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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
マナゲットプリンセス篇
22/32

殺すという事、普通という事

「じゃあ、作戦は以上でいいですか」

 由利が言う。

「ああ。つっても、作戦なんて要らないけどな」

「総。安全に越した事はないでしょう?」

「そりゃあ、そうだけど」

 総と由利の会話に咲が入る。

「なんで、作戦が要らないの?」

「俺等が強いからだ」

「へぇ。どんな能力?」

 咲が訊くと、由利が答える。

「私は物体を切る能力ですが、生物には使えません」

「ふーん。どこでも物体は切れるの?」

「色々な条件があります。最初は触れている物体だけでした」

「最初は!?」

 総が驚く。

「なんで、君が驚いてるの~?」

 霄が呆れ気味に言った。ここは咲が驚くべき所だろう、と思っているのだ。

「能力が成長するなんて、聞いた事も無いぞ!?」

「超能力は想像がかなめですから、想像さえできれば、理論上は成長するらしいですよ?」

「えっ!? マジで?」

 由利の言葉に総はまた驚く。

 総は能力の知識は相当ある。由利が知り過ぎているから、総が無知に見えるのだ。

「はい。浅村法規との戦闘中、超能力が成長しました」

「それで、どんな?」

 総は少年のような眼をして言う。

「いや、大して変わりませんよ。触れていなくても、近ければ切れるってだけです」

「近いってどれくらい? これ切れる?」

 総はまだまだ興味津津のようで、紙を持って、言う。

「はいっ」

 由利は短い返事をすると、超能力で紙を切った。

 地面に落ちた紙の一部を見て、総が反応する。

「うおっ、すげぇ」

「今のは遠いですけど、地面には近かったので、そこから総の体を伝って切りました」

「そんなことも出来るようになったのかよ!?」

 総は嬉しそうに言う。

「楽しそうね」

「そうだね~」

 咲と霄が言った。

 すると、思い出したかのように総が言う。

「つか、木野は最後に情報取るだけの方が良いんじゃないか?」

「なんで?」

「お荷物だし」

 総は即答した。

「ひどっ」

「木野さんの能力は強力だと思いますが?」

 由利が言うが、総は首を振った。

「いやぁ、そういう問題じゃないんだよねぇ」

「なに?」

 咲が訊く。

「お前、人、殺せる?」

 総にしては珍しい、冷たい声だった。

 優しさはカケラすら見つけられなかった。

「……」

 対して、咲は声を出す事もできない。

「別に、将来闘う気も無いんだし、殺せなくて良いよ。だから、入口で待ってろ。中の奴らを殺したらお前を呼ぶから」

 総が続けて言う。

「でも、一人は危なくありませんか?」

「それくらいは、木野の能力なら、大丈夫だろ」

 そうして、会話は終わった。

 咲は最後まで、何も言わなかった。

 彼女は新品の制服の袖を握りしめていた。

 殺すという事は、普通ならそう容易たやすく行える事ではないのだ。

 ぺノメナル王国での普通という事は、そういう事なのだ。


 豹は本部に来ていた。

 彼は招集を受けたのだ。理由は天久集がアモア=マナゲットを連れ去ったから。

 彼が部屋に入ると、そこにはある男がいた。

 種市縁滋郎たねいちえんじろうだ。

 年は35歳で、髪は白と黒が混じっているが、これは白髪ではなく、ところどころ染めているだけだ。 

「豹。君への招集の理由は分かっているね?」

「集ですか」

 豹の言葉に縁滋郎はうなづく。

「その通りだ。何か、知っている情報はあるかな?」

「ありませんよ。あったら言ってます」

 豹の態度は良くなかった。

 だが、縁滋郎も態度は良くない。若者のような態度だ。

「そうかぁ。それで、SSSYスリーエスワイはすごい働きだそうだねぇ。この前は異常成長オーバー・リミットの製造場所の破壊、覚醒アウラズルの発見、及び製造場所の破壊。更に浅村法規らの殺害。見事な成果じゃないか。その内の一人である、集くんが裏切り者となったのはいただけないがね」

