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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
マナゲットプリンセス篇
16/32

血気盛んな王女様

 ぺノメナル大陸は世界の中心に位置していると言われていて、過去の戦争時には他大陸に攻める為の第一段階として、多くの国に狙われた。8千万km²の大きさを持ち、一度は北西から南西に亘るマナゲット大陸を統治しているマナゲット王国の植民地となった。

 その後、マナゲット大陸の科学力を(植民地となった為)間接的に手に入れる。そして、誰も意図せず能力は生まれた。

 アウフェルという名の男を筆頭に数々の者が能力を発現させた。おそらく、GHD-442はそれまでは蔓延していなかったのだろう。

 勿論、マナゲット王国のぺノメナル大陸にいた兵士も能力者となったが、結果はぺノメナル大陸を先住民が取り戻すというものだった。

 そして、マナゲット王国が土地を取り返しに来た時は、能力と科学力でぺノメナル大陸は異常な強さを誇っていた。

 それからは対話という形でぺノメナル王国も色々な王国と係わっていたが、ぺノメナル王国は他国を領土にいれない、という所を譲らなかった。輸出、輸入はしても、それ以上にはいかない。そして、科学力としては、ぺノメナル王国が一番なのだ。

 その、いつでも戦争を待ち構えている姿勢に腹が立ったのか、マナゲット王国が一度、ぺノメナル大陸に侵略しようとした事がある。だが、結果は海からの戦艦は集の能力で沈み、空からの兵器は総によって墜落した。――――後に悪魔の惨劇と呼ばれる。

 それ以来、ぺノメナル王国に攻める者はいない。


 豪華な作りの城の中央には椅子があった。そこに座る筈の王はいない。

「王様がいきなりお亡くなりになるとは……」

 兵士の一人が言う。

「ああ。どうなるんだろうな。王様の子は二人いるが、やはり長男のリーフェル様か?」

「だが、まだ12歳だぞ?」

 もう一人の兵士が返す。

「それなら、長女のアモア様か?」

「アモア様だってまだ17歳だろう?」

「黙れ」

 後ろから声をかけられる。

「はっ。失礼しました。セイスン様」

「それを決めるのは我々ではない。我々はただ守護するのみ」

 すると、アモアが来る。

「兵士長、セイスン」

 セイスンはすぐにアモアの元に駆け寄る。

「はっ。なんでしょう?」

「少し、場所を変えましょう」

「分かりました」

 セイスンはアモアの提案に即答した。

 アモアとセイスンは誰もいない場所に着くと、また話を再開した。

「セイスン。王の仕事は私でもリーフェルでもありませんでした」

「では……誰に?」

 訊かずとも教えてくれるだろうが、セイスンは訊いた。

「母上のメリアです。それより」

「?」

 セイスンは首をかしげた。王の座に誰が着くかどうかを「それより」で片づけるのはどうかと思ったからだ。だが、勿論、言葉にはしない。

「セイスン。貴方は強いですよね」

「えっと……はい」

 謙虚にいくべきか、と悩んだが、求められているのは実力だろう。

「そうですか。では、着いてきなさい」

「着いてくる? それは構いませんが、何処に?」

 兵士長だが、着いてくる事自体には反対しなかった。

「ぺノメナル王国です」

「へ? ……許可は?」

 アモアの突拍子もない発言に戸惑う。

「母上が許可しました。セイスンが守るなら、と」

「ですが、そう簡単に侵入などはできませんよ。我々の金の髪はあそこでは珍しいようですし」

 侵入できたとしても、すぐにバレる。

「はい。ですが、あそこには我々のスパイがいるのです」

「スパイ!?」

 セイスンは正直、信じられなかった。

(あのぺノメナル王国にスパイなんて……可能なのか?)

 そんなセイスンの心の声が聞こえた訳ではないだろうが、アモアは解説する。

「はい。悪魔の惨劇の時、我々の兵士が海に流された所、たまたまぺノメナル王国に流れ着き、親切な者に助けてもらったようです」

「はぁ……なんとまぁ」

 運が良いものだな、とセイスンは思った。

 それもその筈、金髪はすぐに怪しまれるだろうし、目の色だって赤なのだ。普通に気づかれるのではなかろうか? あるいは、気づいた上でかくまっているのか。

「ですが、そう何度も通信していればバレてしまいます。だから、連絡はあまり取れません」

「それは……そうでしょうねぇ」

「そこで、一度だけ連絡を取ります」

「ふむ」

 セイスンは続きを待った。

「作戦は私が考えてあります! 協力してくれますか? セイスン」

「勿論です!」

 セイスンは力強く答えた。


 王室。

 室内にはアモアの母にして王の座に着いたメリアとアモアの弟にして長男のリーフェルがいた。

「母上。良かったのですか? アモア姉さまを許可しちゃって」

「いいのよ」

 リーフェルにメリアはそう答える。

(能力も使えない女なんて、要らないわ。リーフェル一人で十分)

 メリアは悪魔の笑みを浮かべた。


 同時刻。5月24日の午後五時。

(何がどうしてこうなったんだ?)

