プロローグ
佐々木葵、大学1年生19歳。
極々普通のサラリーマンな父と専業主婦の母、高校生の弟との4人暮らし。
2年ほど前、高校2年生の頃にちょっとあり得ない事件に巻き込まれて以来、何故か今までに実に8回もの殺人事件に巻き込まれているありえない人生。
最初の事件がきっかけで知り合った普通じゃない二人の友人と、普通よりはちょっとレベルの高い彼氏がいるけど、8回もそんな事があればいい加減こんなあり得ない時期もさすがに終わったはずだし、それ以上変わった事もなく淡々と時は流れて行くはずだった。
ええ、ええ、実際は”三葉商事再びっ!”だったわけなんだけどね……
「アオイ~、良い物をやろう」
近頃なんだか良い取引先に恵まれたとかで人生上々らしい父親がある日の夕食後、通勤鞄の中を探った。
「あ~、姉貴だけずるい!」
まだ何かもわからずに、それでも不公平を訴える強欲な弟。
あんたね…もしそれが化粧品とか女物の小物とかだったらどうするんだ?
それ使うのか?ええ?と、軽くつっこみをいれる私に奴も黙り込む。
しかし父親が鞄から出したのは予想に反して茶封筒。
渡された封筒を開けると中にはゲームのパッケージ…レジェンド・オブ・イルヴィス?
「あ~、これ新製品のゲームじゃんっ。
姉貴どうせやらないんだろ?俺にくれよっ!」
手を伸ばす弟の頭をパッコ~ンとはたく父。
このクレクレめ。ざまあみろ。
でもまあ…確かに私よりは弟向きな土産じゃないかね?お父様。
チラリと目だけ父に向ける私。
「これはなっ、父さんの取引先の偉いさんがわざわざアオイにって下さったものなんだっ」
はあ…なんで私?
またチラリと目だけ父に向ける私。
そこで馬鹿父の口から明かされる衝撃の事実…
「アオイ、お前三葉商事のソフトのテスターやってた事あるんだってな。
その時のお前の対応が素晴らしかったとM社の部長さんが絶賛しててな。
ぜひお礼の意味も込めてお前にM社が今度開発したオンラインゲームをやって欲しいと、わざわざ発売したてのゲームを下さったんだ。」
………
…………
………………
まじ…ですか?
ええ、ええ、三葉商事と言えば日本有数の大企業にして、私が高校生の時に大変な事件に巻き込まれる原因になったゲームディスクを送りつけてくれた張本人ですとも。
「要らない。大樹あげる」
私は即、それを弟に押し付けた。
「やった~!」
喜ぶ弟の頭をまたスッコ~ンとはたくと父親はその手から取り上げたゲームを再び私の手に押し付ける。
「アオイ…お前路頭に迷いたいか?」
ずいっと私に迫る父。
「これで三葉商事との取引に失敗したらな…お父さん下手すると失業することになるぞ?
三葉商事の部長さんはぜひ”アオイさんに”って下さったんだぞ?」
軽い目眩を覚える私。
これは…絶対にまた何か裏があるんだよね?
それでも”大人の都合”に立ち向かうにはちょっとオツムと経験が…なので、私はいったんディスクを受け取って部屋に戻ると、とりあえず最終手段から2番目に連絡を取る事にした。