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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
秋の桜篇
12/32

天神と天明と天久

 次の日。

 集は学校に着いた。

「よ、集」

 集が席に着くと、総に話しかけられる。

「よう。昨日、どうだった?」

 任務、とは口に出さずに聞く。ただ、言わずとも総は分かったようだ。

「ああ、余裕だったよ。ま、心配するようなことは何も起きていないさ」

「そうか」

 集はとりあえず安堵すると、更に質問を重ねた。

「それで、まだ任務は続いてるんだって?」

 集は昨日、由利と電話した時に聞いた事を確認したかった。施設を壊したにも係わらず、任務が続いている理由を知りたかった。

 ただ、

「二人とも、そういう話は昼にしましょう。ここで誰かに聞かれたらどうするんです?」

 由利にそう言われて、

「ああ。そうだな」

「とりあえず、やめておくか」

 集は一先ず訊くのはやめておいた。


 集からすれば、長い授業が終わり、集、総、霄、由利は弁当を食べていた。

 食べ終わると、由利は昨日起きたことを話し始めた。敵施設に潜り込んだこと、無事に任務を達成したこと、敵から奪った情報では、覚醒アウラズルという能力を作りだす機械があるということ。

「なるほど。能力を作りだす機械……か」

 由利の話を聞いて、集は言った。

「となると、私達を襲ってきた敵もそれかもね~」

「なんです?」

 霄の何気ない言葉を理解できず、由利が言う。

「ああ、昨日、秋広と一緒に居た時、襲われたんだがな。その内の一人、というか人間かどうかも分からないが、銃で撃っても死なないような奴が居た。そいつがその覚醒アウラズルって機械で作りだされた能力かもしれねえなっていう話だ」

 由利は秋広達が襲われた事を知っていた為、特に驚くこともなかった。

「なるほど。その可能性はありえますね。となると、やはり早急に敵施設は潰す必要があります」

 由利は確信する。

覚醒アウラズルを作ってる施設は分かったのか?」

「はい。前の任務で手に入れた情報で分かっています」

「そうか」

 すると、

「ね~、何の話をしてるの~?」

 集がいきなり話しかけられる。

「浦崎!」

 今の会話が聞かれてたんじゃないか、と思い、集は驚いた。

「ん? どしたの?」

 いきなり名字を呼ばれて、栄実は困惑しながらも訊く。

「いや。何の用だ?」

「何の用って、用事がなくちゃ話しかけちゃいけない~?」

 栄実はとぼけるが、集はそれに構うつもりはなかった。

「別に。それは構わないけど」

「そう? 豹先生が集を呼んでたよ?」

「なんだ。用事あるじゃん」

 集は言うと、立った。

「うん。じゃ、行こう」

「お前も、呼ばれてるのか?」

「うん」

 栄実の返事を聞くと、集は栄実と特別室に向かった。


 特別室に着くと、中には豹しかいなかった。

「来たか」

「何の用だ?」

 集が言う。

「ま、浦崎の能力を見ようっていう、そういうことだ。やってみてくれ」

「え~、なんでですか~?」

 豹に突然言われて、栄実は反対する。

「いいじゃないか。集も見たいだろ?」

「ああ。まぁな」

 豹にいきなり訊かれるので、何がしたいんだ、と思いながらも答える。

「ふーん。じゃ、まーやりますけど~」

 栄実は答えると、集中する。

「えいっ」

 かわいらしい声と同時に、栄実の前には白い腕が現れた。肘から手までしかないそれは浮いていた。

「へ~」

 集は栄実の能力を初めて見たので、こういう能力なんだ、と思った。

「……それを、人型にまで大きくすることはできるか?」

「!」

 集は豹の言葉に驚いた。

(豹は、俺等を襲った犯人が浦崎だと言いたいのか?)

