表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の転生オタク令嬢ですが、祖父と組んで闇の結社を作ったら 〜訳ありイケメンばかり釣れるんですけど!?〜  作者: イコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/6

闇の結社を異世界で立ち上げてみた

 気がついたら、私は死んでいた。


 それも、オタクとしてはわりと本望な死に方で……推しを応援して、三徹を乗り越え、スマホを握りしめて死んだ。


 画面には、連載を追ってた異世界転生ラブコメの最新更新。



『光の聖女エリシアと七人の守護騎士 ― 辺境の闇を祓う者』



 神回。尊死。供給過多。



『いやここでその台詞は反則では???』

『公式、私の寿命を吸い取ってません???』



 そんな感じのことを、タイムラインに流しながら歩いていて。


 次の瞬間、ヘッドライトの眩しさと、クラクションの悲鳴みたいな音と、浮遊感。



 庵野黒子:十五歳。



 尊いカップリングの供給を浴びながら、トラックに撥ねられて、三回転トリプルアクセルで地面に叩きつけられて、その人生を終了しました。



 それで終わりでもよかったのかもしれないけど……どうやら、世界はもう一話分くらい、私の物語を書くつもりだったらしい。





 目を覚ましたら、知らない天井……ではなく、知らない天蓋だった。


 豪奢なカーテン。金の刺繍。見たこともない紋章。

 

 そして、鏡に映った顔は、前世よりちょっとだけ整った私。


 黒髪と黒い瞳だけはそのままだった。

 


 ディアナ・クローバー。


 

 クローバー辺境伯家の妹という立場に転生していたのです。



 どこかで聞いたことがある名前でしたが、私はそんなことどうでもよくて、異世界世界に転生ヒャッハー状態だとお伝えしておきましょう。



 数々の異世界転生小説やコミックを読み漁り、推しを応援して楽しむ私はいつしか転生してみたいと思っていた。



 この世界、ルミナリア聖王国の辺境にあるクローバー領で、数年前に意識を取り戻した。



 オタクの順応性によって、すぐに転生世界にも、身元にも、それなりに慣れた。



 この世界は剣と魔法のファンタジー世界であり、貴族と王家と、魔物と戦争が実在する、わりとテンプレな異世界。



 クローバー家の両親はすでに他界していて、ディアナに残された家族は二人だけ。



 一人は、私の兄であり、このクローバー領を治める辺境伯、クリスティン・クローバー。超絶イケメンの黒髪ロングお兄様、端的に最高な見た目。



 そして、もう一人は、貴族の表舞台を引退した、シルバーグレーの髪色に筋骨隆々な体を持つ、ガルド・クローバーお祖父様。



「ディアナ。礼儀作法を学んだレディーなのだ、ドレスで走り回るのはやめたまえ」



 朝食の席で、兄はいつもの調子でそう言ってくる。

 

 涼しい顔、切れ長の黒に近い青い目。

 

 女の子たちが見たら悲鳴を上げそうな端正な顔立ちなのに、口から出てくるのはだいたい説教か業務連絡だ。



「はいはい、気をつけます、クリス兄様」

「返事だけはいいのだがね、君は」



 呆れたようにため息をついて、兄は食器を静かに置いて席を立つ。


 今日もこれから、領主としての仕事に戻るのだろう。


 十八歳で辺境伯を継いで、現在は二十一歳。



 広大な辺境を魔物から守り、王都の貴族との駆け引きに追われ、正直、妹に構っている暇はないはずなのに説教だけはしてくる。


 優しくないわけじゃない。ただ、いつも疲れていて、笑い方を忘れている。鉄仮面はやめた方がいいと思う。



「おう、ディアナ。パンばっかり齧っておらんで、肉も食え肉も」

「はいはい、ガルドお祖父様」



 焼きたてのソーセージを勝手に私の皿に追加してくるのが祖父だ。


 クローバー家の前当主であり、かつて「鉄血のクローバー」と呼ばれいた軍人貴族。


 今は隠居した身で、政治の表舞台からは退いている。けれど、領民からの信頼は根強いため、祖父がいる間は、領民が反乱する恐れはない。



「ディアナ、お主また昨夜は遅くまで本を読んでおったろう」

「えっ、なんでバレてるんですか?」

「ワシの勘を侮るでない。目の下の隈と、朝のスープの飲み方でだいたいわかる」

「観察力がホラーなんですよ、お祖父様」



 祖父には誤魔化しが利かない。でも、その鋭さが私はちょっと誇らしい。


 何しろ私は、この家に生まれる前から、こういう人たちを物語の中でずっと見てきたのだ。



 前世の名前は庵野黒子。オタクで、なろう系異世界転生ものを読み漁っていた、ただの女子高生。



 悪役令嬢も、ゲーム世界転生も、大好きだった。



 勉強して、礼儀作法を覚えて、それなりの相手と結婚して。辺境伯の妹として無難に暮らす。それはそれで、きっと幸せだろう。


 だけど、それならわざわざ異世界に生まれ変わる必要なくない?



