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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
秋の桜篇
7/32

代わりに償われるもの〈覚醒〉

 それから、豹が来ると、車で葉汰を運び、「日向、天明、六万、集、五条は訓練施設に来い」と言って訓練施設に向かった。

 秋広は「葉汰はどうなったんだ」とかを言っていたが、集が「あとで話す」というと、何も言わなくなった。

 そして、五人はAHMO訓練施設の教室に着いた。

 静かな教室で由利は話しだす。

「五条さん。あなたが居た場所はこの国を敵にまわそうとする組織のアジトです」

「え?」

「あなたが何を説明されたかは知りませんが、とりあえず私の話を聞いて下さい。唐沢さんが使ったあの機械は異常成長オーバー・リミットと言って、脳内にあるGHD-442を活性化させ、能力を底上げする代わりに、一度目の使用で30%、二度目の使用で100%の死亡をリスクとする機械です」

 由利は、私情をはさむ事はなく、事実を淡々と告げる。

「じゃあ、葉汰は……」

「まだ、分かりません。しかし、二度目なら死ぬ事は確定しているでしょう。五条さん、あなたはそんなものを渡す組織を信じれますか?」

「僕は……リスクなんて無い、と言われて渡されて、そんな悪い組織だって事も、知らされてなくて……」

「そうですか」

 すると、豹が教室に入ってきた。

「皆、揃っているな」

「豹……」

 集が呟く。

「唐沢葉汰の死亡を確認した。死因は……言わなくても分かるか」

異常成長オーバー・リミット?」

 秋広が言う。

「その通りだ。五条から話も聞きたいが、その前にお前らの疑問を解消するのが先か」

「ああ。何故、五条や唐沢があそこに居たんだ?」

 集は冷静に言った。

「それは俺にも分からん。が、異常成長オーバー・リミットは能力者にしか使えない。だから、二人が利用されていた可能性はある」

「ああ、五条も利用されていたという感じがする。なら、俺らの能力が上手く発動しなかったのは?」

「発動しなかっただと!?」

 豹は驚く、が、

「それは、葉汰の能力が静止ストップって言って、物体の動きを止める事が出来るらしくて、それが原因で天久君の水や六万君の風が止まったんだと思う。ただ、あそこまで強力じゃなかったんだけど」

 秋広が正しい情報を告げた。

「それは異常成長オーバー・リミットのおかげだろうな」

「つまり、異常成長オーバー・リミットには能力テストでBを取った奴を皆あれだけ強く出来んのかよ」

 それほどまで、異常成長オーバー・リミットは強い。いや、強くする。

「全員が全員、あそこまで強くなるという訳ではあるまい。ただ、二回目は一回目より更に強くなるという傾向があるからな」

「つまり、唐沢は二度使ったんだな?」

 集は豹の気休めからその事実を推測する。

「ああ」

「じゃあ、もういいか?」

「ええ」

「俺も、もういい」

「そうだな」

「失礼します」

 四人は教室から出た。

「ああ」


「まさか……異常成長オーバー・リミットがここまで強力な物だとはな」

 集は部屋を出ると、言った。

「ああ、あれが能力者にしか使えないなら、この学校が襲われるかもな」

 総は危険を示唆した。

「つまり、誘拐に来るかも、ということですか?」

 その示唆から、由利は明確な答えを出す。

「いや、それはないだろう。むりやり捕まえても、むりやり意志を変えさせることはできない」

「でも、やろうと思えば、洗脳も、心を砕くのも訳無いだろう?」

 集の否定に、総が否定した。

「いえ、誘拐に来られても大丈夫だと思いますけどね」

 由利が言った。

「なんでだ?」

 集はそれに疑問を持つ。

 危険を想定して行動するなら、楽観的に考えるのは、良いとは言えない。とりかえしがつかない事がおきないように、悲観的に、有り得る全ての事態を模索し、その中から最も確率の高いものを選ぶべきだ。