 集は今までの事を思い出す。

 教室で、総が集に「由利がお前を呼んでいるらしいぞ」と言った。日常的な会話だ。

 これは集の知らない事だが、同時に霄も由利に「集が由利を呼んでるらしいよ~」と言っていた。

 集が由利の元にいくと、「どうしたんだ?」と訊いた。それに対して、由利も「えと、話があるんですよね?」と言った。

 そこで、集もある程度は察した。そして、せっかくのご厚意だからのってやろうと思って、「ああ、そうだ」と言ったのだが、そこからが思ってもみなかったこと。

「じゃあ、行きましょう」と由利は言うと、校舎を出ていった。今更「どこへ?」とも訊けず、着いていくこととなり、現在。

(どこにいくんだろう……)

 しかし、校舎をでると、すぐに左に曲がった。

(そっちには寮しかないんですケド……)

 そして、寮に入る。

「ここですね」

 集の部屋の前。

「いや、ここっちゃここだけど、ここでどうするの?」

「ふふ。入ってからのお楽しみです」

 由利はドアを開けようとするが、当然開かない。

「あ、開ける?」

「いえ、間違えました。こっちですね」

 一つ隣の部屋にずれて、秋広の部屋を開けた。

「おー、きたきた」

 部屋の中からはそんな総の声。

「総? って皆いるんかよ!」

 総、霄、知世、秋広、桜がいた。

(へっ別に全然期待はずれとかじゃないから!)

