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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
秋の桜篇
2/32

雨の日の出来事

 天久集あめくしゅうは端末の音に目を覚ました。

 アラーム音が部屋中に鳴り響いている。

 集は端末に触れ、アラームを止める。すると、画面が切り替わり、PENOという字と共に、

「おはようございます」

 という音声が聞こえた。

「おはようぺノ」

 集は返事をすると、起きあがった。

 集にはある端末が支給されていて、その端末にはぺノという音声での質問を音声で返す機能が付いており、何故、スムーズに会話が成立するのかは、集も知らない。

「う~わー」

 背伸びと同時にあくびをすると、集は部屋を出た。


 集はいつも通り学校に通う。集は今、ただの高校一年生だ。

 春の少し肌寒い風が肌に当たる。

「よー、集」

 後ろから聞こえた声に振り返る。そこには木野咲きのさきがいた。

「咲か。おはよう」

「おー、おはよっ」

 咲は俺の横を歩く。

 咲は集と昔からの――中学一年生から――仲だ。

「最近は他の大陸で戦争してんのか?」

 集は何気なく聞いた。

「ハァ!? 毎回、もうちょっと話題をセレクトしてよ! その話題、普通はしないよ?」

「あ、わるい」

 咲の一般的な反応に集も遅れて謝る。

「いや、良いんだけどさ。最近は聞かないね。ニュース、見てないの?」

「忙しくてな」

「そう。戦争なんて、この大陸じゃあ有り得ないしねぇ。ま、他の大陸でも最近はあまり聞かないわ。一番近いのはあれじゃない?」

 意味の読みとれない咲の言葉に集は首をかしげる。

「なんだ?」

「あの、この大陸、ぺノメナル大陸に侵略してきたマナゲット大陸? のどっかの国がこの大陸の近くで渦潮とか津波に遭って攻められなかったっていう」

「……」

 集は少しうつむいて黙る。

「笑えるよねー。何しに来たんだっつーの」

「……」

「集?」

 返事をしない集に違和感を感じ、咲は集の名前を呼んだ。

「え? ああ、なんだ?」

「聞いてた?」

「あ、ああ、聞いてたよ」

「じゃ、何言ってた?」

 集の言葉に動揺を感じとり、咲は集に問い詰めた。

「チキンナゲットがなんとか、だろ?」

 集はそうとぼけた。

「全然違うし! マナゲットでしょ! ナゲットしか合ってないよー」

「わるいわるい」

 特に反省する様子も無く、集は謝った。

「ま、戦争なんて、おきないのが一番だよね」

「ああ、そうだな」

 集は言うと、咲と学校へ向かった。



 クラスに入り、席に着く。

 集は咲と仲が良すぎる為、相手から話しかけてくるほどの友達は咲しかいない。入学したばかりのこの時期ならば、普通かもしれないが。

 誰にも話しかけず、話しかけられずにいると、

「今朝の会話。戦争の有無なら私に聞いて下さればいいのに……」

 という言葉が耳に届いた。

 ポケットから端末を取りだし、ぺノの言葉に答える。

「いや、それは分かってるよ。最近は戦争が起こってない事も。ただ、話題がそれしか思いつかなかったんだ」

 反射的に自分が何を言うのかを考えずに言った。

「集様。話題が戦争しか思いつかないというのは……」

「わかってる。わかってるんだが……」

 ぺノの呆れた声が聞こえる。それに集が答えようとすると――

「なに話してんのー?」

 と、声をかけられる。

 集は声でわかっていたが、振り向き、自分に話しかけたのが誰なのか、確認した。

