エレクトロキネシス
例えば、ここに天久集がいたなら、木野咲の顔はもっと明るかったろう。
咲は集からの手紙以降、何度も集と接触をとろうとしてきた。
例えば、集の家に訪ねたり。
咲も、集が家にいない事は分かっていた。
咲が集の家を訪ねた時、集の親が出てきた。
その事に咲は先生が言っていた、親の都合で転校する事になった、という言葉を疑った。何故、集の親はここに残っているのに、集だけが転校する必要があるのか、とそう思ったからだ。集の親にも問い詰めたが、良い返事は返ってこなかった。
予想通り、集が家にいない事が分かると、次は集の通っているという学校に行ってみた。とても広い校庭を持つ学校(AHMO訓練施設)では、集が体力テストの持久走をしている所だった。咲は学校を休んでまで来て良かった、と思った。
咲は下校時刻まで待ち、何人かの生徒が帰っているのを眺めて、集かどうかを確認していた。だが、集が校門を通る事はなかった。
日が沈むまで待ち、帰る人がいなくなった事を知ると、咲は集の親の言葉を疑った。
それから、時は過ぎ、5月10日。
咲は空を飛んでいる人間を見た。そして、それが集だと気付いた。ものすごい速度だったにも係わらず、咲は確認できたのだ。集だ、と。
集からすれば、由利と総を助けに行かねばならないので、下に誰がいたかなど、気にもしていなかったが。
そして、咲は集がまだ近くにいる事を確信する。
更に時は過ぎ、5月23日。
咲は10日からAHMO訓練施設に潜入する方法を考えていた。校門から入れば制服でバレるので、塀を上って潜入する事にしたのだが、校舎に入るにはキーが必要みたいだった。それも、鍵ではなく、ある電波を送る事で、校舎の扉が開くようだった。
なんでこんなハイテクにしてんのよ、と思いつつ扉を叩くと、手から電気が出た。
驚いて、そして喜んだ。
これで入れる。
そう確信した咲は扉に電気を流してぶっ壊すと、中に入った。
その時、中には豹がいた。
たまたまではなく、豹は咲が忍び込んでいる事など最初から分かっていた。それで、泳がせていたのだ。
そして、豹は「集に会いたいなら、会わせてやる」そう言ったのだ。
咲は早く会わせてよ、と言ったが豹は「24日に手続きをして、25日に検査をするから、26日に会わせてやる」と言った。
咲はその言葉に色々と反論したが、最終的には豹の提案にのった。
そして、現在、5月25日午後3時。
咲はAHMO訓練施設に来ていた。
前の彼女とは違い、AHMO訓練施設の制服(一応、学校という事になっている為、制服はある)を来ていた。
咲は校舎の扉をAHMO本部から受け取った端末で電波を送り、開いた。すると、また豹がいた。
「今日ではないんじゃないのか?」
「知ってるわよ。でも、会いたいんだから、良いでしょ?」
豹の言葉に咲は返した。
「そこまで会いたいのか……」
「別にいーでしょ。会わせてよ」
咲は余計なお世話だ、と思い言うが、豹が気まずそうな顔をしていたのが、気になった。
「それが……」
「ハァ!? マナゲットの王女を助ける為にぺノメナル大陸を出た!?」
「ああ。俺も予期しなかった事だ。すまない」
咲は「すまない、じゃないわよ!」と言おうとしたが、堪える。豹が年上だからだ。
「そっ、それで、いつ、帰ってくるの?」
「いや、さっきも言った通り、王女は取り調べをされるだけだったのだ。なのに、連れ去ったアイツは裏切り者。おそらく、帰ってきても……」
そんな豹の言葉に咲は怒る。
「なにそれ!? もう良いわ」
咲が立ち去ろうとするが、
「いや、お前には自己紹介をしてもらう。ここに通う事になるんだからな」
「はぁ、めんどくさい」
そして、二人は教室に着く。
例えば、ここに天久集がいたなら、木野咲の顔はもっと明るかったろう。
だが、彼はいない。
教室はざわついているが、咲は気にしない。彼女が気にしたのは、誰とも話さずにまっすぐこちらを見てくる総だけだった。