「無理ですよ~。私の能力は体の部位のどれかしか無理です!」

 栄実はそんな豹の思惑を知ってか知らずか、そう答えた。

「ふむ。例えば、人型のような形を出すような能力で更にその傷を治せるような能力はお前から見て、有り得ると思うか?」

 その豹の言葉に、集は浦崎からの意見を訊きたかっただけか、と思い直した。

「人型……治癒……まぁ、有り得たしても、人形みたいな物を出す能力は珍しいですよ、兄でも人型は出せるか出せないか程度ですからね~。それに加えて治癒能力も、なんて高校生には無理ですね~」

「なるほど」

 集はその会話を聞いていて、言う。

「待て、そもそも、能力者は一つの能力しか持てないんじゃないのか?」

「ああ。だが、人型の人形を出すような能力で、その人形が壊れても、治せるような能力があったとしたら?」

(なるほど……それなら有り得るな)

 豹の言葉に、集はそう思う。

「あったとしたら、どうなんです?」

 栄実は会話の意図が掴めない、という顔をして、言った。

「ああ。あったとしたら、即戦力だなって話だ」

「ふーん」

「じゃあ、もういいぞ」

「行こ。集」

 豹の言葉を聞いて、栄実はそう言うが、

「いや、俺は豹と話すことがある」

 集がそう言うと、

「そう。じゃね」

「ああ」

 栄実は一人、特別室を出た。

「あの話、俺らを襲った能力者の話だろう?」

「ああ。浦崎が似たような能力だったのでな。それで、どう思う?」

「浦崎の仕業では無い。そもそも、あんな事ができる奴じゃないだろう?」

「ふむ。となると、覚醒アウラズルで発現した能力か」

「だろうな」

(まぁ、それしかないだろうな)

「それから、その人形もどきと闘う前に、お前が殺した敵だが、ある施設に出入りしている事が分かった。そこに浅村法規がいるかもしれない。それを天明と総に潰してもらう」

 集が黒い化け物と闘う前、秋広を銃で撃とうとして、集が水で止め、水で撃ち殺した二人の敵。その敵を調べていくうちに、その二人がある場所に出入りしている事が分かったのだ。

(浅村法規……唐沢が死んだ原因と一つ)

「いつ、その施設を潰すんだ?」

「明日だ」

 集の言葉に豹は即答する。

「明日!? 急すぎだろう!」

「わかっている。ただ、天明が明後日に潰す事を提案したんだ」

 豹の言葉に、集は驚き、困惑した。

「なぜ!?」

「天明は、五条を狙っている者が一つの組織ではないのかもしれないと言っていた」

「一つじゃない?」

 集は落ち着いて言う。

「つまり、五条が異常成長オーバー・リミットを持っている為、異常成長オーバー・リミットを製造している施設が狙っているのと、浅村法規がなんらかの理由で狙っている。二つの組織に狙われているかもしれない、ということさ」

「それで、どうして敵組織を潰すのが明日って事になるんだ?」

「五条が敵に狙われる可能性を早く下げたいんだろう」

「……」

 集は反対したかった。でも、反対するほどの理由が思いつかない。何故、自分が反対したいのかも分からない。

「あいつは、優しい奴だ」

「でも、明日じゃ急すぎるだろう」

 集は一応、言う。

「天明は、問題無いと言っていたし、六万も大丈夫、と言っていた」

(だろうな……でなきゃ、お前が許さないもんな)

「……そこまで、急ぐ必要はないって言っておいてくれ。秋広は俺が警備してるんだから。狙われる可能性がいくらあっても、守るって」

 集は自分で言えばいいのに、豹に頼んだ。何故頼んだかなんて、集にも分からなかった。

「言っても、意味ないさ。お前の負担を和らげる為でもあるんだから」

 豹の言葉は優しかった。

「別に、負担になんかなってないさ。警備くらい。秋広だって、寮に住んでんだし」

 集の言葉は弱々しかった。

「それでも、天明はそういう奴なんだ」

 集はその言葉に何も言わなかった。

異常成長オーバー・リミットを製造している組織は潰したし、覚醒アウラズルを製造している組織も、こちらで潰す。あと、天明と六万が浅村法規を殺せば、それで終わりなんだ」

