3.« 総武線 » 夜
その夜のわたしはホトホト疲れ切っていた。
ボンヤリと目を覚ますと、静かな車両の中を、車掌が乗客の忘れ物とか酔っ払いを起こしたりと、点検して回っていた。
「えっ、ここ、どこ?」
隣の人の肩から頭を上げて、車窓の外に目をやると、「ちば」だった。
新宿から総武線の千葉行きに乗って、そのまま終点まで来てしまったんだ。
わたしの隣には、男の人が静かに座っていた。
「ス、スミマセン。わたし、もしかして、あなたの肩を借りて寝てたんですか?」
「あなたがあまりにも気持ちよさそうに眠っていたから、起こせませんでした。」
そう言って優しそうに微笑んだ。
(わたし、どこから眠っていたんだろう?)
「本当にゴメンナサイ。
あの、あなたはどこで降りるはずだったんですか?」
「西千葉駅ですよ。
となりの駅ですから、気にしないでください。
大丈夫ですよ。」
「ス、スイマセン。本当にどうしたらいいのか・・・。」
「そんなに気にしないでください。
・・・僕、最近、こっちに来たばかりなんです。
沖縄から家族と来てるんです。」
(沖縄の人なんだ。やっぱ、いい人が多いんだ。)
わたしは、働かない頭でボンヤリとそんな風に思った。
「本当にゴメンナサイ。
わたし、お礼がしたいんです。
今日はもう遅いので、後日、連絡します。
連絡先をおしえてください。」
「いいんですよ、本当に。」
何度もその人はそう言っていたのに、わたしはほとんど無理矢理、その人から名刺をもらった。
「わっ、ちゃんと勤めているんですね。」
そういえば、スーツ着てる。
若いお兄さんって感じの人だった。
「はは。ちゃんと働いてますよ。」
電車が動きだして 「新宿行き」 に変わった。
彼は笑顔で西千葉駅で降りていった。
「本当に電話しますから・・・。」
「本当にいいですから・・・。」
迷ったけど、結局電話しなかった。
ごめんなさい。
わたしの定期入れの中には、あなたの名刺がまだ入っています。