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戦国の策  作者: アキ
5年くらい前に執筆。あんまり面白くない。オリジナル小説。
3/5

策謀の戦国3

 我慢がならなかった。

 太陽が燦々と肌を照らしている頃にもかかわらず、酒の入ったひょうたんを片手に、城内をうろついていた。非難の目を向ける文官がちらほらといるが、睨みつけるとひ弱な男らは、さっと顔を逸らす。酔っていても愉快になれるはずがない。

 馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しい!

 近頃、我らが王に不死の薬、不死の法術と騙し、金品を得ようとする輩が多すぎる。そして、結局は秘術を伝えないが、その交渉は成功を収める。よい例を見せてもらったとして、礼を贈るのだ。

 しかし、生あるものには必ず死があることは誰でも知っている。全く、不敬極まりないことだ。

「糞どもがっ!」

 酒が空になっていることを知ったので、床を罵った。

 絶対的に足りなかった。足りない。足りないのだ。

 俺の抱えている兵だって知っている。死地にあると思い込むからこそ、強力な勢を生み、強固な軍を破ることができるようになる。そうして他には無いほどの勝利を重ねてきた。また、赤子でも知っている。ゆえに、あの小さな存在は泣き喚き、乳を乞うのだ。そうしてすくすくと成長していく。全ては、皆が死を死だと理解しているからだ。

 これ以上は耐え難い。

 あれだけの財を軍や政治に回せば、どれほどの利が生まれるのだろうか、と思わず考えてしまう。王の私利私欲が幅を利かせはじめたままでは、恐ろしいことが起こる。それくらいは容易に想像付く。どうしたものか。

 思案中、ふらついている足が視界に入り、突然、フッと、愉快になった。

 足元ばかり見ていても仕方が無い。

 なんとなく前を向いてみると、役人が恭しく何かを運んでいる様子が見える。厚みのある布を両手に乗せている。その上には、何か丸いものがあるようだ。面白半分に近づくとしかめっ面をされたが、構わずにからんだ。それほど酒を飲んではいないはずだと疑問を反芻しながら。

「おい。その丸くて黒い小さな玉はなんだ?」

 役人は、自身の顔と俺の顔とを引き離しながら言った。

「将軍。珍しく昼間から。匂いますぞ」

「ふん。たまだからよいのだ。いいから、それは何だ?」

「不死の丸薬ですよ。先ほど、献上されてきたのです」

「丸薬だと?」

「はい。霊薬のようです」

「では、食べられるのだな?」

「はい」

 自然、顔がにやけてくる。

 ふん、阿呆どもが。またやってくれたな。

「もう一度聞く。食べられるのだな?」

「はい。食べられますよ」

「では、頂くとしよう」

「えっ!?」

 言い終わらない内に、さっとひったくり、黒い玉を飲み込んだ。どうということもない味だった。目の前の、目を大きく開き、金魚のように口をパクパクさせている役人が滑稽で、俺は今日、初めて声を出して笑った。

「何事かっ!?」

 心待ちにしていたのだろう。丸薬が通ってくる場所から大きな笑い声が聞こえたものだからか、王が、血相を変えて飛び出してきた。

 薬一つで。

 笑いが止まらない。

「しょ、将軍が丸薬を飲み込んでしまったのです」

「なんだとォ!? 貴様、本当かっ?」

「ええ、そのとおりです。臣が食べました」

「ぐぬぅ……。首だっ! 首を切り落としてしまえッ!」

「何をおっしゃいますか。それは筋違いというものです。臣が取次ぎ役に尋ねましたところ、取次ぎ役は、『食べられる』というものですから、臣は食べたのです。要するに、臣に罪は無く、罰せられるべきは取次ぎ役でございます」

「将軍、何を申されるか! 食べられるとはつまり、丸薬は食べ物であるということで――」

「そして! 客人が不死の薬を献ぜられ、臣がこれを食べ、王が臣をお殺しになれば、それは死の薬です。王は罪無き臣を罰したばかりか、人に欺かれたという情報を公示することになりますぞ」

「……鞭だ。鞭を用意しろ!」

 結局、背中は全体的にみみず腫れし、ほとんどの表皮が剥けることになった。血や膿は際限なく流れ、衣を着るのもやっとのことで、共に鞭を打たれた役人は死んだくらいだった。その上、階位も下げられた。

 だが、それから不死への追求は影を潜めることとなった。健全な方向に歩もうとしているのだ。俺の勝利であろう。喜ぶべきことだ。

 決めた。

 国に殉ずる。王ではない。国だ。俺を慕う部下や家族のいる国に殉ずるのだ。

 その決意は、王でさえ、揺るがすことはできないものだ。

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