 SSSYスリーエスワイというのは集、総、霄、由利をまとめてそう呼んでいるのだ。集、総、霄がSで由利がYだ。

「それより、本当なのでしょうね? 彼らが相当の働きをすれば、俺に『ある情報』を教えてくれる、というのは」

「勿論だとも。その相当の働きまでも、近いと思うよ?」

 豹の言葉に縁滋郎が答えた。

「そうですか。では、もっと深い仕事を下さい」

「深い? どういう意味だね?」

 縁滋郎は聞き返す。

 豹はわざとすぐには理解できないように言ったのだが。

「もっと、闇の深い仕事、ですよ」

「ほう? 成功できるのだろうね?」

「ええ。出来ますよ」

 豹は断言した。

「そうか。では、任せたよ」

「はい」


 そして、作戦の時が来る。

 四人は敵施設の近くにいた。

「咲はここで待機。それ以外は3秒後に突入」

「「「了解!」」」

 総の言葉に三人は声を合わせて言う。

 3秒後、総、由利、霄は走り出した。

 敵施設にある程度近付くと、由利は足の裏をポイントに敵施設に切り込みを入れた。総は風を吹かして切り込み通りに壁をどかす。

 三人は敵施設に入ると、由利は監視カメラを次々と切る。

 彼らは敵施設自体を傷つける事はしない。理由として、それで配線を切ってしまい、情報を持つ機械の電源が落ちてしまわぬように、だ。

 敵が来れば、由利は銃を切り、総は風で壁に叩きつけて、霄は撃つ。

 闘いではなく、作業だった。

 三人に油断は無いが、恐怖も無い。スリルも無いし、感情の動きも無い。

 彼らが最深部に着くと、咲に電話した。

「着いたぞ」

『わかった。ちょっと、待ってて』

「ああ」

 総は電話を切る。


「さて、行きますか」

 咲は走って、施設に入る。

 そーっと施設に入って、誰もいない事を確認する。

「誰も……いないわよね?」

 返事が帰って来る訳じゃない。

 咲は慎重に進んでいくと、敵の死体があった。

「うーっ。ごめんなさい」

 咲は死体に謝ると、先に進んだ。

 そして、総の所に着く。

「来たか。俺の端末で情報は手に入れている」

「じゃあ、あたし要らないじゃん!」

 総の言葉に咲が反応した。

 それでも、咲はいつも通りの会話が出来て、少し嬉しかったし、安心した。

「いや、お前はもっと奥の情報を探ってもらいたい」

「奥の情報?」

「俺の端末は、軽いガードの所の情報しか取れないんだ」

「へぇ、そう」

 咲は理解すると、総の端末に近付く。

「じゃ、行くわね」

 咲は言うと、電気を通す。

「情報はあなたの端末に入れておいたわ」

「ありがとう」

 咲に総が礼を言った。


 四人は特別室に戻った。

「あー。使える情報がねぇ!」

 総が言った。

「そもそも、使える情報とは何なのですか?」

「わっかんねぇけど、集が裏切り者になんねぇような情報だよ」

 由利に総が答える。

「それじゃー、本部のやってきた悪行を使えば、集の行動も正当化されるんじゃない?」

「かもしれんが、それは脅しに近い」

「無理だよ」

 霄の提案に総と咲が反論して、

「だね!」

 霄は納得した。

「まぁ、とにかく。やるしかねぇ」

「そうね。やるしかないわ」

 そして、咲と総はやる気に満ち溢れていた。


 一方、集は。

「おい、集。早く来い」

「はい」

 漁師は集に言うと、家を出た。

 集も出て行きたいが、集の服を掴んで離さない人が二人。ルンとリンだ。

 特に、リンは頑なに離さない。ルンはちょっと照れがあるのか、軽く握っている。そんな三人をアモアは優しい眼差しで見ていた。

 集はしゃがんで、リンとルンの手を右手と左手で握る。

「なぁ、ルン、リン。俺はいつも漁に行ってるだろ? それでいつも、ちゃんと帰ってくる。だから、行かせてくれ」

「やだ!」

 リンはハッキリと言った。

 集はぎゅっとリンの手を握り、目をまっすぐ見る。嘘は言わない、という意志をリンに見せるかのように。

「頼む。その代わり、行かせてくれたら、帰ってきてから遊ぶからさ」

「ホント!? やったぁ!」

 リンは明るい顔になり、嬉しそうに言った。

「じゃ、良いか?」

「うん」

 リンの返事を聞くと、リンの手を離した。自然と、リンの手は服から離れる。

 だが、頼りなくもまだルンが手を握っていた。集はそれを振り払うような事は決してしない。

「ルン。行ってくるよ」

 ルンは下を向いたままだが、集はルンの頭をなでた。

「元気で待っててくれ」

 集が優しげに言うと、ルンは頷いた。

「うんっ」

「じゃ、行ってきまーす」

 集は家を出る時に言った。

「行ってらっしゃーい」

 リンが言う。

 リンとルンとアモアは集に手を振っていた。


「すごいものだな。これは」

 豹は紙を見て言う。

 そして、豹はカレンダーを見た。

 今日の日付は7月10日。

 そして、豹の持っていた紙は地図だった。

 その地図には35個のバツがあった。ぺノメナル大陸全土の地図で、バツの数は敵施設を破壊した数だった。


 それと同じ紙を持っている総は、

「これでも情報が見つからねー!」

 と言っていた。

「本当に見つかるんでしょうか……?」

「うーん」

「……」

 四人も、疑念を抱いていた。

 本当に、集を助ける手がかりなど見つかるのだろうか……と。

「もう、AHMOから情報を取った方が早いんじゃ……」

「ダメです!」

 総の呟きに由利が返す。

