後篇
この作品には〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。
「・・・・話は分かりました」
昨晩についての報告と謝罪を天照にする。彼女の表情は固かった。
「私も彼の神が入ってきたのは知っていました。ですが、それだけであった事も事実です。ですので貴方が彼の神に対して行った行為については、今は不問としましょう。そして、彼の神への我らの対応としては・・・・・・誰ですか」
天照は言葉を切ると立ち上がった。強大な力が突如として現れたのだ、周囲にも緊張が走る。
「初めまして?女神殿」
扉の影から昨晩の男神‐ゼウス‐が姿を現した。思わず建御雷は顔を強張らせ、刀に手が伸びる。
「初にお目にかかりますね、ゼウス殿。私は天照と申します」
「お堅いな・・・ま、しばらく邪魔するから覚えておいてくれ」
なぁ?とゼウスは建御雷の方を見る。
「触れを出しておきましょう。そして、我々に害がなのであれば今は歓迎しましょう」
「今は・・か」
「先の事は私も見えません」
天照の言い分に面白そうに笑うとゼウスは入ってきたとき同様、勝手にその場を辞した。周囲は彼の行動に顔を顰め、中には文句を言っている者さえいる。随分とこの短時間で嫌われたものだと建御雷は呆れる。
「あの者は・・・かつての弟に似ていますね」
力は比べようもありませんが、と天照はつぶやいた。
「よぉ・・」
天照の宮を出ると、門のところにゼウスが立っていた。
「ゼウス様・・・」
「様なぁ・・・昨夜の不遜な態度はどこへ行った?」
「昨晩は失礼しました」
「気にしてねぇが・・・・だが、今の態度は気にくわねぇなぁ」
面白くなさそうに舌打ちされる。
「無茶を言わないでくれませんか。昨晩と違い、貴方は今は天照の客です。」
「そうかよ・・・まぁ・・追々変えてくれりゃいい、今はな。それより、お前」
気にいった、と酷く男くさい笑みを浮かべる。
「俺のモンになれ」
「・・・・は?」
事態が飲み込めず、呆気に取られた顔で自分より幾分か高い位置にある顔をただ見上げる。
「俺のネコになれ」
耳元へと、熱っぽい吐息が柔らかく吹き込まれ、あわてて距離を取ろうとすれば、動く前に建御雷はゼウスの太い腕にからめとられた。押し返すも体格差にものを言わせて馬鹿力に抑え込まれてしまう。
「てめぇの啼く声に喘ぐ顔に興味がある。気位の高けぇお前の顔が快楽に歪んで懇願する様が見てぇなぁ・・」
馴れ馴れしくもゼウスの腕は彼の腰に回わされ、ぐっと距離が近くなる。その無遠慮さに建御雷の整った面差しは徐々に剣呑さを増した。
「屈辱だろう?見下ろされることもなけりゃあ、啼かせれることもなかったろうしな。軍神のてめぇを抱こうなんざここの神は考えもしねぇだろう、ここの神はお上品な奴らが多いからなぁ」
そう言った直後、建御雷の中から天照の客だとか格上の存在だとかに対する遠慮はその瞬間、遥か彼方に消え失せた。腕を振りほどき、不快な顔を殴り飛ばす。
「・・・ッ・・」
「不愉快だ」
「・・・っは、とんだじゃじゃ馬だな」
建御雷の逆鱗に触れたその表情さえもゼウスにとっては愉快な出来事でしかないらしい。めげることなく、彼の両腕は建御雷を捕らえんと伸びてくる。両腕を払い落し、建御雷はゼウスを睨みつけた。
「ネコはおとなしく・・・俺の下で啼け」
さっきの戯れのような速度とは違い、一瞬で建御雷の腕を掴むとそのまま壁に叩きつける。その衝撃により出来た隙に建御雷は唇を口付けによって塞がれていたのだった。一瞬の怯みを突いて唇へと割り入った舌先が建御雷のへと入ると、それは嬉々として咥内を蹂躙する。静寂の中、時折微かに響く水音に羞恥が湧いた。
絶景だな、とゼウスは建御雷を見下ろす。眉根を寄せる面持ちが耐えるような、それでいて艶を帯びるようななんとも言えぬ表情を浮かべ始める様子は、予想以上にゼウスを楽しませる。女には最近、飽いてきた所だった。最高神である自分に対しての彼らの態度はやや食傷気味だったのだ。そこに遠い異国は渡りに船とばかりにゼウスはこの国にやってきた。もの珍しい文化に国を飛び回っているところに現れた建御雷はゼウスの絶好の獲物だった。執拗と言っていい口付けが終わらせ舌先を引き抜く、後引く濡れた唇を軽い口付けで拭う時には、ゼウスのその口元には更に深い笑みが宿っていた。逃がすものか。
「なぁ・・・タケミ・・否、“Lightning”」
「ライ・・・何?」
荒い息を隠せず、それでも仄かに上気した目許をきつく睨みつけてくる様は可愛らしいとしか言いようがない。
「俺の武器は雷だ、なら雷神であるお前こそ俺の隣に立つに相応しい」
だから
「抱かせろ」
せいぜい俺の手の中で乱れて見せろ。
思えば、あれがいけなかった。押すに押され、雰囲気に流され肌を重ねたのがあの神を助長させることになってしまったのだ。
「・・・・はぁ・・」
溜息が洩れる。ゼウスが帰り、ガランとした自室に建御雷は再び寝転がる。そこへ遊びから帰ってきた雷獣がじゃれついてきた。
「あれは釣った魚に餌をやらねぇタイプだしなぁ・・・」
雷獣を抱きしめながら、建御雷は低く唸った。堕ちた瞬間に捨てられるなんざ冗談ではない。
「主様・・」
松助が荒れに荒れ果てた部屋を片付けるためにやってきた。そしれあまりの惨状に溜息が出る。
「毎度毎度、部屋を破壊するのはやめて下さいませんか」
満足に花器も置けない、とぼやく。
「部屋より俺への心配は無いのか」
「大丈夫で御座いますか?」
「・・・・・・・大事ない」
素気無くあしらわれて建御雷は深い溜息をついた。
「早く・・・諦めてくんねーかなー・・」
俺が踏ん張れているうちに・・・
空に稲妻が走った。
これで今後の主軸の前提の話が出来たかな・・?やっぱり文章を書くのは難しいなぁ
誤字脱字ありましたら遠慮なく指摘ください。ここまで読んでいただきありがとう御座います。