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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
秋の桜篇
4/32

AHMO訓練施設

 集は教室のドアを開ける。

 クラスにいた全員が集達を見る。

 集は意に介さず、進む。

 それとは違い、総は、

「俺達の席ってドコか知ってるか?」

 と、聞く。

「ああ、そこらへんだよ。自分の席なんて勝手に決めて良いんだけど、君達は遅く来たからね。ごめん」

「いやいや、カドの席が座れるなんて、ラッキーだよ」

「そう? なら、良かった」

 総は席に着く。その横に集、総の前に霄。集の前に由利が座る。

 すると、豹が教室に入る。

 あいつかよ、と集は思ったが、口には出さない。

「集まったか。では、射撃訓練からだ。5分以内に射撃室に来い。着いた者から練習を開始し、テストは今から40分後に行う」

 言いたい事だけ言うと、豹は教室から出た。

「豹が先生だったのか」

「ま、訓練施設の先生なら、適任なんじゃないか?」

 集の呟きに総が返す。

「そうだな」

 教室に居る生徒達が廊下に出ていく。

 彼らの内の数名は射撃室がどこにあるのかを知っているのだろう。

 集は彼らに付いて行った。


 昼。

 射撃訓練が終わり、体力訓練、能力訓練、知識訓練が終わる。 

「では、結果を返すぞ」

 集は豹から紙を受け取ると、

 CAACと書かれていた。

「これは?」

「右から、射撃、体力、能力、知識の成績だ」

「へぇ」

「お前は射撃と知識がまるで出来ていない。能力の発動をまず、知識として覚えろ。いいな?」

「はい」

 集は席に着く。

「総はどうだった?」

「俺はこれ」

 その紙にはAAAAと書かれていた。

「マジかよ」

「ふーん」

 霄はその紙を覗いてきた。

「お前はどうだったんだ?」

 集が聞く。

「私はこれ」

 BAABと書かれている。

「マジかよ」

 また、集は絶句した。

(すげえな。こいつら)

「集。お前は射撃をどうにかした方が良いんじゃないか?」

 総が言う。

「あと、能力知識も」

 霄も言う。

「そうだな」

「ああ、あと、俺らはあとで豹のとこに行かなきゃいけないらしいぞ」

 思いだしたように総が言う。

「私も?」

「俺もか?」

 霄と集が言う。

「ああ、それから、由利」

「はい」

「あんたもだ」

「了解しました」

 由利は淡々と了承した。


 部屋には集、霄、由利、総が集まり、豹が入る。

「んで、話って何だよ?」

 豹が話を始めないので、集が言う。

「ああ、君達には我が国にいる裏切り者を殺してもらう」

「裏切り者?」

「ああ。お前を強くする。俺はそう言っただろう? お前にはここに通いつつもこういう任務をこなしてもらう」

「なるほどな。ってことは他の三人も?」

「ああ、そうだ」

 豹は肯定する。

(ま、ただここで授業を受け続けても強くなることはなさそうだしな)

「ああ、異論は無いな」

「無いわよ」

「俺も無い」

「俺もだ」

「私も、異論はありません」

 四人の肯定を聞くと、豹は頷いた。

「そうか。では、一ヶ月以内に潰せ。あと、言わなくても分かるだろうが、失敗は許さない。分かるな?」

 すると、豹は返事を待たずに部屋を出ていった。机に情報の書いた紙を置いて。

「いつにする?」

「早いに越したことは無いと思いますが」

 総の問いに由利が言う。

「明日で、いいんじゃないか?」

「急すぎない?」

 集の言葉には霄が意見するが、

「いや、慎重にやることでもないだろう」

 霄の言葉には総が反対した。

「じゃあ、明日でいいか?」

「そうね」


 彼らはすごいなぁ、と五条秋広ごじょうあきひろは思った。

 それもそのはず、彼ら、集と総は体力テスト一位と二位。能力テストなんて、一人1分はかかるのに、彼らがかかった時間は0秒(豹が見る必要も無くAだと判断したため)。能力テストの時は個別で行うので秋広は集と総の能力を知らないが。

