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俺は彼女の隣には似合わない

作者: 嘘吐白

初めて書く短編ですが、気に入ってもらえると嬉しいです。

ではどうぞ!

「ごめんなさい」

 今日もダメだった。

俺は断る彼女の言葉を聞いて、相手の人物へのフォローを考える。

 相手は少し苦笑しながら、手を振りながら気にしていないようなジェスチャーをする。もちろん心情はそんなに穏やかじゃないが、怒り出して彼女を傷つけるようなことはしないとわかっている。

 そうじゃなければ、彼女とデートなんてさせない。

 ……俺は彼女の父親じゃない。世間一般で言うところの、ごく一般的な幼馴染だ。

 だけれど、俺は彼女に彼氏を作ろうと躍起になっていた。別に、彼女が魅力的じゃないわけがない。むしろ魅力がありすぎて困るくらいだ。

 だからこそだ。

 ――――彼女に俺はふさわしくない。





 彼女と最初に出会ったのは、物心つく前であるからかれこれ十八年程度の付き合いになる。

 偶然にも、同じ病院で生まれて、引っ越した家も近くだったことから両親どうしが仲が良い。今でも、旅行に行ったりするくらいには良好である。

 さて、件の幼馴染だが、名前を水無月みなづき佳奈かな。歳は十八の高校生である。

 何をどうしたのか、彼女は才能がこれでもかと詰め込まれていた。

 成績はいつも一位をキープ、運動も上位に食い込み、性格良し、料理良し、スタイル良しの完璧超人なのである。……言っていて、軽い欝になるよ。

 俺は至って普通だ。成績も中間、運動は中学の時に、バスケ部に入っていたから少し出来る程度、性格は少し卑屈、スタイル普通である。

 姉からは「普通すぎて逆にすごいわね。それも個性よ!」と、彼氏さんに甘えながら公表してくれた。姉も凄まじい人物なのだが、ここではあまり語らないでおこう。

 さて、話を戻そうか。

 俺と佳奈は普通の幼馴染として育った。まぁ、結構仲がいいのは彼女と趣味があったおかげだと思う。

 昔から美少女の片鱗を見せていた佳奈は、誰もを魅了する魅力があった。

 例に漏れず俺も、その魅力にノックアウトされた一人だった。

 周囲から見る一人ではなく、彼女の隣にいたから余計に感じたものだった。

 だけれども、ソレは諦めるしかなかった。

 まぁ、子供なりの決意だったのだと思う。隣で彼女の笑顔や仕草を見て、強く思った。

 ――――彼女の隣にいるのは俺ではなく、もっと違う誰かだと。

 それは周囲の嫉妬の視線や、羨望の眼差しに耐え切れなかった俺の弱さも一因だったと思うのだが、一番は彼女の才能に嫉妬してしまう自分を自覚して嫌になったからだ。

 仕方ないと、今なら流せるが当時は中々衝撃を受けてしまった。

 だから、俺は彼女を遠ざけた。

 わざわざ中学を別々にしたり、高校は遠いところを選んだりした。

 なのに、彼女は決して離れることはしなかった。

 自惚れてはいない。彼女が自分に惚れているなんてことは絶対にない。ただ、佳奈は俺を頼りにしているだけだ。

 小さい頃、まだ彼女との才能を自覚していない時に彼女をイジメっ子からよく助けていた。まぁ、防波堤のような役割しかしていなかったが、そのせいか彼女は俺をよく思ってくれる。

 ただそれだけだ。それは恋愛感情ではなく、家族を守る父親に感じるような感情だ。

 ひよこのように付いてくる彼女、正直悪い気はしないが、彼女のためと思って俺は高校に入って、ある行動に出た。

 離れなければ、離す理由を作ってやればいい。

 つまりは、冒頭のように彼氏を紹介してやればいい。

 これでも友人はたくさんいる。中には佳奈目当てで来た奴もいたが、むしろ好都合だった。ソイツらの中から、佳奈と付き合えると思った奴を佳奈に紹介するといった行為を、五回くらい続けた。