「この学校は未来の兵士が多く居る所です。今回の件もありますし、元々、警備は厳重の筈ですから」

 しかし、由利の口から出てきた言葉は、客観的に推測していて、理屈も集を納得させるには、足りていた。

「その考え方があったか、って、学校?」

 そして、集は納得し、由利に感嘆し、その後、由利の言葉に違和感を持った。

「ま、皆学校って呼んでるしね~」

「そうなのか?」

 霄の言葉に集は驚く。

「まぁ、厳密には訓練施設ですが」

「AHMOもそこまでこだわってはいないだろう」

 と由利と総が言い、

「うーん、じゃあ、まぁ、学校でいいか」

 集は一人、納得した。


 それから、豹は秋広に事情を説明した。

「五条。異常成長オーバー・リミット。持っているなら、ここに持ってこい」

「はい」

 秋広は返事をすると、教室から出た。

 日はもう沈んでいた。


「まだ帰ってない!?」

 桜は電話をしていた。秋広の家に、だ。

 秋広に用事があったのだが「家に居ない」とのことだった。

「はい、ありがとうございました」

 電話を切ると、玄関に向かった。

「ったく、どこにいんのよ」

「どこかに出かけるの~?」

 母の問いかけ。

「うん!」

 桜は返事をすると、靴をはき、家を出た。

「やみくもに探しても意味ないわね」

 桜は家を出ると、そう考え、端末を操作して秋広に電話する。

『はい? 桜?』

 電話をかけてから、30秒も経たずに秋広はでた。

「秋広。今どこ?」

『う~ん、家の近くだね』

 単刀直入に聞く桜に対し、秋広は誤魔化して言う。言おうと思えばもっと正確な位置を伝えられるにも係わらず、だ。

(つまり、会いたくないってわけね)

「わかった。待ってなさい」

『う~ん』

 秋広は桜に肯定とも否定ともとれないような返事をしていると、

「秋広!」

 桜はたまたま秋広を見つけて、叫んだ。

「あ、桜」

 そう返事をした秋広は大きい紙袋を持っていた。

 歩いていた方向も、家とは逆方向だ。

「何処か行くの?」

「学校」

 秋広は即答する。誤魔化して、問い詰められるより、即答し、桜の用を済ませ、すぐに一人で学校に向かった方が良いと思ったからだ。

「なんで?」

「まー、色々あって」

 秋広は何気なく言う。

 ただ、桜はその「色々」が怖かった。

「何があったの!?」

「それは……言えない」

 また、秋広は歯切れの悪い返事をする。

「葉汰が、死んだのと関係あるの?」

 その言葉に秋広は驚いた。

「桜……知ってたの?」

「……うん、豹先生に聞いた」

 桜は辛そうな顔をして、言う。

「だいじょうぶ?」

「ちょっと、辛いかも」

「うん」

 秋広は自然と桜の手を握ろうとして、やめる。

(僕にこの手を握る資格なんてない。この手で、葉汰を止められた筈なんだから)

「ねえ、秋広は何をしてるの? 秋広も、死んじゃったりしないよね?」

 桜は秋広に近付き、目を見て言う。

「うん、僕は死なない。大丈夫だよ」

 そして、彼は心に誓った。僕は彼女の為に死なないようにしよう、と。

 叶わない誓いを心に決めた。


「――で、桜は学校に用事でもあるの?」

 それから、秋広が学校に向かうと、桜も付いてきた。

「いや、ないわよ。帰るのが遅くなるとあんたの親も心配すると思ってね!」

「それは、桜の親も同じなんじゃない?」

 ついてくる理由になってない、と秋広は思い、呆れ気味に言った。

 ただ、辺りは暗く、電灯が無ければ前も見えていないだろう。ただ、ここらへんは発展しているので、歩くに困ることは無いが。

「まー、なに。ここであんたと別れると、あたしも心配するからさ」

「へ?」

 聞こえなかった訳では無く、信じられなかった。いつもはこんなことを言う女の子ではないからだ。

(なんか、今日は桜が弱々しく見える……)

