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【短編集】

ぶっつけ本番! ~彼と彼女、二人のカンケイ~

作者: 中村尚裕

 背中を押して下さった皆様へ、感謝を込めて。

「あら、今日は無視?」

 涼やかな声は庄司の斜め後ろから。

 長い黒髪を流しながら、横合いから女が顔を覗かせる――優子。

「あ……」

 庄司は言葉を成しかけ、結果として失敗した。

「……いや……」

 駅前通りを低く照らして夏の陽光、それを横から受けて優子の双眸が細く笑む。

 ――振り向かないヤツは男じゃねェ。

 庄司の頭をよぎる声の主は、あの時隣りにいた研究生――彼女を眼にした第一声。

「じゃ、いいじゃない」

 優子は庄司の横へ身体を寄せた。

「一緒に歩いても」

 優子が庄司に歩を並べる。薄着越し、肌の気配が庄司の腕へ。

「あー……」

 気まずげに庄司が頬を掻く。

「いや、そんなにくっつくと……」

「あら、約束じゃない」

 優子が唇を尖らせた。

「それともあれはただの気まぐれ?」

「いやいやいや、」

 庄司は顔面の熱を意識する。

「そういう言い方されると……」

「恋人同士みたい?」

 優子の含み笑いが庄司の先を回った。

「じゃなくて!」

 反射で庄司の声が上ずる。

「俺達そういう関係じゃ……!」

「何よ、」

 優子が艶やかな唇を尖らせる。

「じゃ、どういう関係だっていうつもり?」

「だから……」

 言いかけた口が空を掻く。覗き込むような優子の眼に憂いの色、それが庄司の舌に嵌めて枷。

「……いや、何でも……」

「じゃ、いいじゃない」

 機嫌を直した優子が今度は庄司の腕にすがる。ただでさえ薄着越し、その柔肌が直に触れるとなると庄司の顔も熱を増す。

「だから!」

 慌てた庄司も振りほどくにほどけない。

「……そんなに密着しちゃ……!」

 周囲の視線が肌に刺さる、いくら庄司が鈍くともそれは伝わる。

「(だって、)」

 優子の甘い囁きが庄司の耳をくすぐる。

「(約束でしょ?)」

「(いや待った!)」

 庄司は声を潜めて囁き返した。

「(そういうこと甘く囁かれる関係じゃ!)」

 このままでも羨望と嫉妬の的になるのは間違いない。とは言え邪険に扱えば今度は庄司が悪役と映る。つまりは、進むも引くも茨の道。

「嫌?」

 優子がすねたように問いを向ける。

「だからそういう問題じゃ……!」

 対する庄司の舌は重い。

「じゃ決まり」

 今度は優子が絡ませた腕に力を込めた。ひときわ柔らかな感触が庄司の腕を刺激する――胸の膨らみ。

 今度こそ鼻血を噴き出さんばかりに庄司は顔へ血を上らせた。


 見とれなかったといえば嘘になる。

 菱崎優子。何の因果か大学のロボット工学研究室へ顔を出した彼女は、男どもの注目を根こそぎかっさらっていた。どころか怨嗟と失望の声が各研究室から押し寄せてきたという。男臭い工学部にあって女、それも“振り向かないヤツは男じゃねェ”ほどの上玉ともなれば注目の熱量はいやが上にも上がるというもの。というか競争率の高さに溜め息の一つもつくのがせいぜい、庄司としてはそのはずだった。