咲は自分の名前を電子ボードに送信すると、電子ボードに触れて、能力の電気操作・2を発動し、自分の名前を表示させる。本来、この電子ボードにそんな機能は無いが、電気で機械自体を操れば、こんなことは訳ない。その事は昨日手続きをした時に教えてもらったのだが。
総、由利、知世以外は、名前の表示を能力と気付かなかった。
「どーも。木野咲です」
低めなトーンで自己紹介を済ませると、空いている席(集が前使っていた席)に座った。空いていた席は集と葉汰だけだったが、咲は意図せず集の席を選んだのだった。
隣の総は笑っていた。それを見た知世はむっとしていたが。
一方集は、島で人と会っていた。
集が会っていたのは、漁師だ。
自分の能力を生かして、漁を手伝って、あわよくば漁師の家に泊めてもらえば……などという事を考えて、話しかけたのだ。
「漁を手伝いたい? アンタ、素人だろ?」
「いや、漁には自信があります」
漁師は一目で素人と見抜いたが、集は強気に返す。
「筋肉はついちゃいるが、まだまだ甘い」
「それでも、行かせて欲しいです。お願いします」
漁師の言葉にもめげず、必死に頼む。
「手伝って、何がしたい?」
「俺達は……その、金が無いんだ」
「そうかい」
言うと、漁師は集に背中を向けた。
「働きによっちゃあ、少しはくれてやるよ」
集に顔を見せずに言う。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
集が言う。
「ああ。だが、その前に一つ、教えてくれねぇか?」
「なんです?」
「その女、アモア様なのかい?」
漁師が言う。
それに集は即答する。
「いやぁ、似てるけど、違いますよ」
「ふーん。そうかい。あんた」
「え? 私?」
漁師の言葉にアモアが反応した。
「ああ。そうだ。あんたは家に帰ってな」
「あの! こいつも連れて行っちゃダメですか?」
集が申し訳なさそうに訊く。
「ハァ。漁はいつからデートスポットになったんだ?」
「すみません」
「……良いだろう。ただし、使えなかったら、すぐに降ろす」
「ありがとうございます」
集が言った。
「ナニコレ?」
特別室に入ると、咲は言った。
特別室には豹、総、霄、由利がいた。
「ここはまぁ、将来の戦闘の為の訓練として、任務を行うんだが、それの作戦会議をする場所だ」
豹が言う。
「え? 将来、戦闘なんてしたくないです」
咲が素で返す。
「強い力を持つ者の義務だろう?」
「義務じゃないですよ、別に」
豹に咲は反論する。
「豹さん。この人は俺が説得するんで、もういいです」
「そうか」
総の言葉に豹が返すと、特別室を出た。
「説得……ねぇ」
「なんで、網を持っていきたい?」
漁師が集に言う。
「俺、それが得意なんです。お願いします」
「まぁ、良いだろう」
漁師は許可すると、船に乗った。
「お前達も乗れ」
「はいっ」
「はい」
アモアと集が返す。
「ねぇ、そもそも、貴方達は将来闘うつもりなの?」
「ああ」
「ええ」
「そうだね~」
咲の問いに総、由利、霄の順で返す。
「嫌じゃないの?」
「別に」
総が言う。
「ふーん」
「お前、電気を操る能力者なんだろ?」
その言葉に霄と由利は驚いた。
「そうよ」
咲が肯定する。
「なら、お前に俺等が潰す組織の情報を奪いとって欲しい」
「情報……?」
咲は不思議そうに呟く。
由利は首をかしげた。
「それを掴めば、本部と交渉出来るかもしれない」
「交渉? 何の話をしているのですか?」
総の言葉に由利が言った。
「集を助ける為の話だ」
総の言葉に咲が大きく反応した。
「集!? 助けられるの!?」
「集を知ってるのか?」
「ええ。そんなことより、どうやったら、助けられる訳?」
咲が早口で言う。
「この国の敵である組織から、この国の情報を手に入れる」