 やはり、咲だ。

「え? 何も話してないよ」

「いや、絶対しゃべってたね!」

 集は誤魔化すが、決定的な瞬間でも見ていたのか、彼女は断言した。

「あ、ああ、独りごとを言ってたかも!」

 明るく元気に集が言うと、

「なにそれ? ま、いいや」

 と、咲も呆れて言う。

「授業始まるぞ?」

 これ以上、問い詰められるのも嫌なので、集はそう言った。

「いや、うん」

 咲は何か言いたげだったが、やめて、席に着く。

 すると、ちょうどその時、授業の開始を告げるチャイムが鳴った。


 一時限目は社会だ。

 黒板には世界地図が貼り出されていて、北西から南西に亘る、最も大きい大陸、マナゲット大陸。北に位置する2番目に小さい大陸、ローレス大陸。南東に位置する2番目に大きい大陸、インビデュアル大陸。そして中央に位置する一番小さい大陸、集たちの住む、ぺノメナル大陸となっている。

「社会の授業など、集様なら要らないのに……」

 ぺノがぼやくが、今は授業中だ。

 ぺノの声は大きくはないが、静かな教室で女の子のような声が俺のポケットから響くのはおかしい。

「しーっ」

 端的に指示する。

「し、失礼しました」

 ぺノは自分の失態に気付き、慌てながらも謝った。

 ただ、ぺノはまた失態をした。慌てて話したから、声が大きく出たのである。

「なんか言ったか?」

 先生が集に言う。

「いえ! あの、独りごとです」

 慌てて答えた集の訳のわからない言葉に先生は淡々と「そうか」とだけ言った。


 今日も何事もなく、授業が終わった。

 皆が帰るしたくをする。

 一ヶ月も経てば、部活をする者も現れるだろうが、まだ誰も部活に入っていないため、クラスの者は話しながら帰るしたくをしている。

「雨かー」

 咲は窓の外を見て、そう呟いた。

 窓際の席の集は近くにいた咲の言葉に、

「嫌いか? 雨」

 と言った。

「うーん、めんどくさいよね。集は?」

 めんどくさいというのは、傘を差すのがめんどくさい、ということだ。

「俺は雨は好きだぞ」

 集は即答する。

「うぇっ? あ、ああ。そっか」

 動揺しながらも咲が言う。

「ああ」

 集はそれに意味の無い返事をした。

 会話が途切れる。

 別に、会話は続けなきゃいけないものじゃないしな。

 集はそう思うと、鞄を持つ。

「あの……さ。今日、一緒に帰らない?」

 しかし、その沈黙は今の咲の言葉を咲が言う為の準備期間だったのだ。

「ああ、良いぞ」

 特に何も考えず、集は了承した。

「そ、そう。じゃあ、行きましょ!」

 そう言って自分の席に咲は歩いて行く。集はそれに付いて言った。

「あいつらって付き合ってんの?」

「さぁ?」

 集の席の近くの男女が今の会話を聞いて、そう言った時には、咲は既に準備をしてあった鞄を持ち、教室を出ていた。頬をほんのり赤く染めて。


 集と咲は傘を差し、歩いていた。

 細い道で二人が傘を差し並ぶ事はできないから、集と咲は朝のように横に並んで歩けない。

 さっきから、会話は無い。

 前に電柱だ。

 電柱とガードレールに挟まれると、一人ずつ通るしかない。

 咲が少し止まり、傘と傘がぶつかる。

「あ、ごめんっ」

「いや」

 咲が謝り、集が答えた。

 

「ここまでで良いよ」

 唐突に、咲は言う。

 集は咲の家の近くに来ていた。

「そう? 分かった。じゃあ、また明日」

 集が行くと、咲は元気よく家のドアを開ける。

「ただいまー」

「おかえりー」

 咲の母は言う。

「ハァ、また言えなかった」

(いつになったら、私の気持ちは伝えられるんだろう)