「だから菱崎さん、」

 情けないにもほどのある声が庄司の口を衝いて出た。

「えー……こんなに目立って何の得が?」

「優子でいいって言ったでしょ?」

 プラットフォームの混雑は2人の邪魔になるどころか、むしろ密着したところで何ら不思議には当たらない。

「私がいいって言ってるの。それともこういうの好きじゃない?」

「だからそういう問題じゃ……」

「じゃ、」

 悪戯っぽく優子が笑みかける。

「どういう問題?」

「――優子さん、俺に惚れてるわけじゃないでしょ?」


「手伝って」

 研究室きっての女たらしにも男前で鳴らす渋い教授にも全く眼をくれもせず、初対面の優子はまっすぐ庄司の元へとやって来た。

「……俺?」

 自分を指差してから、間の抜けた問いだと激しく悔やむ。庄司は優子の視線を受け止め切れずにたじろいだ。

「えー?」「庄司かよ!」「畜生うらやましい!」「つか詫びろ! 死んで詫び入れろ!!」

 野次と冷やかしの声が飛び交う中、優子は庄司の右手を引っ掴んだ。そのまま踵を返すなり、一言残して歩き出す。

「彼、ちょっと借ります!」


「ちょっとどころじゃなかったなー……」

 庄司がつくづくの体で声を洩らした。

「何が?」

 駅のコンコース、並んで雑踏の流れに乗る優子の声が耳をくすぐる。

「『ちょっと借ります』って言ってたでしょ」

 庄司の声が遠い過去を思い出すかのように、

「最初に会った時、研究室で」

「2週間くらいちょっとのうちでしょ?」

 さも当然とばかりに優子が小首を傾げる。

「2週間、ねェ」

 空を泳ぐ庄司の眼が遠い。

「もうそんなになるのかァ……」

「嫌だった?」

 横から覗き込む優子の眼に憂い。

「いや、そんなことはないんだけどさ……」

「じゃ、胸張って」

「そんなにしみったれて見える?」

 言われた庄司は自分の身体に意識を向ける。確かに腰が引けていたのは否めない。

「何ていうかな……」

 顎に人差し指を当てて、優子は言葉を裡に探した。

「最初に私を見てたときの覇気がない」

「覇気、ねえ……」

 覇気というよりのぼせていた、庄司としてはその方が自覚としてより近い。

「だってさ優子さん、目当ては俺の身体でしょ?」

「いけない?」

 むしろ無邪気に、優子は笑んだ。


「婚約者ァ!?」

 素っ頓狂な声だったと庄司自身もそう思う。

「それを? 俺が!?」

「お願い!」

 初対面の研究室から庄司を引っ張り出した優子は、片眼を固く瞑って庄司を拝んだものだった。

「あなたしか頼める人がいないの!」

「なんで俺!?」

「他の人じゃ体格が合わないの!」

 庄司の両肩を引っ掴み、文字通りに眼と鼻の先から、優子は庄司へ詰め寄った。

「このままじゃ私、顔も知らない男と結婚させられちゃう!」


『はい胸張って!』

 スピーカ越し、優子の声が庄司へ届いた。庄司は言われるがままに仁王立ち、胸を張って屹立する。

 確かに違和感はない。むしろ庄司の身体に合わせたとさえ言っていいほどに。それが筋電位を取り込むための庄司の素肌へ自然すぎるほどに馴染んでいる。

『位置について!』

 眼前、床に転がされたバーベルへと歩を進める。軽い違和感。自分の身体が自分を超えたような浮遊感。

 腰を落とす。バーベルのシャフトを掴み取る。錘の刻印へ軽く眼をやる。1トンの表記、それが両側。

『始め!』