「わかった」

 集は特別室を出た。


 秋広は弁当を食べ終わると、廊下を歩いていた。

「ねーねー。五条君と周さんってさー。付き合ってるの?」

 すると、いきなり話しかけられる。

 振り向いて、答える。

「いや。付き合ってないよ?」

 なんでそんな事を聞いたんだ、と思いながら、秋広は答える。

「なんでー?」

 付き合っていない、ということが、不思議だと言うように、女は言う。

「なんでって……」

 秋広がなんて言おうか、と考えていると、

「嫌いなの?」

 女は唐突に言った。

「まさか!」

「じゃあ、付き合っちゃえばいーじゃん?」

 女は言う。自分が正しいと信じ込んでいる眼で。

(別に……好き=付き合うってわけじゃないと思うんだけどな……)

「え? だって……」

「怖い?」

 また、女は秋広が言う前に言う。

「……」

「あのね。周さんは五条君のこと、好きって言ってたよ」

「……じゃあね」

 秋広は言うと、外に出た。

「なんでー。お互いスキって思ってるんだから、恋人同士になるそれが普通じゃないのー? つまんなーい」

 女は誰もいない廊下で言った。

 すると、総が校舎に入る。

「あー。総くーん!」

 女は総に駆け寄る。

「お前……天神てんじん

(こいつとは……会いたくなかったな)

「名字で呼ばないでよ~。昔は名前で呼んでたじゃない?」

「わかったよ。知世ちせ

 総は名前で呼ぶ。

「やったぁ」

(はぁ、こいつは苦手だ)


 秋広は外に出ると、歩いた。

「ふー……」

 知世の言葉を思い出す。

『あのね。周さんは五条君のこと、好きって言ってたよ』

(そんなこと無い。嘘だ)

『嫌いなの?』

(違う……でも……)

『じゃあ、付き合っちゃえばいーじゃん』

(……)

「五条さん?」

「え?」

 秋広はいきなり話しかけられ、驚く。

 前を見ると、由利がいた。

「どうかしたんですか?」

「い、いえ。何も……」

 秋広は悟られないようにと走っていった。

 そして、また思い出す。

 自分が襲われた事を。

『じゃあ、付き合っちゃえばいーじゃん』

(言い訳ないだろ!)

 昨日、集とご飯を食べた時、秋広は集に言われた。

『それで、もうちょっと先に習う事だから、知らないかもしれないけど、実はな強くなれるんだ。お前なら!』

(強く……なれる?)

「なにしてんの? 秋広!」

 桜に話しかけられる。

「桜……」

「ん?」

「ううん、なにも!」

(なら、桜を守れるくらい強くなれたなら!)


 由利が廊下を歩いていると、特別室から集が出てくる所だった。

「話は終わりましたか?」

 由利が言う。

「ああ。……任務はどうしても明日じゃいけないのか?」

「私は……明日がいいんです」

 由利は戸惑いながらも言う。

「……俺は……もっと確実にやった方が……良いと思うんだ」

 集は言うか言わないかを迷いながらも言った。

「確実です。これなら、被害も最小限にとどめられるし」

「なら、明日の任務も、被害は最小限なんだな?」

 集は今になって、やっと気づいた。

「え?」

「お前は死なないんだな?」

 ただ、怖かったんだと。誰かが死ぬのが。また、咲の時のように別れるのが。

 ……あんな想いはもうしたくない、そう思っていたことに、彼はやっと気づいた。

「……はい。もちろんですよ」

 集の言葉に由利は屈託のない笑顔で答えた。

「そっか。なら、いい」

 その笑顔を見て、集は安心した。

「ありがとうございます」

「え、うん」

 いきなり礼を言われて、戸惑う。

「じゃあ、行きましょう。午後の授業が始まりますよ?」

「ああ、そうだな」

 二人は教室に入った。

お読みいただいてありがとうございます!

秋の桜篇も最終局面となり、この話はいわば、嵐の前の静けさと言った所です。

どんな嵐が来るのでしょうか?

楽しみにしていて下さい。

嵐で桜が散らないようにと、祈りつつ、今回はこのへんで!

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