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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
秋の桜篇
8/32

恋愛応援大作戦

 集は由利と特別室に向かった。

 特別室に入ると、中にはベットがあり、それに横たわる秋広、その近くには誰も座ってない椅子。それに遠くない距離でテーブルが置かれ、そこに総、霄、向かいに豹が座っている。

「来たか」

「ど……どういう状況だよ……?」

「今から話す。とりあえず、座れ」

「あ、ああ」

 俺と由利も座る。

 集は何も言わず豹の説明を待った。

「事情を説明すると、五条が何者かに狙われた」

「何者って……誰だよ?」

「分からない。ただ、その時、五条は異常成長オーバー・リミットを持っていたから、それを狙ったのかもしれん」

「それで、なんで無事なんだよ?」

 普通、一般人が狙われた場合、ほぼ死ぬ。

「五条が使ったんだ」

 何を、とは言わなくても分かった。

「なっ!?」

「大丈夫だ。集。秋広は生きてる」

「……そうか」

 集はとりあえず安心する。

「今は、疲れて眠っているだけだ。彼の能力は脳を酷使するからな。その分、使い終わると、眠ってしまうんだ」

「秋広の能力は?」

 集は脳を酷使する能力など聞いたことが無く、秋広の能力を訊く。

超人ビヨンド・ヒューマン。普段、脳が使わずにいる領域までも活動させ、怪力やらなんやらを引きだす感じだ」

 豹の説明は雑だった。

「なんとも曖昧な……」

「こちらとしても、まだ解明できていない部分があるからな」

「でも、そんな能力、異常成長オーバー・リミット関係無しに脳に影響を及ぼすんじゃないか?」

 いつも使わない領域を使うという事が、そう楽なことではないことは容易に想像できる。酷使、という程度では済まないだろうということも。

「ああ。脳だけでなく、身体も、普段動かせないほどの速さで動かせば、壊れる。ただ、彼の能力は治癒能力も高めていてな。眠っていれば、何事も無かったかのように元通りだ」

「そりゃ、すげぇ」

「しかし、失態だった。五条に一人でここまで異常成長オーバー・リミットを運ばせるべきではなかった」

 豹は自らの行いを悔むようにうつむいた。

「そんなこと言っても意味ねぇだろ。俺らをなんでここに呼んだんだ?」

「ああ、五条が襲われた時、五条と一緒にあまねが居てな。周には敵はこちらで潰しておく、と伝えてあるが、それ以外は分からない、と言ってある。口裏を合わせておいてくれ」

「ああ」

(周……? ああ、そういや周桜あまねさくらって奴がいたかもな)

「それから、五条がまた狙われるかもしれないから、お前達にはそれの警護に当たってもらいたい」

「分かった」

 妥当な判断だ、と集は思った。秋広の戦闘能力は低いし、異常成長オーバーリミットをもう一度使わせるなど論外だからだ。

「それは集と日向に頼む」

「二人だけ、か?」

「ああ、総と由利は異常成長オーバー・リミットの製造元を潰してもらう」

「製造元?」

「どうやら、浅村法規らはある施設から異常成長オーバー・リミットを買い取っていたらしい。その組織を潰してくれ」

「はい」

「頼んだ」

 言うと豹は部屋から出た。

 すると、一時限目の終わりを告げるチャイムが鳴り、四人も教室へと向かった。


 そのまま二時限目を受けて、休み時間になった。

 クラスの者の大多数は友達と話し、少数は何もしていなかった。

 集はその少数に入っていた。ただ、見かけ上は何もしていないように見えるが、彼は考え事をしていた。

(もし、俺が五条が狙われるという事に気づいていれば、五条が異常成長オーバーリミットを遣う必要もなかったのに……)

 それと同時に、集は自分が言ったことも思い出していた。「そんなこと言っても意味ねぇだろ」、正論だ。彼は豹を励まさず、悔む事の無意味さを伝えて、説明の続きを促したのだ。であれば、今、集が悔んでいる事も無意味だろう。

