11.« 新宿 駅 » 昼
今日も新宿で待ち合わせをした。
いつも電車を一本乗り遅れてしまうの。
今日こそは遅れたら絶対に怒られる。
中央線のドアが開くと同時に、急いで階段を駆け降りた。
人ごみの中、慌てていて階段を一段抜かしてしまって、
前の人の背中に手が当たってしまった。
(でも、込んでいてよかったのかも。
その人が腕をとってくれなかったら危なかった。)
「ごめんなさい。
急いでいて、よく見てなくて。
助かりました。」
(急がないと。)
「あの・・・、君、待って。」
「なんですか?」
(わたし、急いでるんですけど・・・。)
「一緒に・・・あの、お茶でも、どうかな?」
「今日は、あの、ごめんなさい。
本当に急いでいるので。また今度、お願いします。」
わたしは、ニッコリ笑ってペコリとおじぎをして走り出す。
「待って。」
新宿駅って、本当に改札までも遠い。
人が多くてイヤだ。
地下道は迷うから、わたしはいつでもすぐに地上に出ちゃうの。
いたいた。
いつもの富士銀の前。
目を細めて遠くを見てる。
後から回ってムムの背中を軽く叩く。
「ムムちゃん!! 見て。今日はピッタリ。
遅れてないでしょ?」
わたしは腕時計を見せた。
「そうだな。よし、よし。」
ムムはニコニコ笑ってる。
「さっきね、来る途中、お茶に誘われちゃった。へへ。」
「誰に?」
「おじさん。わたし、タメよりもおじさんに好かれやすいタイプみたい。
行っちゃえば良かったかな?」
「へぇ。」
「断ったら、本当に残念そうだったよ、その人。」
わたしは、背が高いムムの顔を見上げながら、キョロキョロとあたりを見回してさっきのおっさんを探すフリをした。
「ふーん。行けばよかったじゃない。」
(はは、怒った。怒った。)
「うそ、うそ。ムムと一緒がいいもん。行くわけないじゃん。」
わたしたちは手をつないで新宿を歩いた。