 結果は、あの一言だ。

 彼女は首を縦にふらない。

 ……だが、同時にホッとしている自分がいる。

 彼女を諦めたがらない自分がいるのだ、残念ながら。

 優柔不断とはこういうことを言うのだろうか。だとしたら、俺はあきらめが悪すぎる。

 どうあがいたって、彼女と付き合う資格などないのに。





「ただいまー」

 誰もいないが、つい癖で扉を開けると挨拶してしまう。

 佳奈から離れるために、わざわざ東京の高校を受験したので安いマンションを借りて一人暮らしをしている。

 まぁ、佳奈が追いかけてきて隣に越してきたので無駄になったのだが、三年も住むとあら不思議、愛着が湧くものだ。

 たまに佳奈が遊びに来たりするが、基本的に一人で……。

「おかえり」

「ん?」

 靴を脱ぎ捨てた三秒後、リビングから女性の声が聞こえた。

 俺はその声を聞いて、ため息をつきながら上着を廊下に設置したハンガーにかけてリビングに向かう。

「おかえり、あさひ

「……なんでいんの?」

 俺は軽い頭痛を覚えながら、目の前の光景を作り出した人物に質問する。

 ちなみに旭とは俺のことだ。金子かねこ旭、それが俺の本名だ。

「もうすぐ夕食。だから作ったの」

「そりゃありがたいな。だが帰れ」

 ちゃぶ台には湯気が立っている食事が載っている。正直、どれも美味そうだがまずは少し不機嫌そうな幼馴染に質問を答えてもらおう。

「帰らない。私が目を離すと旭は身体に悪いものばかり食べる」

「……うぐっ」

 俺は佳奈のジト目から目を離す。

 彼女の言うとおり、今日はカップラーメンですまそうと思っていたから心が痛い。

「じゃなくてな!? なんで、お前がここにいるんだ? 来んなって言ったはずだが」

「旭のお母さんやお姉さんに世話するように言われてるから」

「んなことはしなくていいし、前にも言っただろ? 俺に構うなよ」

 よほど、俺の母親と姉は俺の思惑を潰したいらしい。

 佳奈の性格上、こういうお願いを断ることはない。基本的にお節介焼きなのだ、コイツは。

「それに、一人暮らしする男の部屋に来るな。危ないから」

「旭ならいいよ?」

 ぐっと、身体を抑える。

 正直、こういう時に見せる佳奈の表情は俺にしか見せないと思う。

 少し赤くなった頬、潤んだ瞳、息遣い。俺じゃなかったら、即押し倒してイタす可能性があるくらいの破壊力がある。実際、俺もやばいのだが。

「冗談でも言うな。それは彼氏にとっておけ」

「……意地悪」

 どっちがだ、このバカ。

 そう言いかけたが、言葉を飲み込んだ。

 これ以上、話すとまた夜まで話し込みそうだからだ。

「なぁ、料理は食べるから帰れって、もう夜も更けてくる」

 ただいまの時間は午後七時、正直夜なのだが隣の部屋だから安心……だと思いたい。

 だが、佳奈は首を横に振る。

「今日のこと、聞きたいから帰らない」

「……」

 数秒だけ、俺は佳奈の瞳を覗き込む。

 そこには絶対帰らないという強い意志を感じた。……しょうがないな。

 俺は諦めのため息を吐いて、両手を上げる。

「分かった。だけど、話聞いたら帰れよ?」

「その前にご飯、お腹すいてるでしょ?」

 その言葉に、律儀に腹の音が返事する。

 あまりのタイミングに脱力しかけたが、腹が減っては戦はできぬの言葉通り、腹が減っては佳奈を説得することできないだろう。

 とりあえず座布団を敷いて座った。

 ちなみに佳奈は礼儀正しく、正座している。俺にはできないことだ。俺は三十分やって血が止まって目の前が真っ暗になりかけた。

「……今日のメニューは豪華だな」

「張り切った」

 厚着の服の上からも分かる、大きな胸を強調しながらドヤ顔する佳奈。

 本当に豪華な食事の数々である。

 コロッケ、サラダ、きんぴらごぼう、漬物、ワカメと豆腐の味噌汁、後ご飯。

 金がない一人暮らしには堪らない食事だ。

「張り切りすぎだろ!? なんぞ、これ」

「……いただきます」

「待て、それを答えてから食べろや!!」

 しかし、モフモフと食い始めた幼馴染を見た俺は、さっきまでの決意をどこかに放り投げて食事に食らいついた。……腹減ったのもあるが、好きなやつの料理が食えるなんて幸福な時間をやめたくなかった。

