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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

呪い星

作者: 宅間晋作
掲載日:2026/02/26

 数多の国々があった。

 その中でエルフ達は森や地下で暮らし、人々から隠れるように生きていた。

 特にエルティスの里と呼ばれる長の家系は代々黄金の瞳に金髪を受け継いだ。

 これはそんなエルティスの里の一幕である。


「ま、待ってくれ! ティーヌ! エレーニー! ソレガシを置いていくな!」


「あら? ディアス君足が遅いわね? 先に行っちゃうわよ?」


「そーよ。 そーよ! ディアスの鈍足! エルフなんだから早く走りなさいよ!」


「はぁはぁ待ってぇ!」


 エルティスの里の娘ティーヌとエレーニーを追いかけながらディアスはなんとか足を動かす。

 五歳の体に水色の髪に緑の目。 将来美形になるであろうその顔は目の前を走る双子の姉妹を捉えていた。


「ふぅ。 じゃあ今日の走り込みはここまでにしましょうか?」


「えーまだ走り足りないよ! お姉ちゃん!」


「そんなわがまま言っているとディアスに嫌われるわよ?」


「なっ!? べっ、別に!? ディアスのことなんて!?」


 ティーヌはディアスの体力限界を知ると手を叩いて足を止めた。 姉の言葉にエレーニーが顔を顰めたが、大好きな姉の言葉にエレーニーが否定する事はできなかった。


「はぁはぁ何を話している? ティーヌ? エレーニー?」


「う、うるさいわね!? た、ただあんたが森の戦士に相応しくない愚鈍って話してただけよ!」


「あらあら。 エレーニーちゃんてばそんな事言って」


「うむ。 よく分からぬが二人が笑っているならソレガシは嬉しい! ティーヌ。 エレーニーソレガシは必ずやこのエルフの里で一番強い戦士になってみせるぞ!」


「へー、それは楽しみね?」


「ふん。 せいぜい頑張んなさい!」


 五歳ながらディアスは、朝日に照らされながらそう戦士の誓いを立てた。


「ティーヌ。 エレーニー何をしてる? コレガシをあまり心配させるな」


「そうよ。 エレーニー。 ティーヌ」


 声が聞こえて来て背後を振り向くと、金髪に黄金の瞳をしたエルフと金髪に緑の瞳をした女エルフが立っていた。


「ふむ。 ディアスか娘達と遊んでくれてありがとう」


「ディアス君。 いつも娘達が世話になるわね」


「ウム! 礼には及びませんドゥール里長! ニュイ様! ソレガシは必ずやティーヌとエレーニーを守れる戦士になります!」


「そうかそうか」


「あらあら」


 ディアスの発言にドゥールは頷き優しく笑い、ニュイは頬に手を当てて微笑んだ。


「未来がとても楽しみだ」


「無理しないでね?」


「ソレガシは今から素振りをしてこようと思います!」


「そうか」


「じゃあ私もやろうかしら?」


「あ! ずるいわよ!! あたしも」


 そう言って三人は木刀を振って時間を分かち合った。



 それから、千五百年が経った。

 千四百になった頃に、ニュイは見聞を広める為に旅に出て、帰ってこなくなってしまった。

 だが、立派な青年になったディアスは屋敷の廊下を歩き、ドゥールの元へ向かった。


「失礼します。 ドゥール里長!」


「よく来たなディアス。 今日はお前に話があるのだ」


「話ですか?」


