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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
マナゲットプリンセス篇
21/32

エレクトロキネシス

 例えば、ここに天久集がいたなら、木野咲の顔はもっと明るかったろう。

 咲は集からの手紙以降、何度も集と接触をとろうとしてきた。

 例えば、集の家にたずねたり。 

 咲も、集が家にいない事は分かっていた。

 咲が集の家を訪ねた時、集の親が出てきた。

 その事に咲は先生が言っていた、親の都合で転校する事になった、という言葉を疑った。何故、集の親はここに残っているのに、集だけが転校する必要があるのか、とそう思ったからだ。集の親にも問い詰めたが、良い返事は返ってこなかった。

 予想通り、集が家にいない事が分かると、次は集の通っているという学校に行ってみた。とても広い校庭を持つ学校(AHMO訓練施設)では、集が体力テストの持久走をしている所だった。咲は学校を休んでまで来て良かった、と思った。

 咲は下校時刻まで待ち、何人かの生徒が帰っているのを眺めて、集かどうかを確認していた。だが、集が校門を通る事はなかった。

 日が沈むまで待ち、帰る人がいなくなった事を知ると、咲は集の親の言葉を疑った。

 それから、時は過ぎ、5月10日。

 咲は空を飛んでいる人間を見た。そして、それが集だと気付いた。ものすごい速度だったにも係わらず、咲は確認できたのだ。集だ、と。

 集からすれば、由利と総を助けに行かねばならないので、下に誰がいたかなど、気にもしていなかったが。

 そして、咲は集がまだ近くにいる事を確信する。

 更に時は過ぎ、5月23日。

 咲は10日からAHMO訓練施設に潜入する方法を考えていた。校門から入れば制服でバレるので、塀を上って潜入する事にしたのだが、校舎に入るにはキーが必要みたいだった。それも、鍵ではなく、ある電波を送る事で、校舎の扉が開くようだった。

 なんでこんなハイテクにしてんのよ、と思いつつ扉を叩くと、手から電気が出た。

 驚いて、そして喜んだ。

 これで入れる。

 そう確信した咲は扉に電気を流してぶっ壊すと、中に入った。

 その時、中には豹がいた。

 たまたまではなく、豹は咲が忍び込んでいる事など最初から分かっていた。それで、泳がせていたのだ。

 そして、豹は「集に会いたいなら、会わせてやる」そう言ったのだ。

 咲は早く会わせてよ、と言ったが豹は「24日に手続きをして、25日に検査をするから、26日に会わせてやる」と言った。

 咲はその言葉に色々と反論したが、最終的には豹の提案にのった。

 そして、現在、5月25日午後3時。

 咲はAHMO訓練施設に来ていた。

 前の彼女とは違い、AHMO訓練施設の制服(一応、学校という事になっている為、制服はある)を来ていた。

 咲は校舎の扉をAHMO本部から受け取った端末で電波を送り、開いた。すると、また豹がいた。

「今日ではないんじゃないのか?」

「知ってるわよ。でも、会いたいんだから、良いでしょ?」

 豹の言葉に咲は返した。

「そこまで会いたいのか……」

「別にいーでしょ。会わせてよ」

 咲は余計なお世話だ、と思い言うが、豹が気まずそうな顔をしていたのが、気になった。

「それが……」


「ハァ!? マナゲットの王女を助ける為にぺノメナル大陸を出た!?」

「ああ。俺も予期しなかった事だ。すまない」

 咲は「すまない、じゃないわよ!」と言おうとしたが、堪える。豹が年上だからだ。

「そっ、それで、いつ、帰ってくるの?」

「いや、さっきも言った通り、王女は取り調べをされるだけだったのだ。なのに、連れ去ったアイツは裏切り者。おそらく、帰ってきても……」

 そんな豹の言葉に咲は怒る。

「なにそれ!? もう良いわ」

 咲が立ち去ろうとするが、

「いや、お前には自己紹介をしてもらう。ここに通う事になるんだからな」

「はぁ、めんどくさい」


 そして、二人は教室に着く。

 例えば、ここに天久集がいたなら、木野咲の顔はもっと明るかったろう。

 だが、彼はいない。

 教室はざわついているが、咲は気にしない。彼女が気にしたのは、誰とも話さずにまっすぐこちらを見てくる総だけだった。

 咲は自分の名前を電子ボードに送信すると、電子ボードに触れて、能力の電気操作・2エレクトロキネシス・ツーを発動し、自分の名前を表示させる。本来、この電子ボードにそんな機能は無いが、電気で機械自体を操れば、こんなことは訳ない。その事は昨日手続きをした時に教えてもらったのだが。