 途中、コロッケにマヨネーズをかけた佳奈と言い合いになったが、三十分ほどの食事が終わった。

 今は、お茶を啜りながらデザートの登場を待っていた。

 ……あれ? 完全に餌付けされているような気もしないが、気にしない方向で行こう。

「プーリーンー」

「おお、プリッとプリンじゃん……って、それ俺の秘蔵品じゃねえか!?」

 百円程度の安いプリンだ。

 下の突起を折ると中身がプリっと出ることから、プリッとプリンと名付けられた。

 それを用意していた器の上に、プリッとする。うーん、このプリッと感がなんとも言えない。

「……」

「……」

 数分間、お茶を啜る音とスプーンを動かす音だけが響き、会話は起きなかった。

 とりあえず完食して、佳奈が片付けるまでの間、俺は口を開かなかった。

 そして、片付けを終えた佳奈は座布団に正座して、切り出した。

「ねぇ、旭。なんで私に男を紹介するの? 私は必要って言ったよね」

「お前のためだよ。お前に必要じゃなくても、俺が必要なんだ」

 そういうと佳奈の機嫌が最高潮に悪くなる。

 拗ねたような顔をしながら、俺を睨んできた。

 だが、悪い睨みじゃない。どちらかというと構って欲しい子供がする睨みとお同じものだ。

「必要ないの、だからこれ以上しないで」

「必要あるんだ、だからこれからもする」

 俺は佳奈の顔を見ながら、そう言ってやる。

 嫌われたっていい、むしろそうした方が俺の願いは叶うからだ。

「違う、旭は嘘付いてる」

「付いてない」

「嘘。だって、旭は私のこと好きなんでしょ?」

 ドキリと心臓が止まりそうなほどの衝撃を受ける。

 今まで、「一緒になろう」とか「私のもの」なんて言われたが、ここまで直接的に言われたのは初めてだった。

「見てればわかるよ? 旭の視線は、ほかの人達とおんなじだもの……ちょっと違うけど」

 俺は震えそうになるのを堪えて、お茶を飲んで一息ついてから言う。

「それで? 俺がお前を好きだとして、お前は何が言いたい?」

 次に聞こえたセリフは、一番聞きたくて、一番聞きたくない言葉だった。

「私はあなたが好き」

「あぁ、友達、ってことだな」

「はぐらかさないで。答えてよ、旭」

 黒い瞳が、俺を覗き込んでくる。

 その視線に耐え切れなくなって、俺は目線を外した。

「答えて、答えないと帰らない」

「――――ざけんな」

 ……胸が苦しい、目から涙が出てくるのを堪えられない、鼻の奥がツンとする。

 これから俺は最低になる。多分、一生シコリに残って消えないものになるだろう。しかしそうしないと、彼女は俺を『嫌い』になってくれない。

「ふざけんな!? 俺が今までどんな思いしてきたと思ってんだよ! 大っ嫌いだよ! お前のことなんて!」

 嘘だ、本当は大好きだ。

「……」

「わかるかよ!? 天才の横にいる惨めさがよ! お前と比べられて、俺は努力するのが大嫌いなんだよ!」

 嘘だ、惨めじゃなかった。むしろ隣に目標があったから俺は頑張ってこれた。超えたいと思いながら努力してきた。

「嫉妬の視線が嫌だった、羨望の眼差しで見られるのが嫌だった! 難癖つけられたり、身の覚えにないことされたりした!!」

 嘘だ、嫉妬の視線も羨望の眼差しも心地よかった。彼女の隣にいることを皆が認めているようでよかった。難癖だって、彼女と一緒にいられる有名税だと思ったら耐えられた。見に覚えのないことだって、自分で解決した。