 咲は胸を触って呟いた。鼓動が速くなっている事を感じながら。


 集は咲と別れると、家に向かった。

 集と咲は家も近いし、家から学校も近い。

 信号が赤だったので、集は立ち止まる。

 すると、横断歩道を渡った先の女子が、

「きゃああ」

 という悲鳴を上げた。

 女子の前にはナイフを持った男が。

「なっ」

 集は驚き、すぐに目を細めて集中する。

 すると、集の近くに降る雨が止まった。

 そして、集の前に集まる。

 拳ほどの大きさの雨の塊から水の粒が男に向かって飛ぶ。

 その粒は男の両足を貫いた。

「ぐあっ」

 男がその場に倒れる。

 信号が青になり、集は横断歩道は走り、女子と男の間に立った。

「能力者だ!」

 誰かが言うが、気にしない。

「大丈夫ですか?」

 集は女子に言うが、

「っ……」

 その女子は何も言わずに立ち去った。

「て、めぇ!」

 男はナイフを差しにくるが、その手に水の球体をぶつける。その手は地面に激突した。

「ぐあああああああ」

「ぺノ。警察は」

 男の悲鳴は意にも介さず、ぺノに話しかけた。

「呼んであります。集様」

 ぺノもまた、いつも通りの対応をした。


 警察が来ると、男は救急車に運ばれ、俺は警察の人に事情聴取があると言われ、警察署に来ていた。

「まぁ、君が悪い事をした訳じゃない。だがね、あれはやり過ぎだよ。強い能力を持ってしまって自分の力を過信していないかい? 強い力を持っているからこそ、さっきのよりもっと安全な解決法があった筈だよ」

 と、この調子でずっと警察官が集と話していた。とはいっても、警察官が勝手に話しているだけだが。

 それに対して集は、もっと安全な解決法はあったかな? 一番、迅速に解決できると判断しての行動だったんだけど。あとで、他にやり方があったか考えておくか、と思っていた。

 ドアが開き、集の知り合いの男が入ってくる。

「お前は……ひょう

「君はもういい」

 豹が言うと、警察官は「はっ」と言って部屋を出た。

「まさか、こういう会い方をするとはな。天久集」

 豹は淡々と言う。

「俺も、こんな形で会うとは思っていなかったよ」

「ふん。組織から抜け出しての日々は楽しかったか?」

「ああ。とてもな」

 集は動揺せずに答える。

「ほう、それは良かったじゃないか。君のその強大な力が10年前、マナゲット大陸から来た多くの敵兵を渦潮や津波と見せかけて殺したというのに、君は平和に生きる。馬鹿げているな。君は強大な力を持っていて、それはこの国に対する脅威に使うべきだ。その為に、君は平和な所に居てはならない」

 豹はそう断言した。

 その言葉に集はいらついた。

「解っているさ。別に、俺は戦争から逃げたかったわけじゃない。参加しなければならない、とも思っている。しかし、10年前の俺の起こしたあの一件で他の大陸は攻めてこなくなったじゃないか。だから、俺も平和に生きていたんだ。敵が攻めてきたら、俺は闘うさ」

 その集の言葉を聞いて、豹は満足げな顔をした。

「そうか。ならば、そろそろ、お前には強くなってもらわねばならない。今のままではお前はこの大陸は救えない。確実に敵が攻めてくるであろう情報が入った。あとで報告する。それじゃ、来てもらうぞ。AHMOアーモへ」

「待ってくれ! 俺には学校が……」

「勿論、辞めてもらおう」

 集の反論は知っていた、というように豹は答えた。

「クッ。しかし!」

「何をこだわっている。学校に執着でもあるのか? 言っておくが、君が学校を続けられるような展開は一つも無い」

 集は諦め、他の事を聞く。

「……このことは?」

「勿論、機密情報だ。別れなら、手紙を一通だけ許してやる」

「解った……」

 集は了承した。


 あの雨の日から一日。

「懐かしいな」

 集はAHMOに入ると、そう言った。

 AHMOはAbility holder management organizationの略で、簡単に言えば、能力保持者管理組織という所だろうか。

 集のように能力を持っている者はここに集められる。

「集、ここで待っていろ。貴様と同じような者を連れてくる」

 豹は言うと、別室へ言った。

 いつまでも立って待っているもの疲れるので、ソファに座る。

「なぁ、そもそも、超能力の原理って何なんだ? 俺、使えるだけで何も教えてもらって無いんだよなぁ」

 端末に話しかける。

 つまりは、ぺノに聞いたのだ。

 端末はPENOという文字が出る。

「はい。超能力はぺノメナル大陸付近にあるGHD-442という菌が脳内に入ることで、一千万分の一の確率で能力が使えるようになります。今の所、原理はよく解っていないようですが、超能力は使うと疲労するようです」

