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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
秋の桜篇
9/32

施設潜入作戦

 次の日に、集はAHMO訓練施設、通称学校に着くと、自分の前の席と横の席に誰もいなかった。

「……そうか」

(今日は任務の日だ。学校を休んで任務に行くのか)

 前に由利、横に総は居ないが、集は席に着く。

「今日は何か物足りないよねぇ」

「ああ、そうだな」

 霄の言葉に集は肯定した。


 日が沈むと、総は潜入する施設に着いた。

「ここだね」

 総が言う。

「ええ。で、どうやって潜入するんです?」

斬撃スラッシュで壁を切ってくれ。通気口とかそこらへんがあればいいんだが」

 総は考えていたのか、今思いついたのか、そんなことを言う。

「はい」

 由利は言うと、壁を触る。

 彼女の能力、斬撃スラッシュは切る事とは別に触れた物体を把握する事が出来る。例えば、目で見えなくとも、触れていれば形は分かる。この能力なら、通気口までの壁は切り離す事が出来る。

「できました。あそこです」

 言うと、由利は上の方を指差す。しかし、そこは何の変哲も無い壁だった。

「オーケー」

 総は言うと、万里同風ルーラー・オブ・ウィンドを発動させる。金属の塊が壁から落ちてきた。中から風で押したのだ。

「ああ、あと、壁を板みたいに切ってくれるか?」

「はい。こうですか?」

 由利は壁を薄い板のような形に切る。すると、その板は重力の影響を受けて、落ちる。

「ああ。よし乗れ」

 総は板に乗って言う。

「はぁ」

 由利は何をしたいんだ? と思ったが、板に乗る。

「よし、行こう」

 総が言うと、また能力を発動させる。

「え、ええ。うわっ」

 板は下からの風を受けて浮いた。そして、そのまま上の方にある穴の近くに行く。

「じゃ、行くか」

「はい」


 その頃、学校は昼休みだった。

 集と霄は二人でご飯を食べていた。

「うーん、やっぱり、寂しいわね」

 霄は下を向きながら、言う。

「ああ。そうだな。霄は……その、好きな人はいんのか?」

 集は真面目な顔をして、言う。

「え? あ、いや……えーと……いない、けど?」

 霄は緊張しながらも行った。

「そっか……」

 言うと、会話が終わった。

「……うん…………えと、なんで聞いたの?」

「お前にいるんなら、応援してやろうと思ったんだがな」

「ふ、ふーん。なるほどね」

 集は霄の言い方が気になった。

「ん? どうかしたのか?」

「別に? 何が?」

「いや、なんでもない」

 集は霄が怒ってるような気がしたので、言及はしなかった。

「あー、そろそろ戻るか」

 気まずい空気の中、集が言う。

「うん」

 二人は校舎に入る。

「ああ。それと、悪いな」

「ああ、アレね」

(もう伝わったのか……)

「ああ。変な噂たっちゃったら、アレだろ?」

 そこのアレには嫌、という文字が入るのだが、集は詳しくは言わなかった。だが、言おうとしている事は伝わっていたようで、霄は聞き返したりはしなかった。

「そっちか。いや、別にいーよ。私こそごめんね」

 霄の謝っている理由は、集と同じだろう。

「いや、俺は別に変な噂たっても良いんだけどな」

「へ?」

「ん?」

「いや、なんでもない」

 霄は顔を逸らして、言う。

 すると、後ろからトタトタという足音が聞こえてきたので、振り返る。

「あ。集じゃーん」

「浦崎……」

 いきなり話しかけてきた人は浦崎栄実うらさきえみだ。

「栄実で良いって」

「ああ、気が向いたらな」

「えぇ~。で、日向さんとご飯食べてたの?」

 栄実は特に落ち込んだ様子も無く、話を続ける。落ち込んだフリならあったが。

「ああ。今日は総と由利がいないからな」

「だよね~」

 集はその返事がおかしいと思う。

「ん?」

「いや~。それより、二人ともお休みなんて何かあるのかな~?」

 集も試すような風に栄実は言う。

「別に。たまたまだろ?」

 そんな栄実の態度が気にくわなくて、少し怒り気味に言った。

「ん? もしかして、嫉妬してる?」

「いや、してないぞ」

 集は今のは八つ当たりだ、と反省して、即座に冷静に返す。

「やっぱり、ま、集ならそうだよね」

「何が言いたい?」

「いや、別に。じゃーね」

「ああ」

(結局、何が言いたいんだよ……?)