 ドゥールの目の前で正座をし、ディアスは言葉を待った。


「……娘達と結婚し、里を守ってくれないか?」


「えっ!?」


 ディアスはいきなりの発言に戸惑った。


「そ、ソレガシよりも良い人がいます! ドゥール里長。 どうかご再考を!」


「……無理か?」


「い、いえ! ソレガシが里を守れると信じてくれるのならばソレガシは応えてみせます!」


「そうか頼んだぞ」


「はい!」


 そう言ってディアスはドゥールの屋敷を出た。







「……来たか」


 ドゥールが夜、屋敷で寝ていると起きて剣を腰に差し、広間で待ち伏せした。


「……族長」


 屋敷の護衛を担っていた同胞が部屋に入るといきなり倒れた。

 ドゥールは、同胞に目線を移した。

 目が虚で生気がなく、死んだと分かった。


「随分遅かったなぁ。 ーー同胞殺しめ」


 ドゥールが、部屋の入り口を睨むと一人のエルフが中に入って来た。


「ふん。 この里もつまらん」


 ドゥールが目の前の相手に視線を向ける。

 灰色の髪に、茶色の瞳をしたエルフが目の前に立っていた。

 そのエルフは護衛のエルフの頭を掴むとそのまま部屋の隅へと放り投げた。


「クアイエッドか? 千四百年前に自らの里を滅ぼすだけでなく見聞を広める為に出て行ったコラガシの妻ニュイを殺し、他の村や里を滅ぼした厄災」


「いかにも、しかしこの里の連中はつまらんな」


「……外道め。 これ以上他の里の同胞を殺す訳にはいかぬ。 コレガシがここでお前を殺そう。 同族殺しの汚名を被ってでも」


 そう言いながら、ドゥールは腰に差した剣を抜きクアイエッドを睨む。


「はっ! 老いぼれよく吠える」


「エルティスの里の里長……ドゥール・エルティス」


「……クアイエッド!!」


 互いに戦士の名乗りを果たし、両者は激突した。


「コレガシの妻ニュイを殺した外道め! 娘は殺させん!」


 剣を荒々しく振るい、ドゥールは踏み込んだ。

 雷鳴のような音を轟かせ、空気が震えた。

 踏み込んだ衝撃で畳にクレーターが出来、壁に穴が開いた。


「ふん。あの女か。 強かったなぁ確か千四百年くらい前か? 最後までお前の名と娘を名を叫んで死んだぞ」


 ドゥールの言葉にクアイエッドは鼻で笑う。 目を細めて、迅速で踏み込むドゥールを観察した。


「……黙れ。 妻の名を汚すな! ウィンド! エレック! フレイム! アイシル!」


 風、雷、炎、氷の魔法を巧みに操り、クアイエッドの逃げ場を無くそうとした。

 風と氷の粒で壁と地面に穴が開き、雷と炎で床が焦げて炭の匂いが部屋に広がる。

 だが魔法に当たるよりも早く、クアイエッドがドゥールの目と鼻の先まで近づいた。


「おせえよ。 老いぼれが」


「……無念」


既に近づいたクアイエッドの一撃に、反撃が間に合わずドゥールの体は斬られた。


「あ……くぅ。 ティーヌ……エレ」


「ちっ、もう朝か。 じゃあな化石のジジイ」


 力弱く、ドゥールは娘達の名前を呟きながら息絶えた。







「……里長! 里長ぁぁぁぁぁ!!」



 ディアスは朝。 里の護衛の者から連絡を聞いて、屋敷に入りドゥールの遺体を見つけた。

 無惨にも体を切り裂かれており、亡骸を抱きしめて泣いた。


「何故こんな! 酷い すみませんドゥール里長あなたを守ると誓ったのに! こんなこんな無惨な姿に! 未熟ではありますがこのディアス・エルティス必ずやあなたの仇を討ちます!」


