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辺境の転生オタク令嬢ですが、祖父と組んで闇の結社を作ったら 〜訳ありイケメンばかり釣れるんですけど!?〜  作者: イコ


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黒き森にて、銀の獣を拾う

 闇の森は静寂を飲み込んでいた。


 湿った土の匂いと、木々の囁き。陽が差さないこの一帯は、領地の中でも特に異常魔力濃度が高いと報告された地。



「ふふ……闇の抱擁が、また一つ脈動しているわね」



 私は森の入り口で、漆黒のローブを翻した。


 腰には闇魔法が記された魔導書、肩には小さな黒猫のぬいぐるみ。


 顔の右半分を仮面で覆い、右目には魔力の流れを視る鑑定の魔眼を宿している。

 


 完璧。今日も私の厨二設定は万全である。



 転生して、お祖父様に闇の結社を持ち出す前に随分と準備をした。



 まずは、闇の結社のボスとして、私の設定から語らなければいけないでしょう。


 

 転生して私が得たチート能力は、ありきたりな鑑定だった。右目が魔眼になっていて他者の力や様々な品物の鑑定ができるのだ。


 戦闘向きではない能力だけど、闇のボスとしては、後方支援に最高のチートだと私は思っている。


 何よりも、相手の能力がわかるのは、ゲーム仕様としてオタク心をくすぐってくる。

 


 そして、もう一つ。この世界には魔法が存在して十三の属性があり、その中で私が選んだのは、闇属性の魔法だ。



 厨二病の魔法と言えば闇。



 闇こそが王道なのよ。



「……ディアナ様、本日も随分と気合いが入っておりますな」



 後ろから小声で苦笑するのは、祖父ガルドの側近であり、私の護衛騎士をしてくれている老騎士のセドリック。


 お祖父様と同い年の老騎士だけど、真面目で融通が利かない執事的なタイプ。


 だけど、私の設定に対して、優しい眼差しで見守ってくれる。



「当然よ、セドリック。この封印された力を解き放つのは、闇の結社のボスである。この黒の魔女たる私の使命だから」

「はい、使命でございますな……」


 

 今回、闇の森に足を運んだのは、私が管理する砦の外が森になっていたからだ。


 そして、もう一つ。この森のどこかにガルドお祖父様が匿うイケメンがいるという。つまり、私の第一の配下となる調査対象が、森に潜んでいる。



 真実はどうあれ、私の想像力が刺激されるならそれでいい。



「よし、作戦開始。暗黒索敵シャドウスキャン!」



 ローブの裾を広げ、闇魔法を起動する。

 

 空気が震え、足元の影がゆらりと広がった。

 

 魔力を帯びた闇が地面を這い、森の奥へと延びていく。



 触手みたいでウニョウニョしているのがみていて、可愛い。


 

 同時に私の右眼、魔眼が赤く輝いた。



「……血のような反応。これは……戦闘の残滓!」



 私は魔女らしく、くるりとマントを翻し、森の奥へ駆け出した。


 そこには、血の匂いがあった。木々の間に、壊れた鉄の檻。引きずられた車輪の跡。奴隷商人の隊列が、盗賊に襲われたのだろう。


 だが、その中にひとつだけ、生きた魔力の波が残っている。小さくて弱い。けれど、限界まで震えながらも消えていない。



「……まだ、生きている人がいる」



 私は闇を裂くように歩を進めた。


 そして、倒木の陰にそれを見つけた。


 銀色の髪が、月光のように微かに光っている。小さな身体。獣の耳。しっぽ。血まみれの鎖が手首を縛っていた。



「――!」



 その子は、息も絶え絶えにこちらを見上げた。


 白銀毛並み、黄金色の瞳。震えた声で、か細く呟く。



「……殺さないで」



 その言葉に、私は一瞬で悟った。

 


 これは!!! 運命の出会い!!!



