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Rain sacrifice  作者: 茶碗蒸し
秋の桜篇
11/32

連鎖

「銃が当たったのに……」

 霄は信じられない、という顔で言う。

「死んでないな」

 集は黒い化け物を見続ける。

(……傷口が小さければ再生するのかもしれない)

 すると、集は展開してあった水を動かして、高速で動かして上半身と下半身を切り離す。

 黒い化け物は空気に霧散した。

「死体が残らない……」

 集は言いながらも、これで能力で作りだした者だと確信できた、と思った。

「何よ……これ」

 桜にはそんな余裕はなく、状況も把握できていなかった。

「とりあえず、学校に戻ろう。豹の意見を聞きたい」

 集が提案すると、桜も秋広も霄も反対はしなかった。

 集はそれを見て、端末を操作し、電話をした。

「集だ」

『何の用だ?』

「秋広が襲われた。今からそちらへ向かう」

『了解した。待っている』

 豹は特に驚く様子もなく、言う。

「ああ」

 集は電話を切る。

「じゃあ、学校へ向かおう。何があったかはよく分からないが」

「え、ええ」

 集は桜の返事を聞くと、学校へ歩きだした。さっきより周りを警戒して。


 学校の特別室。中には豹と総と由利がいた。三人とも座っていて、ベットには誰もいない。

 豹は端末を耳から離し、総と由利の方を向いた。

「これから、集達がこちらに来るらしい。待っているか?」

「ああ」

 豹の問いに総が即答する。

「こちらに来る、ということは襲われたのか?」

「そうだ」

 総が「待っている」と即答したのは、気になる情報があり、それを襲われたのなら、集に伝えておく必要があると思ったからだ。

 それは覚醒アラウズルの情報。

「それにしても、覚醒アウラズルとはな。能力を死の代償と共に発現させる機械なんて、こちらに不利すぎるぞ。早く、覚醒アウラズルを製造している施設を潰さなくては」

 タイミング良く、豹が呟く。

 もし、本当にそんな機械があるのだとしたら、豹の言った通り製造している組織を潰さなくては面倒な事になる、豹の言葉を聞き、総は思うと、思った事とは違う事を訊いた。

異常成長オーバー・リミットを製造している施設はどうなった?」

 警戒すべきは覚醒アラウズルだが、異常成長オーバー・リミットの製造が止まらない事には、能力者が狙われる可能性を捨てきれない。むしろ、そういう面から言えば、覚醒アラウズルは能力者にする機械なのだから、能力者が狙われる可能性は減る、という事になり、総から言えば、好都合だ。

 だから、今、総が最も気にしているのは異常成長オーバー・リミットの製造が止まったかどうかだ。異常成長オーバーリミットの製造が止まれば、秋広が狙われなくなるかもしれないのだし。