 集は普通だったが、総は皆ができない射撃テストでも、一番できていただろう。

 それを知れば、この施設内の誰もがすごい、と評価する筈だ。

「どうした?」

 秋広は友達の唐沢葉汰からさわようたに話しかけられる。

「いや、それよりこの後、どうする?」

 彼らはいつも一緒に帰っており、それはこの施設に来ても変わらない。秋広は葉汰にこの後一緒に帰るか、と聞いたのだ。

「俺は用事があるんだ」

「そう? ならいいや」

「ああ、悪いな」

 葉汰は言うと、教室から出ていった。

 秋広は一度、総に話しかけられている。

 総が自分の席を聞いた時、秋広が答えたのだ。

 CBBAと書かれたテストの結果を見る。

(はぁ、僕はダメダメだな)


「なぁ、ぺノ。敵勢力ってなんだ?」

 集は端末に話しかけた。

 集は一人、家へ帰っていた。

「分かりかねます。情報が圧倒的に少ないので。しかし、敵勢力が居るという施設は研究施設ですね。何を研究しているかも定かではなりませんが」

 豹から敵勢力の居場所は教えてもらっていたので、そこから考えたのだろう。

「ふーん。あと、あとで、能力知識を教えてくれ」

「勉強するのですか?」

「ああ、成績、ひどかったからな」

「はい、わかりました」

 集は今日の成績を思い出し、少しだけ憂鬱な気分になった。


 秋広は葉汰に帰りを断られた為、集同様、一人で帰っていた。

 秋広が普通に前を向いて歩いていると、前に男が立っていた。

「誰!?」

 秋広はとっさにそう口に出して警戒し、その後、今の発言は失礼だったかな? と思った。

「俺は浅村法規あさむらほうき。22歳だ」

 男は自己紹介をした。

「え? あ、はい。僕は五条秋広ですけど」

 いきなりの自己紹介に慌てて秋広も正直に自己紹介をしてしまった。

「あー、いやぁ、君。強くなりたいって思ったことはないかい?」

「そりゃぁ、いつも思ってるけど……」

 それがなんになるんだ、というのが秋広の本音である。

 そう思って、この法規と名乗った男に本音を話したとして、それは何の意味もなさない事だと、そう思うのである。

 ――それが本当に意味をなさないのであらば。

「なら、付いてくると良い。強くなれるよ」

 法規は断言した。強くなれる、と。

「でも、大丈夫ですよ」

(いくらなんでも、怪しすぎる)

 いくら秋広が騙されやすいとしても、ここまでベタな手には引っかからない。

 すると、壁から人影が見える。

 それは秋広の方へ歩いてきた。

「来いよ。秋広」

 その人影は唐沢葉汰だった。


 集の部屋。

 集の机には能力知識のテキストが並んでいる。その上に豹に頼まれた任務の詳細が載ってあるプリントが置いてあった。

「ただ、なんで俺達なんだ? この作戦、とても失敗して良いようには思えない。俺達がやるより、もっと確実な人が居るはずだ」

 集はプリントを持ち、言った。

「ええ、それは私も思いました。ただ、集様も六万総という人も強いです。ですから、信頼しているんじゃないでしょうか?」

「信頼……そうか」

 集はその言葉に納得した。

(そういえば、信頼されてるから、ぺノも渡されてるんだしな。……ん? でも、なんで俺より強い総がぺノを持っていなくて、俺は持ってるんだ?)