 瞬発。両手でバーベルを一気に肩の付け根まで持ち上げる。不可能ではないが軽くもない。気を遣うのはむしろバランス。踏ん張った両の足先で床を間違いなく踏みしめる。

 金属質な、軋み――。

『今よ!』

「……駄目だ!」

 咄嗟に庄司はバーベルを前へと投げ出した。合計2トンの質量が文字通り床を叩く――と同時に腰と膝、それに腕から煙が上がる。

 そのまま庄司はバランスを失い、地へ倒れた。硬い音。

 警告音が耳へと届く。視覚の端には人型のアイコン、その腰、両膝に両肩、腕までもが赤く悲鳴を上げていた。

『もう少しなのに……!』

 スピーカの向こうで優子の声が歯噛みする。

「危ないとこだった……」

 一転、庄司に遅れて脂汗。立ち上がろうにも脚はおろか手首一つまともに動かない。

「失敗だよ。こいつから出してくれ」

 遠巻きにしていたスタッフが歩み寄る。

 レスキュー・レヴァーを引き、庄司の身体から外して強化外骨格――パワード・スーツの成れの果て。


「パワード・スーツ?」

 最初、頼み込まれた庄司は思わず声を上げていた。

「テスト・パイロットって……そんな無茶な!」

「無茶は承知よ」

 優子の声に冗談の気配は毛ほどもなかった。

「このままじゃ政略結婚の道具にされるだけ。私はコンペに勝って研究を続けたいの!」

「だからなんで俺!?」

「テスト・パイロットが倒れちゃったの!」

 優子は庄司にすがり付いた。

「設計限界ギリギリで勝負するから体格調整してる余裕なんてないの!」

「だからっていきなりじゃ……!」

「お願い……!」

 優子の双眸が、声が、体温さえもが潤んで庄司の心を刺す。

「……救けて……!」

 庄司は言葉を失い――そして折れた。何より優子のその眼を見離せなかった。


「駄目だよ」

 検査着姿の庄司はスポーツ・ドリンクを一息に呑み干して、

「パワーはともかく、骨格の――もっと言うと関節の強度が追い付いてない。バーベルと人工筋肉、合わせた負荷を支えられてないんだ」

「ここまで来て……!」

 パワード・スーツの残骸を前に優子が艶やかな唇を噛む。

「もう時間も機体も後がないのに……!」

「……2秒だな」

 庄司の呟き。

「――え?」

 優子が振り返る。

「さっきので保った時間だよ」

 庄司が噛んで含めるように、

「実測値はどうだった?」

 優子が慌てて手元、携帯端末へ指を走らせる。

「――2.04秒」

 優子が上げた眼、そこに希望。

「骨格の強度が上げられないなら、」

 庄司の瞳にも差して光。

「それで決めるしかないな」

「問題はバランスね」

 頷いて優子。

「バーベル持ってきてくれ。軽めのやつで」

 庄司の声が固めて意思。

「こうなりゃ俺が練習するしかないだろ」


「まさか……!」

 優子の声からでさえ判る。蒼白の顔色が察して知れた。

『救難信号です!』

 運転手からの通話がトレーラのコンテナへ飛んできた。

 コンペ当日。事故車から放たれた救難信号、それが会場へ向かう進路上。平日真昼の首都高速、通る影はもちろん頼るべくもない。

「救急隊は!?」

 優子の問いが悲鳴に近い。

『どっちにしろこっちの方が早いです!』

 運転手のだみ声につられてトレーラに加速感。

『まずは現場を押さえにゃ!』


「最悪だ……!」

 現場を一目、庄司がこぼして苦い声。

 路上には重量級スポーツ・カー。ただしそれが見事なほどに引っくり返って横腹を遮音壁へ押し付けている。巻き込まれた車の姿がない、その一事がせめても慰めと言うしかない。