 訳が分からず、今の会話の意味も理解できなかったが、とりあえず、歩く。栄実は階段を上がりきっているようだ。

 霄は集を疑わしげに見ていた。

 すると、階段の上には豹がいた。

「こんにちは。仲良いな」

「え? そうですか?」

 豹の言葉に霄が返す。

 ただ、集は豹の戯言たわごとに付き合う気も無く、話題を変える。

「豹。あの二人は朝からずっと潜入してるのか?」

「いや、潜入は昼からだ。ただ、昼に帰るのも怪しまれるのでな。今日は休んでもらった」

「なるほどな」

(まぁ、それはそうか。朝からずっと潜入は大変すぎるし)

 集は納得する。

 その集に対し、豹は質問をする。

「何故訊いた?」

「いや、ちょっと気になってな」

「ほう」

 集は豹に言い返したかったが、「自意識過剰だ」と言われそうなので、やめておいた。


 総と由利は通気口を通り。下の見える所まで来る。

 由利は下を見て、誰もいないのを確認すると、斬撃スラッシュを発動し、通気口を切り離して、廊下に落ちる。すると、総は万里同風ルーラー・オブ・ウィンドを発動し、総と由利は風邪を頼って華麗に着地して、防犯カメラの向きを変え、落ちる鉄片をゆっくりと落として、音を出さないようにした。

「よし、ここは敵が居ないな」

「コンセントがある場所を探すんでしたっけ?」

「ああ」

 総と由利は小声で話す。勿論、万里同風ルーラー・オブ・ウィンドを発動し風を起こして声が聞こえないようにはしているが。

 歩いていくと、人を見つける。それとほぼ同時に、総は風を起こして壁に激突させ、由利はサプレッサー付きの銃で撃つ。勿論、銃の音は消える事は無いし、壁に激突した音も響く。

「急ごう」

「ええ」

 総と由利は一言でやりとりをすると、足音を出来るだけ消して走る。二人の動きには慣れがあった。

 すると、ドアを見つける。そこから光が洩れていて、人の声も聞こえる。

「この部屋。人は居るけど。仕方ない、入ろう。中の人は気絶か、殺す」

「了解です」

 すると、由利は壁を触れて、ドアを切り離す。

 総はドアを蹴って入る。

 中はコンピュータが何台も並んでいて、技術者が大勢いた。地面にはコードがいっぱいあり、足の踏み場にも困るくらいだ。まぁ、侵入者の総や由利がそんなことを気にするなんて事は無いが。

 その技術者はいきなり現れた侵入者の総を見るが、その時には風を使って壁に激突させていた。

「能力者かッ」

 技術者の誰かが言うが、その時には由利と総は銃を撃っていた。風と銃で敵を殺していく。

 総はその後、コンセントを探して、見つけると、端末とコンセントをコードで繋ぐ。

「よし」

「それで、情報が取れるのですか?」

 由利は総を見て言う。

「ああ」

 すると、技術者は壁にあるボタンを押そうとする。

「くっ……」

 総は慌てて銃で技術者を撃つ、がボタンはもう押されていた。

 大きな警報音が響く。

「まだ、それは終わらないのですか?」

 その警報音を聞きながら、由利は冷静に訊く。

「ああ。もう少し」

 すると、その部屋に次々の銃を持った敵が現れる。

 総は敵を風で浮かして、撃ち。由利も撃つ。

 由利は天井を切り離して、それを総は風を使い敵に当てる。

「すみません、油断していました。まさか、あのボタンにそんな機能があるとは……」

 由利は敵を殺しつつ、言う。

「謝るのはいい。もう少し、耐えてくれ」

「もちろんです」

 二人は会話をしながらも、敵を殺していく。すると、端末から音が出る。

「オーケー。もう良い。直線で逃げるぞ」

「はい」

 この言葉だけで由利には伝わり、総は端末をコードから外して走り出す。由利も走り出し、由利が壁を切り離して総が風を吹かして飛ばす。そのまま施設の外まで一直線で走っていく。

 外まで出ると、総は言う。

「作戦通りに」

「はいっ」

 それだけでも伝わるのか、由利は壁に触れ、施設の所々を切り離す。総も風を使い、施設はぺしゃんこになった。激しい音をたてながら。

「これ……大丈夫なんですか?」

 由利がやりすぎた、という顔をして言う。

「豹さんが、ニュースにはならないようにするって言ってたけど。まぁ、ここなら目撃者はいないだろう」

「そうですね」

 そして、総と由利は施設を離れた。


 集と秋広と霄と桜はいつも通り下校していた(下校を言っていいのかはわからないが)。

 すると、遠くから大きな音が聞こえた。その音は施設がぺしゃんこになった時に出る音だが、四人が気づくことはない。

「うわっ」

 秋広は驚く。

「なんだ……? 今の音」

「さぁね」

 集の呟きに霄は興味無さげに答える。

 集は、既に催花雨ライビング・ウォーターを発動していた。水は水蒸気になって集よりとても遠い位置まで飛んでいて、色々な物の形の確認をしていた(集の能力は自分で出した水のみ位置を分かる)。それに特に意味は無いが、今は物陰で銃を構える人間の形が分かった。