「ねぇ、天久君、天明さん。いいかしら?」

 集は話しかけられて相手を見ると、相手は桜だった。

「え?」

「はい」

 短く驚く集とは対照的に、集の前の席に座る由利は冷静に返事をした。

 すると、桜は得意げな顔になり、

「ふふーん、あなたたち、付き合ってるでしょ?」

 と言った。

「いや」

「へ?」

 これにはさすがに由利も短く驚いた。

「まあまあ、落ちついて。誰にも言わないから」

「いや、付き合ってねぇよ……」

(そもそも、落ちついてるし。焦ってねえし)

「そう? この前は二人で居たし、今日の朝、いくら自習だからってわざわざ呼びに行くかしら?」

「いや、それは天明が親切なだけで」

 集も弁明に必死だったのだろう、いつもは「天明さん」と呼んでいるのに対し、今は「天明」と呼んだのだが、

「別に親切というわけでは」

 由利は嫌な顔はせず、謙遜した。

「いや、親切だって」

「そう……ですか?」

 由利は自信なさげに言う。

(よしっ、これで会話の話題が変わった! こっから一気に)

「うーん……まぁ、いいや。付き合ってないのね」

「ああ」

 一瞬で桜に話題を戻されたが、正しく理解したようなので、集もそれ以上は言わない。

「それで、自習の時間、二人はどこ行ってたの?」

(そっちが本命か)

 桜は最初からこれを聞きたくて、最初の話題はおまけ、と集は判断した。

「別に、ちょっとな」

「ええ、大したことではありません」

「ふーん、そう?」

「なんだ? その意味ありげな言い方は?」

「別に? 意味なんて無いわよ」

 言うと、桜は席を離れた。

「多分、総と日向さんにも聞きにいくな。あれは」

 集はおもわず呟いた。

(そこまで五条が心配なのか)


 その頃、

「豹先生?」

 総は豹と会っていた。

「これを」

 豹から端末を手渡される。

(これ……集のと同じデザイン……)

「これは?」

「あー、まぁ、集で言う、ぺノみたいなもんだ」

(ま、それは分かってんだけどね)