「大丈夫だ。お前らが施設を潰したのと同時刻、特殊部隊が他の異常成長オーバーリミットを製造している施設も潰した」

 豹が言う。

 その言葉に総は安心しなかった。

「その中には最強の能力者もいるのか?」

 総は更に質問を重ねた。

「最強の能力者?」

「ああ、前に言っていただろう? 俺が二位で集が三位って。じゃあ、まだ一位がいない」

 豹が理解していないようなので、総は補足説明する。

「ああ、そういうことか。あいつも今回の任務に参加したぞ」

「やはりか」

 総が言うと、その言葉を聞いて、豹は怪しいと思った。

「何故、そんな事が気になる?」

「別に、強い奴に興味があるだけさ」

 総は豹の問いに目を逸らして答えた。

「本当か? 能力にも一長一短がある、と言っていたろう? 強さなんて気にするのか?」

「するさ」

 豹の言葉にそう答えた。

 豹はこれ以上、何を聞いても意味ないか、と思い、

「そうか」

 とだけ言った。

「五条さん達はどうしたのですか?」

 由利が訊く。

「ああ。襲われたんだ。秋広を狙っているのは異常成長オーバー・リミットを製造している奴らだと思っていたんだが」

 豹の言葉に、

「施設を破壊したにも係わらず、襲われるとはね」

 総が続ける。

「まだ、浅村法規を捕まえる事が出来ていませんので、彼が狙っているのかもしれません」

 確かに、浅村法規は逃がしたままだ。

「なるほど。となると、あの施設から異常成長オーバー・リミットを買い取っている奴らを潰していく必要がある」

「ハァ、了解だ」

 豹の言葉に総はため息を吐きながらも、反対はしなかった。

「わるいな。辛いかもしれんが」

「問題ありません。五条さんがこれ以上襲われる事態は避けるべきです」

 豹の言葉に由利が答える。

「そういってもらえると、助かる」

「まぁ、施設を破壊したり、秋広を守ったりするよりは楽か」

 総が呟く。

「確か、総の持ってきたデータに異常成長オーバーリミットを買い取った奴らのと、覚醒アウラズルを製造している奴らの居場所があったよな?」

「ああ」

 総は悩みをせず、肯定した。

「であれば、覚醒アウラズルを製造している奴らはこちらが潰しておく。そっちは異常成長オーバーリミットを買い取った奴らを潰してくれ」

「了解」

 総が任務を受諾すると、後ろの扉からノックの音が聞こえた。

「来たか。入れ」

 豹が言うと、

「失礼します」

 集が言いながら扉を開いて、入ってくる。その後に秋広、桜、霄と入る。

「豹先生、どういうことですか!?」

 桜は豹を見ると、すぐに言った。

「周、おちつけ」

 豹は答えずにそう言った。それで落ち着かない事も知っていた。

「敵は潰しておくって言ってたじゃないですか!」

 桜は落ち着かずに言う。

「確かに、言った。ただ、敵も相当奥が深くてな。まだ全員を倒すことは出来ていないんだ」

 それは事実だった。さっき、「おちつけ」と言ってわざと落ちつかせなかったのは、その事実を全て話している訳ではない、という事を悟らせない為だった。

 ただ、集はそんなことには気づかなかった。

(なるほど、周には事情を言えないのか)

「集。警護、ご苦労だった」

「ああ」

 豹の言葉に答える。

「敵って、誰です?」

「言えない。それに、お前が知ってどうなることでもない」

 豹は桜の問いに答えたが、答えは教えなかった。

「でも!」

「桜。良いよ」

 桜に秋広が言う。

「……でも」

 まだ何か言いたげな桜に豹が言う。

「大丈夫、必ず潰す。ただ、秋広。お前は狙われているから、寮に泊まれ」

「はい。わかりました」

 秋広が言う。

「寮のパスだ。送るぞ」

 豹が端末を操作する。豹は秋広の端末にデータを送ると、秋広はそれを見た。

「はい。……132号室」

 パスには部屋番号も書いてある。

「俺の隣だな」

 秋広の呟きを聞いて、集が言った。それに豹も言う。

「ああ、わざとそうした。あとで部屋を教えてやってくれ」

「ああ」

「じゃあ、帰れ。集は秋広と、周は日向とな」

 言われると、四人は部屋をでていった。

 特別室をでて、廊下で桜が言う。

「気をつけてよ」

「うん」

「必ず、守る」

 秋広を集が言い、

「がんば!」

「おう!」

 霄の言葉に集が返した。


 総と由利が昼に潰した施設跡にある男が居た。

 あの施設内に居たのであれば、人間と分かる訳がないのに。

 その男は目覚めた。

「んあァ……夜!?」

 男は起きると同時に夜だということに驚く。

「ふぅー。えっと……なるほど。俺は敵に襲われて気絶して、んで、そいつらはここを潰していった、と……んまぁ、好都合だな」

 男は悩み、納得し、言葉にしてもう一度理解すると、端末を操作した。電話をかけるのだ。見てみると、着信履歴が42件もあった。全て神代道己かじろとうこからだ。

『おい! 報告おせぇよ!』

 電話が繋がったと同時に怒号が耳に届く。

(相変わらず……女とは思えねぇ)

「あー、すまんすまん」

 いつも通り、適当に答えた。

『本気で謝ってそれかァ!』

 ただ、だんだんと道己の声はそこまで怒ってないようにも聞こえる。が、怒ってるようにも聞こえる。

「いやー、うん。本気」

 また、男は適当に言う。

(結構怒ってんなぁ。やっぱり、死んだと思ったからか?) 