「き、急報ですディアス様! エレーニー様が瀕死の重傷!! 報告ではティーヌ様が妹君を斬ったと」


「な、なんだと!? 馬鹿を言うな! 優しいティーヌがそんな事する訳ないだろう」


 里の連絡係の胸ぐらを掴みディアスは激昂した。


「ソレガシは話を……この目で見るまで絶対に信じぬ!」


 そう言ってディアスは馬に乗り、テレンの里を目指した。


「エレーニー!!」


 テントが見えて中に入ると、ベッドに横たわるエレーニーが見えた。


「ディアス。 お姉ちゃんを止めて。 早くしないとお姉ちゃん死んじゃう」


 するとエレーニーが横たわりながら、涙を流した。


「どう言う事だ? エレーニー話をしてくれ!」


 ディアスは焦りながら、冷静になってエレーニーの話を聞いた。


「……悪童クアイエッドを殺す為に向かったの。 五つものエルフの里と人族の村を襲った大罪人の」


「な、なんだと!?」


 クアイエッドの話をディアスも詳しく聞いている三百歳になった時、同胞の里が滅んだとドゥールが悲しんでいるのを知っているからだ。


「お願いディアス。 お姉ちゃんを」


「分かった。 ソレガシはオヌシを背負って行こう!」


「なっ。 ちょ!?」


「さぁ行くぞ!」


「お、お待ちくだされディアス様! 我らエルティスの里千名も行きますぞ!」


「うむありがとう。 同胞たちよ!」


「必ずやドゥール様の仇を!!」


「ああ!」


「お姉ちゃんはミカルナの里に向かったわ」


「心得た! すぐに向かおう!」


 ディアスはエレーニーの静止も聞かず、背中に背負いそれに加えて里の全同胞と共にミカルナの里へ向かった。



 ミカルナの里。そこは、すでにクアイエッドによって蹂躙された後だった。

 ティーヌは、妹であるエレーニーを戦いに巻き込まないようあえて傷を負わせて遠ざけ、一人で仇敵を追い詰めていた。



「見つけたわよ。 我、里の敵」


「ふん。 エルフの女の戦士か」


「お逃げ……くだされ。 ティー」


「うるさい」


 地面で絶命寸前のエルフを斬り殺し、クアイエッドは蹴飛ばした。

 ティーヌは、妹のエレーニーをクアイエッドと戦わせない為に、斬りクアイエッドを追いミカルナの里に来ていた。

 エルティスの里より南。

 様々な人の営みがあった村々は既にクアイエッドにより壊滅していた。


「……他の里の同胞を無惨に殺し、お母様だけでなく、お父様まで許せない!」


 そう言いながらティーヌは、震える手に力を入れて、抜刀し襲いかかった。


「はぁぁぁぁ!!」


「……あの化石ジジイよりかはまともだがなぁ!!」


「ぐっ!?」


 ティーヌはクアイエッドに殴られ地面に転がる。


「エレック」


「うっ!?」


 クアイエッドが雷魔法を唱えると、全身が痙攣した。


「さて、お前は美しいな。 殺すだけじゃ足りない」


「……この外道め。 ごめんね……二人共」


 ティーヌはこれから起こる事を予想しながら、意識を失った。






「っ!?  ティーヌ!」


 ディアスが駆けつけると大切な幼馴染の名前を叫んだ。


「お姉ちゃん!!」


 エレーニーも走り出して、地面に血だらけで倒れるティーヌに駆け寄りその体を抱きしめる。

 服は乱れており、手を出された事は明らかだった。


「……ごめん……ね?」


「謝らないで! すぐに治す! 治すから!」


 そう言ってエレーニーが治癒魔法を掛けるが、傷が塞がるだけで流した血は戻らなかった。


「……お姉ちゃん! 生きて生きてよ!」


「……あぁ。 またみんなで散歩したいなぁ」


 虚な瞳でエレーニーを見ながら、言葉を呟いてティーヌは絶命した。


「クアイエッド!! 何故このような事が出来る!?」


 ディアスは、両目に涙を浮かべ、目の前にいる灰色の髪のエルフを睨んだ。


「さぁな? 戦い勝てば生き、負ければ死ぬ。 ただそれだけの事」


 そう言いながらクアイエッドは嘲笑を浮かべ剣を肩に乗せた。


「……長だけでなく、姫様まで! 許さぬぞクアイエッド!!」


 するとディアスの隣にいたドゥールの護衛や側近達が両目に涙を流しながら全身を震わせる。


「……ティーヌ様!!」


「そんな! ティーヌ様が!!」


 ティーヌに教えを乞うていた女エルフ達も慟哭した。


「……行くぞ皆! これは聖戦だ!」


「「「おぉぉぉぉ!!」」」


「ソレガシの名はディアス・エルティス! 友ティーヌ・エルティスの幼馴染にしてドゥール・エルティスより未来を託されたエルティスの里の最強の戦士! いざ参らん」


 そう名前を宣言し剣を抜刀して、ディアスは死地を走った。


「ディアス様を一人にするな! 我々も行くぞ

!」


「「「おぉぁぉぉ!!」」」


 それに続いて、エルティスの里のエルフ達も続いた。


「ソレガシが!」


「待たれよディアス様!! ぐぅあ!?」


「う!?」


「っ!! 同胞!!」


 ディアスを庇おうと、前に出た女エルフの剣士と一人の剣士のエルフが斬られた。


「……数は厄介だな?」


「アイシル!」


「エレック!」


「フォルアース!」


「バワフレイム!」


 魔法が得意な者が中級の土魔法、上級の炎魔法を駆使してクアイエッドの退路を塞ぐ、上級の魔法は効くのかクアイエッドの皮膚が軽く焼けていた。


「ちっ、威力が高い魔法だな」


「な、何故だ同胞!? ソレガシが奴と対峙する! 皆は援護に回ってくれ!」


「……ディアス様は昔から魔力感知が苦手でしたな。 まずはあの男の魔力を削ぐ戦いからこれは始まっているのです。 恐らく全てを身体に回し延長戦に持ち込めば我々の勝ちです。 何。 我々は数がいますどうか駒のように使ってくだされ」


