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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
マナゲットプリンセス篇
20/32

咲とハナ

 総は、出来る事が無かった。

 自分がどう動いても集の為にはならないし、そもそも、総は誰かを救えるような立ち位置にいないのだ。

 だが、状況によっては総は集が安全に帰って来れる要因になれるかもしれない。その為に、今最も重要なのは情報だ。

 そして、それを最も知っているのは豹、と総は考えた。

 そして、総が豹に言う言葉は、

「集が三位で俺が二位。そこがおかしい」

 思ってもいない事だった。

「何がだ?」

 豹も、その言葉自体を理解できない訳ではなかった。ただ、何が言いたいのかは解らなかった。より正確に言うのなら、その言葉を自分に言ってくる理由が解らなかった。

 総からすれば、その質問自体に意味は無い。ただ、会話の中で集が安全に帰って来れる要因の糸口でも見つからないか、と思っていた。

「集の能力はやろうと思えば、体内の水を操作する事も可能だ。俺より弱い事は無いだろう」

 総は由利から、集と浅村法規の戦闘内容を聞いていた。

「いや、奴は水が何かに囲まれている場合は操れない。例えば、ペットボトルの中の水はペットボトルのふたを開ける必要があるし、血を操りたいのなら、傷口が無ければ操作出来ない」

 豹の言葉に嘘はない。

「集が俺に傷一つ付けられないと?」

「それが本部の見解だ」

「そうか……」

 総は特別室から出ようとする。

「どうするんだ?」

 豹の問いに、

「どうもしないさ」

 総の返した言葉は彼の本心とは違った。

「10年前。俺と集の活躍で敵を追い払う事が出来たんだ。本部だって、そう簡単にアイツを切り離す訳ない。なら、何もしなくたって帰って来られるだろ?」

 総は言われずとも、自分の言っている事が間違っていると分かっていた。

「戻ってきたとして、アイツの心を壊され、闘うだけのものになるかもしれないんだぞ? お前も……本部の事くらい解っているだろう?」

 総は昔、ただのテログループである浅村法規達にも「やろうと思えば、洗脳も、心を砕くのも訳無い」と言っていたのだ。だから、それくらいの予想はつく。

 だけど、重要なのはそんなことじゃない。


「なら、アンタはなんでそんな奴等の仲間になってんだ?」


 本部が心を砕くような奴らだと分かっているのなら、総はその仲間となる理由が分からない。

 実際、彼が今、AHMO訓練施設に居るのは強くなる為に利用しているからであって、仲間になるつもりはないのだから。

 総は別に怒っている訳ではない。ただ、訊いただけだ。

 その質問が、豹の本心を捉える。

「誰かを見捨ててでも助けたい人がいるからだ」

「見捨てても……ねぇ」

 総は信じなかった。

「総。一つ、情報を教えよう」

「なんだ?」

「集の代わりにお前達と共に任務を行う事になる人間。木野咲というのだが、そいつの能力は電気操作・2エレクトロ・キネシス・ツーと呼ばれている」

電気操作エレクトロ・キネシス? 電気を操るのか……」

 総が推測する。

 自分の推測は疑わなかった。そして、その推測からおもわず笑みがこぼれる。

「なるほど。これでうぜぇ本部にも少しは近付けるかもな」

 満足げな総に豹が投げかける。

「総。お前に提案がある」

「……なんだ?」

 豹は知っていた。

 六万総と木野咲だけでは、本部に近付くには足りないと。

「これからの任務を、より多くの情報を持つ、敵施設を潰す内容にしてやる。危険になるがな」

「それで?」

 総にとっては嬉しい内容だが、条件がある事は分かっていた。これは提案なのだから。

「ある情報が入ったら、俺に教えて欲しい」

「ある情報?」

「ああ」

 総は豹の目を見て続きを待ったが、返答はなかった。

「フン。良いだろう。例え、どんな情報であろうと、教えてやるよ」

 総の目はまっすぐに豹を見ていた。

「お前は……どうしてそこまで集を助けたがる?」

「命の恩人だからだよ」

 温情からではない、友情からではない、総は感謝から動いていた。より正確に言うのなら、借りを返す為に。

(本部の中の事さえ分かれば、集を帰って来させられる何かがあるのかも)

