殺すという事、普通という事
「じゃあ、作戦は以上でいいですか」
由利が言う。
「ああ。つっても、作戦なんて要らないけどな」
「総。安全に越した事はないでしょう?」
「そりゃあ、そうだけど」
総と由利の会話に咲が入る。
「なんで、作戦が要らないの?」
「俺等が強いからだ」
「へぇ。どんな能力?」
咲が訊くと、由利が答える。
「私は物体を切る能力ですが、生物には使えません」
「ふーん。どこでも物体は切れるの?」
「色々な条件があります。最初は触れている物体だけでした」
「最初は!?」
総が驚く。
「なんで、君が驚いてるの~?」
霄が呆れ気味に言った。ここは咲が驚くべき所だろう、と思っているのだ。
「能力が成長するなんて、聞いた事も無いぞ!?」
「超能力は想像が要ですから、想像さえできれば、理論上は成長するらしいですよ?」
「えっ!? マジで?」
由利の言葉に総はまた驚く。
総は能力の知識は相当ある。由利が知り過ぎているから、総が無知に見えるのだ。
「はい。浅村法規との戦闘中、超能力が成長しました」
「それで、どんな?」
総は少年のような眼をして言う。
「いや、大して変わりませんよ。触れていなくても、近ければ切れるってだけです」
「近いってどれくらい? これ切れる?」
総はまだまだ興味津津のようで、紙を持って、言う。
「はいっ」
由利は短い返事をすると、超能力で紙を切った。
地面に落ちた紙の一部を見て、総が反応する。
「うおっ、すげぇ」
「今のは遠いですけど、地面には近かったので、そこから総の体を伝って切りました」
「そんなことも出来るようになったのかよ!?」
総は嬉しそうに言う。
「楽しそうね」
「そうだね~」
咲と霄が言った。
すると、思い出したかのように総が言う。
「つか、木野は最後に情報取るだけの方が良いんじゃないか?」
「なんで?」
「お荷物だし」
総は即答した。
「ひどっ」
「木野さんの能力は強力だと思いますが?」
由利が言うが、総は首を振った。
「いやぁ、そういう問題じゃないんだよねぇ」
「なに?」
咲が訊く。
「お前、人、殺せる?」
総にしては珍しい、冷たい声だった。
優しさはカケラすら見つけられなかった。
「……」
対して、咲は声を出す事もできない。
「別に、将来闘う気も無いんだし、殺せなくて良いよ。だから、入口で待ってろ。中の奴らを殺したらお前を呼ぶから」
総が続けて言う。
「でも、一人は危なくありませんか?」
「それくらいは、木野の能力なら、大丈夫だろ」
そうして、会話は終わった。
咲は最後まで、何も言わなかった。
彼女は新品の制服の袖を握りしめていた。
殺すという事は、普通ならそう容易く行える事ではないのだ。
ぺノメナル王国での普通という事は、そういう事なのだ。
豹は本部に来ていた。
彼は招集を受けたのだ。理由は天久集がアモア=マナゲットを連れ去ったから。
彼が部屋に入ると、そこにはある男がいた。
種市縁滋郎だ。
年は35歳で、髪は白と黒が混じっているが、これは白髪ではなく、ところどころ染めているだけだ。
「豹。君への招集の理由は分かっているね?」
「集ですか」
豹の言葉に縁滋郎は頷く。
「その通りだ。何か、知っている情報はあるかな?」
「ありませんよ。あったら言ってます」
豹の態度は良くなかった。
だが、縁滋郎も態度は良くない。若者のような態度だ。
「そうかぁ。それで、SSSYはすごい働きだそうだねぇ。この前は異常成長の製造場所の破壊、覚醒の発見、及び製造場所の破壊。更に浅村法規らの殺害。見事な成果じゃないか。その内の一人である、集くんが裏切り者となったのはいただけないがね」
SSSYというのは集、総、霄、由利をまとめてそう呼んでいるのだ。集、総、霄がSで由利がYだ。
「それより、本当なのでしょうね? 彼らが相当の働きをすれば、俺に『ある情報』を教えてくれる、というのは」
「勿論だとも。その相当の働きまでも、近いと思うよ?」
豹の言葉に縁滋郎が答えた。
「そうですか。では、もっと深い仕事を下さい」
「深い? どういう意味だね?」
縁滋郎は聞き返す。
豹はわざとすぐには理解できないように言ったのだが。
「もっと、闇の深い仕事、ですよ」
「ほう? 成功できるのだろうね?」
「ええ。出来ますよ」
豹は断言した。
「そうか。では、任せたよ」
「はい」
そして、作戦の時が来る。
四人は敵施設の近くにいた。
「咲はここで待機。それ以外は3秒後に突入」
「「「了解!」」」
総の言葉に三人は声を合わせて言う。
3秒後、総、由利、霄は走り出した。
