主人公。
名前にかなりのコンプレックスがある以外はとても常識的で善良な社畜。
歴代の魔王幼女の中でもっとも強い力を持ち、体液摂取以外の方法で魔法少女の力を奪うことに成功した。
得意技は無限に近い膨大な闇力操作。
弱点は契約獣・ナタシュ以外だと力を十全に発揮できないこと。(ナタシュ=100%以上だとすると、魔法少女=1%以下)
・ナタシュ
ツインテロリ好きのド変態マスコット黒猫。
魔王幼女の契約獣であり、平和な世界の裏で数々の18禁を生み出してきた真正のクズ。
適当に選んだおっさんがめちゃくちゃ強い上に反抗的なため、『ヤベ、人選ミスった』と内心で後悔している。
最初は彼(?)も魔法少女専門の契約獣だったが、己の性癖を隠せなくなった仲間とともに魔法少女(MAHOU SYOUJO)からH(恥)とS(正義感)を捨てさせた怪物・魔王幼女(MA OU YOUJO)を生み出した黒幕的存在。
得意技は合意なしの強制契約・年齢性別を無視した整形契約。
弱点は『自分を殺せば元の体に戻れなくなる』というデメリット以外に、善人を動かせるだけの手札がないこと。
・アカネ
赤色の魔法少女(中2)。
徒手空拳と炎の力を使う熱血元気娘。
アオイ・レモンとは幼なじみ。
サタナキアの腹パンで撃沈。
・アオイ
青色の魔法少女(中2)。
遠距離から氷結の力を使うクール系。
アカネ・レモンとは幼なじみ。
サタナキアの腹パンで撃沈。
・レモン
黄色の魔法少女(中2)。
近・遠距離から雷の力を使うお調子者。
アカネ・アオイとは幼なじみ。
サタナキアの腹パンで撃沈。