『んなワケねぇだろ! おい、早く報告しろやぁ!』

「あー、了解。つっても、お前の所為で全然報告できな」

『アァ?』

 男の口答えが遮られる。

「なんでもない。潜入捜査は失敗した」

『ふうー。で?』

 道己は息を吐いて、怒るのを耐えた。

「潜入中に他にいた侵入者に会って、襲われた。そんで気絶。からのここが壊れてる」

『はぁ? 訳がわかんない』

 男は心の中で「怒られなくて済んだ!」と喜びつつ、顔には出さずに説明する。因みに、このあと、変な説明をしても怒られる。

「おそらく、俺を殺そうとした侵入者がぶっ潰したんだろ」

『そこを?』

「ああ」

 あくまで、仮定の話だが、道己は納得したようだ。

『りょーかい。一人で歩いて帰って来れるよね?』

「子供じゃねぇんだから……」

 言いながらも、男は心配性だなぁ……と思った。

『オーケー。じゃあね』

 道己は電話を切る。

「かえろ」

 男は呟くと、歩く。

 少し歩くと、血の付いた弾丸を見つけた。

「……ん? あー、撃たれた痛みで気絶したのか……」

 男は納得すると、独りで帰った。


 集は秋広と寮に着く。

「ここだな。端末をかざせば、開くぞ」

 集は秋広の家の前に着くと、言った。

「うん、ありがとね」

「ああ」

 集は返事をすると、ドアの、端末のパスを認証する位置に端末をかざした。それとほぼ同時に秋広も端末をかざした。

 集は家に入ると、電気を点け、端末を操作した。

 電話の相手は豹。

『どうした?』

「豹。霄からもう報告があったかもしれないが、敵が能力者だった」

 集は一応、報告しておいた方が良いと思い、報告した。

 話しながらも集は歩き、バックを置く。

『それか。霄から、もう報告があったぞ。それについてだが、明日、話すことがある』

「わかった。じゃあ明日な」

 集は椅子に座って言う。

『それと……いや、天明から連絡あったか?』

「いや、ないけど?」

『そうか。頑張れよ!』

「……?」

 集はよく理解ができなかった。

(天明が俺に何か用事があるのか……?)

 集はバックの中から、能力知識の教科書とノートを取り出した。

 机の端末を持つ。

「ぺノ。勉強しよう」

「はい。今日も頑張るんですね!」

 集が端末に話しかけると、ぺノから声が返ってきた。

「おう」

「あ、電話です。名前は……登録されていませんね」

 ぺノからの声に集が答える。

「繋いでくれ」

『おはようございます。天久集さんでよろしいですか?』

 それは由利からの電話だった。

「ああ」

『えと、報告します。豹さんと六万総と話しあった結果なのですが、天久さんと日向さんはこのまま五条さんの警備。私達は引き続き、敵の施設を潰す。ということです』

 由利は淡々と言う。

「……敵の施設は潰せたんじゃないのか?」

『それが……色々事情がありまして……』

 集の問いに、あまり明確ではない、由利らしくない答えが返ってきた。

「そっか。日向には?」

『日向さんには伝えました』

「そっか。ありがとう」

 集は問い詰めず、礼を言った。

(あー……これすると嫌われるかもな)