敵施設にある程度近付くと、由利は足の裏をポイントに敵施設に切り込みを入れた。総は風を吹かして切り込み通りに壁をどかす。
三人は敵施設に入ると、由利は監視カメラを次々と切る。
彼らは敵施設自体を傷つける事はしない。理由として、それで配線を切ってしまい、情報を持つ機械の電源が落ちてしまわぬように、だ。
敵が来れば、由利は銃を切り、総は風で壁に叩きつけて、霄は撃つ。
闘いではなく、作業だった。
三人に油断は無いが、恐怖も無い。スリルも無いし、感情の動きも無い。
彼らが最深部に着くと、咲に電話した。
「着いたぞ」
『わかった。ちょっと、待ってて』
「ああ」
総は電話を切る。
「さて、行きますか」
咲は走って、施設に入る。
そーっと施設に入って、誰もいない事を確認する。
「誰も……いないわよね?」
返事が帰って来る訳じゃない。
咲は慎重に進んでいくと、敵の死体があった。
「うーっ。ごめんなさい」
咲は死体に謝ると、先に進んだ。
そして、総の所に着く。
「来たか。俺の端末で情報は手に入れている」
「じゃあ、あたし要らないじゃん!」
総の言葉に咲が反応した。
それでも、咲はいつも通りの会話が出来て、少し嬉しかったし、安心した。
「いや、お前はもっと奥の情報を探ってもらいたい」
「奥の情報?」
「俺の端末は、軽いガードの所の情報しか取れないんだ」
「へぇ、そう」
咲は理解すると、総の端末に近付く。
「じゃ、行くわね」
咲は言うと、電気を通す。
「情報はあなたの端末に入れておいたわ」
「ありがとう」
咲に総が礼を言った。
四人は特別室に戻った。
「あー。使える情報がねぇ!」
総が言った。
「そもそも、使える情報とは何なのですか?」
「わっかんねぇけど、集が裏切り者になんねぇような情報だよ」
由利に総が答える。
「それじゃー、本部のやってきた悪行を使えば、集の行動も正当化されるんじゃない?」
「かもしれんが、それは脅しに近い」
「無理だよ」
霄の提案に総と咲が反論して、
「だね!」
霄は納得した。
「まぁ、とにかく。やるしかねぇ」
「そうね。やるしかないわ」
そして、咲と総はやる気に満ち溢れていた。
一方、集は。
「おい、集。早く来い」
「はい」
漁師は集に言うと、家を出た。
集も出て行きたいが、集の服を掴んで離さない人が二人。ルンとリンだ。
特に、リンは頑なに離さない。ルンはちょっと照れがあるのか、軽く握っている。そんな三人をアモアは優しい眼差しで見ていた。
集はしゃがんで、リンとルンの手を右手と左手で握る。
「なぁ、ルン、リン。俺はいつも漁に行ってるだろ? それでいつも、ちゃんと帰ってくる。だから、行かせてくれ」
「やだ!」
リンはハッキリと言った。
集はぎゅっとリンの手を握り、目をまっすぐ見る。嘘は言わない、という意志をリンに見せるかのように。
「頼む。その代わり、行かせてくれたら、帰ってきてから遊ぶからさ」
「ホント!? やったぁ!」
リンは明るい顔になり、嬉しそうに言った。
「じゃ、良いか?」
「うん」
リンの返事を聞くと、リンの手を離した。自然と、リンの手は服から離れる。
だが、頼りなくもまだルンが手を握っていた。集はそれを振り払うような事は決してしない。
「ルン。行ってくるよ」
ルンは下を向いたままだが、集はルンの頭をなでた。
「元気で待っててくれ」
集が優しげに言うと、ルンは頷いた。
「うんっ」
「じゃ、行ってきまーす」
集は家を出る時に言った。
「行ってらっしゃーい」
リンが言う。
リンとルンとアモアは集に手を振っていた。
「すごいものだな。これは」
豹は紙を見て言う。
そして、豹はカレンダーを見た。
今日の日付は7月10日。
そして、豹の持っていた紙は地図だった。
その地図には35個のバツがあった。ぺノメナル大陸全土の地図で、バツの数は敵施設を破壊した数だった。
それと同じ紙を持っている総は、
「これでも情報が見つからねー!」
と言っていた。
「本当に見つかるんでしょうか……?」
「うーん」
「……」
四人も、疑念を抱いていた。
本当に、集を助ける手がかりなど見つかるのだろうか……と。
「もう、AHMOから情報を取った方が早いんじゃ……」
「ダメです!」
総の呟きに由利が返す。
「でも、これじゃあ、いつまで経っても何も得られないじゃないか!」
「それでも、貴方も裏切り者になっては意味無いのです!」
「クッ……」
総と由利の会話に、咲が入る。
「あのさぁ、手がかりの手がかりなら、あるかもだけど?」
「なんだ!?」
総が訊くと、咲は総の端末にデータを表示させた。
「コレよ」
画面に表示させているのは、敵が警戒している人間。そこには総や集もいた。
