10.« 半蔵門線 » 改札
半蔵門線沿線のムムのアパートに行った。
渋谷で待ち合わせをして、一緒に半蔵門線に乗った。
電車の中は空いているのに、ドアわきに二人、離れて立った。
目の前にいるムムは数年前よりも小さくなった気がした。
「髪の色を変えたんだ。」と髪の先をいじりながらムムが言った。
「変かな?」って聞くから、
「変だよ。似合ってない。」って言うと、
「そうかな。」って悲しい顔をした。
私はいつまでたっても優しくなれない自分にイラついた。
部屋で二人で過ごしていたら、気が付くと夕方になっていた。
私が帰ると言うと、ムムは駅まで送ってくれると言った。
駅まで一緒に歩いた。
何を話したのか覚えていない。
ただ、ムムのアパートから駅までは近くはなかった。
二人で何を話しながらあんなに長い距離を歩いたのだろう。
まるで思い出せない。
夕方だった。一般の家庭だったら夕食の時間だ。
なぜあの時、夕食に誘わなかったんだろう。
なんで泊まっていかなかったんだろう。
あの頃、駅の近くに気の利いた店なんてなかった。
ムムは駅中にあるハンバーガーやで、ハンバーガーを買って帰るって言ったかもしれない。
私だけが切符を買って改札に入った。
「またね。」って言ったかもしれない。
「電話するよ。」って聞いたかもしれない。
二、三段階段を上がって振り返ると、改札の向こうでムムがこっちを見ていた。
また二、三段階段を上がって振り返ると、ムムがまだこっちを見ていた。
上の方まで階段を上がって、階段に並行して連なっている天井のせいで私たちの間にできてしまった壁をかがんで後ろを振り返ると、
ムムも邪魔なその壁をかがんで、私がいる上の方を覗き込んでこっちを見てニコニコしていた。
私は安堵してホッコリとした気分のまま、もう一度ムムに手を振って「バイバイ」と言ってちょうど来た電車に乗り込んだ。