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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
秋の桜篇
5/32

異常な成長

 教室。

「秋広」

「何?」

 秋広は中学からの友達、周桜あまねさくらに話しかけられ、自然と返事をする。

「昨日、あなたを見たわよ」

「え? どこで?」

 昨日というと、ちょうど異常成長オーバー・リミットを受け取った日だ。過剰に反応する。

「あなたの家の近く。なんか変な機械持ってたけど」

 案の定、異常成長オーバー・リミットを見られていた。

(家が近いからなぁ……)

「あ、あー。あれは買ったんだよ。ゲーム機さ」

「あんな形の?」

「う、うん。あははは」

 下手すぎる言い訳を笑いで誤魔化す。

「ねぇ? 秋広」

 桜は嘘を見抜く為に秋広に近寄り、言う。

「な、なに?」

 それもあってか動揺しながら言った。

「あんた、何か隠してない?」

「そ、そうかなぁ? そんなこと無いと思うけどなぁ」

「本当に~?」

 自信満々の桜の言葉に秋広は諦める。

「嘘……です。隠してる。けど、言いたくないんだ」

「なんで?」

「それも、言えないけど」

「言いたくない……か」

 少し、ほんの少しだけ桜は悲しそうな顔をした。

「いやっ、嫌いだから、とかじゃないよ? 色々と理由もあってさ」

「理由って? あ、まぁ、いいや。言わなくて。それじゃ、その、じゃあね」

「え、ああ。じゃあね」

 少しだけいつもとは違う雰囲気で、別れた。

(うーん……)

 すると、葉汰が近寄って来る。

「話は終わったか?」

「葉汰! 聞いてたの?」

「まさか。聞こえなかったよ。それで、行くか?」

「うん。行くよ」

「分かった。行こう」


「この近くだな」

 敵施設の近くに着き、集は呟く。

 四人は一度、立ち止まった。

「そうね。六万君、前に来た時はどうだったの?」

 前に忍び込んだという話を聞いていた為に、霄は総に聞く。

「総でいいけど。結構、防犯カメラがある。それこそ、側面に付けてるくらいだから、下の方はものすごい数、あるだろう」

「すごい数? って事は、大きな組織なの?」

「さぁ? 中には昨日は三人ほどしか居なかったし、中も大した設備は無い。特に大きな組織っていう印象は無かったな」

「中はどのようになっているのですか?」

 由利も総に聞いた。

「いや、何も無かったよ。異常成長オーバー・リミット以外はな」

「障害物は無し、か。ちょっとやりにくいなぁ」

「同感です」

 霄の呟きに由利が同意した。

「まー、行こうぜ? 豹も無理そうな任務は任せないよ」

 この話を続けても意味は無いと思い、集は言った。

「そうだな」

「あ、六万君?」

 背後から声が聞こえて、四人は振り向く。

「え?」

 おもわず、集は言った。

 そこには秋広と葉汰が居た。

「どうしてここに居るの?」

(こいつら、AHMO訓練施設にいた……)

「いや、別に。お前らは?」

 総は淡々と言う。

「僕も大した用じゃ無いんだ。じゃあね」

「ああ」

 秋広と葉汰は施設の方へ歩いていった。

「あいつら、この施設に用事ってわけじゃないだろうな?」

 集がその事態を危惧して言う。

「違うでしょ」

「いや、つけてみよう」

 霄は否定するも、総は面白そうだ、という顔をして行った。

「バレるだろう」

 集は言うが、

「俺なら大丈夫だ」

「いや、私に任せて」

 総と、何故か霄もやる気満々に言った。

「はぁ、二人に任せるよ。俺と天明さんはここで待機。それでいいか?」

 集はため息を吐きながら言った。が、判断として間違ったとは思っていない。集としても、任務前に不安材料は全て取り除いておくべきだと思うからだ。

 もし、誰もつけようと言いださなければ、集が言いだしてたかもしれない。

「はい。私は構いません。六万総。あまり無茶な事はよして下さいよ?」

 由利は了承し、昨日の事もあってか、総に念を押す。

「オーケー。分かってる」

「行きましょ!」

「ああ」

 言うと、二人は秋広と葉汰が歩いていった方向へ走っていく。

(こいつら、ホントにやる気だな……)

