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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
秋の桜篇
3/32

出会いと別れ

 そして、俺達は外に出た。

 外には2台のバスがある。

「おい、豹。他の奴は何なんだ?」

 集と豹とは別にいる何人かの生徒について聞いた。

「皆、能力者だ。お前は一号車に乗れ」

「どういうことだ?」

 状況が呑み込めず、再度聞く。

「お前はここでは無い所で強くなる、ということさ。ほら、早く行けっ」

「?」

 やはり、理解することはできず、集はとりあえず、言われたままバスに乗り込んだ。

 集が一番前に座ると、おとなしそうな目をした女の子は真ん中の方に座り、集がぺノと話していた時、「誰と話していたの?」とAHMOで聞いてきた女の子は一番後ろの真ん中の席に座った。

 最後に豹が集の隣に座り、それ以外の生徒が乗り込むことは無く、バスは発進した。

 二号車、つまり、もう一つのバスには何人もの人間が乗っているのに対し、このバスは運転手を含め、5人のみ。

 集は何故、こんなに人数に偏りがあるのか? と疑問に思い、豹に聞こうとするが、

「お前に、教えてなかった事を教えよう。質問はその後だ」

 と集に言われ、一先ずはうなづく。

「まず、確実に敵が攻めてくるであろう情報、それを伝えると言っていたな。それを教えよう。気候変動により、今まで通ることの無かった風がこちらの大陸に吹いてくるようになった」

「は?」

「簡単に言えば、風向きが変わったんだ」

「なるほど。で?」

 集は未だに理解が追いつかない。

「お前、能力者が何故生まれるか知っているか?」

 唐突になんの話を始めたんだ、と集は思ったが、豹が無駄な話をする筈も無い、と思いなおし、質問に答える。

「ああ、なんか名前は忘れたが、菌が脳内に入りこんで、能力者が生まれるんだろ?」

「ああ、ぺノメナル大陸周辺の風は特殊で、こちらの空気が他の大陸に吹きこむ事は無かったんだが、気候変動により、それが変わった」

「だから、分かんねえよ」

「つまり、ぺノメナル大陸にだけある能力者を作りだす菌が、他の大陸にもいくかもしれない、ということさ」

「なるほど、他の大陸でも能力者が現れるかも知れない、ということか」

 集はやっと理解が追いつく。

 集はもっと分かりやすく言え、とも思ったが、理論を言わなければ集は信じない。

「ああ。もし、そうなれば、今の所は攻め込まれてはいないぺノメナル大陸もいつかは攻め込まれるかも知れない。だから、その時に備えて、能力者は強くしておく必要があるということさ」

「だから、能力者がAHMOに集まっていたのか」

「ああ、このバスにいる女二人も能力者だ」

 集は後ろを見る。すると、二人の女からの視線を浴び、目を逸らした。

「ふーん。他の奴等は?」

「他の奴等は、他のバスに乗っている。この話を聞かれたくないんでな」

「つまり、あの二人には聞かれても良い、と?」

「そうだ。あいつらはお前と同じで、既に戦闘経験がある」

「何っ?」

 見た感じ、同い年くらいであろう女の子に戦闘経験がある。

 集は衝撃を受けた。

 前にぺノが『足音が聞こえなかった』と言っていたのは、こういう理由なのだが、それに集は気付かない。

「そんなに驚くことか?」

 豹は冷静に言う。

「あんなに若い女の子達が?」

「お前は5歳で既に戦闘にかりだされていただろう?」

「俺は……」

 よく考えれば、5歳で戦闘を経験している集の方が、全然特殊な例なのだ。しかし、集はそれを指摘されるまで気付かなかった。

「お前、自分だけは特別だと思ってるんじゃなかろうな?」

「……」

 集は自分は例外だ、とそう思っていたのだ。

「自分だけが戦闘に出れば、自分だけが犠牲になれば。そんな考えじゃ甘い。お前と同じように戦闘に出てる者が居て、お前と同じように犠牲になっている者が居る。あいつらもだ」

 そう言った豹の目にはうれいがあった。

「それは……」

 豹の言葉には諦めが感じとれた。これはどうしようもないことなのだ、というような。

「木野咲」

 いきなり言われた固有名詞に集は驚く。

「っ!?」

(何故……こいつが知っている?)