 総、由利、知世以外は、名前の表示を能力と気付かなかった。

「どーも。木野咲です」

 低めなトーンで自己紹介を済ませると、空いている席(集が前使っていた席)に座った。空いていた席は集と葉汰だけだったが、咲は意図せず集の席を選んだのだった。

 隣の総は笑っていた。それを見た知世はむっとしていたが。


 一方集は、島で人と会っていた。

 集が会っていたのは、漁師だ。

 自分の能力を生かして、漁を手伝って、あわよくば漁師の家に泊めてもらえば……などという事を考えて、話しかけたのだ。

「漁を手伝いたい? アンタ、素人しろうとだろ?」

「いや、漁には自信があります」

 漁師は一目で素人と見抜いたが、集は強気に返す。

「筋肉はついちゃいるが、まだまだ甘い」

「それでも、行かせて欲しいです。お願いします」

 漁師の言葉にもめげず、必死に頼む。

「手伝って、何がしたい?」

「俺達は……その、金が無いんだ」

「そうかい」

 言うと、漁師は集に背中を向けた。

「働きによっちゃあ、少しはくれてやるよ」

 集に顔を見せずに言う。

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 集が言う。

「ああ。だが、その前に一つ、教えてくれねぇか?」

「なんです?」

「その女、アモア様なのかい?」

 漁師が言う。

 それに集は即答する。

「いやぁ、似てるけど、違いますよ」

「ふーん。そうかい。あんた」

「え? 私?」

 漁師の言葉にアモアが反応した。

「ああ。そうだ。あんたはうちに帰ってな」

「あの! こいつも連れて行っちゃダメですか?」

 集が申し訳なさそうに訊く。

「ハァ。漁はいつからデートスポットになったんだ?」

「すみません」

「……良いだろう。ただし、使えなかったら、すぐに降ろす」

「ありがとうございます」

 集が言った。


「ナニコレ?」

 特別室に入ると、咲は言った。

 特別室には豹、総、霄、由利がいた。

「ここはまぁ、将来の戦闘の為の訓練として、任務を行うんだが、それの作戦会議をする場所だ」

 豹が言う。

「え? 将来、戦闘なんてしたくないです」

 咲が素で返す。

「強い力を持つ者の義務だろう?」

「義務じゃないですよ、別に」

 豹に咲は反論する。

「豹さん。この人は俺が説得するんで、もういいです」

「そうか」

 総の言葉に豹が返すと、特別室を出た。

「説得……ねぇ」


「なんで、網を持っていきたい?」

 漁師が集に言う。

「俺、それが得意なんです。お願いします」

「まぁ、良いだろう」

 漁師は許可すると、船に乗った。

「お前達も乗れ」

「はいっ」

「はい」

 アモアと集が返す。


「ねぇ、そもそも、貴方達は将来闘うつもりなの?」

「ああ」

「ええ」

「そうだね~」

 咲の問いに総、由利、霄の順で返す。

「嫌じゃないの?」

「別に」

 総が言う。

「ふーん」

「お前、電気を操る能力者なんだろ?」

 その言葉に霄と由利は驚いた。

「そうよ」

 咲が肯定する。

「なら、お前に俺等が潰す組織の情報を奪いとって欲しい」

「情報……?」

 咲は不思議そうに呟く。

 由利は首をかしげた。

「それを掴めば、本部と交渉出来るかもしれない」

「交渉? 何の話をしているのですか?」

 総の言葉に由利が言った。

「集を助ける為の話だ」

 総の言葉に咲が大きく反応した。

「集!? 助けられるの!?」

「集を知ってるのか?」

「ええ。そんなことより、どうやったら、助けられる訳?」

 咲が早口で言う。

「この国の敵である組織から、この国の情報を手に入れる」

「敵の組織から、ですか?」

 由利が訊いた。

「ああ。多分、この国の情報は結構持っている筈だ」

「なるほどねぇ。天久君の為なら、やろうか!」

「私も、集の為になるのなら、やる!」