 傷つき、震える超絶美少年。しかも獣人のモフモフ尻尾を持つ。



 首には奴隷を表す首輪をつけられて、傷つき涙を浮かべる姿が尊い。



 これは推せる!!! いや違う、助けなきゃ。

 


 ここで素を出しては、黒の魔女の威厳が損なわれる。


 私はゆっくりとローブを広げ、怪しい笑みを浮かべた。



「ふふ……怯えることはないわ、小さき魂よ。我が名は闇の結社が頭目ノクス。闇を識る者にして、光を拒む者」

「……ひっ」

「安心なさい。あなたの命を奪うほど、私は飢えていないわ」



 言ってから思った。なんか台詞がちょっと素敵すぎない? 少年は一瞬きょとんとした後、さらにビクビク震え始めた。


 いい! あなた最高にいい反応をするわね!

 

 だけど、怯えているだけじゃ話にならない。私は咳払いして、もう少し柔らかい声を出す。



「……傷が深いわね。鎖を外してもいいかしら?」

「……僕を……殺しませんか?」

「あなたが私との、闇の契約に従うならね」



 自分でも何言ってるのかよくわからないが、少年はわずかに安心した顔をした。


 私はそっとしゃがみこみ、鎖の錠を魔力で焼き切る。


 金属が音を立てて砕けた瞬間、少年の肩が跳ねた。



「いたっ……」

「動かないで。……治癒魔法、使うわ」



 私は右手を彼の背に当て、闇魔法のダークヒールを使う。


 黒い触手が、少年に絡みついて見た目がなんだがグロい。



 触手ちゃん! 男の子の口まで入っていく必要ある?! 背徳感が半端ないわ!



 でっ、でもなんだろう。ムズムズしてちょっと背徳感が癖になりそう。



 ちゃんと回復はできているから問題ないわよね? 淡い紫の光が彼の傷に染み込むように消え、出血が止まっていく。



 少年は息を詰めたまま、ぽつりと呟いた。



「うわっ!? ひっ! あっ……あたたかい……」

「ふふ……闇は、冷たくなんかないわ」



 我ながら決まりすぎた。完璧な魔女ムーブ。


 内心ガッツポーズしつつ、少年の顔を覗き込む。



「あなた名前は?」

「……クーガ。……奴隷……です」



 細い声。銀の髪が、涙に濡れて光る。


 うっ! 守ってあげたい!



「奴隷商人に売られて、……盗賊がきて……」

「……そう。では、今日からあなたは私のものよ」

「ノクス様のもの?」

「ええ、闇の結社の保護下に入るわ」

「闇の結社?」

「そうよ。私の庇護を受けて、契約をするのよ、クーガ。受け入れるかしら?」



 演出するために、私は闇魔法を放出させて、魔法陣のように指先で光を描きながら、満足げに微笑んだ。


 きっと、クーガは恐ろしい魔女を見ている気分になるだろう。



「あなたの運命は、今日この瞬間、闇に属したの!」

「えっと……その……こわいけど……ノクス様は、温かいです。僕をノクス様の物にしてください」



 いい! 本当に才能があるわね。クーガ。


 庇護を求める美少年とか眼福以外の何者でもないわ!



「恐れないで、怖くないわ。闇は、優しいのよ。特に、可愛い子にはね」



 少年が顔を真っ赤にして目を逸らした。

 

 セドリックのため息が、背後で風のように聞こえた。



「……ディアナ様、結局、拾い子でございますな」

「拾い子ではなく、闇の使徒候補よ! それにこの姿の時は、ノクスと呼びなさい!」

「はいはい、闇の使徒候補、ですな……。それにノクス様ですね」



 私はクーガの手を取り、立たせる。銀の髪が風に揺れた。彼の魔力を艦艇の魔眼で覗くと、微弱ながら確かに光る。



「……この子、ただの奴隷じゃない。魔力の濃度、尋常じゃないわ」

「どういうことです?」

「間違いなく、闇が気に入っている」



 私はマントを翻し、微笑む。



「さあ行きましょう、クーガ。闇の館へようこそ」



 闇の森に、月が沈みかけていた。その光の下、銀の髪と黒のローブが、まるで夜明けと黄昏のように並んでいた。


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