 ドゥールの側近だったエルフが威厳を出して、ディアスに頭を下げる。


「っ駒として使うなどソレガシには出来ぬ! 皆ドゥールの……エルティスの里の家族ではないか!」


「甘い考えを捨てられよ! ディアス様!! 今はそんな事を言っている場合ではないのです。 奴をここで殺さなければ未来のエルフ達は汚名の被り生き、そして他の里の同胞も死滅するでしょう」


 冷や汗を掻きながら同胞は吠えるようにディアスを嗜めた。


「くっ!!」


 思わずディアスは剣を強く握りしめながら、唇を強く噛み締めた。


「分かった! ソレガシは皆の援護に回ろう」


「……それでいいのです。 次期里長殿。 皆の者! 命を賭してこの場で厄災の権化を倒すぞ!」


「「「おぉぉぉぉ!!」」」


 側近に激に同胞のエルフ達は、頷き答えて次々と特攻した。


「ソレガシが必ずや。 奴の心臓を貫く!」


 そこには、甘さなどない。 一人の戦士として族長としての覚悟を持ったディアスがいた。

 そこからは地獄だった。

 また一人。 また一人が動ける同胞を庇いながら、死体に地面に血を流した。

 一人は自爆し、果て。

 一人は腕を失い出血死。

 一人はクアイエッドの魔法と剣術により無惨な死体に変わり、それをディアスは戦士の死を受け入れ内心敬礼を送った。


「皆……ありがとうっ」


 クアイエッドが息を切らす頃には実に五百名もの同胞が亡骸に変わっていた。


「同胞!」


「うぅぅぅ」


「よく戦った!!」


 本当に心優しい者はまだ戦闘中だが、涙を流して死を悼んでいた。

 だが決して戦意と武器を離しはせずクアイエッドを睨みつけていた。

 同胞一人が死んで行くたびに、生き残った同胞は決死隊となりその覚悟と武器と魔法の刃を鋭くさせ、クアイエッドの皮膚と体力を削った。


「はぁはぁ。 他の里の者でもここまでの殺意はなかったぞ!? 何故だ!?」


 クアイエッドが混乱を始めている。 恐らく初めてなのだろうここまで追い詰められた事が。


「何を言うか外道!」


「よくもティーヌ様と里長を!!」


「そうだ! ドゥール里長は我々を鍛え、導いてくれたのだ!」


「ティーヌ様は心優しく我々の家事を手伝い、菓子を焼いて配って下さった! それをお前が汚し奪ったのだ!!」


「ちっ! たかがこの世にいるエルフ一匹殺した所で世界は何も変わらんだろう!」


「うっ!?」


「がほっ?」


「うっ!?」


「ぐぅあ!?」


 怨嗟を叫び、同胞が叫び斬りかかると、クアイエッドがよろめきながらもその体を骸に変えた。


「はぁ……ぜぇ。 はぁ何故だ? あの化石ジジイはあんなにも弱かったのに何故、エルティスの里の奴らはこんなにも強い?」


「……分からぬのかクアイエッド。 それはドゥール里長が皆を家族の様に愛し、いつか同胞だけでなく。 人間や獣人などの多種族の未来を考えた皆を結束させ個々の力を伸ばしてくれたお陰なのだ」


