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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
マナゲットプリンセス篇
28/32

それぞれの思惑

 部屋には円卓があった。

 その円卓にそれぞれ座っている。

 その部屋はぺノメナル王国の首都、キュルエールにあり、硬度は相当高かった。だが、それを外観から分かる者はいない。

 まるで、普通の建物のようによそおって、その壁は相当固い造りになっているのだ。

 部屋には何人もの人間がいた。それぞれがそれぞれのパソコンを見ていた。

 その部屋の一人、種市縁滋郎が言う。

「諸橋遷都は殺しておく必要がありそうだな」

 その言葉に豹が返す。

「しかし、彼は能力者中『最強』ですよ」

「『最強』か。それは、我々が付けた名だったな」

「ええ。それによって、油断をしないように、と」

「フッ。まぁ、油断しなくとも殺されるがな」

「ええ。彼はとても強い。確かに、戦争前に彼を殺しておく必要はありますね」

 縁滋郎と豹以外は話さない。

 ただ、二人の会話を聞いているだけだ。

 また、縁滋郎が言う。

「ああ。だが、最悪、六万総さえいれば、戦争には勝てる」

「彼の対策もしてくるのでは?」

 豹の指摘に、縁滋郎は考えを変えた。

「では、日向霄も使うとするか」

「日向霄?」

 豹は疑問に思う。

(霄に戦闘能力など、あっただろうか?)

「ああ。彼女の力も、使い方しだいではかなりの力を誇るからな」

 豹は縁滋郎の真意は分からなかったが、知る気もなかったので、

「そうですか」

 とだけ言っておいた。


 会議が終わると、豹は円卓のあった部屋を出る。

 そこで、彼の端末が震動した。

 着信があると震動するように設定していた為、着信だと気付き、端末を操作して電話を繋げた。


 一方、豹に電話をかけていた相手が居たのはキュルエールでは無かった。かといって、集のようにぺノメナル外にいる訳でもない。

 頼十は部屋にいた。

 ただ、部屋には何も物が無くて、閑散としていた。

 そんな中、頼十が言う。

「豹。言われた場所は全て回ったが、何処にもセイスンという奴はいないぞ」

『何? やはり、そうか』

 豹の返事の中の「やはり」という所に頼十は少しひっかかったが追求はせずに、謝った。

「悪いな」

 今回は情報通りの場所に行ったのに誰もいないのだから、頼十は悪くないのだが。

 豹は申し訳なさそうに言う。

『続けて任務を頼んで良いか?』

「なんだ?」

 頼十の問いに答える。

『諸橋遷都の殺害、だ』

 すると、その言葉を聞いてすぐに頼十は返した。

「無理だっつーの」

 そもそも、「諸橋遷都には手を出すな」というのが本部の意向では無かったか。

 すぐに謝る頼十に豹は補足説明する。

『いや、『十道テンロード』だけじゃない。『湶望ホープ・ウェトランズ』や『バストバレー』も来る。というか、全チームで向かう』

「『バストバレー』は、来ない方が良いんじゃないか?」

 頼十が言うが、その提案には取り合わなかった。

『まぁ、そう言うな。頼むぞ』

「了解。で、いつ?」

 頼十は一先ず了承すると、詳細を訊いた。

『明日の夜だ』

「了解」


 バリィン。

 騒音を立てて窓ガラスが割れた。カーテンには小さな丸い穴が開き、床には銃弾が突き刺さった。

 敵。

 起きていたなら即座にそう判断しただろう。ただ、その部屋で起きていたのはアモアだけだった。よって、敵の襲撃を即座に理解したのはアモアだけという事となる。

 集は今の騒音に気付かず寝ていた。

 アモアは集を揺すりつつ言う。

「集。集! 起きて!」

 だが、集は起きない。

 すると、部屋のドアが開いた。

 そこにはリーフェルがいた。

 リーフェルは走ってベットに近付くと、集のおでこを叩いて言う。

「起きろ! バカ!」

「う、うん?」

 寝起きにはあまり嬉しくない怒号とおでこの痛みで集は起きると、眼を開けた。

 その様子を見て、リーフェルはすぐに言う。

「起きたか。速く逃げろ!」

 すると、部屋には兵士が次々と入ってきている所だった。

「いいか。あの兵士は味方だ。だが、窓の外には我々を狙うスナイパーがいる」

 リーフェルが状況を説明すると、集は起きあがって言う。

「そうか。俺が倒す」

「何?」

 集はリーフェルの言葉に答えずベットから出ると、燕尾服に触れた。

(今はもう、マナゲットの人は殺せないとか、言ってる場合じゃないな)

