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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
マナゲットプリンセス篇
30/32

 そして、夜になった。

 そろそろ日付も変わるだろうという時間帯に集はやはり起きていた。

(しかし、そろそろマジで眠いぞ……)

 すると、集は立って、能力を発動させる。

 現れた水は上昇し、ある程度の高さまでいくと、停止した。

「やはり、あなたは私を殺そうとするのね」

 メリアは眼を開けて言う。

「起きていたのか」

「ええ。まぁね」

「……」

 すると、集はもう一度、浮いている水を動かそうとする。

 しかし、その寸前、メリアは叫ぶ。

「何故? 何が悪いと言うの! 私の愛した人が、戦争を願ってたのよ! それなら、何を犠牲にしても、そうするしかないじゃない!」

 彼女の叫びに集は何も答えなかった。

 そして、集は水でメリアを貫く。

「俺が平和を願ってる。俺の大事な人の平和を」

「そう……」

 すると、メリアはベットから下りて、集に近付こうとする。服が血に染まっていく事は気にもとめていないようだ。

 理由は彼にも分からない。ただ、集はメリアを抱きとめていた。

 すると、メリアは言った。

「アモアを……よろ、しく……ね」

「なっ」

(何故この状況で……そんな言葉が出てくるんだよ……)


 窓が割れる。

 集は地面を下り立った。

 雨が降っている。

 ただ、彼の頬を濡らしたのは涙だった。

「あぁああああああ」

 壁を思いっきり殴った。

 今までと、何も変わらない筈の暗殺だった。

 メリアのあの一言さえ無ければ。

 彼の涙は人を殺した罪悪感などではない。

 ただ、困惑であった。

 その困惑が涙となって、溢れ出ただけだった。


 7月27日。朝。

「おかぁさまぁー」

 城にアモアの叫びが反響する。

 リーフェルは言う。

「集。貴様はこの涙を見ずに逃げるというのか?」

 そして、気付いた。

「だから、お前は自分で……」

 リーフェルはその罪悪感を、メリアを殺した事で、アモアが悲しむという罪悪感を背負う為に。

「奴。このタイミングで逃げたのなら確実に犯人でしょう」

 警察の一人が言った。

 それにリーフェルは叫ぶ。

「何か証拠があって言ってるのか貴様!」

「す、すみません」

(今、姉ちゃんがこんな精神状態なのに、そんな事、目の前で言われてたまるか)

「奴は、ぺノメナルでの情勢を気にして帰ったに過ぎない!」

「は……はい」

「おい、貴様。用がある。付いて来い」


 集は端末の震動に気付き、端末を見ると、電話がかかってきていた。

 誰からかは、分からない。

(出たくないな)

 だが何故か、彼は電話に出た。

 すると、

『空港へ行け』

 という声だけが聞こえて、電話はすぐに切れた。

 その声は……。

「リーフェル?」


 集は空港にいた。

「集」

 声に振り返る。

「アモア?」

 そこには、アモアとリーフェルがいた。

「何処に行くの?」

「分からない」

 そう。彼には分からない。何処へ行けばいいのかも、どうすればよいのかも。

「そう……」

「もう。俺とは係わらないでくれ」

「嫌」

 アモアは即答した。

 その言葉に、集は言う。

「俺は……お前の母を殺したんだぞ!」

「え……?」

 すると、リーフェルは言う。

「そうではないぞ。集」

「リーフェル?」

「あの事件は権力で消させていただいたのでな!」

「だとしても……殺した事は変わらない」

「殺さねば、他に多くの死者が出ていたのだ」

 リーフェルは擁護した。

「かもしれない。けど……」

 すると、集は去ろうとする。

 その集をアモアが呼びとめる。

「集!」

「……」

 彼は何も言わず、ただ止まった。

 すると、アモアが言う。

「ありがとう」

「礼なんてやめろ」

 認めて欲しかった訳ではない。好かれたかった訳ではない。見返りを求めたつもりも無いし、礼を言われたかった訳でもない。

 だが、アモアは続ける。

「集のおかげで、母さんが悪者わるものにならずに済んだ」

「やめてくれ」

「だから」

 続けようとするアモアの言葉を集は遮る。

「もういい!」

 後ろを向いたままの集にリーフェルは言う。

「集。最後まで聞くのはお前の責務だろう」

「……」

 そして、アモアは続けた。

「だから、集のやった事が間違ってるとは思わないよ」

「……」

(間違って……いない?)

 集は、集の理想はこんなものではないのだ。皆が笑顔で、誰も犠牲にはならないような、そんな理想を彼は持っていた。

 だから、信じられないのだ。

 自分の行動が正しい、と。

 それ以外の方法が、もっと良い方法があった筈だと、いつだって、そう考えていた。

 アモアは集を後ろから抱きしめた。

「辛かったね……」

 集はその手を握った。

「俺は……」

「もういいんだよ?」

(よくは無いよ)

「もう大丈夫」

(もう大丈夫そうだ)

 集はアモアに言った。

「ありがとう」

「うん」

 アモアが抱きしめるのを止めると、集は振り返る。

 すると、リーフェルは言う。

「集。帰るのなら、飛行機は手配する」

「……」

「ただ、約束しろ! また会うとな」

「分かった。必ず、また会う」

「フン。姉ちゃん。ソイツを飛行機まで案内してやってくれ」

「うん」

 そして、二人は飛行機へと、歩きだした。

ちょっと短いです。はい。

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