「まー、なに。知世もお前に礼を言ってないらしいし? そういうのをかねてパーティーやろうと思って。この部屋も今日までしか使えないらしいしな」

「そーかい」

 総の言葉に集は答えたが、明らかにテンションが低かった。


 5月25日、午後1時。

 ぺノメナル大陸付近の海の中に潜水艦があった。

 中には潜水艦を操縦する者と、セイスンとアモア。

「これ以上は近付くとバレるそうです」

「そうですか」

 アモアは言うが、そこに不安はなかった。

「では、セイスン。海をもぐって侵入しましょう」

「いえ。見張りがいると思いますが」

 アモアの提案にセイスンは首を振った。

「いえ! 問題ありません。スパイによると、すごい助っ人がいるらしいので。まぁ、その人には私達の事情を話しちゃダメっぽいですけど」

「それで、考えなしに海に飛び込むのですか?」

「はい!」

 セイスンの呆れ気味の言葉にも元気よく返す。

「ハァ。本当に大丈夫なんでしょうね?」

「多分!」

「そうですか……え?」


 ぺノメナル大陸のはじ、砂浜に集と栄実はいた。

「なんだよ……こんなとこに用って?」

 集は眠くて目をこすりながら言う。

 夜、いきなり栄実に「急いで砂浜に私と向かって欲しい」と言われたので集は急いで水の足場を作り、飛んでここまで来たのだ。

「私の友達がおぼれてるの!」

「えぇ?」

 栄実が突然言うので、驚く。

「どうにかして助けられない!?」

「わ、わかった」

 集は海水に触れると、海の中の状況を把握した。

「いた! 泳いでるけど……でも、ここから相当遠いぞ!?」

 集は水を操り、セイスンとアモアを水で包んで浮かし、陸まで持ってくる。そこで水で包むのはやめた。

「ぷはぁ。あ、ありがとうございます」

 アモアが言う。

「なんでお前、あんなとこに居たんだよ」

「いや~……泳ぎたくて」

「ハァ、気をつけろよ」

 集は言うと、帰ろうとする。

「あの……本当にありがとうございました!」

 もう一度、アモアは礼を言った。

「あー、あのさ。着替えとかって持ってんの?」

「へ?」

「いや、服濡れてるし、風邪ひくだろ」

「え、ええ」

 アモアは集の言葉に驚く。

「栄実。俺は自分の服持ってくるから、それを男の人に着せるとして、栄実は自分の服を持ってきてくれ」

「わかった!」

「いや、この二人を寮に連れてきた方が速いかな?」

「いやっ、それはやめた方が良いと思う!」

 栄実が慌てて言う。

「なんで?」

「いやー、人見知りでさ。この子」

「そっか。悪かった。じゃあ、着替え持ってくるから、栄実はそこに乗ってくれ」

 集は水の足場を作ると、栄実はそれに乗った。集は水を操り、栄実と寮へ向かった。

「……すごいわね。あの人」

「アレですよ……悪魔の惨劇の原因は」

「……え?」

 セイスンの言葉にアモアは驚く。

「水を操る能力者。あいつしか考えられません。あとで報告しましょう」

「やめて下さい」

「え?」

「彼は恩人です! そんな人に……」

 アモアは感謝していた。ただ、助けてもらったからではない。不安だったのだ、ここに来るのが、でも、来てすぐに集の優しさに触れた。

「ですが! 彼の所為で何人もの仲間が死んだのかもしれないのですよ!」

 セイスンは言う。

 彼の言葉も間違ってはいない。

「私は! あの戦争には反対だったのです! ぺノメナルは、何も悪くないじゃないですか!」

「アモア様は自分のお父様の判断を間違っていたとおっしゃられるのですか!」

 どちらも、退かない。

「そうです! だから、ここに来たんです!」

「な……」

 セイスンは驚く。

 すると、集と栄実が服を持って戻ってきた。

「どうかしたのか……?」

「いえ、なんでもありません」

 アモアが言う。

(さっきより明らかに元気が無いけど……)

「それで、結局着替えする場所を考えてなかったんだよね。服はあるけど。だから、俺の能力ですぐに家に行くのと、一度寮で着替えるのだったら、どっちが良いんだ?」

 集が訊く。

 そして、この大陸に家など無いアモアは、

「寮に行かせていただいてよろしいですか?」

 と言った。

「ああ、勿論」

 集は言うと、アモアに首から足まで隠せるタオルを巻いた。

「ありがとう」

「ああ」

 栄実もセイスンにタオルを渡した。

「そんで、どうする? 栄実。俺の能力での足場って、お前なら分かるだろうけど、結構怖いんだよな」

「ええ。最初は超怖いわ。足場が液体なだけに不安定だし」

 栄実が言う。

「そこらへんは大丈夫?」

 集が訊くと、

「私は構わない」

 とセイスンが言った。

「君は?」

 アモアに訊く。

「……ちょっと……怖いですけど」

 アモアがそう言うと、

「じゃあ、無理しなくて良いぞ」

 と集が言った。

「え?」

 アモアが驚いていると、

「それに乗るのよ」

「こうか?」

「そうそう」

 とセイスンと栄実がどうやって水の足場に乗るのか、という会話していた。

「じゃあ、ちょっと失礼」

 集は言うと、アモアの膝の裏と脇のあたりを持った。

「ひゃっ」

 アモアは横の状態になった、いわゆるお姫様だっこだ。

「じゃあ、行くぞ」

 集は足場に乗ると、栄実とセイスンを足場も動かして寮に向かった。

「お、重くないですか?」

 移動中、アモアが訊く。

「大丈夫。俺も一応鍛えてるし、それ以前に君は軽いからね」

「そ、そうですか」

 そんな会話をしているとあっという間に寮に着く。

 集はアモアを立たせた。

「大丈夫?」

「あ、はい」

 アモアは立つと、タオルを押さえつつ言った。

「じゃあ、入ろう」

「集も大胆ね~」

 栄実が言う。

「いや、アレしか思いつかなかったんだよ」

「そうかしら~?」

 そんな会話をしていると、集の部屋と栄実の部屋の前に着いた。

「それじゃあ、俺の部屋には男の人で」

「あの! 私、そっちの部屋が良いです」

 アモアが言う。

「へ? そっちって俺の部屋?」

「は、はい。……ダメですか?」

「いや、良いよ」

 集は言う。

「じゃあ、集、あとで」

「ああ」

 栄実と会話をすると、集は部屋に入った。

「まぁ、何もないけど、どうぞ」

 集は靴を脱ぐと、部屋に上がるが、アモアは上がらない。

「入っていいんだぞ? 別に地面が濡れるとかは気にしないから」

「は、はい」

 アモアはつま先立ちして出来るだけ地面に水滴が付かないように歩く。

「あはは。ちょっと待っててね」

 集は言うと、タオルももう一つ取ってきて、アモアも下にひいた。

「あ、ありがとうございます」

 アモアは言うと、タオルのを踏んだ。

「この時間じゃ銭湯は閉まってるだろうしな~」

 集は独り言を言った。


 セイスンは部屋に入ると、貰っていたタオルで足を拭き、上がると、訊いた。

「俺の髪の色や目の色は気にならないのか?」

「髪は染めてると思われてんじゃない? 目はたまにいるわよ。赤いの」

 栄実は普通に答える。

「お前は、目は黒いし、髪も黒いが……」

「染めてるのとカラーコンタクトよ。それより、なんでここに来たの?」

「王女様がこの大陸が敵かどうかを見極めたいのだそうだ」

「ふーん、そうなんだ」

 栄実はあまり嬉しくなさそうに言う。

「何か不都合でもあったのか?」

「ううん、なんにも」

 栄実は言うと、窓の外を見た。

新章突入です。

今回は秋の桜篇とは違い、集達が自ら動き続けるような話にはならない予定です。あくまで予定です。変わるかもしれません。

楽しく読んでもらえると幸いです。

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