 霄の言葉に咲も賛同した。

「ほう、そうか」

「じゃあ、作戦をたてましょう」

「そうね」


「ここで、漁をする」

 漁師が言った。

 アモアは船酔いをしていて、休んでいた。

「それじゃ、行ってきます」

 集は言うと、網を持って海の中に飛び込んだ。

「あ、おい! ……ったく」

 漁師は呆れるが、その後すぐに、船が揺れて、漁師は倒れそうになる。

「なんだ?」

 すると、海から能力を使って集が上がってきた。

 網の中には沢山の魚がいた。

「俺、能力者なんすよ」

「ほう。なかなか、やるじゃないか」

 漁師は驚きはしなかったが、他の漁師はとても驚いていた。

「ですけど、俺も今は船酔いしてるアイツも家がないんです。良かったら、泊めてもらえませんか?」

「良いだろう。代わりに、もっと取って来い」

「はいっ」

 集は答えた。


 集は漁師さんの招きで漁師さんの家に向かっていた。

「アモア。船酔いは大丈夫か?」

「はい。もう、大丈夫です」

「アモア? やっぱり、王女さんなのかい?」

 集とアモアの会話を聞いていて、漁師が言った。

「あっ」

「はい。アモア=マナゲットです」

 集が誤魔化そうとするより速く、アモアは真実を告げた。

「そうか」

 漁師はまた、驚かなかった。

「だけど、秘密なんです。俺が能力者なのも、アモアがここにいるのも」

「分かった」

 漁師は理由は効かずにそう言った。


 漁師の家には家族がおり、姉のルンと妹のリンと言うらしい、年は12歳と9歳だ。六人でご飯を食べた後、アモアと集が一つの部屋を使って良い事になった。

「ふぅ。お風呂出ましたよー」

 アモアは部屋に入って言う。

「ああ」

「まさか、あんなに楽しい食事が出来るとは思いませんでしたよー」

 アモアの言葉に、集は若い子供との食事を思い出す。

「そうだな」

「リンちゃん、集さんに懐いてましたね~」

「俺、あんま子供には懐かれないんだけどな~」

 集は少し昔を思いだしています。

「そうなんですか?」

「ああ。でも、仲良くなれて、良かったよ。だけど、ここにも長くいたら迷惑がかかる」

 少し、集の顔が暗くなった。

「そうですね。ですが、マナゲットにいる事も好ましくは無い」

「でも、アモアは帰らないと」

 集の言葉をアモアがさえぎる。

「集さんが帰れないんじゃ、私も帰れませんよ!」

 アモアの言葉は、集は嬉しかった。

「そっか。もし、アモアが帰ったら、何する?」

「弟と母に会って、その後に、ぺノメナルにしかけるかもしれない戦争は止めてもらいます」

「うん」

 アモアの言葉には意志を感じた。これだけは絶対にする、というような。

「ぺノメナルとマナゲットは貿易をしていますよね?」

「ああ。たしか、ぺノメナルが鉱物や石油を中心に輸出して、マナゲットからは食糧を輸入してるんだっけか」

 集が言う。

「はい。それでもし、マナゲットが食料を輸出しなくなったら?」

「ぺノメナルの人間が餓死する前に、ぺノメナルがマナゲットを攻撃する?」

「その通りです」

 集の言葉にアモアは肯定した。

「そうなれば、ぺノメナルが勝っちゃうと思うぞ。技術力もあるし、能力者が多い」

「ですよね。それが怖いんです」

「だから、来たのか」

「はい」

「俺も、もしぺノメナルに帰れるのなら、戦争は止めさせる」

「はい!」

 集は自分の端末を見た。

 連絡は……ない。

「じゃ、風呂入ってくる」

「はーい」

 そして集は部屋を出た。

すみません。

また、物語が進展しませんでした。進む時は進むんだけどなぁ。

咲が登場しましたね。やったぁ。

さて、今回は集の方を意外と多く書きましたが、多分、次は集は出てきません。おかしいな、主人公なんだけど……。

あと、秋広は全然出番無いような……。

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