「俺にも? なんで?」

「いや、これはクラッキング特化型だ。なんというのだろうか? 敵の施設に侵入した時、使え」

「あー、なるほど。敵の情報を奪う用って訳ですね」

「まぁ、頑張れ」

 豹は言うと、立ち去ろうとするが、その前に総は、

「で、こいつ喋んないの?」

 と言った。

「喋らん」

「つまんね」


 教室。

「由利」

 総は由利を呼んだ。

「六万総。苗字で呼ぶのはやめたのですか?」

「ああ、めんどくさくてな。嫌だったか?」

「いえ」

「それで、敵組織に侵入するんだから、作戦は必要だろう? どうする?」

 総は皆には聞こえないよう、小さい声で言った。

「連絡して下さい」

「どうやって?」

「ああ」

 由利は紙に自分の端末番号を書く。これで電話やメールなどの色々な事が出来る。

「はい」

「ん、サンキュ」

 総は紙を受け取って、他の人と話しにいった。

「なんというか、すげぇな」

 その一部始終を見ていた集はそう言った。

「何がです?」

「簡単に名前を呼ぶし、連絡先を手に入れるし」

「あなたはアレに憧れているんですか?」

 由利は何故? と聞きたげな顔をして、訊く。

「いや、憧れはしてないけど、尊敬はするよ」

「へえ」

「どうやったら、ああなれるんだろうな?」

「ならなくていいです」

「……そうか」

 集はとりあえず了承すると、霄が近づいてくる。

「由利! 秋広が目を覚ましたって!」

「そう」

「行くか」

「え、ええ」

 一緒に行く意味あるかしら? と由利は思ったが、まぁ良いか、と思い、特別室へ向かった。


 特別室に着くと、クラスの皆も同様に着いた。中では桜が秋広と話していた。

「やぁ、皆。来てくれてありがとう」

 秋広が言う。

「秋広、大丈夫? 具合は悪くない?」

「あ、うん。大丈夫」

 桜が親身になって聞いてくるので、秋広も答える。

「どうやら、俺らはお邪魔らしいな」

「そうっぽいね~」

 霄が集の言葉に賛同するので、集は部屋の外に出る。すると、霄と由利もでた。

「じゃあな。由利」

「ええ、さようなら」

 言うと、集は帰ろうとするが、服を引っ張られる。

「ちょいちょい。待って」

「霄?」

「いや、警護でしょ! 五条君と桜が帰るまで待たなきゃ!」

「あ、あ~。そうだったな」

 集は忘れていた訳ではないが、うっかりしていた。

「ふふっ」

 由利が少し、ほんの少しだけ笑った。

「笑ったとこ、初めて見た」

「……そうですか? あ、それじゃあ、私は帰ります」

「ああ、じゃあな」

「ええ、さようなら」

 集は由利と別れを告げると、秋広を待った。



 それから30分ほど経つと、秋広と桜は特別室から出てきた。

「えっと……天久君?」

「五条、俺と霄はお前の警護だ。二人で帰りたかったかもしれないが、悪いな」

 集が言うと、

「なっ、なにいってんの?」

 その言葉に桜は動揺した。

「ううん、それより、僕と同い年で警護なんてすごいなぁ」

「そうか? ま、行こうぜ」

 言うと、集達は歩きだした。

 そして、訓練施設をでたあたりで、

「ねぇ、由利と帰りたかったんじゃないの?」

 霄が言った。

(日向さんは天明ともう名前で呼ぶ仲なのか)

「まぁな」

「へえ、あなたは正直なのね」

 桜が言う。

「何がだよ?」

「自分の気持ちに、よ」

「そうなの? 天久君ってそうなの?」

 桜の言葉を聞いて、秋広が言う。

「へ~」

 霄も驚いていた。

「いや、ちげぇよ。ただ、普通よりは仲が良いかなって思ったからだって」

「ま、そういうことにしときましょうか」

 桜が言う。

(なんか、言い方がひっかかるな……)

「ねぇ、応援してあげようか?」

 いきなり、霄は言いだした。

「だから、違うって」

「意地はってないでさ、私、手伝うから」

 その目はまっすぐに集を見ていた。

「本当に違うんだって」

「じゃあ、嫌い?」

「いや」

「じゃあ、いーじゃん!」

「いや……よくねぇだろ」

 集は呆れ気味に言う。

「なんで……?」

「……別に。あ、この道、どっちに曲がるんだ?」

 集はとっさに話題を変える。

「ああ、こっちだよ」

 秋広は先を歩いて道を教える。

「秋広の家はどこらへんなんだ?」

「この近くだね。桜もこの近く」

「そうね」

 ということは、そろそろ警護も終わりか、と集は思いながら歩く。

「ねぇ、どこに住んでるの?」

「寮だよ」

 集は霄の質問に答える。

「そっか~」

「?」

「寮って学校のすぐ近くの?」

「ああ」

 すると、秋広が立ち止まる。

「僕の家はここ。じゃあ、今日はありがとう」

「ああ」

「うん」

「そうね」

 集、霄、桜が答える。

「天久君、遠いのにごめんね」

「別にかまわない。それから……集で良い」

「うん、わかった。じゃーね」

 言うと、秋広は家に入った。


 次の日。

 授業が終わり、休憩時間になる。この休憩時間は、弁当を食べたり、スポーツをしてる者もいる、長い休憩時間だ。

 集はいつも通り教室で食べようと思い、弁当を取りだす。

「一緒にご飯食べよ! 集も一緒に」

 由利と話していた霄が言う。

(まさか、昨日言ってた応援するってやつじゃないだろうな?)