 総は思うと、特別室から出た。


 一方、集とアモアは島に着いていた。

「暑いな。ここは、どういう所なんだ?」

 着いた島は、集の住んでいる地域より、暑かった。

「ここはマナゲット王国の領土のようですね。それ以上は分かりません」

「まぁ、ぺノメナルは他国について、知らな過ぎるからな。アモアは、何か知ってるのか?」

「あまり詳しくは知りません……」

「そうか」

 集は上着を脱ぐ。

 アモアは何気なく集に訊いた。

「なんで真横に来たのに暑いんでしょうね……」

「それは、ぺノメナル大陸の所為だな。あそこは特殊なんだ」

「特殊?」

 アモアはよく分からず、集の言葉を繰り返す。

「ああ。特に、発展している俺の住んでいる所とかはな」

「集様。勿体ぶり過ぎですよ?」

 ぺノは暗に、そろそろ暑い理由を言え、と言っていた。

「ああ。わるい。えっと、アモアがぺノメナル大陸に着いた時、暑くなかったか?」

「確かに、結構暑かったかもしれません……」

 アモアは思い出しながら、言う。

 あの時、アモアは濡れていたからその暑さには気付かなかったのだが。

「その後、水で移動して寮に着いた時には、そうでもなかっただろ?」

「はい。涼しくなりましたね……」

 というより、アモアはその時は濡れていたから寒いと思った。

「水で移動した時に、どんどん上に行っていたのは分かった?」

「はい。なんとなく」

 集にお姫様抱っこされた事を思い出しつつも、言う。が、集に運ばれていた時は、アモアは怖かったので、目をつぶっていたから、だんだんと高い位置に運ばれている事には気付いていなかったが。

「つまり、集様の住んでいる所は、高度が高い訳です。なので、ぺノメナル大陸は赤道付近なのにも係わらず、温帯、というか常春気候となっている訳です。そして、真横に進んで行けば熱帯になるので、ここが暑いのは当然だと思います」

 と、ぺノが言ってしまった。

「えぇ!? お前、もう説明終わる所だったのに、言っちゃうのかよ!?」

 集が言う。

 だが、集の長い説明より、ぺノの今の言葉の方が分かりやすかった。

「すみません。すごい勿体ぶっていたので」

 ぺノは言うが、反省はしていない。

「そんなつもりは……」

 集も「そんなつもりはない」とは言えない。

「いえ。二人共、説明ありがとうございました」

「ああ。いや、それより、アモアは大丈夫か?」

 集はアモアが何処に住んでいたかを知らないが、暑いのに慣れていないのなら、危険だと思った。

 集はぺノメナル大陸の性質か、気候の変化には敏感ではない。

「ちょっと、辛いかもです」

「ほい、水」

 集はアモアの言葉を聞き、水を出した。

「あ、ありがとうございます」

 水はてのひらくらいの大きさだったが、浮いているので、アモアはパクパクと食べるようにして口に含んで、飲んだ。

 集はアモアが水を飲み終わると、訊く。

「アモアはマナゲットの何処に住んでるんだ?」

「マナゲットの上の方です」

「ということは、とても寒いのでは?」

 ぺノが予測した。

 それにアモアは肯定する。

「そうですね。結構、寒いです」

「ふむ」

「集様?」

 ぺノは言う。

 その短い言葉に「今の『ふむ』は何?」という意味が入っていたのは、長年の付き合いだからか、集は分かった。

「ずっと、考えていた事なんだ。このままアモアをマナゲットに返したとして、俺はどうしようかなって」

「ぺノメナルに帰る事はできないのですか?」

 ぺノの問いに答える。

「無理だろうな。あそこでは俺は裏切り者となっている」

「あの、マナゲット王国に住んではどうですか?」

「うーん……それも正直、どうなるか分からないって感じだな」

 集が「どうなるか分からない」と言っているのは、マナゲットに行った事が無いから、どうなるか分からない、ではなく、マナゲットに行ったとして、マナゲット王国がどう対応するかが分からない、という事だ。

「アモア様を送り届けるのなら、感謝されるのでは?」

「だが、俺がぺノメナルに住んでいた事は変わらない」

「今、ぺノメナルとマナゲットの関係は非常にデリケートですからね」

「私がなんとかしますよ!」

 アモアが言うが、集の暗い顔は変わらなかった。

「それに甘えたいのだが……そうなると、もうぺノメナルには帰れなくなっちまう」

「マナゲットに住めば、情報を売ったと思われますしね。でも、ぺノメナルに帰る事はもう出来ないのでは?」

「ああ……かもしれないな」

「うーん……」

「そういえば、アモアは何故、ぺノメナルに来たんだ?」

 集が話題を変える。

「マナゲットとの関係をより良くしたくて……」

「それで、何故ぺノメナルに来るんだ?」

 マナゲットとぺノメナルの関係は良くないが、アモアがわざわざぺノメナルに来るほど、急を要する話ではない。

 つまり、確実にマナゲットとぺノメナルの関係が悪くなる何かがあったのだ。

「王が亡くなったのです」

「王? ってことはアモアのお父さん?」

「はい。そして、今は母が王の座についています」

「何故?」

 王の座というのは、ほとんど男がつくものだ。だから、アモアの母、メリアが王の座につくのはおかしい。

「私と、弟が若いからです」

「なら、弟を王の座につかせて母が補助をするのが普通なんじゃないか?」

「通例ではあります。しかし、母はそうしなかった」

 アモアは一息入れる。

「弟を王の座につかせなかった事に、どんな理由があるかは知りません。しかし、父はぺノメナルを侵略しようとの考えでした。おそらく、母も……。だから、中から何かの繋がりを得ようとしたのですが……」