「人が!」

 スタッフの一人が指を差す。その先、ドア・ウィンドウから覗いて白い掌。

「何てこと……!」

 優子の声からさらに血の気が失せる。

「いや、生きてる!」

 覗いた掌に動き。庄司が意を固めて声。

「助けなきゃ!」

「――ッ!」

 声にならない悲鳴は優子から。

「でも、どうやって!?」

「パワード・スーツを使う」

 庄司が断じる、その端から優子が血色を失う、それが解る。それでも決意は止まらない。

「迷ってる暇はない。いつガソリンに火が付くか」

 優子の瞳が涙に潤む。この先、コンペで勝ち残らなければどうなるか――優子の内心をその眼が語る。

「人の命には代えられないさ」庄司が優子の瞳を見据える。「違うかい?」

 かすかに、ほんのかすかに、泣き出しそうな優子はかぶりを振った。

「パワード・スーツ起動!」

 振り返った庄司が声を張り上げる。

「2秒だけ車を持ち上げる! 中から生存者を引きずり出すぞ!」


「自己診断プログラム、クリア!」

 庄司のまとったスーツに灯が入る。視界の端を自己診断プログラムの結果がスクロール、最後に四肢を示すアイコンが示して緑。

「チェック・リストの残りはパスだ、ハッチ開けてくれ!」

 コンテナ後部のハッチが開く。庄司を載せたパワード・スーツが歩を刻む。

『庄司!』

 優子の声がスピーカに割って入る。

『あの車、車重は2トンは下らないわ! 気を付けて!』

「了解」

 庄司の声が据わって低い。

「2秒保たないかもしれないな」

『とにかく配置を!』

 回線越し、優子の飛ばす指示が伝わる。

『庄司が作ってくれるチャンスは2秒もないわ!』

 外へ出る。引っくり返った車体が眼に入る。周囲に控えて男性スタッフ、車窓に覗いた掌は今はその手の中にある。

 進み出る。そこでひらめき。まずはドア、破れたウィンドウの枠へと手をかける。

「まずドアから引っこ抜く」

 浮かんだ案をそのまま庄司が口に出す。

「うまく行けば中の人を引き出せるかもしれない」

『了解』

 優子の声が心配の色を覗かせる。

『気を付けてね』

 庄司がゆっくり腕を引く。

 軋みを上げて、――しかしドアは容易に外れない。

「くそ、」庄司に舌打ち。「歪んじまってるか」

『細かく調整してる時間はないわ』

 優子の声が端的に告げて現実。

『パワー・レシオ、最大まで上げるわよ』

「それしかないか」

 庄司が口の端を舌で湿す。

「――頼む」

 視界の端、パワー・レシオを示すバーが跳ね上がった。庄司は手をかけたドアへ徐々に力をかけていく。軋みを上げるドアがさらに歪み――突如として力負け。すっぽ抜けたドアが宙を舞う。

