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1.« 中央線 » 夜 

東京のど真中を走るオレンジ色の電車。


その夜は、どーゆー訳かヨッシーと二人で駅まで歩いた。

いつもの彼だったら、彼の友人たち、クッパ や ヘイホー と帰る。

(そういえば最近、ヘイホーには彼女ができたみたい。

 クラスのあの娘と歩いているのを度々見かける。) 

そして通常、私は私の友人デイジーと駅まで向かう。


でもその夜は、どういった訳か私とヨッシーの二人だけだった。


彼のお父さんが亡くなったとかで、彼が夜のフランス語のクラスに出てきたのは一週間ぶりだった。

クッパから話は聞いていたのに、いざ二人きりになってしまうと何を話したらいいのか困ってしまった。


お互いにそのことには触れずに、静かにおしゃべりをしながら御茶ノ水の駅まで歩いた。

ホームに降りるとすぐに、中央線車両が私たちの前に止まった。

闇に映えるオレンジ色の電車。

私たちは並んで中に入った。

ヨッシーのことだから、たぶん私を先に車内に入れてくれたかもしれない。

私はシートに座って、ヨッシーは私の前のつり革につかまって私を見下ろす。

電車の中はガラガラで、あっちの方に酔っ払いみたいな人が一人か二人しかいなかった。

それなのに、ヨッシーは私の前に突っ立って、私を見下ろして笑っている。

私の発する言葉に、そのたびに笑顔で答える。

彼、こんなにやさしかったっけ?

知ってる。彼はいつもやさしい。

フランス語のクラスにいる時、

いつでも、誰にでも、彼は優しい。

私は心のなかでつぶやいた。


私は神田駅で乗り換えなきゃいけない。

次の駅だ。

ヨッシーはあまり話さない。

ただ、私の話を笑顔で聞いている。

何か話して。


神田駅に着いてしまった。


ヨッシー、

何か話して。


シートから立ち上がる時に私の顔が彼の顔に近づいた。

ヨッシーがわたしから目を離さずに聞いてきた。


「行くのか?」


「うん。・・・どうして?」


「・・・そっか。」


電車を降りて、突っ立ったままホームから彼を見る。

ヨッシーはまだつり革につかまったまま、窓越しに私を見ている。


ヨッシー、

なぜ、なにも言わないの?

今ならまだ間に合う?


ドアが閉まって動き出した中央線。

電車の中の彼はもう笑っていなかった。

笑わない顔を私に向けている。

どんどん小さくなっていく。

なぜ、なにも言わないの?


「ヨッシーは優しすぎるよ・・・。」


私は乗り換えるために階段を降りた。





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