15.« 渋谷 駅 » 冬
ムムと渋谷で映画を見る約束をしていた。
渋谷駅で待ち合わせて、道玄坂にある映画館へ向かって歩いていると、道路まですごい行列ができていて、立ち見じゃないと見られないと切符売場の人に言われた。
「オレ、昨日徹夜だったから、立ち見は辛いよ。帰ろ。」
「イヤだ。絶対見るもん。
先週から約束してたじゃない。
どうせ昨日だって、バンドの人たちと遊んでたんでしょ。
ムム、いつも約束破る。
うそつき、うそつき、うそつき。大キライ。」
うそつき。
わたしのこと、好きじゃないくせに。
ムムはわたしのこと、好きじゃない。
深いため息をついてから、ムムが言った。
「オレ、帰るから。」
「えっ?」
ムムは駅の方へ向かって、一人で歩きだした。
いつもは 『もっと、オレに甘えろ!!』 とか言ってるくせに。
ねぇ、わたし、今、甘えているでしょ?
ダメなの?
バカ。
ムム、振り向いてよ。
ずっと、ムムの黒いコート見つめているのに、一向に止まりもしない。
ちっとも、戻ってこない。
人ごみにまぎれて、どんどんムムが小さくなっていく。
なんで、立ち止まって待っていてくれないの。
ムムのバカ。なんで、振り返ってくれないのよ。
わたしのこと、好きじゃない。
だから、振り返らない。
大キライ。大キライ。
ムムなんて、大キライなんだから・・・。
結局、映画は観ないで、渋谷で一人でぶらぶらと時間をつぶした。
洋服見ても、レコード見ても、一人でお茶しても、全然楽しくない。
家に帰りたくないし。
夕方まで、そんな風に時間をもてあました。
ムムのアパート行っちゃおうかな。
いないかもしれないし。
怒っていて、出てきてくれないかも。
あーぁ、わたし、やっぱりムムのこと好きみたい。
ムムのことすごく好きみたい。
すごく好き。