「今の食事だってそうだ。ソツなく作りやがって、自慢したいのかよ! ロクに飯作れない俺を哀れんでいるのかよ!!」

 嘘だ、ソツなく作ってるわけじゃない。彼女の母親は早く亡くなっていて、彼女がご飯を作らなければならなかっただけだ。飯を作りに来てるのも、俺が栄養バランスを考えないからだ。

「お前に男を紹介してるのも、早くどっかに行って欲しいからだよ!」

 ……あぁ、もういいじゃん。止めろよ、俺の口。

「大っ嫌いだ!!」

 もうやめてくれよ。

「頼むから……俺に構わないでくれよ、佳奈」

 涙で、目の前が見えなかった。

 佳奈がどんな顔しているのかも、どんな反応しているのも見えなかった。

 もう自己嫌悪に陥った俺は、背を向けた。

 最低すぎる。最低過ぎて、死にたくなってくる。

 そんな時、何かが俺の首に添えられた。背中には柔らかくて暖かい物が押し付けられる。

「ッ!?」

「旭……」

 耳元で聞こえるのは、いつもと変わらない幼馴染の声だった。

 俺は振り払おうとしたが、抵抗する気力が湧き上がってこなかった。

 どうにでもなれという、あきらめの気持ちが俺を支配していた。

「わかってたよ? 旭が苦しんでたのは」

 優しい言葉をかけないでくれ、俺にはそんな言葉を聞く資格はない。

「聞いて? 私ね、あなたがいていつも安心してたの」

 そっと佳奈が呟いた。

「私と比べられているあなたを見て、安心してた。まだちゃんとリード出来てるって自覚できたから。あなたが必死に努力して、追いついてきてくれるのが嬉しかった」

 そう、だったのか。

 そう俺は嗚咽を噛み締めながらそう思った。

「あなたと一緒にいて、あなたに好意を寄せる子達の嫉妬を受けるのが心地よかった。知らなかった? 旭って、結構人気なんだよ?」

 知らなかった。

「ご飯だって、お父さんのためじゃなくてあなたに食べて欲しかった。覚えてる? 初めて作った黒焦げコロッケ。旭、嫌な顔しながら食べてたから見返してやりたかった」

 覚えてる。真っ黒焦げのコロッケ、あの頃の佳奈は料理が下手くそでしょっちゅう失敗してた。

 俺が試食という名の犠牲者になって食べたが、アレはひどいものだった。

 中身まで真っ黒焦げになってたからすぐに吐き出した。

 今日のコロッケは最高に美味かった。

「あなたが、私に見合うようにいい男の人を紹介してくれるのを知ってた。私が嫌な目に遭わないように。皆、いい人たちばかりだったよ?」

 そりゃ、性格がいいやつを選んだからだからだ。

 まぁ、おちゃらけた奴もいたけどな。

「でも、満足できなかった。皆、いい人で素敵な人たちだったけど旭ほど心が揺れなかった」

 ……バッカ、なんで酷いこと言った俺にそんなこと言うんだよ。

「つり合わないと思ってる?」

「……思ってる」

 素直にそう言った。

 すると、俺の頬に鋭い痛みを感じた。

 何かと思うと、佳奈が腕を横に振って俺を叩いていた。

「馬鹿言わないで。馬鹿言わないで!!」

「なっ……!? 佳、奈?」

 頬を抑えながら、俺は佳奈を見る。

 見えた佳奈の表情は、怒りに染まっていた。

「つり合わない? そんなの幻想。だって、旭は腐らずにここまで頑張ったよ? 私の気持ちを利用して酷いことだって出来た。今だって、無理やり何かすれば私は何も抵抗できないもの」

