裏切り者
港に近い所にある施設。その中では真夜中にもかかわらず、四人の男女がいた。
その四人はお泊まり会をしています、というような雰囲気ではなく、真面目な、悪く言えば暗い雰囲気だった。
「なぁ、お前ら。まだ、秋広は殺せないのか? せっかく切り札を手に入れたのに」
暗い雰囲気の中で、浅村法規は言った。
「それが、浅村さん。あいつは寮で暮らすようになってるんです。それに、いつも天久集が居て」
「なるほど。じゃあ、天久集が秋広と離れたら、殺せ。そうだなぁ、寮暮らしか」
法規は男の言葉を聞きながら、やっかいだ、と思った。
法規は一度、天久集の能力を見ている。集の能力が強い事は分かっているし、それがターゲットである秋広から離れないのなら、厄介だ。しかも、秋広が寮暮らしとなってしまえば、今まで幾度となく訪れていた秋広を殺すチャンスが無くなってしまう。
「そういえば、あの秋広って奴と集って奴はいつも一緒に買い物行ってますよ」
「買い物?」
「ええ。弁当とか、おにぎりとか」
「ふーん。使えそうだねぇ」
浅村は嬉しそうに笑うと、男に「ありがとう」と言った。
それから日は昇り、集は学校に着いた。
教室に入ると、中には霄は勿論、総も由利もいた。
「あれ、居るんだな」
この前、総と由利が任務に行った時は、朝から居なかった為、集は言う。
「ああ。作戦は夜って事になったからな」
「ですから、そういうことは」
「分かってる。詳しい話は昼にな」
由利の呆れ気味の言葉を聞いて、総が言う。
「ああ」
昼になると、総、霄、由利、集はいつもと同じ場所で弁当を食べていた。
「ま、つまりは任務は夜からだから、今日はいるってこと」
「ふーん。そうか」
総の説明に集が納得する。
「そういえば、今日は知世ちゃんがお休みだよね~」
「知世か」
霄が出した話題に総が呟く。
「豹が休む連絡をもらってないって言ってたな」
集は気にせずに会話を続ける。
「へー」
「ちょっと、心配ですね」
「そっか。由利って知世ちゃんと同じ中学校なんだっけ~?」
由利の言葉に、霄が思い出したかのように言った。
「中学校ではなく、訓練施設ですよ。私と、天神さんと、それから六万さんは子供の頃からそうです」
「そうなのか?」
集が総を見て言う。
「ああ」
「訓練施設って何してるんだ?」
「ここも、一応訓練施設って事になってはいるんだがな」
「じゃあ、ここと同じような感じか?」
「少し、違うな。銃の射撃訓練とか、素手での戦闘訓練とかだな」
「なるほど」
総の言葉に、ここでは素手での戦闘訓練とかはあんまりやんないな、と集は思った。
「どうりで総とか由利が銃、使うの上手いんだね~」
「日向も上手いと思うけどな」
霄の言葉に、集が言う。
「そう?」
「ええ。とても上手だと思いますよ」
「へへ~。ありがとう!」
「はい」
すると、霄が集をじっと見ているので、集は何をすれば良いのか分からず、とりあえず、
「ああ」
と言っておいた。
「じゃあ、今日はこれで終わりだ。早く帰るように」
豹はそれだけ言うと、教室を出た。
「じゃあな。総。頑張れよ」
「ああ」
集は言うと、帰ろうとするが、総が由利を指さしているので、帰るに帰れなかった。由利は集や総の方を見ていないので、気づかない。
(まぁ、総にだけ言うのも、おかしいか)
「天明も、頑張れよ」
集の言葉に、由利は振り返る。
「はい」
由利の言葉に、集は根拠の無い不安に苛まれた。
集はその不安を考えないようにして、寮に歩いた。
時は過ぎて、日は沈み、夜となった。
暗闇に紛れるようにして総と由利は立っていた。
「行こう」
「はい」
総の言葉に由利が返すと、由利は壁を切り離した。
総は風で壁を押し、由利によって切り離された部分が飛ぶ。
「なに!?」
中にいた男は近くにあるボタンを押す。それが押されたと同時に、由利は銃で撃った。
「急ごう」
総と由利が施設内を走っていると、放送が流れる。
『ようこそ! 六万総と天明由利。歓迎するよ』
法規の声だ。
「放送? 余裕だな」
「無視しましょう」
施設は小さな部屋と廊下、そして大きな部屋があり、総と由利は小さな部屋に侵入した。
『さて、ここには君達の知り合いもいてね。俺のすぐ近くにいるんだが、まぁ、来れば分かるよ。そのままま直進したら俺がいる』
「罠か?」
総は警戒するが、そもそも、あと一つしか部屋がないのだ。
由利はドアを壁から切り離す。
ドアが倒れてから、少し経つと、銃を撃ってきた。ただ、由利と総はドアの横でずっと待機しているので、当たることはない。
総はドアが開いているのだから、そこから風を吹かせて当たった物や者の形を把握している。銃を撃とうとしている事も、わかっているのだから、迂闊に飛び込んだりはしない。
総は、室内に風を凄い勢いで吹かせば、全員を殺す事は可能だ。ただ、気になっていた。さっきの法規が言っていた、知り合いがいる、という話を。
「ラッキーだったよ。まさか、君達から来てくれるとはね。これ、僕の切り札なんだけど」
「何の話だ?」
話が掴めない、というより、掴ませる気をないんだろう法規の言葉に総は返す。
「君達を倒す秘策の話だよ」
「秘策……?」
総が不思議そうに言うと、法規は嬉しそうに笑った。
部屋の隅、暗くて見えない位置に誰かが居るであろう事は、足音でわかる。その人間は総に近づいていく。だんだんと明るい場所に近づいていき、その姿を見る事が出来た。
「天神知世。君達の友達だろう?」
「!」
知世がいた。誰も彼女に警戒していない。総も、由利も、法規も。
「総くんと由利。来たのね」
知世は淡々と言う。
「知世!?」
(どういうことだ……まさか、敵?)