 そう考えると、水を発生させて、床に突き刺さった弾丸に近付けた。そして、弾丸の上に水を置いた。弾丸は床に深く刺さっており、水が床より高い位置にはこなかった。

(おそらく、スナイパーはそうは動かない。となると、この弾丸が来た方向に居る筈だ)

 そして、床に刺さったあとから敵の位置を予測して水を飛ばす。その水はカーテンにもう一つ穴を開けて、割れた窓の間を通って飛んでいった。

「俺はスナイパーを倒しに行く」

 集が言うと、アモアは心配そうに返した。

「集。大丈夫?」

「ああ。それから、リーフェル」

 集がリーフェルの方を向く。リーフェルも集の方を向いて返した。

「ん?」

「サンキュー」

 集は礼を言うと、窓から飛び下りた。

「フッ」

 後ろからリーフェルの笑い声が少し聞こえたが、今、気にしている暇は無い。

 すぐに水を発生させ、足場を作ると、その水の足場自体を動かしてスナイパーの方に近付く。そして、目の前に水の壁を発生させた。

 スナイパーは銃の引き金を引き、弾丸を集めがけて飛ばす。その銃弾は高速で動き続ける水の壁に阻まれ、弾丸はまたもや彼方へ飛ばされる。

 そして、集がスナイパーの立っているビルの最上階に着く。

「おい。俺を殺していーのかい? 『悪魔の惨劇』の元凶さんよぉ?」

 スナイパーがクツクツと笑いながら言う。

 対して集は淡々と言った。

「悪いな」

 その言葉にスナイパーはもう一度笑い、迫る水の弾丸が貫くのを待った。


 集のいなくなった部屋では。

 リーフェルがアモアに言う。

「姉ちゃんはここで待ってて」

 アモアはそれを拒もうとしたが、自分が何も出来ない事も分かっていたので、短い沈黙の末、答える。

「うん」

 リーフェルは兵士を待機させて部屋を出て、ドアを閉める。

 そこには5つの死体があった。廊下は血で真っ赤になっていた。

「気付かれていたか」

 リーフェルは集が言った言葉を思い出し、隠し事はお見通しだったと思いつつも、使用人には別の事を言う。

「姉ちゃんの時間稼ぎはしておくが、出来る事ならバレたくはない。掃除は急いでくれ」

「了解しました」

 使用人は答えると、掃除を始めた。


 集はアモアの居る部屋に戻った。

「アモア。大丈夫だ。敵は倒した」

「うん」

 すると、ドアが開き、使用人が入ってきた。

「お掃除に参りました」

 使用人は軽く一礼すると、箒でガラスの破片を集め始めた。

 集が地面に刺さった銃弾を取ろうとすると、急いで使用人が駆け寄り言う。

「私がやります」

 焦りながら言う使用人に、集は「いろいろあるんだなぁ」と思いつつ、別の言葉を返す。

「そうか? わかった」

 まぁ、俺が掃除したら怒られたりするのかもしれないし、彼女なりの矜持があるのかもしれないし、とにかく手伝わない方が良いんだな、と集は思う。

 すると、リーフェルも部屋に戻ってきた。

「ちょっといいか?」

 集の言葉にリーフェルは驚かず答えた。

「構わない」

 そして、二人は部屋の外に出た。

 そして、使用人がアモアに言う。

「アモア様。お話しませんか?」

「え? あ、はい!」

 アモアがこんな事を使用人に言われるのは、初めての事である。


 部屋を出てすぐの廊下。

 集はそこにある死体を見て、驚きはしなかった。