「にしても、どうやってつけるんだろうな」

「おそらく、日向霄のポーラという能力が鏡を発生させる能力なので、それで相手の位置を確認し、六万総の万里同風ルーラー・オブ・ウィンドは風を操作する能力なので、相手の位置でも確認するんじゃないんですか?」

「すごいな、よく知ってるな」

 スラスラと出てきた予想に驚く。

「いえ、そんなことは」

 由利は淡々と謙遜した。


「で、どうする?」

 総と霄はある程度走ると、止まって方法を考え出した。

「私の能力で鏡を出して、間接的に見ればいいのよ。そうすればバレないでしょ?」

「確かにそうだが、例えばあいつらがお前の鏡を見たら、どうする?」

「どうするって?」

 総の質問を理解できず、聞き返す。

「お前が鏡越しに見てるって事は、あいつらから見れば、鏡にお前が映り込んでるんじゃないか?」

「あー……確かに」

 的確な指摘に沈黙する。

「じゃあ、俺が見て、あいつらが振り向きそうになったら、言うよ」

「って、それじゃあバレるでしょ」

「屋根の上からならバレないんじゃないか?」

「へ?」

 よく分からない事を言うので、霄はただ戸惑った。

「じゃ、行ってくる」

 集は走っていく。

「ちょ、どういうこ、うわっ」

 周りに突風が吹き荒れ、離れた位置にいる総は空を飛んで、天井に座った。

「あー……なるほどね」

 規格外の能力に霄は驚きつつ言った。


「それより、気になるのはあなたです。天久集」

「へ?」

 いきなり出てきた自分の名前に驚く。

(俺が何かしただろうか?)