 秋広は、その弱々しさに女の子らしさを感じている事に、自分でも気付かなかった。

「いや、なんでもないわよ」

「……ううん、ありがとう」

 秋広は意識せずに礼を言っていた。

「別に……あたりまえじゃない」

「うん」

 少し、頬を赤く染めて言った桜の言葉に秋広は頷いた。

 そして、桜は秋広の手をありったけの勇気をふりしぼって握ろうとする。その手が、秋広の手と触れ合う寸前。

「五条秋広。君には死んでもらう」

 前にいる男からそんな声が聞こえた。

 その時の秋広の反応は速かった。

 一つは秋広は、いつでも異常成長オーバー・リミットを取りだす準備をしていたから。

 秋広は異常成長オーバー・リミットを取りだし、頭にはめる。と同時に男は銃を取りだした。

 男は焦っていた。

 異常成長オーバー・リミットを持っていても、ここまで反応が速いとは思わなかったからだ。

 秋広の反応が速かった理由のもう一つは、秋広が能力を発動し続けていたこと。

 秋広の能力、超人ビヨンド・ヒューマンは脳が本来自ら枷をかけて使わなくしている部分すら、使い、脳の限界、肉体の限界を越える能力とされているが、彼が使ってでる効果は視力が上がるとか、考える速度が速くなるとか、体を動かす速度が速くなる程度だ。

 実際、これを使って長距離走をしたが、集にも総にも勝てなかった。

 能力テストのBも希少性からBにしてもらったが、本来ならCだ。

 ただ、その能力が今回は役に立った。

 男の小さな油断をついた大きな反撃の第一歩として。

「ごめんね、桜。でも、君は死なない」

 秋広は、言いながら、過剰成長オーバー・リミットの起動スイッチを押した。

「あき……ひろ?」

 桜は戸惑った。今の言葉はまるで……。

 その答えが出るより速く、秋広は動く。

 今の彼は、能力名に劣らない、超人。人を越えた者。

 脳は人では想像できない速度で活動し、体はものすごい速度で動く。

 男が銃の引き金を引く、ただ、その銃はもう上に向けられていた。秋広が男の手を掴んで、上に上げたからだ。

 今の秋広は、脳の限界、肉体の限界だけではなく、人の限界を超えている。

「なっ」

 そして、秋広は男の腹を押した。ただ、その速度は尋常じゃないほど速く、男の腹を貫かんばかりに放たれたそれは、男を吹き飛ばし、壁に激突させる。

 秋広は桜の方を向いて、遺言のように言う。

「……ありがとう」

 そして、秋広は倒れた。

「あきひろ? 秋広!」

 桜は秋広の名を呼ぶ。昔と変わらずに。なのに、秋広はいつものように返事をしてくれない。

 桜は警察に電話をかけようとする。

(でも、秋広も捕まっちゃうかも)

 迷った末に桜が電話をしたのは、

『どうした?』

「豹先生? 来て! 秋広が!」

『分かった』

 豹だった。


 次の日。

「うー……眠い」

 集は学校に向かいながら、そう呟いた。

「さすがに、任務が終わった後も勉強するのはやめといた方が良かったんじゃないですか?」

 端末からぺノが言う。

「いや、こういうのは習慣にした方が良いだろう?」

「それはそうですけど。集様が毎日勉強、なんて習慣に出来るとは思えません。週に二回にくらいにとどめておいてはいかがですか?」

 ぺノが正論を言う、が、それを素直に肯定するのも何故か癪だったので、

「集だけに、か?」

 と、集は言ってみた。

「あのー……真面目に話してるんですけど」

 ぺノは明らかに呆れていた。

「俺も結構真面目に言ったんだが」

「あっはっは。バカ言わないで下さい」

「ひでぇ」

 集がおもわず呟くと、

「天久集。何してるんですか?」

 由利に話しかけられた。

「天明さん?」

はたからみたら独り言してる変な人ですよ?」

「でも、誰も傍から見てないし」

 集の言った通り、集の周りには由利しかいない。

「それは、あなたが遅刻してるからですよ……ハァ」

「私も何度起こしたか……ハァ」

 由利とぺノはため息を吐く。

「天明さんは何故ここに?」

「授業が自習になり、私達は特別室に呼ばれたので、それを伝えに来たんです」

「わざわざ? ありがとう」

「いえ。ただ、あまり良い話しをする訳ではなさそうですよ?」

「……?」

この回は私的に大好きです。

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