「場所を変えよう」

「ああ」

 集の言葉にリーフェルが答えた。その返事を聞いて、集が歩きだす。

 そして、二人がリーフェルの部屋の前に着くと、リーフェルがドアを開け、中に入った。

「お前も入れ」

 リーフェルの言葉に集が頷くと、集も部屋に入った。

 そして、ドアを閉め、言う。

「外からの狙撃なら分かるが、何故城内に敵の侵入を許しているんだ」

「すまない。おそらく、裏切り者がいる」

 リーフェルの言葉に集が返す。

「検討はついているのか?」

 リーフェルは頷いた。

「ああ。だが、すぐに捕らえようとすれば逃げられるだろう」

「そこまで手強いのか?」

「そういう事に関してはな」

 リーフェルの言葉に集は思う。

(そういう事に関しては、ということは、戦闘自体ではそこまで手こずらないという事か)

 そこまで思考した後、集は訊く。

「そうか。で、誰だ?」

「それは、悪いが教えられない」

 リーフェルの言葉に集は眉をひそめて訊いた。

「何故?」

 その質問に、戸惑わず、あらかじめ用意してしたのではないか、と思わせるほどすぐに返した。

「お前を信用していない訳ではないが、この会話が聞かれていないとも限らない」

 リーフェルの言葉に、集は再度眉をひそめた。

「もし、聞かれていたのなら、逃げてしまうぞ?」

「いや、逃がしはしないさ」

 リーフェルの言葉に強い意志が込められているような気がして、集は心配はしなかった。

「そうか……俺に教えなくて良いんだな?」

「自分の力を過信するな。お前など要らん」

 リーフェルの突き放すような言葉に集は「そうか」と返してドアを開けようとするが、そうする前にリーフェルが呼びとめる。

「あ、あともう一つ」

 そう言って、リーフェルは端末を集に見せるように持ちあげた。

「なんだそれ?」

 集が振り返って言うと、リーフェルは手を端末に触れさせて、動画を再生させた。

「ネットにアップされた動画だ」

 リーフェルが補足説明する。

 その動画は集が水の足場で飛んでいる動画だった。

「なっ」

 集が軽く驚くと、リーフェルは言う。

「この前は夜明けだったから良かったが、今回は昼だからな。目撃者は多い」

 リーフェルの言葉に集は何も返さない。

「お前が『悪魔の惨劇』の元凶ではないか、という考察をしている者もいるぞ」

 リーフェルの言葉を聞き、集は話題を変える。

「俺が殺したスナイパーは?」

「それはこちらで回収済みだ」

 リーフェルの言葉に感心する。

「そういう仕事は速いのな」

 もし、回収していなかったら、更に大事になっていた。

 リーフェルは話を戻す。

「当たり前だ。で、お前は『悪魔の惨劇』の元凶なのか?」

 集は答えた。二か月前、集の部屋でアモアが自分の名を集に明かした時のように。

「ああ」

 ただ一言の肯定。

 だが、それは特別な意味を持つ。

 リーフェルは淡々と言った。

「そうか。では、お前は殺さなくてはならない」

「……」

 集が何も言わないのを見て、リーフェルは奥歯を噛みしめた。

「お前、何しに来た」

 何故、来たのか? リーフェルはただそう訊いたが、集はその言葉に来て欲しくなかったという意味を感じとった。だが、集も旅行気分で来た訳ではない。彼は目的も無くルンやリンに別れを告げた訳ではない。

