マナゲットへ
集は目が覚めると、学校に行く準備をした。それが終わると、部屋を出て、アモアの部屋に向かった。
すると、アモアも起きていたようで、ドアを開けてくれる。
「どうしたんです?」
少し眠たそうな目をしていたが、今起きた訳ではなさそうだ。
「朝早くからごめん。あの、バレるとマズイから、一応外には出ないでおいてくれ」
「はい。あの、ここの部屋って使ってて良いんですか?」
「それは、大丈夫。じゃあね」
言うと、集はアモアの返事を待たずに走っていってしまった。今日も遅刻しそうなのだ。
「はい」
集は学校に着くと、遅刻はまぬがれた。
「おい、集。お前は寮に住んでんだから近いだろ? なんでそんなギリギリなんだよ」
総は呆れ気味に訊く。
「いや、朝はボーっとしてるんだよ」
「そこを頑張れよ……」
集の返答に総は更に呆れた。
授業が終わると、集は豹に会う為に特別室に向かった。
「豹。話がある」
「なんだ?」
豹は平然と返す。
「というか、寮の外に付いている監視カメラでは、金髪、赤目の女と男がいたな……。あれは誰だ?」
「俺の友達だ」
集は訊かれると解っていたので、予め用意しておいた言い訳を言う。
「マナゲット王国の王女が……?」
「チッ」
やはり、バレるか、と集は思った。
集でさえ、髪の色と目の色でマナゲット大陸の人かと疑ったのだから、豹なら分かる筈だ。
「それで、話ってのは何だ?」
「部屋を一部屋貸してくれないか……?」
集は恐る恐る訊く。
「なら、あの女を取り調べるぞ」
「ダメだ! 部屋はもういい」
集は豹の返事で協力が得られない事を悟ると、寮へ向かおうとした。
「いい? いや、貸さなかったとしても取り調べるさ」
豹の言葉に反感を抱いた。
「なんだと!? 何の権利があって言ってる!?」
「フッ。何の権利があって、アモア王女はここにいる?」
「クッ」
集はまた、寮に向かおうとする。
「もう、遅い。捕まえたさ」
「貴様ッ。アモアが何をしたって言うんだ!」
集が叫んだ。
「何もしていないさ」
「お前は……クソッ」
いくら豹を罵倒した所で事態が好転しない事を悟ると、集は走った。
「待て! 何処に行く? お前も敵となるというのか?」
「……」
集は止まる。
(これから、俺はどうするんだ? アモアは取り調べを受けているだけ。だけ? 信用できるのか?)
集が考えていると、豹が言う。
「六万は? 天明は? 裏切るというのか?」
(裏切る? 違う。裏切るんじゃない。裏切るっていうのは今、アモアの元に向かわない事だ)
そして、集は言う。
「黙れ、外道」
「集!」
豹は叫ぶが、集はもう走り去っていた。
「何故教えたんです?」
総は特別室に入って言う。
「いずれ解る事だ」
「解らないようにする事だって、可能でしょう?」
総が指摘する。
「用はそれだけか?」
「まさか! 用事は他の事ですよ」
「そうか」
だが、総は話を戻す。
「ねぇ、集はどうなるんです?」
「知った事か。……奴が選んだ道だ」
豹は目を細める。
「心配ですか?」
「フン」
豹はイエスともノーとも言わなかった。
「俺は心配ですけどね」
「早く用事を言え!」
総の言葉で痺れを切らして、豹は言う。
「用事は以上でーす」
総は言って、特別室を立ち去ろうとするが、肩を掴まれる。
「ほ、ほう。俺を怒らせたいようだな」
「あ、アレ? おかしいな。俺の方が強いのにそんなこと言う?」
これは、そういう問題では無いのだ。
「フッ。お前だけ宿題は五倍だ」
「マジかよ……」
総はただただ、絶望した。
(考えが甘かった。豹だっていつでも味方な訳じゃない。あいつはぺノメナルの方針に従うんだ。なら、寮にマナゲットの王女がいるなら、報告するのは当たり前)