「そうだ。 そして我らは明日の為に未来を賭けられる」


「……皆?」


 ディアスが言葉を続けていると、同胞達が前に出た。 その数四百名。


「……皆どした? 行くな! もう終わりは見えている。 命を無駄にするな」


 ディアスは分かってしまった。

 皆、もう生きるつもりがない。 目の前にいる同胞達は、特攻するつもりなのだ。


「もういい。 これ以上ソレガシは同胞が死ぬ所を見たくない!」


 声を震わせて、説得を試みる。 頑固なエルフを言葉のみで説得出来ない事を自覚しながら。


「……確実に奴を殺す為です。 それに元より我々は里が滅び、流れ着いたはぐれ者達が大半です。 悲しむ事はない」


 そう言って、同胞達が優しい笑みを浮かべる。 それが今ディアスにはとても辛かった。


「それは関係ないだろう!? ソレガシの家族だって同じだ! 里を人間の国の一つに侵攻され滅亡した。 そしてドゥール里長はソレガシを本当の息子のように育てて下さった! その妻ニュイ様はソレガシを息子のように扱ってくれた!」


「ふっ。 ディアス殿も同じでしたか。 ならば言葉不要。 これより我らの忠義そして未来の為に生きてくだされ」


「待っ」


 すると四百名の同胞がクアイエッドに特攻した。


「「「うぉぉぉぉぉ」」」


「ちっ。 死に損ないどもガァァァァ!!」


 クアイエッドが、剣を振るうと三名の同胞が斬られた。


「ドゥール様への忠義ここで見せずしてなんとする!!」


「里に拾われた恩をここで返す時!」


「時代に飲まれ、孤独にはぐれ者だった我らを導いて下さった。 その明かり星を貴様は奪ったのだ!」


「それがどうした!? 歴史に残らぬ弱き里だろう!? 別に滅んでも構わないだろうが。 人間どもは戦争中。 誰もエルフのに死に興味など持たぬわぁ!!」


 同胞の忠義をクアイエッドは一刀両断した。 だが、流石に体力の限界が近づいているのかふらつき始めた。


「好機!」


 一人の同胞が神速で近づき、左腕を奪った。


「このぉ!!」


「ふっ。 ドゥール様に良き報告が出来る」


 クアイエッドの片腕を奪った同胞は、笑みを浮かべてながら首を刎ねられて死んだ。


「……皆」


「よくやった同胞!」


「後は任せよ!」


「援護するわ!」


「エレック! フレイム! アイシル!」


「フォルアース! フォルゴーレム!」


「ちぃ!? こ、このぉ!!」


「……ソレガシも!!」


 ディアスが前に出ようと、するも同胞に肩を掴まれ止められた。


「……残酷な話だが。 俺らはお前に前線に出て欲しくない。 トドメを任せる」


「っ!? ソレガシも戦う。 もう五百名もの同胞が死んだんだぞ。 これ以上犠牲に出来るか!!」


「……皆。 若い奴に生きて欲しいんだよ。 今死んでんのは二千年以上生きた奴らだ。 それにクアイエッドはまだ魔力が少しある。 それをさらに削るべくあいつらは命を賭けてる。 だからさディアス里長。 全部飲み込んでくれ。 戦士に死に場所を。 忠義を燃やせる場所をくれ。 根っからの戦士ってのはそう言う頑固者で大馬鹿郎なんだ」