 んなことしたいと思ったこと一度もねえよ。

「本当に嫌いなら、私をたたき出してるし遊んでくれないはず。なのになんで私はここにいるの?」

 一緒にいたいからだ。

「じゃあ、なんで――――なんで篠崎さんの告白を断ったの?」

「は、はぃいいいいい!?」

 俺は予想外の言葉に動揺して、大声を出してしまった。

 俺と佳奈の部屋の周りに誰も住んでなくてよかった。普通なら近所迷惑だよ……普通に近所迷惑か。

 にしても、俺が篠崎さんに告白されてたってどういうことだ? 本当に訳がわからない。

「な、なんのことだよ!?」

「昨日の放課後、教室で話してた」

 ん? 待て待て待てや。昨日の放課後? ……あー、アレか。

「あー、佳奈さんや」

「話をずらさないで。こ、告白してたんでしょ?」

 こりゃ、完璧に誤解してるわ。

 コイツ、以外に思ったこと中々変えないからなぁ。この思い込みのせいでどんだけ苦労してきたことやら。

 ……なんか、さっきまで思ってたことが馬鹿らしくなってきた。

「ありゃ、演技だよ、佳奈」

「――――ふぇ?」

 やめろ、なんでそんな声を出した? 目を真っ赤にしながら言うな、マジで襲うぞコンチクショー。

「え、演技?」

「そっ、演技だよ。篠崎さん、演劇部だろ? なんか今度やる、演劇の相手を頼まれたんだよ」

「ほ、ホント?」

「嘘なら、お前をウチに上げてないし、お前をもっと遠ざけてるよ」

 それを聞いた佳奈は、小さな声で「え、演技? にしては本格的だったような?」とか呟いてるが、演劇部のエースである篠崎さんならあの演技は納得だろう。

 なんか、妙に艶っぽかったが気のせいだと思いたい。

「か、勘違い?」

「あぁ……てか、まさかだと思うが、俺が告白を断ったからお前が好きだ、なんてこと思ったわけじゃないよな?」

「……」

 この沈黙はマジだ!?

 どうして、こういうことには単純なんだコイツは。もうちょい可能性を考えろ、俺がほかの人を好きだって可能性を。

「あ、あぁ、あぁあああ」

「お、おい?」

 フルフルと身体を震わせ始めた佳奈の様子を見て、俺は手を伸ばす。

 ――――が、伸ばした手を掴まれて俺は床に押し倒された。

 ……あれ?

「普通、こういうの男がやるもんじゃね……んぐぅ!?」

 俺の唇に柔らかい物が押し付けられる。

 頭の仲が真っ白になる。ふわふわして、顔が熱くなってくる。

 いや? いやいやいやいやいやいや!?