 難しい言葉を、イントネーションを含む、全てにおいて完璧に答える。

「じゃあ、なんでぺノメナル王国にしか能力者がいないんだ?」

「それは、この大陸の周りに吹く風が影響していて、たまたま他大陸のGHD-442が辿り着くことはないようです」

「へえ。能力者って何人くらい居るんだ?」

 また、集は興味本意で聞いた。

 まぁ、ぺノからすれば、興味本意でも、集の質問に答えるのが役目なのだから、嬉しいんだろう。

「私は教えられていませんが、この大陸には三百億人の人が住んでいますので、予測するに三千人ほどでしょう」

「三千人。多いな」

 三千人と聞くと多いが、それは三百億人という莫大な数の人口の中からの話で、集は一千万人に一人しかいない選ばれた人間だ。

 本人からすれば、自分と同じようなのが三千人いると思い、多いと言ったのだろうが。

「ただ、全員が全員、集様のような強大な力を持っている訳ではないでしょう」

「……そうか。そういえば、そんなのどこで調べてるんだ」

 ぺノは集が持っているから、情報を更新する事なんて出来ない筈だ、と思い、聞く。

「暇な時はいつでも色々な事を調べているんです」

「へぇ、勤勉だな」

「いえ、そんなことは。ただ、集様の情報と感情の制御の仕方は初期状態からありましたが」

「へぇ。初期状態から。って、感情の制御!? 感情があるのか!?」

「それは……私にはわかりかねます」

「そっか。そうだよな。わるい」

「いえ」

 知っていたのなら、教えている筈だ。

 だけど、慌てると言い間違えたりと機械らしくない事も起きる。もし、彼女が100%人に作られたのなら、そんな仕様はいるだろうか?

 集は心の片隅で考えながらも、今考えても意味が無い、とそれ以上は考えなかった。

「ねぇ、なにそれ?」

 後ろから声をかけられる。

 振り向くと、女の人がいた。同い年くらいだろうか?

「その四角いの。話してたよね? 今」

「あ、ああ」

 集は適当にうなづく。

 女の言葉はほぼ聞いてなくて、ただ、なんで自分と同じような者がここにいるのかだけが気になっていた。

「何? 会話……みたいだったけど、独りごとじゃ無いよね?」

「いや、あのー。うん、独りごとだよ?」

 やっと、女の会話の内容に気付いた集は事実を隠す。

「うそ~。絶対に会話だった!」

 その言葉に、集は少しだけ咲を思い出した。

「……いやぁ、聞き間違えじゃないかなぁ?」

 何も映らない端末を見せて、集は言う。

「そう? じゃあ、そういうことにしておくけど」

 不満げながらも、これ以上聞いても教えてはくれないだろう、と判断し、女は聞くのをやめた。

「すみません。私が警戒しないばかりに」

 ぺノは女に聞こえないように言う。

「いや、お前は警戒のしようが無いだろう?」

「足音くらいなら警戒できるのですが……彼女の足音はまったく聞こえませんでした」

「何……?」

「おそらく、なにかしらの訓練を」

「何をしている? 集。行くぞ」

 いつの間にか居た豹の言葉を聞いて、集は立つ。

「え? あ、ああ」

 豹の周りには集と同い年の生徒が何人もいた。

まだ物語が動き出したばかりなので、良いのですが、そろそろ詳しく設定とかを考えておく必要がありますね。

はい、頑張ります。

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