 そう言って紫髪の槍を持った同胞が前に出た。


「……おヌシも行くのか?」


「あぁ。 妻と娘が天国で待ってるからな。 そろそろ行ってやらねぇと」


「……そうか」


「……十五歳の息子がいるんだ。 頼むよ」


「分かった!」


 涙を拭いて、笑う。 ディアスは一人の同胞の戦いを見届ける事を誓う。 それがせめてものの礼で今ディアスが出来るせめてもの事だった。


「ふっ!」


 紫髪のエルフが残り二十名となった特攻のエルフと合流する。


「同胞!」


「気をつけろ! こいつはまだやる気だ!」


「おう。 分かってらぁ」


 紫髪のエルフは愉快に笑い、槍を構える。


「……槍の戦士か。 来い!」


 クアイエッドは、剣を構えて紫髪のエルフと相対した。


「……里長の為に命を賭けるぜ!」


 神速の槍の一撃は心臓を穿つ為に放たれた。


「甘いわぁ!」


 だがしかし、紫髪のエルフは槍と共に一等両断された。


「こっ」


 紫髪のエルフは、地面に倒れ地面に血の池を作った。


「はぁはぁこれで、うっ!?」


「……よくやりました同胞」


 一人の女エルフが弓を放ち、クアイエッドの右目を奪い、紫髪のエルフの遺体を素早く回収した。


「チッ、ちょこまかと!」


「同胞よ下がれ! ここは我々が!」


「……ありがとうございます」


 剣が得意な同胞が前に出て、クアイエッドの剣戟を受け止めた。

 弓使いの女エルフは同胞に礼を言って、離脱した。


「……ごめんなさい」


 女エルフは同胞を抱えて静かに涙する。 だが今、命を賭さねば他の里も壊滅してしまう。 その為の潰れ役をエルティスの里のエルフ達は真っ当する事を既に心に決めたのだ。


「さて、我々も行こう。 ディアス殿覚悟はよろしいか」


「うむ。 行こう!」


 残り百名となったクアイエッド討伐は、そのまま二十名となった同胞と合流し、クアイエッドを囲んだ。


「ち、塵芥どもめ!」


 クアイエッドが剣を振るう。 それをディアスは防いだ。


「クアイエッド!! もう何も奪わせぬ! ここで終わりだ!」


「ほざけぇ!!」


「うぉぉぉぉ!!」


「はぁぁぁぁ!!」


 ディアスは、よろけたクアイエッドの動きを見切り右腕を奪った。


「うがぁぁぁぁ!? お、俺の腕がぁぁぁぁ」


 クアイエッドは泣き叫び地面に転がった。


「……ここで終わりだ。 クアイエッド」


「嫌だ! 俺はまだ殺して強くなるんだ!! こんな雑魚共に」


 ディアスは、クアイエッドの言い分を無視して心臓に刃を滑らせた。


「うっ」


 こうして厄災は沈黙した。


「……皆」


 背後を振り返ると、満身創痍の同胞がいた。 特攻を行っていたエルフはもう瀕死の重傷で助かる見込みがなかった。


「……すまぬ。 ソレガシが弱いせいで」


「いいんですよ。 村長殿。 我々はドゥール様とニュイ様に胸を張って出会えます」


 そう言葉を交わし、片腕を無くした同胞は息絶えた。


「……エレーニー」


「……ごめんあたし。 戦いに参加してなかった。 こうやってお姉ちゃんの遺体を抱きしめる事しか出来なかった」


 エレーニーが涙を流して、ティーヌを抱きしめる。 既に時間が経ちティーヌの柔らかい体は硬直し始めていた。


「……ティーヌが守ってくれたのだ。 おヌシを守る為に傷つけてまで」


「分かる。 分かるけど! もうみんないない! いないんだよ!」


 エレーニーが子供のように泣き喚く。 無力と寂しさに声を震わして八つ当たりだと自覚しながらもディアスに全てをぶつける。


「……帰ろう。 皆を里の森に埋めよう。 それが皆、喜ぶ」


「……うん」


 こうして残った百名は、遺体を魔法の袋に入れてエルティスの里へ帰った。


 里に帰ってからは早かった。

 魔法の袋より、遺体を取り出して埋めた。

 武器はボロボロだったが墓標の代わりとして突き立てた。


「……皆お疲れ様です」


 ディアスは一人墓の前で手を組むエルフを見た。

 それはクアイエッドの右目を奪ったの弓使いのエルフだった。


「……おヌシ名前は?」


「リーナと申します。 もとよりこの里の者ではありませんが、ドゥール様ニュイ様からは娘のように……ティーヌ様の事は……失礼ながら妹のように思っておりました」


「……そうか。 リーナよ。 これからもソレガシたちに力を貸してくれぬか?」


「……もちろんです。 里長様」


 そこからのディアスの日々は大変だった。

 まず人間達の戦争が過激化した。

 クアイエッドと言う、暴力の化身がいなくなり戦争が加速してしまったのだ。

 ディアスは他の里のエルフを救助しつつ、人間や獣人、小人などの種族を助けた。

 最初は怖がられもしたが、感謝を述べて皆去っていった。

 そして一年後にはエレーニーと結婚し、男の子のジョンを授かった。

 リーナはディアスの右腕として活躍しており、四年後に紫髪のエルフの息子と結婚して男の子を産んだ。 名をディダスと言う。


「……里長様。 これからもエルフの未来をどうか作っていきましょう」


「……ディアス行きましょう。 お姉ちゃん達が作った未来を私達は守るの」


「うむ。 そうだな!」


 ディアスは三千歳になると、心臓に病を抱えて死亡した。

 ディアスの死後は、外から来た保守派が政権を握りエルティスの名を忘れて過ごした。

 それでも、彼らが照らした光は未来を照らしている。

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