集は水を自分の体に張り付けると、それを操作する事で高速移動していた。
集は遮蔽物の無い空中を移動すると、寮に着いた。
「チィッ。いないか」
集は分かっていた事を再確認した。
すると、集は飛んだ。まだ、水を体に張り付けているので、下の方の水を操れば可能だ。
「何処だ!? ぺノ」
「はいっ!」
集は端末をカメラモードにして、辺りを映す。
「居ました! あのトラックに居る可能性が高いです」
集はそこに向かって高速移動する。
集はそのトラックの近くに行くと、集は水を鋭く操り、トラックの上部を切り裂いた。
中にはアモアがいた。
運転手は気付くと、車を止めた。
「集さん?」
「アモア。逃げよう。ここに居たら、君は狙われる!」
集が言うと、トラック内にいたアモア以外の人間は水を包み、その水を回転させた。すると、中にいる人間も回転する。
「はい!」
アモアの返事を訊くと、集はまたお姫様だっこの形でアモアを持ち、出来るだけ遠くへ高速移動する。
「何処に逃げれば……」
集が迷っていると、アモアが告げる。
「集さん。変に逃げても意味はありません。行きましょう。マナゲットへ」
「ああ!」
集はアモアの言葉に賛同した。
豹は本部から報告を受けると、呟く。
「天久集による単独の襲撃……か。ハデにやってくれたようだな」
「んで? 豹さん。どうするんすか?」
総が言う。
彼は宿題をしていた。
「どうもこうも、俺達はどうしようもないだろう。まぁ、お前達には浅村法規と繋がっていた組織を潰してもらうけどな」
「つまり、日常に戻れ、と?」
総が言う。
日常とはつまり、組織を潰しつつ、ここに通うという事だ。
「ああ」
「この事は?」
総が訊く。
「伝えておけ」
「そのまま?」
総が再度訊く。
「まさか。そのままでは無く、嘘の情報を言え。集は旅行に行きました。とかで良いだろう」
「旅行ねぇ」
「まぁ、そこらへんはお前に任せる」
「任されましたー」
総は元気よく言う。
「頼んだぞ」
「もっちろんです!」
そして、総は由利と霄に真実を告げた。
「天久君がマナゲット王国の王女を救う為に襲撃した!?」
「ああ。多分、ここには帰ってこない」
「集さんが……」
総は二人の反応を見る。
(良かった。やっぱり、二人とも悲しそうな顔をしている)
「何処かへ逃げる訳だが」
「まー、取り調べの為に捕まえるってのも横暴な話だけどね」
「それで襲撃をするんですか」
霄と由利が言う。
確かに、変な話だ。
ただの取り調べで襲撃をするというのも。
「アイツは信用していないんだ。この国をな」
総と集は知っている、10年前の一件を。そして、ぺノメナル王国を。
「何故?」
「理由はいっぱいあるだろう。あるいは……」
「あるいは?」
「いや、なんでもない」
総は由利の問いには答えなかった。
(あるいは……10年前の、アレを悔いているのかねぇ。……ったく。お前だけの所為じゃねぇだろうがよ)
集は海に着くと、言う。
「ぺノ、お前は防水で合ってるよな?」
「あってます!」
一応、集は確認する。
「それ、喋るんですか?」
「ああ。潜るぞ!」
アモアは驚くが、集は今の言葉で説明をする意志は無い、と示す。
「はいっ!」
それに気付いたのか、アモアは返事だけすると、息を止めた。
集は体に張り付いた水を操り、海に潜った。
アモアは目を閉じたままで、何が起きているかは理解できていない。
「アモア。目を開けて良いよ」
「!」
集の声が水中であるに係わらず聞こえた事に驚いて、恐る恐る目を開ける。
すると、集の顔の周りとアモアの顔の周りには空気があって、それは繋がっていた。つまり、アモアと集の間の空間には空気があったのだ、だから、声が聞こえた。
「このまま、まっすぐ行けばマナゲットに着く。安心しろ」