 集は疑問に思ったが、それは振り払い、勉強を再開した。


 敵勢力のアジト、表向きは研究施設の所に総は来ていた。

「下調べってのは重要だよね。ぶっつけ本番はよくねーと思うんだよ」

 総は独り言を言い、施設に向かって歩き出す。

 視界の隅に防犯カメラを捉える。

「防犯カメラ。結構、警戒してんのか?」

 総は言いながら、手を振る。すると、防犯カメラは風で動いた。

 総は防犯カメラが自分を捉えていない事を確認すると、能力を発動させて、風を後ろから吹かせる事により、壁を歩く。

 次々と現れる防犯カメラを能力で風を吹かし、角度を変える。

 上の方は半円柱を横に倒したような形となっており、風の威力を弱めつつ走る。

「窓が全然見当たらねぇ」

 言いながらも走り続けると、窓を見つける。

 総は窓枠を掴み、中を見る。

 中には数十人の人が居て、段ボールを運んでいた。

「あ?」

 一人の男が段ボールを開けるが、中がよく見えない。

「へぇ、って、な!?」

 男が持っていたのは頭につけるように出来ている精密機械のようだった。それを見て、総は驚愕する。

 その施設には四つの窓がある、そこからしか日光は入ってこない。

 その一つのひなたは総の影があった。

「んだぁ?」

 施設内の男がその影の異変に気付く、と同時に、総は窓枠から手を離して滑る。

「まさか……アレは異常成長オーバー・リミット?」

 落下中、総は呟いた。


 同時刻。

 秋広は施設の前に居た。

「ねえ、葉汰。大丈夫なの?」

 見慣れぬ場所を不安に思い、秋広は聞く。

 秋広は葉汰が信用しているという事で法規を信用し、ここに来たのだ。

「大丈夫だって。法規さんは信用できる人だから。付いて来れば勝手に強くなれるよ」

「勝手に……うーん」

 どうしてここまで信用できるのか、勝手に強くなんてなれるのか、秋広は疑問が次々と思い付くが、今は考えないでおく。考えたらより不安になるだろうからだ。

「まぁ、慌てる必要はないよ。五条君。今日は見てくれるだけで良いしね」

 気遣ったのか法規が言う。

「そうですか?」

「ああ」

 葉汰、秋広、法規は施設内を進んでいく。

 施設には目を遮る物は少なく、三人はまっすぐに進む。

 施設内には葉汰、秋広、法規を含めて8人ほどいる。

「んだぁ?」

 名前も知らない男が影をみてそう言った。

「どうした?」

「いえ、なんでもないっす」

 法規の問いに言うまでもないと思ったのか、答えなかった。

「そうか」

「そちらの人達は?」

「仲間さ。五条秋広君というらしい」

「仲間?」

「ああ、彼は覚醒者だからね」

「へぇ」

 会話は進んで行くが、秋広は付いていけなかった。

「覚醒者?」

 秋広は葉汰に聞く。

「ああ、能力者の事だ」

 葉汰が説明すると、法規は会話が終わったのか秋広の方を向く。その手には頭に付ける精密機械のような物、異常成長オーバー・リミットがあった。

「ちょうど、二つあるんだ。良かったら使うかい?」

 一つを秋広は受け取った。

「なんです? これ」

「それは異常成長オーバー・リミットと言ってね、脳内にあるGHD-442を活性化させる電波を流すのさ。超能力の根源は脳内にあるGHD-442に他ならない。であれば、それを活性化させることは、超能力を飛躍的に向上させる事に繋がる」

「そんなこと、可能なんですか!?」

 説明を聞き秋広は訊いた。

「ああ」

「でも、それじゃあなんで先生はそれを渡してくれないんだろう……」

「国は、色々な事を隠してる。多分、それにも理由はあるよ。でも、それを使うことは悪い事じゃない」

「……」

(これって……ズルなのかな……?)