「あなたの能力は水を操る事でしょう?」

「あ、ああ」

 俺の能力も知ってるのか、と集は思った。

「でも、何も持っているように見えませんけど?」

「えーと、何が?」

 よく分からず、聞く。

「ハァ。これが必要なんじゃないんですか?」

 由利がバックから取りだした。

「……おいしい天然水」

 それはおいしい天然水と書かれた水の入ったペットボトルだった。

「そう。水」

「なるほど! 必要だ!」

 ようやく理解し、言う。

「自分で持ってきて下さいよ! 意識が低すぎるんじゃありませんか?」

「いやー、ごめんごめん」

 言うと、由利からそれを受け取る。

「全く。それはあげます」

「いいのか! ありがとう」

「いえ」

 会話が終わり、沈黙が訪れる。

「そのバック。他には何が入ってるんだ?」

「他には……? 銃とかです」

「銃!? ってどこで手に入れたんだよ」

 普通に銃刀法違反じゃないか、とも思ったが、状況も状況なので言わないでおく。

「普通に豹さんに頼みましたけど」

「それで貰えるのか?」

「知らなかったんですか?」

「ああ」

「……なるほど。あなたにも教えておけば良かったですね」

 集はその言い方にひっかかる。

「誰かには教えたのか?」

「ええ、日向霄には教えたのですが……」

「そっか。まぁ、俺は良いよ」

「?」

 由利は疑問を感じた、彼女にとっては銃が無い戦闘など考えられないからだ。たとえ、そこに強力な能力があったとしても。

「水が銃みたいなもんだからな」

「え?」

 軽い気持ちで呟いた集の言葉に驚愕する。

「水を、銃ほどの速度で飛ばせるのですか?」

「ああ」

「そんな……規格外です」

「そうか?」

 よく分からず、首をひねる。

「あ!」

 すると、声が聞こえる。

 桜の声だが、集は彼女を知らない。

「ん? あ、えーと」

 見覚えはあるが名前を知らない少女にどう話しかけようかと戸惑っていると、

「ああ、私は周桜です」

 桜は気を遣ってか、自己紹介をした。

「ああ、俺は天久集」

「私は天明由利です。よろしくお願いします」

 三人は流れで自己紹介をする。が、由利は桜を知っていた。

「あ、うん。ここで何してるの?」

「いや、何もしてないけど。にしても、今日は知り合いによく会うなぁ」

「え!? 私以外にも誰か会ったの?」

 桜は異常なほどに反応する。

「あ、ああ」

「誰?」

「えーと、誰……だっけ?」

 また、名前が分からず由利に聞いてみると、

「五条秋広、という方と、唐沢葉汰という方です」

 由利は明確に答えた。

「よく覚えてるなぁ」

「何処に居るの!?」

「いえ、そこまでは存じ上げませんが」

「……そう。じゃあね」

 言うと、桜は歩いていった。

(そんなに知りたかったのか)

「あ、それと、その二人の能力テストの評価は何だったんだ?」

「……? 葉汰がA、秋広がBだけど?」

 足を止め、桜は答えた。

「そうか、ありがとう」

「どうして聞いたの?」

「興味があったからだ」

「ふーん」

 それ以外にも理由はあるな、と桜は思ったが、初対面なので聞くのをためらい、帰った。

「二人の名前を出したら、随分と聞いてきたな」

「人には色々ありますから……」

「お前がずっと敬語を使ってるのにも理由があるのか?」

 おいしい天然水のふたをひねって開ける。

「それは……」

「いや、無理には言わなくても良いんだけどさ」

 そして、集はそれを飲んだ。

「あ!」

 それを見て、由利は驚いた。


 総は少し遠い屋根に座っていた。

 ここから霄に聞こえるような声で会話すると、秋広や葉汰に霄と総の存在がバレてしまう。

(あんな距離でどうやって会話するんだろう?)

 すると、総は霄の方を向いて、言う。

「入口の近くだ。周りを警戒するだろうから鏡はしまっておけ」

 風にのって、声が届く。

 霄はそういうふうに会話するんだ、という納得をする。

 総は少し遠くに下り立ち、風が吹く。

 そして、総は霄に走って近寄った。

「入口の近く? ってことは」

「ああ、施設内に入った」

「そう」

 了承すると、二人は走って集と由利の所へ向かった。


「どうして飲んでしまうのですか!」

「いやー、つい」

 集は由利に怒られていた。

「戦闘に使う分にとっておかなくては――」

「何やってんだ?」

 由利の言葉を総が遮った。

「ああ、総。どうだった?」

「入ったよ。施設に」

「……なるほど」

「目的は変わりはしません。行きましょう」

「クールね」

 おもわず、霄は呟く。

 そして、霄と由利は銃を取りだす。

「ええ、熱くなっても意味はありませんから」

 言うと、塀を触る。

 すると、塀は三か所縦に切れて、地面にぶつかった。

 天明由利の超能力、斬撃スラッシュ。触れている物体を自由自在に切り離す事が出来る、という能力を発動したのだ。

「すげえ」

 集は感心しながらも能力を発動し、ふたの開いたペットボトルの中にある水で防犯カメラを貫く。

「あなたの方がすごいと思いますが」

 呆れ声で言い、進む。

 施設の壁に触れ、

「行きますよ」

 と言う。

「ああ」

 言うと、能力を発動させ、壁と壁を切り離す。

「あれ?」

「あー、由利の能力は綺麗に切り離しちゃうんで、厚みのある壁だと倒れないんだよ」

 総は言いながら、風で壁を押し、壁を倒した。

 総と集は普通に施設内に入り、霄と由利は銃を構え、警戒しながら入る、

「な!?」

 施設内に居た葉汰が驚く。

「どーも。キミタチを倒しに来ました」

 総は言う。

 その声を聞いてか、霄と由利の銃を見てか、四人に向け、銃を構える。

「武器は取り上げまーす」

 法規を含める、四人は下からの突風に銃を取られ、それは総が二つ握り、集が一つ握り、由利が一つ握った。

「二丁も要らないのですが」

「そう言うなよ」

「こいつ、六万総じゃねえか?」

 施設内の男が言う。

(俺を知ってるって事は、AHMOを敵と見てるってことか?)