「でも、これじゃあ、いつまで経っても何も得られないじゃないか!」

「それでも、貴方も裏切り者になっては意味無いのです!」

「クッ……」

 総と由利の会話に、咲が入る。

「あのさぁ、手がかりの手がかりなら、あるかもだけど?」

「なんだ!?」

 総が訊くと、咲は総の端末にデータを表示させた。

「コレよ」

 画面に表示させているのは、敵が警戒している人間。そこには総や集もいた。

「敵がマークしてる人間?」

「そう。敵が危険だと判断している人間。敵の敵は味方って言うじゃない?」

「なるほど! そいつらと会えれば!」

「何かが分かるかもしれない。もしAHMOの関係者なら更に好都合」

 総の言葉に咲が続けるが、由利が反論する。

「でも、どうやって会うのです?」

「うーん……」

「それは……」

 咲と総が答えを返せないでいると、霄が言う。

「こういう時は大人に頼ろうよ!」

「大人?」

「うん、豹さん!」


「なるほど、敵の敵と接触をしたい……か」

 四人の話を聞いた豹の反応は悪くなかった。

「どうにかなりませんか?」

 霄が訊く。

「AHMO側についている奴となら、接触出来るかもしれない。それ以外は……知らん」

「AHMO側で良い!」

 豹の言葉に総が言った。

「そうか、わかった。なんとかしよう。あと、お前らに言っておく事がある」

「なんだ?」

「これだ」

 豹は特別室の画面に、人の画像と名前を表示させた。

 映し出された人間の口元は笑っていたが、普通の笑みではない。見る者を不快にさせるような、嘲笑だった。髪は肩にかかるか、かからないか程度で、色は赤だったが、下にいくにつれて白になっていた。

諸橋遷都もろはしせんと……?」

 画面に表示された名前を見て、総は言う。

「ああ。コイツと会った場合、戦闘はするな」

「俺らじゃ勝てないって言うのかよ?」

「ああ。そうだ」

 豹が断言した。

「どんな能力だ」

「本部は地獄炎ライビングフレアと呼んでいる」

「炎系の能力か?」

「ああ。炎を操るらしい」

 豹は総の推測に肯定する。

「それのどこが脅威なんだ? 大して強くないじゃないか」

「いいから。闘うな。話は以上だ」

「はーい」

 総が反論するより先に、険悪な雰囲気を取り払うかのように霄は返事をした。


「なんだね? 豹。話というのは」

「いきなり、時間をとってもらってありがとうございます。種市さん」

「良いんだよ。SSSYスリーエスワイの活躍は異常なほどだからね。これくらいは、どうってことはない」

「ありがとうございます。その、SSSYスリーエスワイの話なんですがね」

「ん?」

「他の組織との交流も深めておいた方が良いと思うのですよ。共同任務の可能性もあるのでね」

「なるほど。それは良い考えかもしれない。本部に来たまえ。組織は全員呼んでおくよ」

「そこまでのお手数をかけさせるつもりはありません。共同任務の可能性の高い、十道テンロードだけで良いですよ」

「ほう? そうか、わかった」

「では、失礼します」


 そして、総、霄、由利、咲は次の日に、本部に来ていた。

「ここには、何ヶ月ぶりだろうな」

「三ヶ月くらいかなぁ」

「そうですね」

 総、霄、由利が言った。

「私、初めてなんだけど」

「そうか。じゃ、入ろう」

 咲の呟きを流すと、総はドアに向かって歩く。

「う、うん」

 咲が緊張気味に返した時には、総はもう入っていた。

 入ると、一人の男が近付いてきた。

 20歳前後の年齢に見える、若い男性の髪はセットは確実にしていない、と言える自然な感じで、目にやる気は満ちていない感じだった。

 その男を見て、総は「何処かで会ったかな?」と思った。そして、総は男と会っている。

「よぉ。SSSYスリーエスワイ

 男が言う。

SSSYスリーエスワイ?」

「ああ。お前らの組織名だろう?」

「そうだったのか」

 総が呟くと、男は驚いた。

「知らなかったのか?」

「ええ」

「まぁ、いいや。今日はお前らとの親睦を深める、という事だな。俺は十道テンロード弓削頼十ゆげらいと。因みに十道テンロードっつうのは俺等の組織名だ。敬語もめんどくせえから、要らねえし、呼ぶ時は頼十、だ。良いな?」

 頼十は口調もぶっきらぼうだし、呼び方も強制だった。

「ああ。よろしくな、頼十」

 総が返す。

「ふっ、じゃあ、行くぜ」

 頼十は総を気に入った。

 頼十が歩きだすと、一つの部屋の前に着いた。その部屋はとても大きい事が外からでも分かった。

「ここだ。十道テンロードの本部はよ」

「へえ」

「んじゃ、入るぜ」

 そして、頼十がドアを開けると、

これから、進展していきますよ!

だから、今回進展がまたもや少なかったのは、本当にごめんなさい、許して。

時は結構過ぎて、総の強さが分かるような仕事っぷりですね。将来有望すぎんだろ。

と、いうことで、この章は新キャラが多く出てくるのですが、まだ新キャラは一人だけなんですね~。

咲は出てきてるし、頼十も実は出てきてる。

ということで、新キャラはまだ一言も喋っていない、諸橋遷都でした!

新キャラって言っていいんかよ、コレ。

あ、種市縁滋郎と、アモア、セイスン、リーフェル(アモアの弟)、メリア(アモアの母)を忘れてた。

忘れすぎだな、俺。

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