「敵がマークしてる人間?」
「そう。敵が危険だと判断している人間。敵の敵は味方って言うじゃない?」
「なるほど! そいつらと会えれば!」
「何かが分かるかもしれない。もしAHMOの関係者なら更に好都合」
総の言葉に咲が続けるが、由利が反論する。
「でも、どうやって会うのです?」
「うーん……」
「それは……」
咲と総が答えを返せないでいると、霄が言う。
「こういう時は大人に頼ろうよ!」
「大人?」
「うん、豹さん!」
「なるほど、敵の敵と接触をしたい……か」
四人の話を聞いた豹の反応は悪くなかった。
「どうにかなりませんか?」
霄が訊く。
「AHMO側についている奴となら、接触出来るかもしれない。それ以外は……知らん」
「AHMO側で良い!」
豹の言葉に総が言った。
「そうか、わかった。なんとかしよう。あと、お前らに言っておく事がある」
「なんだ?」
「これだ」
豹は特別室の画面に、人の画像と名前を表示させた。
映し出された人間の口元は笑っていたが、普通の笑みではない。見る者を不快にさせるような、嘲笑だった。髪は肩にかかるか、かからないか程度で、色は赤だったが、下にいくにつれて白になっていた。
「諸橋遷都……?」
画面に表示された名前を見て、総は言う。
「ああ。コイツと会った場合、戦闘はするな」
「俺らじゃ勝てないって言うのかよ?」
「ああ。そうだ」
豹が断言した。
「どんな能力だ」
「本部は地獄炎と呼んでいる」
「炎系の能力か?」
「ああ。炎を操るらしい」
豹は総の推測に肯定する。
「それのどこが脅威なんだ? 大して強くないじゃないか」
「いいから。闘うな。話は以上だ」
「はーい」
総が反論するより先に、険悪な雰囲気を取り払うかのように霄は返事をした。
「なんだね? 豹。話というのは」
「いきなり、時間をとってもらってありがとうございます。種市さん」
「良いんだよ。SSSYの活躍は異常なほどだからね。これくらいは、どうってことはない」
「ありがとうございます。その、SSSYの話なんですがね」
「ん?」
「他の組織との交流も深めておいた方が良いと思うのですよ。共同任務の可能性もあるのでね」
「なるほど。それは良い考えかもしれない。本部に来たまえ。組織は全員呼んでおくよ」
「そこまでのお手数をかけさせるつもりはありません。共同任務の可能性の高い、十道だけで良いですよ」
「ほう? そうか、わかった」
「では、失礼します」
そして、総、霄、由利、咲は次の日に、本部に来ていた。
「ここには、何ヶ月ぶりだろうな」
「三ヶ月くらいかなぁ」
「そうですね」
総、霄、由利が言った。
「私、初めてなんだけど」
「そうか。じゃ、入ろう」
咲の呟きを流すと、総はドアに向かって歩く。
「う、うん」
咲が緊張気味に返した時には、総はもう入っていた。
入ると、一人の男が近付いてきた。
20歳前後の年齢に見える、若い男性の髪はセットは確実にしていない、と言える自然な感じで、目にやる気は満ちていない感じだった。
その男を見て、総は「何処かで会ったかな?」と思った。そして、総は男と会っている。
「よぉ。SSSY」
男が言う。
「SSSY?」
「ああ。お前らの組織名だろう?」
「そうだったのか」
総が呟くと、男は驚いた。
「知らなかったのか?」
「ええ」
「まぁ、いいや。今日はお前らとの親睦を深める、という事だな。俺は十道の弓削頼十。因みに十道っつうのは俺等の組織名だ。敬語もめんどくせえから、要らねえし、呼ぶ時は頼十、だ。良いな?」
頼十は口調もぶっきらぼうだし、呼び方も強制だった。
「ああ。よろしくな、頼十」
総が返す。
「ふっ、じゃあ、行くぜ」
頼十は総を気に入った。
頼十が歩きだすと、一つの部屋の前に着いた。その部屋はとても大きい事が外からでも分かった。
「ここだ。十道の本部はよ」
「へえ」
「んじゃ、入るぜ」
そして、頼十がドアを開けると、
これから、進展していきますよ!
だから、今回進展がまたもや少なかったのは、本当にごめんなさい、許して。
時は結構過ぎて、総の強さが分かるような仕事っぷりですね。将来有望すぎんだろ。
と、いうことで、この章は新キャラが多く出てくるのですが、まだ新キャラは一人だけなんですね~。
咲は出てきてるし、頼十も実は出てきてる。
ということで、新キャラはまだ一言も喋っていない、諸橋遷都でした!
新キャラって言っていいんかよ、コレ。
あ、種市縁滋郎と、アモア、セイスン、リーフェル(アモアの弟)、メリア(アモアの母)を忘れてた。
忘れすぎだな、俺。