「ぺノメナルもアモアを捕らえようとした。協力の意志は無さそうだな」

 アモアはマナゲットの立場では何も変えられないと思い、ぺノメナルに来た。しかし、ぺノメナルでも何も変えられはしなかったのだ。

(じゃあ、俺は? 俺はどうしたいんだ?)

「集様。これからの行動は集様の意志で変わってきます」

「……」

「マナゲットに住むなら、ぺノメナルに帰る希望は無くなる。どうしますか?」

 集は少し考えて、言う。

「俺は……出来るなら、帰りたい」

「なら、マナゲットに行くとしても、素性は隠す必要がありますね……」

「どうにかして、素性を隠してマナゲット王国に戻りたい所ですが、王女として飛行機を手配するのなら、集さんの素性もバレてしまいます……」

 ぺノもアモアも、集の意見を否定せずに、ぺノメナルに帰る方法を考えている。

(最初はアモアが素性を隠していたのに……。立場が逆になったな)

「別の方法を探そう。アモア、悪いな。迷惑かけちゃって」

「いえ! 大丈夫です」

「ありがとう……」

(帰る希望はほぼ、無いな)

 集は思うと、ぺノに話しかける。

「ぺノ……え?」

 画面にはPENOの文字ではなく、HANAと書かれていた。

「どうも、集君」

「ぺノ……?」

 集は端末から聞こえる音がぺノの口調ではない事に気が付いていた。

「いや、今はぺノちゃんじゃないんだ」

「どういう事だ?」

「ぺノちゃんの体を借りてるの。集君と話したかったからね」

「借りた……? どうやって?」

 こんなことは今まで無かった。

 ぺノはハッキングなどは効かない筈なのに、今、されているのだ。

「それは今は良いでしょ。ただ、集君がこっちに戻ってくる手伝いをしたいだけなんだ」

「手伝い……。いや、ぺノから情報も取れるのか?」

「取れるよ。それで、本部に言ってる」

「お前がやってるのか?」

 再度、確認をとる。

「そうだよ。でも、この事は言わないけどね」

「そうか。で、なんで、俺に味方する?」

「それは……贖罪かな」

「贖罪……信用して良いのか?」

 もし、ぺノから本部に情報を送っている事を罪と思っているのなら、信用してもいいかもしれない、と集は思った。

 集はぺノから情報をとられている事はなんとなく分かっていた。だが、位置情報だけでなく、会話もだったのだが。

「今はね。それに、貴方がピンチになっちゃうような情報は、本部にも言ってないんだよ?」

「そうか。お前はハナって言うのか?」

「そうだよ」

 ハナは肯定した。

「まぁ、それはいい。それより、具体的にどう助ける?」

「いや、それが、間接的にしか助けられないんだよね~」

「間接的?」

「うん。私が出来るのは、君が帰ってきても、お咎め無しになるタイミングを伝える事しかできない。それも、いつ来るかは分からないよ?」

 ハナが言った。

「そんなの、来ないだろ」

「さぁ、どうかしら? 貴方には仲間がいるんでしょ?」

「あ、ああ」

 そのハナの言葉に、集は総と霄と由利と秋広、そして咲を思い出した。

(仲間……)

「彼らが、助けてくれるんじゃない?」

「かもな」

「信じて待つしかないよー。じゃねー」

 ハナがそう言うと、画面はPENOという文字に戻った。

「アレ……? なんでしょう、これ」

 ぺノが言う。

「なんだろうな?」

 集は言うと、口元に手を当てて、声に出さずに、今の事はぺノには言わないで、とアモアに伝えた。

物語が進展していった気はしませんが、しかし、進展はしています。

総と豹は一歩踏み出し、集は今を理解しないまま、待つ状態となった。

さて、皆さんは木野咲という人物を覚えているでしょうか?

覚えていません、という人は序盤で出てきましたので、お読み下さるとうれしいです。

彼女がもう一度出てくる事は決めていたのですが、ついにこの次に出てきます!

楽しみ!

という人は私だけでしょうか?

今回もお読み下さりありがとうございます。

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