 少しの間があり、

「任務、気をつけろよ……由利」

 集は言った。

『勿論です。では』

「ああ」

 集は返事をすると、電話を切った。

 すると、画面がPENOという文字に変わった。

「ふふふ。名前で呼びましたねー?」

「ああ、気づいたか」

 ぺノの声に集が答える。

「もっちろんです! 集様にしては勇気だしましたね!」

「だろ? まぁ、良かったかどうかは分かんないけどな」

 集は自信なさげに言った。

「私は、良かったと思いますよ?」

「そ、そうか。サンキュー」

「ええ!」

 集はぺノの言葉に救われたような気がした。

「俺は、お前が居てくれて良かったよ」

「へ?」

「いやっ、勉強しようぜ!」

 焦りつつも、誤魔化すように言う。

「は、はい」

「ありがとな……」

「はい!」

 ぺノの嬉しそうな声が部屋に響いた。


 それから一時間をほど経ち。

「集様。そろそろ夕食の時間では? 勉強を中断することを推奨しますが」

 ぺノが言った。

「ああ、そうだな。休憩だー」

 椅子に寄り掛かりながら、集が言う。

「そういえば……五条さんは夕食を持っているのでしょうか?」

「確かに、キッチンは無いし、買っておかなきゃ食えねえけど、寮に来るのが初めてじゃなぁ」

 集は少し、昔を思い出す。

「集様も、初日は何も食べませんでしたっけ」

 そう、集は初日、食べ物を買うのを忘れていた。そんな集に食べ物をくれたのが、栄実だった。

「ああ、よく覚えてるな」

「へへっ。で、どうするんです?」

「まー、そうだな。あげるか。多いし」

 集はビニール袋に入っている物を見て、言った。

「多いって……おにぎり二個にお弁当に飲み物。いつも通りの量ですよ?」

「今日は腹へってねーの。行こうぜ」

「はい」

 ぺノの返事を聞いて、集は歩きだす。

「あ、お前のこと、バレちゃいけないと思うぞ」

「了解です」

 最後に、思い出したように言った集の言葉にぺノが了解すると、集は部屋を出て、隣の部屋に行く。秋広の部屋だ。因みに、集の部屋から見て、秋広とは逆方向にある隣部屋は栄実だ。

 集がドアホンを押す。

『はい?』

 ドアホンからは秋広の声が聞こえる。

「ちょっと良いか?」

『待っててね』

 集の突然の訪問にも焦らず、秋広はドアから出てきた。

「入って。って言っても、何もないけどね」

 秋広に言われて、集は部屋に入る。

「夜ごはん、食べたか?」

「いや、食べてない」

 その言葉を聞くと、集はビニール袋を渡した。

「はい」

「あ、ありがとう!」

 中を見て、秋広は礼を言った。

「じゃあな」

 そのまま、集は帰ろうとするが、

「いや、一緒に食べよう」

 と秋広が言った。

「ね、どうせなら一緒に食べようよ。この部屋に集君のご飯も持ってきてさ!」

「いや、実は俺のご飯は無い」

 秋広の言葉に集は嘘をつかずに返した。

「え? じゃあ、これが全部?」

 集は、秋広に食べ物全てを渡していた。

「ああ」

「じゃ、これを一緒に食べよう!」

「あ、ああ」

 そのまま集は秋広とご飯を食べることになった。

「おいしいね~」

「ああ」

 集と秋広は飲み物を二つのコップに入れ、おにぎりを食べていた。弁当はまだ誰も食べていない。

「秋広って異常成長オーバーリミット使ったんだよな?」

 集は唐突に言った。

「うん、ごめん」

「いや、謝ってほしいんじゃなくて。えっと、能力知識の勉強ってしたことあるか?」

 どうにか秋広が後ろめたい気持ちにならないようにと言葉を選んで言う。

「あるけど?」

「それで、もうちょっと先に習う事だから、知らないかもしれないけど、実はな」

「うん」

 集の言葉に興味津々という感じで秋広は頷いた。


「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ」

 話し終わると、集が言った。

「そっか」

「弁当は食べて良い。楽しかったよ。ありがとう」

「ううん、こちらこそ、おにぎりとか、ありがとう」

「ああ」

 集は返事をすると、部屋を出た。

「勉強が役だって良かったですね!」

 自室に入ると、ぺノが言った。

「ああ、ありがとう。ぺノ」

「どういたしまして!」

 そうして、二人は勉強を再開した。


またまた、お読みいただいてありがとうございます。

本当に感謝。

さて、新キャラが多く、「覚えられねぇよ」という方もいるのではないのでしょうか?

そんな人達への解消法! は無いのです。

ごめんなさい。

良かったら、次回も読んでくれると、嬉しいです。

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