下校
「お前……マジで死ねよ……」
「はは! 悪かったとは思ってない」
「やっぱり悠くんが絡んでたんだね」
入学式も終わり、幻月、バカと一緒に家に帰っていた。
「どうすんだよお前……。これだと中学と変わらなねぇじゃんかよ……」
俺よりも高身長のバカを見るときは首をあげないといけない為に、やりたく無いが、上目遣いをしないと首を痛める。
「ヒメ~そんな目で見るなよ。襲っちゃぞ」
俺の肩に手を置いて引き寄せようとするために、左肘で軽く腹を突く。
「死ね、変態。行くぞ~幻月、そこのバカは犬のフンみたいに転がしとけ」
「あっ、兄さん待ってー、あれ演技だよね?」
「おう、力入れて無い。ったく同じ手が通用する……」
念のために確認するとまだ倒れていている。
「……あれ? ピクリともしないぞ。だい……じょうぶなのか?」
「分からない」
俺は一応転がったまんまのバカに近づく、あれから5分は経過していたはず……。あれ? 俺もしかしてやっちまった? ちょっと不安が出てしまい、小走りで近づいたとき、ゾンビのように人間を見つけたとたん突然動き出し、俺の手を掴んだ。
こういうビックリやホラーは大嫌いなために声が裏返ってしまった。
「うひゃぁ!!?」
「やっぱり心配しちゃったか~、ヒメはツンデレだなぁ。あれ? ビックリして涙目じゃんか、可愛いー」
「もう、知るか!」
バカを突き飛ばして走り、幻月の手を掴む。
「帰るぞ! 幻月、あんな奴もう俺は知らん!」
「あっ、うん」
俺の足に着いてこられるのは幻月や極夜くらいしかいない。
猛スピードで走り、家に着いてソファーにバックを投げ捨て椅子に座る。
「あのバカ、本当に腹立つなぁ……」
「でも兄さん結局、明日は普通に接してるじゃん」
「ま、まぁな……」
「だからツンデレって言われるんじゃない?」
「幻月もやめてくれ……」
「まっ、そこが兄さんのいいところなんじゃないの? はいこれ、いつもの」
俺の前に出されたのは幻月が淹れてくれた甘いミルクティーだ。帰宅する時はこれが日課となっている。
「あぁ、ありがとう……」
息を吹き掛けて啜る。相変わらず、幻月が淹れるミルクティーは店より美味しい。
するの階段から誰かかが降りてくる音がした。まぁ、勿論極夜な訳なんだが。扉からひょこっと顔出す。超可愛い。あんなにイライラしてたのが一瞬にして吹っ飛んだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんおかえり。あっ、私のもお願い」
「おかえり極夜、もう出来てるよ」
「流石! ありがとう!」
デーブルの上には幻月はブラックコーヒーに極夜は無糖のカフェオレがだった。
……もしかして甘いミルクティー飲んでるから、女扱いされるのか……? 別にコーヒーは飲めない訳ではない。ただ、好まないだけだ。
「……極夜、幻月それ美味しいのか?」
「美味しいよ、兄さん飲む?」
「ちょっと貰う」
渡されたコーヒーを啜る。
「苦い……あれ? 酸味もある……」
「豆によって苦味の強いもの、酸味が強いものがあるの。極夜は、カフェオレに合わせた豆だけど私は、酸味がちょっと強いのにしたの」
「へー、まぁ俺はこれがいいよ」
口直しのように甘いミルクティーを飲む。そこから落ち着いた時間が流れていく。そんななか、幻月が立ち上がり冷蔵庫に向かった。
「あっ、いけない。スーパー行かないとご飯無い……」
「え……。マジで?」
「あっ、なら私行くよ。最近何にも作ってなかったから久々にやりたいよ」
「なら、俺も行くわ」
「兄さんもいくなら私も行く」
結局三人で行くことなり、自然と笑い声が出てくる。
「私達、ずっと三人だね」
「それがいいのよ極夜。特に兄さんにとっては」
「あぁ、幻月と極夜がいれば俺はいいんだ」
「お兄ちゃん……。よし、じゃー行こう!」
「「おー」」
マイバックを持ち、身軽な服に着替えて近所のスーパーに向かった。
相変わらず大盛況であるスーパーに三人横に並んで歩く。
「極夜、今日は何作るんだ?」
「お兄ちゃんにはひ、み、つ」
「えー、教えてくれよ」
「兄さん、極夜がそう言ってるんだから夜ご飯は任せよ」
ちょっと不満があるが、まぁ極夜が笑顔で食材を選んでるところは実に俺特である。そしていつも店長がいるところのレジに並ぶ。
「おう、お三人方いつもありがとうな」
「いえいえ、あっポイントカードだしますね」
「まいどー、またよろしくな」
極夜は両手でマイバックを持ち上げる。華奢な体では確かに重い。
「ほら、極夜。持ってやるよ」
「あ、ありがと」
ズッシリとしか重さが、右腕に伝わる。これは……重い。
「大丈夫? お兄ちゃん」
「ん? たまにはお兄ちゃんらしいところ見せないとな」
「かっこいい~、流石は自慢のお兄ちゃん!」
俺の空いている左腕に抱きつく。
「きょ、極夜。歩きづらいよ」
「兄さん、甘える妹を突き飛ばすなんて酷いよ~」
「うっ……それもそうだ!」
甘える極夜に微笑み、夕暮れの太陽と同じ方角にある家を目指した。
家に着けば、下準備をする極夜と家事をする幻月と相変わらず二人は慌ただしく動く。俺に出来ることといえば、極夜の宿題を見るくらいだか、年頃の妹の部屋に勝手に入るなんて流石に出来ない。
「さて……どうしたものか……ん?」
二階に上がったとき、一冊のノートが落ちていた。一枚ページをめくれば、苦手な数学を隙間なく勉強していた。そのノートを部屋に持っていき隅から隅まで見ていく。だが、最も苦手とする証明の問題から少しミスが目立っていた。
「ふむふむ、なるほどな……。これは問題に騙されてるな」
俺はメモ帳を取り出して、ヒントを書いてノートに挟む。
「さてと、ちょこっと問題出してあげよう」
中学一年の数学教科書を取り出して、忘れていると思う問題を10問ピックアップしてヒントと同時に挟む。
「この問題は入試にあったから要チェック、出来たらお兄ちゃんのところまで持っておいで、分からなかったら一回別の角度から考えてみれば閃くよ。お兄ちゃんもお姉ちゃんも応援しているよ。あと一年がんばれ……っと」
応援メッセージを書き、極夜の部屋の前に置き、俺は高校の教科書を読み始めた。