「危険を防げるに越したことは無いんじゃないのかな?」

「え、ええ」

 納得して秋広は頷いた。

「じゃあ、今日はこれで」

「ああ」

 秋広はここに長居したくなく、すぐに帰った。

「分かっているんだろうね? あの機械だけ持って裏切るようなら」

「ええ、分かっています」

「なら、良い」

 その会話は居なくなった秋広が聞くことは無かった。


「強くなる……ねぇ?」

 秋広は部屋で異常成長オーバー・リミットを触りながら言う。

「使って……みようかなぁ」

 持ち、離す。

「やっぱり、やめとこう」


 次の日。

 集は授業が終わると、集合場所に決めた部屋に来ていた。

 部屋には霄、由利、総、集が居て、全員集まったという事だ。

「今日だな」

「少し、話したい事がある」

 総が神妙な面持ちで言う。

「なんだ?」

「昨日、敵の施設に忍び込んだんだが」

 いきなりの衝撃発言。

「え!?」

 集は短く驚き、

「六万総! 何故そのような身勝手な行動をしたのです!」

 由利は叫んだ。

(天明由利……冷静な人間かと思ってたけど……)

「わるい」

 総は謝る。

「その行動が」

 集は由利の前に手を出して、会話を止める。

「今は、続きを聞こう」

「……はい」

 由利は何か言いたげだったが、頷いた。

「続けてくれ」

「ああ。敵は異常成長オーバー・リミットを持っていた」

「え!?」

「ナニソレ」

「?」

 由利はとても驚き、霄はよく分からないという顔をし、集も声には出さないが理解はできていない。

 ドアが開く。

「ぺノに聞けば良いだろう?」

 入ってきた豹が言う。

「豹!」

「ぺノって?」

 霄が聞く。

「ぺノメナル王国製アシストシステム。通称ぺノ。天久集の持つ、その端末に居る」

「アシストシステム?」

「ああ、質問に答えてくれるのさ」

 会話がぺノの事になったので、

「ぺノ。いいか?」

「はい」

 画面にPENOという文字が浮かび上がり、ぺノの声が聞こえた。

「へー、じゃあ、あの時、話してたのは……」

「ああ、ぺノに聞いてたんだ」

 霄が理解が早いようだ。

「そんな技術。聞いたこともありません」

 由利が驚く。

「ああ、教えてないからな。この技術は集の持つ、その端末だけにしか使っていない」

「マジかよ」

 総も驚いた。

「ご用でしょうか?」

「ああ、異常成長オーバー・リミットってなんだ?」

 集はよく分からない単語を訊く。

「はい、異常成長オーバー・リミットというのは、二年前にぺノメナル王国で開発された機械です。GHD-442を活性化させる電波を流す事が出来ます。しかし、GHD-442を活性化させる事は脳に甚大な影響を及ぼし、一度目の使用で30%、二度目以降の使用では100%死に至ります。開発は中止され、所持すらも違反になる。それが異常成長オーバー・リミットです」

 ぺノの完璧な答え、あるいは発音に霄は「ほぇ~」と驚いた。

「その通りだ。リスクは高いがGHD-442が活性化されれば一時的に能力を強く発動させる事が出来る」

「相手がそれを持っている、と、警戒が必要か」

 集は意識せずに腕を組む。

「ああ、作戦を立ててから行くんだな。任務の失敗は許さんが、死にそうになったら帰って来い。いいな?」

 豹の言葉に、

「はい」

 と返事をした。


「作戦はこれで良いか?」

 作戦を練り終わった後、総は言った。

「できるだけ、この作戦は使いたくないものですがね」

「そうだな、最後の手段にしよう」

 由利の言葉に集が同意する。

「ええ、そうね! じゃあ、行きましょう」

 霄が言う。

「そうだな。誰かが異常成長オーバー・リミットを使う前に倒すんだ」

「ええ!」

 集の言葉に霄が返事をした。

 この作戦、よく思いついたな、集は思った。

(なるほど、総はぺノくらいの知識があるのかもしれない。だからぺノを支給されなかったのか)

 集が思うと、四人は部屋を出る。

 敵組織を潰す為に。被害者を、犠牲を出さない為に。

この話はあまり明るい話ではないかもしれませんね。

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