「まさか、本当に……?」
言いながらも、総は少しずつ手を動かす。そして、能力を発動しようとする。
「少しでも風が吹いていると感じれば、こいつは殺す」
「チッ、そいつは敵だ! 知世。こっちに来い!」
総は叫ぶが、その言葉には総も予想していた言葉が返ってきた。
「行けば殺すに決まっているだろう?」
「クッ」
総は部屋に入ってはいない。扉の前だ。だから、手を法規は総の事を見えていない。端末を操作する。豹に電話を繋いだのだ。
「豹。敵に知世が捕らえられている」
声を風で飛ばす。
『何? 分かった。増援をおくる』
「ああ」
(これ以上は二人じゃ無理だ……)
「出てこい」
勿論、この言葉には従わない。
「出てこなければ、こいつを殺す」
「援護は頼む」
総は由利に言った。
「え!?」
まさか、本当に出ていくんじゃないか、と由利が思った時、総は扉から部屋に入った。それを見た法規と法規の仲間、知世は総に向かって発砲する。総は驚かずに、来た銃弾を全て風で吹き飛ばす。それと同時に由利が部屋に入り、法規に銃を撃った。
弾丸が法規の腹のあたりに当たる。
「やはり……強いなお前は!」
銃が確かに当たった筈の法規が言う。その法規は由利の目を見ていた。由利も法規の目を見ていた。
「やっぱ、知世は敵っぽいな」
総は呟く。
すると、由利は総を撃った。
「……え?」
「何!?」
豹は特別室で、叫ぶ。
総から豹にした電話はまだ切れてはいなかった。故に、状況もある程度把握できる。
すぐに集に電話する。
「集! 今すぐ、六万、天明の増援に行け。情報は端末に送る」
『なっ……了解!』
集は驚きながらも答える。
「急げ! 六万が危ないぞ」
ちょうど、集は秋広と買い物に行っていた。
「秋広。悪いな。用事が出来た」
集が早口で言う。
「うん」
秋広の返事を聞くと、集は水を浮かせて、それに乗る。
「能力は発動しとけ」
集は水を操作して飛ぶ。
「速いなぁ」
秋広が呟いた時、集はもう見えなかった。
その近く。
「ラッキーだぜ。これで法規さんも喜ぶ」
「ああ」
二人の男がそんな会話をした。
その会話を、感覚を研ぎ澄まされた今の秋広は聞いていた。
「……ふぅ。敵か」
秋広は疲れたように言う。
その言葉は秋広以外には聞こえなかった。
男は銃で秋広を狙う。
「………………」
秋広は動いた。
「……何!?」
男は驚く。
「なんで、僕を狙うんですか……」
秋広は男の銃を奪った。
「なに!?」
明らかに速い。男はすぐには近づかれない距離をとっていた。プロではないし、その分、確実に殺せるようにとある程度は近い距離をとっていたが、それでも普通ならこんなにすぐに追いつかれる距離ではなかった。だが――――
「まぁ、自業自得ですよね」
秋広は思いっきり拳を男の腹に叩きこんだ。
二日前の夜。
部屋には秋広と集がいた。
「それで、もうちょっと先に習う事だから、知らないかもしれないけど、実はな強くなれるんだ。お前なら!」
「僕が……強く?」
なんで僕なんだろう、と思いながら不思議そうに訊く。
「ああ。超能力はイメージだ。だから、異常成長を使った時のイメージがあるの
なら、お前は必ず強くなれるんだ」
「……うん」
自信なさげに秋広は言う。
「守る為には強くなきゃいけない」
「うん!」
秋広は今度は強く頷いた。
現在。
弾丸が秋広に迫る。
それを避けると、秋広を狙った男に近づいた。
そして、また手をもの凄い速度で男に打ちこんだ。
「強くなったよ。……集も頑張れ」
秋広は一人、呟いた。
「貴方、五条秋広?」
声が聞こえたので、振り返る。
「はい」
「貴方の護衛を今だけ勤めさせてもらうわ」
「あ、ありがとうございます」
秋広は慌てて言う。
(女の子が……護衛?)
秋広は少し違和感を覚えた。
集は飛んでいた。
「今の状況と、敵の能力は?」
豹に聞く。
『状況は、天神知世、天明由利が裏切って、総は銃で撃たれたようだ』
「ハァ!? どういうことだよ!?」
集は驚きいた。集の言葉には怒りが込められていた。それは豹へのではない。
『敵の能力で、天神と天明は裏切っているようだ』
「チッ。それはどうやったら発動すんだ?」
理解はした、だからこそ、集は怒っていた。隠せないほどに。
『分からない』
「どうにかして戻せねぇのかよ?」
『浅村法規の能力だろうから、奴を殺せば……おそらく』
「わかった。確実に殺す」
『あ、ああ。気をつけろよ』
集に気迫に驚きながらも豹は答えた。
「わかっている」
『お前の他にも増援はいるんだが、多分、お前が一番速い』
「……そうか」
そして、集は敵組織の上に着くと、水の激流を施設に当てた。
「なんだ……?」
中から法規の声が聞こえた。
(誰にも当たらなかったか)
「天久集だ」
集は殺意の込めて、法規を見た。
中には倒れている総と、集に銃を向ける知世と由利、法規が居た。
由利は泣いていた。
秋の桜篇も最終局面となりました。
集はどうなるのでしょうか?
次回も読んでくれると嬉しいです。