 そして、集は言う。

「戦争を止める為だ」

「そうか」

 集の眼から意志を感じとったリーフェルは眼を合わせずに言った。

「牢獄に居てもらう」

「わかった」

 集は反論しなかった。

 そんな集も見て、リーフェルは笑って言う。

「フ、冗談だ。ただ、母もこう言うとは限らんぞ」

「いいのか?」

 集が訊くと、リーフェルは答える。

「ああ。お前は殺そうと思えば俺も姉ちゃんもすぐに殺せたが、そうはしなかった。なにより、姉ちゃんが生きているのはお前のおかげだろう」

「かもな」

 集の返事を聞いて、リーフェルは優しげに微笑んだ。

「だから、俺はお前を信用している。お前を牢獄に入れる必要などない」

「ありがとう」

 集が礼を言うと、リーフェルはいつもの無愛想な顔に戻り、言った。

「フン、大した事はしてないさ」


 集はリーフェルの部屋から出ると、廊下を歩いた。

 すると、前から女の人が歩いてくる。

「貴方が天久集さんですか?」

 女の人の問いに答える。

「はい」

「お話がありますので、着いて来て下さい」 

 言うと、女の人は歩きだすので、集はついて行った。

 リーフェルはそんな二人を気付かれないように見ていた。


「ここです」

 女の人はいきなり立ち止まるとそう言った。

「ここ?」

 集の問いに答える。

「ええ。入りましょう」

 女の人は言うと、ドアを開け、部屋に入った。集も入る。

 その部屋はとても広くかった。女の人はソファに座る。集はテーブルを挟んで向かいの椅子に座った。

「申し遅れましたね。私はメリア=マナゲット。アモアとリーフェルの母です」

 メリアの自己紹介に集は慌てずに答える。

 相手がメリアだという事の検討はついていた為、慌てる事は無かったのだ。

「どうも。天久集です」

 集は一応自己紹介した。

「はい、存じ上げています。アモアとリーフェルととても仲が良いのですね」

「はい」

 集は答えつつも心の中では他の事を考えていた。

(本題は?)

 その心の声が聞こえた訳ではないが、メリアは本題に入る。

「で、本題に入りますと、貴方の事ですが、貴方は能力者なのですか?」

「はい」

「能力をお聞きしても?」

 メリアは疑うような眼をしていたが、集は気にも留めなかった。

「構いません。俺の能力は水を操る事です」

「そうですか」

 集はメリアがそう言った時、少しわざとらしいと感じたが、気の所為かもしれない、と決定付けはしなかった。

 そして、探りを入れる。

「俺の情報が国中に広まってしまい、申し訳ありません」

 メリアは慌てずに答える。

「いえ。むしろ、アモアも護って下さり、ありがとうございます」

 慌てなさ過ぎとは思ったが、王女という立場なので、これが普通なのかもしれない。

 すると、メリアが言う。

「それで、提案なのですが、貴方の情報がこれ以上拡散するのを止める代わりに、私を護ってくれませんか?」

 メリアの問いに答えを返さず、質問をした。

「護る? というと、誰かに狙われているのですか?」

「いえ。そういう訳ではありませんが、どうでしょう?」

 メリアに聞かれ、即答する。

「わかりました」

 すると、メリアが言う。

「ありがとうございます。では、今からお願いできますか?」

 メリアの問いに集が軽く驚く。

「今から? 城の中にいるのに、ですか?」

「はい」

 メリアの頬笑みながら言った言葉を聞いて、集も返した。

「わかりました」

 すると、アモアの声が聞こえた。

「集」

 アモアが駆け寄ってくる。

 集の近くまで来ると、アモアはメリアに言った。

「母上。少し集とお話しても?」

 メリアは微笑んで返す。

「構いませんよ」

 その返事を聞くと、アモアは集の服を引っ張って移動させる。

 そして、端末を出して集に言う。

「集。貴方の噂が……」

 アモアの言葉を遮るように集が言う。

「その件はメリアさんがどうにかしてくれるらしい」

 集の言葉にメリアが答える。

「はい」

 集は「聞いてたのかよ……」と思ったが、口には出さず、アモアに説明を続ける、

「あと、俺はメリアさんの護衛をする事になった」

「護衛?」

「ああ」

(しかし、これでアモアを護れなくなった。ここはリーフェルに任せて良いのか? あいつは結構頭良いし、姉を護る事くらいなら出来るかもしれない)

「リーフェルにも伝えておいてくれ」

「う、うん……」

 集はアモアのぎこちない返事が耳に残った。

さて、どうだったでしょうか?

今回は集が主体でやってみました。

因みに次回も集が主体で行きます!

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