 総はそれは心の片隅に置き、

「おー、よく知ってるねぇ」

 と言い、総は持っている銃の引き金を引いて、相手の足に当てる。

「ぐっ」

「殺さないのですか?」

「武器も持ってないし、痛みで動けないだろうしな」

「そうですか」

 他の人間の葉汰、秋広、法規以外の人間には集が水を使い、足を貫いた。

 法規を狙わなかったのは、異常成長オーバー・リミットが入っていると思われる段ボールに隠れていたからだ。

「こっちの射撃は得意なんだけどな~」

 集は言い、

「何してるのさ!」

 秋広は少し遅れて叫んだ。

 すると、葉汰が走り出す。

「葉汰! 使え!」

 法規は叫び、葉汰は異常成長オーバー・リミットを手に取る。

「やめろッ、それは!」

 集が叫び、

「間に合わない!」

 霄は言った。

 葉汰は異常成長オーバー・リミットを頭に付ける。ヘルメットのような形をしているそれを付けるには困らない。葉汰が異常成長オーバー・リミットの側面にある起動スイッチを押す、と同時に霄は引き金を引く。

 その銃弾は葉汰の近くで静止した。

「あはははははははははぁ。これで! 俺の勝ちだぁ!」

 勝利の雄叫びのように、葉汰は高らかと叫ぶ。

「なに……あれ?」

 銃弾が止まるという異常な光景を見て、言った。

「まず、あいつをッ」

 集は水を怖ろしい速度で法規に飛ばす。

「ハァッ」

 葉汰は叫び、手を法規に向ける。

 水は法規の付近で静止した。

「止まった?」

 勢いが完全に死んでいる。

 その後、水は重力で落ちた。

「葉汰! 何してるのさ! 君達も!」

 秋広は叫ぶ。

「あいつは、状況を理解してないのか?」

「とぼけてんのかもね」

 総の言葉に霄が言う。

「総。風であいつを飛ばせ!」

「やってる! でも、風があいつの近くで消えるんだ」

 集の言葉に総が返す。

「何!?」

「作戦を実行しましょう。あまり物音をたてたくはないのですが」

「しょうがないだろう」

 由利の提案を総が受諾する。

 由利は壁を触り、天井にある電灯を次々と切り離す。落ちてきたそれを総が風で葉汰に飛ばす。

 しかし、それも静止した。

「無駄だ」

「行くぞ!」

 法規は言い、施設を出る。

「はい。秋広! お前も」

 葉汰は返事をし、秋広に言う。

「クッ……僕は」

「そいつはもういい。来い!」

「分かりました」

 葉汰は法規の言葉を聞き、施設を出た。

「追いかけるぞ!」

「はいっ」

「霄は五条を見ておいてくれ」

「りょーかい!」

 霄は集の言葉に即答する。

「クッ。車か」

 施設の近くには車があった。

 それに乗り込む直前、

「ぐ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 葉汰は頭をおさえて叫び、倒れる。

 法規は葉汰を見捨てて、車を発進させた。

「こいつ、どうしたんだ」

「たお……れた?」

「大丈夫なのかよ!?」

 総、由利、集が言う。

「とりあえず、豹さんを呼びましょう。その人には触らないで下さい」

「あ、ああ」

(これは、異常成長オーバー・リミットの副作用……か?)

ズルする方法があると、リスクもかえりみず、おこないたいという願望がでてきます。

それに負けたことはありませんが。

それ以前にズルする方法が思いつきませんが。

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