「んっ、んー!!」

 我に返って引き剥がそうとするが、引き剥がせない。

 口にいっぱい感じるのは、ずっと欲しかった感触、ずっと嗅いでいたかった香り。

 ……あぁ、なんでこうするんだよ、馬鹿。

 一分ぐらいキスしていると、息苦しくなってくる。それは向こうも同じだったのか、苦しそうに顔を歪めている。

 ちょっとそそられたのは秘密だ。

 とりあえず、俺から唇を離し、密着していた顔を少し離す。

「ぷはっ」

「……どう、だった?」

 佳奈は、ゆっくりと俺の瞳を見つめた。

 その瞳は不安げに揺れているし、少しだけ淫欲の色が見えていた。

「どう、だった?」

「お前なぁ。頭いいのに、なんでこういうところは不器用なんだよ」

 ビクリと佳奈の身体が震える。多分、勘違いしているんだろうと苦笑する。

「こういう性格になったからしょうがないの。旭のせい」

「俺のせいにすんな。ったく、昔からお前は変に行動力あって困るんだよ」

「はぐらかさ――ッ!?」

 俺が取った行動は至って簡単、佳奈の頭を抱きしめながら再度キスをした。

 佳奈は大きく目を見開いて驚いていた。

 まぁ、そうだな。俺が一番驚いてるし、何やってんだと呆れている。軽いキスのつもりだったので十秒くらいで離す。

「ぷはっ、と。もうちょいキスって緊張するかと思ったんだがなぁ。やってみると楽しいもんだ」

「嫌い、じゃなかったの?」

 息を吐きながら、佳奈は真っ赤な顔で言う。

 ……もうどうにでもなれ。

「俺はさ、お前のこと大好きだよ。小さい頃から、今の今まで」

「知ってる」

 佳奈はクシャリと顔を歪めながらそう言ってくれる。

「ずっと俺だけを見て欲しかった」

「見てるよ? いつも」

 羞恥心で死にそうだが、グッと堪えて俺は……俺は佳奈にこういった。

「だからさ、だから――俺と付き合ってください」





 後日談というか、俺のアホらしい最後の話を聞いてください。

 実は、ウチの両親と佳奈の両親は始っから俺と佳奈をくっつくける算段だったそうな。よく考えれば、一人娘のわがままで一人暮らしさせる時点で仕組まれていると考えたほうが良かった。

「あんたさ、昔から本当に好きなものには手を出さないのよね。だから、最後の発破かけてやったの。……最悪、既成事実でも作らせようかと思ったくらいよ」

 俺の超絶恥ずかしい告白宣言をした後、実家に電話して姉に聞かされた衝撃の事実だ。おそらく一生頭が上がらないであろう姉の言葉に愕然としていた。

 ここまで言えばわかると思うけど、俺と佳奈は結婚を視野に入れた付き合いをすることになった。

 やっかみは確かにあったが、大多数の人たちは「やっとくっついたか」と言った感想だったらしい。……俺の苦労はなんだったんだろうか、と学食で友人たちに愚痴って殴り合いになったのはいい思い出ある。

 まぁ、なんやかんだありながら、俺と佳奈は高校生ながら同棲をしながら生活していた。

 恋人になったからといって、そんなに変わったりしなかったのだが……強いて言うなら、甘えっぽくなったかもしれない。

「旭、キスしよ?」

「アグレシッブな提案ですね、とりあえず料理中は危ないから止めろつっただろ!?」

 こんな風に、スキンシップを平気でするようになった。

 本人曰く、「今まで我慢してた部分を開放していたらこうなった」と、無表情でドヤ顔という奇妙なことをしながら、そんなことを言った。

 というか、危ないから離れろや。

「むー、今日はまだ夜のキスをしてない」

「言葉だけ聞くとエロイから止めろ。料理が終わったらいくらでもしてやるから待ってろ」

 待ってる、と言いつつも俺の体から離れようとしない佳奈を見て、俺はため息をつきながら顔のニヤケを抑えるのに必死になっていた。

 俺はずいぶん遠回りしてきた。

 勝手に判断して、幸せを押し付けて、自分で自分を傷つけた。

 でも、今は佳奈が隣にいる。そんな事実だけで十分だ。

「旭」

「ん?」

 俺はフライパンで焼いていた肉をひっくり返しながら、佳奈の言葉を聞いた。

「大好き」

「あぁ、俺もだよ」


実は姉編も書きたいです。

気が向いたらシリーズ化するかもしれません。

ここまで読んでいただいてありがとうございます。また縁があればよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 男を紹介して幼馴染が付き合い幸せになるのを横目に紹介したことを後悔する主人公が見たかった
[一言] いい作品だと思います。ノンジャンルなのでヒットしづらいのが残念
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