「お前と仲の良かった人間だろう。彼女も同様に犠牲になった者だ。手紙なら送っておいたぞ」

「くっ……」

 許された一通の手紙。それを集は咲に送った。

 今の現状を書くことなど出来ないから、咲の知りたい事なんて何一つ書かれていないけれど、集が今まで思っていたこと、これから思うであろうこと、ありったけの感謝を書いたのだ。

 書かなければ、これ以上悲しませずに済むと知りながらも、感謝を伝えずにいる事が出来ずにいたから。

「犠牲が無い世界なんて、実現できる訳が無い。お前と同じような理由で犠牲となる者もいる。理解しろ。……確実に犠牲はある。お前と俺は、それをできるだけ少なくできるように努めるだけさ」

 豹は集と目を合わせず、そう言った。

 豹は窓の外の何を見ているのだろうか?

 それとも、景色なんて見ていないのだろうか?


 咲はいつも通り、学校に向かった。

(あれ……? 集がいないな)

 すると、教室に担任の先生が入ってくる。

(大丈夫かな? 風邪?)

 色々と考えるが、先生が言うだろう、と思い、考えないことにした。

「天久集だが、親の都合で転校する事となった」

 先生の言葉は、咲が予想していたものとはまるで違っていた。

 その言葉は、深く、彼女の心を抉った。咲は集の事が好きだから。

(お姉ちゃんも、集も、皆居なくなっちゃうんだ)

 咲は今は会えぬ姉を思い出して、辛くなった。

 ただ、誰にも悟られたくはなかった。慰めて欲しくはなかった。


 咲は家に向かって歩いていた。

 昨日、ここを集と歩いていたと気付く。

 できるだけ、それを考えないように歩くが、涙が止まることは無い。

 走った。

 できるだけ、今の姿を誰にも見られたくなかったのだ。

 しかし、日常的に走ることをしていない咲は止まってしまう。

 前を向きたくないけれど、前を向かなければ倒れてしまう。

 誰かに気遣って欲しくない。誰にも話しかけて欲しくない。

 そう思って歩く。

 咲は家の前に着く。

 やっと着いた、と思い、涙を拭って家に入る。

 2階から、

「手紙、あんたに届いてたから、部屋に置いておいたわよ」

 という母親の声が聞こえてきた。

「うん」

 小さく返事をすると、部屋にかけ足で行く。

(もしかしたら……)