 が、構ってはいられない。覗いた車中、運転席――そして奥の助手席にももう一人。女。

「2人いる!」

 思わず庄司が声を上げた――そこで。

 車体が悲鳴を上げ始めた。ドアが荷重の支えになっていたのか、見る間に沈み込んでいく。

「まずい!」

 庄司が思わず腰を落とした。上部、床面へ即座に手を添える、腰から踏ん張って全力を振り絞る、2トン超の車重がパワード・スーツへのしかかる。

 運転席の1人が引き出された。問題は助手席、こちらは遮音壁へとめり込んでいる。乗員を引きずり出そうにも、残された時間は1秒と少し。

 最初に手首が悲鳴を上げた。すかさず肘をあてがう。それでも保って1秒足らず、金属質な軋みが上腕を襲う。

 踏み込む。車中へ。肘の代わりに肩、崩れかかる床面をなお持ち上げる。

「助手席の人を!」

 肩に赤の警告表示、伸び上がって庄司は背を迫りくる床面へ。小柄なスタッフが車中へ潜り込む。

「もう保たない!」

 庄司の声に悲壮の色。足首が悲鳴を上げた。咄嗟について膝、床面が一段落ちかかる。

 シート・ベルトを切るのに手間取った。女の身体が下、天井面へ崩れ落ちる。

「早く!」

 両脚の付け根に悲鳴。たまらず庄司は下へ手をつく。四つん這いのその横合い、スタッフが女の上体をくぐらせた。

「保て!」

 庄司に祈り。

「保ってくれ!」

 手首が挫けた。パワード・スーツの肩が落ちる。肘で踏ん張る。

『救けたわ!』

 優子の声が裏返る。

『出てきて!』

 腿に悲鳴。全車重が容赦なく庄司へのしかかる。

「動け!」

 庄司が膝上、込めて力。

「動いてくれ!」

 金属が軋る、硬い音――。

 肘が負けた。肩が、頭部が下へ押し付けられる。

「くそ!」

『庄司!』

 最後に逝ったのは腰部、脚の付け根。2トン超の車体が庄司ごとパワード・スーツをくわえ込む。優子の悲鳴が回線を駆けた。

『庄司――ッ!』

 脳天を駆け抜ける激痛、そして爆発。

 庄司の意識はそこで途絶えた。


 弱々しく助けを求める――それは悲鳴。

 なりふり構わず川へと飛び込んだ――その記憶が甦る。

 覚えて間もないクロールの、しかしその動きはぎこちなく――川の流れに囚われた。

 闇に沈んだ意識――その記憶。

 今になって思い出す、その意味するところへ意識が至る。


「……は!?」

 聞き覚えのある声が鼓膜を打った。

 眼に入ったのは白い天井。耳には規則正しい電子音。

 鈍い痛覚、それが1つや2つに留まらない。

「痛、つッ、たたッ!」

 痛みの元を確かめようにも力が全く入らない。どころか、首を巡らせることすらかなわない。ともかく痛み、生の証。庄司は正しくそれを意識した。

「ん……」

 寝ぼけたような声に聞き覚え。脇腹の横で揺れた気配が一つ。

「……庄司?」

 優子の、それは声だった。

「庄司!?」喜色と戸惑いが声に乗る。「庄司!」

 柔らかく甘い香りを伴って、優子の瞳が庄司の眼に入る――なり、首っ玉に飛び付いた。「庄司!」

「いッてえェェ――ッ!」

 雰囲気も何もなく庄司の口を悲鳴が衝いた。


 頚椎捻挫、骨折多数。早い話が命からがら。庄司はすんでのところで圧死と焼死を免れたことになる――パワード・スーツの外骨格で。


「優子さん、」

 痛む胸から、庄司が声をどうにか紡ぐ。

「何?」

 優子が動けない庄司の顔を覗き込む。しだれかかった黒髪に、甘い香りが色を添える。

「……どこまでが嘘だったの?」

 庄司の声はわずかに硬い。

「嘘……って……」

 反して優子の瞳に色。

「……思い出したの!?」

「思い出したも何も」

 息を継ぎつつ庄司が問う。

「『最初に見てた時』って、ありゃ……」

「思い出してくれたのね!?」

 優子の眼に喜色、そして涙。

「やっと……!」

「優子さん、だったんだよね?」

 庄司に得心。

「あの時、川で溺れてたの」

「救けてくれようとして溺れた子がいるって……」

 優子が優しく頷いた。

「私、どんなに嬉しかったか……」

「じゃテストパイロットが倒れたっての、あれは……」

「嘘はそこだけ」

 優子の双眸が柔らかく笑む。

「……え?」

 問い返す庄司の声がすっぽ抜けた。

「じゃ婚約者の話って、あれは……?」

「あれは本当」

 庄司の真上、優子が微笑む。

「コンペで結果を出さなきゃ結婚させられるってのも」

「じゃ……!」

 庄司の声に滲んで焦燥。

「結果は別の形で出たわ」

 優子が庄司の視界へかざして携帯端末、一面を占めてニュース記事。“人命救助の英雄”とある。添えて見覚えのあるパワード・スーツ、そして何より自分の顔。

「え……!?」

 遅れて庄司が間の抜けた声を上げる。

「それって……」

「そう、」

 優子が唇を庄司の耳元へ近付ける。

「晴れて私は自由の身ってわけ」

 庄司に深く安堵の息。

「……よかったねェ……」

「大変なのはこれからよ」

 優子の囁き声が含んで笑み。

「え?」

 髪をかき上げた優子の顔が庄司の眼前、息もかからんほどに近付く。

「もう逃がさないんだから」

「え……」

 庄司の顔に熱。

「ちょっと優子さんそれってどういう……」

「――私の王子様」

 甘くそれだけ囁いて、優子は庄司に唇を重ねた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読させていただきました。 随分と濃縮されましたね。それでいて読みやすかったです。 会話が多めですが、会話の端々やちょっとした情報から、背景が手にとるようにわかりました。 伏線も多く、なる…
[一言] こんにちは。  本来はもっと長い話ではなかったのかと推察します。煮詰められましたね。濃厚で濃密なエッセンスです。不要と言うか、枝葉の部分は切り落とされている。必要なところだけ切り出して書い…
[一言] 改訂版読みました! すっごく読みやすくなりました。特に後半のテンポアップしてるとこが! ありがとうございます(^o^)   そしてサギッタが1ヶ所残ってました(笑 検索で探してみてくださいま…
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