「はいっ!」
集の言葉にアモアは反応した。
集はお姫様だっこをやめて、アモアを離す。
アモアは集の能力で水を操るのに影響されて、進んでいた。
「わぁ、良い景色ですね!」
水中は日の光が差し込んで、魚が泳いでいた。
「ああ。あ、これ」
集は端末をとりだす。
「アモアさん。私はぺノです。この端末に住んでいます」
「あ、こんにちはぺノさん」
アモアとぺノは会話する。
「ぺノは誰かが通信している訳ではなく。ぺノ自体がぺノの意志で話している。だろ?」
「はい。私自身に心があるかどうかは解りませんが」
「そんなすごい技術が?」
「多分、ある」
集は取りあえず紹介を終わらせたので、端末をしまおうとすると、ぺノが言う。
「それより、あと30時間はかかります」
ぺノの言葉を聞くと、一度にマナゲット大陸に着く事はできないと思う。
「マジかよ!? 何処か近くに島は?」
「あります」
「了解!」
集は更に速度を上げる。
「そこで休憩しましょう」
「集様も、能力の使い過ぎです」
ぺノの指摘は正しく、集は能力を使い過ぎて疲れていた。
「わかってる。それより、食材はどうする?」
集は先の心配をする。
「魚とかで、どうでしょう?」
「ぺノがいればある程度は大丈夫か」
「頑張りましょう!」
ぺノは言う。
「ナビゲートしますよ!」
「おう!」
ぺノの言葉に集は答える。
すると、ぺノの画面に矢印が出てくる。その矢印は集が進む度に少しずつ動く。その矢印の先に島があるのだ。
「……これって、ぺノさんの充電が無くなったら、終わりじゃないですか?」
アモアが言った。
「……あ」
「大丈夫。それより、マナゲットまで三日はかかりますね!」
ぺノは明るく言った。
「いや、お前。三日だったら、充電切れちゃうじゃん」
「大丈夫!」
「いや、大丈夫じゃねぇよ」
集が呆れて呟く。
「そういえば、アモアとあと男の人いただろ? あれは?」
すると、アモアは少し、悲しそうな顔をした。
セイスンは歩いていた。
彼の服と剣には血が付いていた。
そして、彼は電話をする。栄実の番号は聞いておいたのだ。
栄実はすぐにでた。
『セイスン? どうしたの?』
その問いにセイスンが嘘を吐かずに答える。
「私とアモア様が取り押さえられそうになった」
『え?』
セイスンの言葉に栄実は短く驚く。
「私は逃げたが、アモア様は……」
『なんですって?』
栄実はセイスンが続きを告げなかった事を、取り押さえられた、と考えた。
「じゃあな」
そして、セイスンは電話を切ると、栄実の部屋から出ていった。
「フフ、フハハハハハ」
(これで、アモア様を理由に戦争ができますよ。メリア様)
同時刻、水中。
「セイスン……」
「あいつ、どうしたんだ?」
アモアの悲しそうな顔に集が心配そうに訊く。
「セイスンは逃げていきました」
「……」
集は何も言えなかった。
「良かったです。無事なのですから」
(お前を見捨てたのにか? いや、俺もセイスンを見捨てたか)
集も、アモアを助ける時、セイスンの事を考えた。だが、セイスンが何処にいるかは分からなかったので、アモアを助ける事にしたのだ。
「でも、無事なのか?」
「はい、セイスンは強いし、能力者ですから」
「えっ!?」
集は驚く。
(能力者……?)
「最近、マナゲットでも能力者が出始めているんですよ」
「……そうなのか」
集は出始めた異変に危機感を覚えた。
そして、物語はまた進みました。
集の舞台は変わっていきます。
ですけど、由利や霄などが出てこなくなる訳ではありません。出番は少なくなりそうですが……。
マナゲットプリンセス篇はものすごい長さになりそうだなぁ。ただ、秋の桜篇もそう思ってそうでもなかったし、とりあえず、秋の桜篇より長くなりそうです!