 ガチャッ。

 机の上には『咲へ』と書かれた手紙は置いてあった。

 その裏を見ると、『天久集より』と書かれていた。

「集……」

 ひっこめた筈の涙がもう一度出てきて、咲は手紙をうまく読むことが出来なかった。


「着いたぞ。ここだ」

「ああ」

 俺はバスから降りると、豹と女の子二人も降りた。

 バスを降りると、目の前には大きな建築物があった。

「ここって、訓練施設?」

「その通りだ。AHMO訓練施設」

 豹は肯定する。

「は? 俺にここに行けと?」

「ああ。そうだ」

「そんなんで強くなれんのかよ!?」

「なれないだろうな。詳しい話はあとでだ。とりあえずは入れ」

「……わかった」

 また、何も説明されず、集は施設に入る。

 二人の女の子もまた、施設に入った。

 自動ドアが開くと、一人の男が立っていた。

 まだ少し寒さの残る時期だ。男は長袖だった。

 施設の暖房はついてなかったが、集も長袖の為、問題はない。

「初めまして。催花雨ライビング・ウォーター

 その男は集を見て、そう言った。

「何故、俺の能力名を?」

 催花雨は集の能力名。簡単に言えば、AHMOが能力者とその能力を分かりやすく理解する為に付けた名前だ。

 AHMO本部では名前は覚えづらいとか、そんなものは要らない、などの意見が飛び交っているが、一部の熱狂的な者に支持されていて、未だに能力名は作られ続けている。

「知ってるさ。豹に聞いたからね」

「へぇ。お前は?」

「俺は六万総むつまそうだ。総で良い。それとも、能力を聞いているのかな?」

 能力というのは、隠したがる者が多く、隠したがらない者は、開き直っているか、隠す必要が無いほど強い者か、だ。

「いや、大丈夫だ。俺の名前は……」

「いや、知ってるよ」

 俺の能力名を知ってて、名前を知らない筈もないか、と集は思い、納得した。

「集。六万は10年前、お前と共に闘っているぞ」

 豹は総について、集に話した。

「え!?」

 総は見た目的に同い年に見える。

 ということは10年前なので集と同じく5歳前後で戦場に連れて行かれたこととなる。

「そーなんだよね。お互い、会ってないから、当然知らないと思うけどさ」

「つまり、お前は10年前から戦闘に出るほど強いのか!?」

 総の言葉を無視して――意図的では無い――豹に聞く。

「いや、俺なんて君に比べたら雑魚だよ。ね? 豹さん」

「いや、AHMO本部からは六万が二位で集が三位と聞いている。つまり、お前の方が強い訳だ。六万」

「へぇ。でも、それってどうせ、一対一の時、どちらが強いか、とかでしょ?」

 喜ぶ様子も無く、総は言う。

「ああ」

「それじゃ、意味無いよ。俺、能力にも一長一短があると思うんだよね。俺一人でなんでもできたら、10年前に俺達、二人共呼ばないでしょ?」

「そうだな、じゃ、俺は行くから、ここで待っていろ」

 豹は言うと、部屋を出ていった。

(10年前……か)

「ねえ、集」

「なんだ?」

「偶然かな? 強い能力者である、君と俺が同い年なのは」

「そうなのか」

 同い年という初耳情報に驚く。まぁ、ある程度予想はついていたが。

「君、兄弟はいる?」

「いや、いない。なんでだ?」

「親子では能力者になるかどうかの関連性はほぼ、無いと言われてるんだけど。兄弟は別でね。上が能力者だと、80%下も能力者になるのさ」

「そうなのか、お前は兄弟は?」

「いない。いれば良かったんだけどね」

 総が言う。

 すると、女の人が部屋に入って来る。

「生徒さん達ですね。付いて来て下さい」

「生徒!?」

 集は驚いて言った。

「訓練を受ける者を仮にそう呼んでるんじゃないか?」

「その通りです」

 女の人は総の指摘に肯定すると、歩きだした。

 集と総が女の人についていくと、バスに乗っていた女の子二人も、ついてきた。

「ねえ、集。あの二人は君の知り合い?」

 総は集がバスで一緒にいた二人を見て言った。

「いや、一人は会話したことだけはあるけど」

「ふーん」

「ねえ。詳しい事でも知ってるの? 私、どこに向かってるのかも知らないんだよね」

 ぺノの事について聞いてきた女が聞いた。

「いや、俺達もどこに向かってるかは知らないな。あんた、名前は?」

「私は日向霄」

 総はさらっと名前を聞き出す。

「君は……天明由利だな」

「ええ」

 総はおとなしそうな目の女の子の名を言う。

「ああ、俺は六万総」

「俺は天久集。まぁ、よろしく。ってか、知り合いなのか!?」

「ええ」

「昔にちょっとね」

 などと彼らが話していると、

「着きました。こちら、一階の一年生教室です」

 と言い、女の人は止まった。

「一年生教室って学校みたいだな」

 集が言う。

「一応、訓練施設とされていますが……。あと、二年生はこの施設には居ません」

「へえ」

「では、失礼します」

「ああ、ありがとな」

 総は女の人に礼を言う。

「いえ」

あまり、話が進みません。

話が進まないというのも、色々あって、時間が経って噴火するから、今はその前段階、だとか、わざと止めている事によって、あとからの加速をより目立たせる、だとか、があると思うのですが、これはただ単純に最初だから進むに進まないだけです。

頑張ります。

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