「敵の組織から、ですか?」
由利が訊いた。
「ああ。多分、この国の情報は結構持っている筈だ」
「なるほどねぇ。天久君の為なら、やろうか!」
「私も、集の為になるのなら、やる!」
霄の言葉に咲も賛同した。
「ほう、そうか」
「じゃあ、作戦をたてましょう」
「そうね」
「ここで、漁をする」
漁師が言った。
アモアは船酔いをしていて、休んでいた。
「それじゃ、行ってきます」
集は言うと、網を持って海の中に飛び込んだ。
「あ、おい! ……ったく」
漁師は呆れるが、その後すぐに、船が揺れて、漁師は倒れそうになる。
「なんだ?」
すると、海から能力を使って集が上がってきた。
網の中には沢山の魚がいた。
「俺、能力者なんすよ」
「ほう。なかなか、やるじゃないか」
漁師は驚きはしなかったが、他の漁師はとても驚いていた。
「ですけど、俺も今は船酔いしてるアイツも家がないんです。良かったら、泊めてもらえませんか?」
「良いだろう。代わりに、もっと取って来い」
「はいっ」
集は答えた。
集は漁師さんの招きで漁師さんの家に向かっていた。
「アモア。船酔いは大丈夫か?」
「はい。もう、大丈夫です」
「アモア? やっぱり、王女さんなのかい?」
集とアモアの会話を聞いていて、漁師が言った。
「あっ」
「はい。アモア=マナゲットです」
集が誤魔化そうとするより速く、アモアは真実を告げた。
「そうか」
漁師はまた、驚かなかった。
「だけど、秘密なんです。俺が能力者なのも、アモアがここにいるのも」
「分かった」
漁師は理由は効かずにそう言った。
漁師の家には家族がおり、姉のルンと妹のリンと言うらしい、年は12歳と9歳だ。六人でご飯を食べた後、アモアと集が一つの部屋を使って良い事になった。
「ふぅ。お風呂出ましたよー」
アモアは部屋に入って言う。
「ああ」
「まさか、あんなに楽しい食事が出来るとは思いませんでしたよー」
アモアの言葉に、集は若い子供との食事を思い出す。
「そうだな」
「リンちゃん、集さんに懐いてましたね~」
「俺、あんま子供には懐かれないんだけどな~」
集は少し昔を思いだしています。
「そうなんですか?」
「ああ。でも、仲良くなれて、良かったよ。だけど、ここにも長くいたら迷惑がかかる」
少し、集の顔が暗くなった。
「そうですね。ですが、マナゲットにいる事も好ましくは無い」
「でも、アモアは帰らないと」
集の言葉をアモアが遮る。
「集さんが帰れないんじゃ、私も帰れませんよ!」
アモアの言葉は、集は嬉しかった。
「そっか。もし、アモアが帰ったら、何する?」
「弟と母に会って、その後に、ぺノメナルにしかけるかもしれない戦争は止めてもらいます」
「うん」
アモアの言葉には意志を感じた。これだけは絶対にする、というような。
「ぺノメナルとマナゲットは貿易をしていますよね?」
「ああ。たしか、ぺノメナルが鉱物や石油を中心に輸出して、マナゲットからは食糧を輸入してるんだっけか」
集が言う。
「はい。それでもし、マナゲットが食料を輸出しなくなったら?」
「ぺノメナルの人間が餓死する前に、ぺノメナルがマナゲットを攻撃する?」
「その通りです」
集の言葉にアモアは肯定した。
「そうなれば、ぺノメナルが勝っちゃうと思うぞ。技術力もあるし、能力者が多い」
「ですよね。それが怖いんです」
「だから、来たのか」
「はい」
「俺も、もしぺノメナルに帰れるのなら、戦争は止めさせる」
「はい!」
集は自分の端末を見た。
連絡は……ない。
「じゃ、風呂入ってくる」
「はーい」
そして集は部屋を出た。
すみません。
また、物語が進展しませんでした。進む時は進むんだけどなぁ。
咲が登場しましたね。やったぁ。
さて、今回は集の方を意外と多く書きましたが、多分、次は集は出てきません。おかしいな、主人公なんだけど……。
あと、秋広は全然出番無いような……。