 水を展開する。その水は高速で動き、秋広に迫る飛来物を捕まえる。

「何!?」

 桜が叫ぶ。

 集がその飛来物を見る、それは弾丸だった。

「やはり……」

 それを見て、集が言うと同時に、展開させていた水を秋広に銃を撃ってきた者に発砲して飛んだ弾丸ほどの速度で水を飛ばす。

「どうしたんだい?」

「狙われている。隠れていろ」

 秋広の問いに集は迅速に答える。水が銃を撃ってきた者に直撃したようだが、死んだかどうかは秋広から離れる事が出来ないので、確認できない。

「こいつら……暗殺者かよ」

 集のその言葉を聞いて、桜は青ざめた顔をした。


 総と由利は施設から離れ、学校近くまで来ていた。

 総は盗聴の心配をする必要が――基地から遠い為――無くなり、端末を操作する。豹に電話をした。

 すると、待っていたのだろう、豹はすぐに出た。

『どうだ?』

 豹の声を聞き、総も話しだす。

「豹さん。終わりました。ただ、音も相当でちゃったし、施設はぶっ壊しちゃいました。ただ、データはありますが。施設内の人間は全員死んでいると思われます」

『そうか、ごくろう。情報をここまで届けに来てくれ』

 豹は特に咎めたりもせず、そう言った。

 元々、豹は騒音など織り込み済みで作戦をたてていたし、総と由利にはあらかじめ騒音をたてても良いとも言っていた。だから、作戦通りに行動した総と由利を咎める理由が無いのだ。

 総は電話が切れた事を確認すると、端末をポケットにしまった。

「学校まで情報を届けに行けってさ」

「はい、わかりました」

 総の言葉を特に意外ともおもわず、由利は了承する。

「さーて、どんな情報が手に入ったのかねぇ?」

 興味が湧いてきて、総はポケットから端末を取りだした。

「それは、私達が見ても良いものなのでしょうか?」

 由利の指摘はもっともだったが、

「ま、俺らに見られたくない情報の奪取を俺らに頼まないでしょ。豹さんもそこには何も言ってこなかった訳だし」

 総の理論も尤もだった。

 豹がそんな大切な情報を言い逃す筈もなく、実際、その端末にある情報を総や由利が見ても豹は怒りも咎めもしない。

 由利は総の言葉に(それもそうか)と思い納得すると、総が端末を操作するのを黙って見ていた。

「これ……覚醒アラウズル…………一般人を能力者にする機械があるらしい……」

 覚醒アウラズルは機械名だ。

「え!?」

 由利が驚いたのはそこではなく「一般人を能力者にする機械」という所だ。

「能力者になる!?」

 由利が「それでは私達の存在意義は」と言おうとした所で、総の補足説明が入る。

「けど、これ、使ったら死ぬって……」

「そんな……」

 由利はそのリスクを聞いて、割に合わないと思った。でも、それはある限定的な状況を除いての話だが。


 集は超能力を発動し続けていた。集、霄、秋広、桜を覆うように水が浮いて、守っている。

 集は敵を警戒して黙っている。

「銃で狙われたの?」

 水の中、桜が言う。

「ここは集に任せよう」

 秋広は答えると、周りを見て、黙った。

 霄は周りの人が来ないように鏡を右と左に発生させて道を通れないようにした。これで狙撃の邪魔にもなるだろう。

 集は敵が一人だとは思っていない。集が四人で任務を行った経験があるからだ。

 予想は正しく、弾丸が高速で秋広に迫る。

 ただ、今は警戒をしている。集は確実に音を聞き、水で弾丸を捉えていた。弾丸を捉えると、水を高速で飛ばす。秋広を殺そうとした狙撃者に当たった。

(生きてはいまい……)

 あくまで予測でしかないが、やはり秋広の元を離れられないので、死亡確認はできない。

「とりあえず」

 集は秋広の方を向いて話そうとすると、影に気づいた。霄、集、秋広、桜とは別にもう一つある影。

「……」

 警戒して振り向くと、そこには黒い化け物がいた。

 その化け物は人間のような形をしている。ただし、肌が真っ黒で、それ故、目や口が何処かは分からない。唯一分かるのは、その化け物の握っている白い銃だけだ。

 集が振り向くとほぼ同時に、霄は銃の引き金を引いていた。

 弾丸が化け物を貫通する。

 しかし、化け物に空いた穴はすぐに塞がった。

「まさか……こいつ能力者か!?」

 集が叫んだ。

結構前に自分で考えてみたことがあります。もし、こういうふうに闘いに巻き込まれたらって。

子供の頃は、「余裕だな」と思ったけど、今は「絶対辛い。無理」と思います。

もしかしたら、この作品の原点はそんな自問自答なのかもしれませんね。

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