「ああ、総も、食べようぜ」

「ん? ああ」

「クッ……六万君もいるのか。隙をみて逃げ出す作戦が」

「なんか言ったか、お前」

 霄は小声で言ったが、集には聞こえていた。

「聞こえてた……」

 すると、総は霄に近づいて、

「なんか、面白い事してる? 俺も混ぜてよ」

 と言った。

「いいですよ~」

「「ぐへへへ」」

「嫌な予感しかしねぇ」

 集はその嫌な予感が当たらないように、と祈りながら教室を出た。


 四人は校舎を出ると、木の下に座った。

「あ、天久君、その弁当、買ったやつでしょ」

「ああ」

「そういえば、寮に住んでるんだっけ? ご飯は作らないの?」

「めんどくさくてな」

「ふーん……」

 総も由利も霄も、どうやら作った弁当ようだ。

「ああ、飲み物買ってくるよ」

 集は思い出したかのように言う。それに対し、

「俺がいこうか?」

「私も行く! から、天久君は待ってて」

 と総と霄が言った。

「いや……別に」

「いいからっ」

 言うと、総と霄は飲み物を買いに行った。

「あの二人、随分と仲が良くなったようですね」

「そうだな……多分……おそらく……」

「どうかしましたか?」

「いや……うーん」

「?」

 由利はよく分からない、という顔をする。

「恩返しをしたいと思っていたんだが」

「誰にです?」

「天明さんに」

「私!? 恩なんてあります?」

「ああ、ある」

「私、あなたに何かしましたっけ?」

「ああ……まぁ、明日でも良いか」

 集は呟くと、上を見た。木の葉の隙間から青空が見えた。

「そういえば、作戦はいつなんだ?」

「明後日です」

「気をつけてな」

「はい」

 そんな会話を、総と霄は遠くから眺めていた。

「へえ」

「良い感じだ」


 その日の帰り。

 集はまた、霄、秋広、桜と帰っていた。

「どーです? この応援っぷり」

 すると、唐突に霄は言う。

「別に『応援してくれ』なんて言ってないだろ」

「なにそれ?」

 桜はついていけてないのか、訊く。

「ああ、天久君の由利との恋を応援しようっ! っていう」

「別に、好きじゃねぇよ」

「ふーん。そうなんだ。私も出来たら、手伝うね」

「うん、ありがとう」

 霄と桜で話が進んでいくので、集は慌てて言う。

「別に、応援しなくて良い。それに……」

「それに?」

 秋広は続きが気になったのか、そう言った。

「俺から言わせれば、お前らの方が仲良いぞ」

「おまえら?」

「日向さんと総だよ」

「そうかなぁ?」

 霄が言う。

「ああ」


 その次の日。

 また総と霄と集と由利は同じ場所で弁当を食べていた。

「俺、飲み物買ってくるよ。一人じゃ持てないから、天明も来てくれないか?」

「あ、はい。わかりました」

 集が言い、自動販売機に向かって歩き出すと、由利もそれについていった。

「まぁ」

「これならいいか」

 霄と総が言う。

「なぁ、日向。お前のこと、霄って呼んで良いか? 俺も総で良いから」

「あ、うん。良いよ」

「霄」

「ん?」

「いや、呼んだだけだ」

「なんだよ、もう」

(ま、確かに、これなら仲良く見えるのかもね)


 集は校舎に入ると、一階にある自動販売機に着いた。

 集は金を入れて、適当にボタンを押していく。

「なぁ、天明は何が良い?」

「あ、お金は払いますよ」

 集に訊かれて、由利はそう答える。

「いや、良いよ。この前、奢ってもらったしな」

「この前……?」

「おいしい天然水」

「ああ、あの時」

 思い出した、というような顔をして、由利が言う。

「あの時はありがとな」

「はい」

 すると、集はおいしい天然水のボタンを押す。

「で、天明は何が良い?」

「では、私もそれで」

 言われた通り、集はもう一度、おいしい天然水のボタンを押した。

「任務、明日か」

「はい」

 沈黙が続く。

「……頑張れよ」

「はい」

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