 異世界転生したからには厨二病を全力でやらせてほしい。



 前世の私は、画面の向こうの主人公たちにずっと憧れていた。

 


 世界の裏側を知っている人たち。

 王も知らない秘密を握る組織。

 昼はただのモブ、夜は闇を駆ける影。



 そういう闇の結社とか、謎の組織とか、裏の顔とか。そういうやつを、自分でもやってみたかったのだ。



 魔法があって。

 剣があって。

 魔物がいて。

 戦争の火種があちこちに残っている、この世界で。



 ……だったら、作るしかないよね。闇の結社


 私はパンを飲み込んで、ナイフとフォークを揃えた。



「お祖父様」

「なんじゃ。腹でも痛いのか?」

「真剣な相談があるんですけど」



 私が真顔になると、祖父の目がわずかに細くなる。クリス兄様はすでに席を立っていた。今朝の仕事が山積みなのだろう。


 食堂には、私と祖父だけ。メイドや執事は下がらせている。


 このタイミングを、ずっと狙っていた。



「私、自分の組織を作りたいんです」

「…………」



 祖父の手が止まる。



「まだ何も言っておらんが、なぜそんな不穏な空気を出す」

「だって、お祖父様の顔が『また妙なことを言い出したの』って顔してますもん」

「……ふむ。で、どんな組織じゃ」



 逃げる様子はない。むしろ、興味を持ったときの眼をしている。


 私は、胸の内で一度深呼吸をして。


 十七年間、温め続けてきた夢を、口にした。



「闇の結社です」

「……」

「必須でしょ?」

「何に必須なんじゃ」

「ロマンに、です」



 祖父が、こめかみを押さえた。



「ディアナ。わしはお主を、そこそこ賢い子に育ててきたつもりなんじゃが」

「そこそこ賢いからこそ、闇の結社なんですよ。いいですか、お祖父様。表の政治や軍は、兄様がやります。私は裏から、領地を守るんです」



 自分で言っていて若干恥ずかしい。けれど、言葉にしてしまえば、もう戻れない。



「表では、ただの辺境伯の妹。でも裏では、闇の結社の頭目とか、最高に燃えませんか? 私は燃えます!」

「燃えるのはワシの胃なんじゃが、お主が変わっとるのは知っておったがここまでとはな」

「大丈夫です。健胃薬あとで持っていきます」

「そういう問題ではない」



 祖父はしばし黙って、私の顔をじっと見つめた。逃げずに見返す。ここで引き下がったら、一生後悔する。



「……ふむ」



 やがて、祖父は小さく息を吐いた。



「目的は?」

「え?」

「組織というものは、目的がなければただの人集めじゃ。お主は何のために闇の結社を作りたいんじゃ?」



 さすが元辺境伯、ロマンだけでは首を縦に振ってくれない。


 私は少し考えてから、言葉を選んだ。



「この辺境は、魔物も多いし、旅人や移民も多いですよね」

「そうじゃな。辺境じゃから、国境に近いからのう。何よりも昔は魔族の棲家と言われていたほどじゃ」

「はい。ですから、表向きの騎士団や兵士さんたちだけじゃ追いつかない、変な事件って、きっとあります。人買いとか、密輸とか、貴族の顔が立つから揉み消されちゃうようなやつとか」


 

 こんなのはあってずっぽうでなんでもいい。


 異世界なら、そんなもの用意してくれ。



 ご都合主義カモン! 



 前世で見たニュースと、オタク知識と、この世界で聞いてきた噂を全部かき集めて、私は続ける。



「そういうのを、領主の名を出せない形で片づける組織があればいいなって。表には残らないけど、裏で動いて、誰かを助ける組織」



 そして、ほんの少しだけ欲張って。



「ついでに、世界の秘密とか、王都の陰謀とか、魔法の謎とか、そういうのも集めていけたら楽しいなって、魔族と手を組んで大陸を裏から牛耳るのもありですね」



 祖父の口元が、わずかに引きつる。



「楽しい、というのは若さじゃのう……」

「はい。若さです!」

「お主は本ばかり読んでおると思っておったが……」

「それも否定はしません」



 しばらく、祖父は黙っていた。


 私は、少しだけ不安になって、テーブルクロスの端を指でつまむ。



「……ディアナ」

「はい」

「ワシは、そういう無茶を好かん男ではない」

「ですよね」

「だが、お主がやろうとしておるのは、むちゃくちゃなようでいて、実は理にかなっておる」

「え?」



 顔を上げると、祖父はにやりと笑っていた。かつて「鉄血」と呼ばれた頃の、鋭い笑みというよりも、イタズラを思いついた少年のように見える。



「領主は表の顔でなきゃならん。だが、表だけで守れぬものもある。わしも現役の頃、何度か裏で手を使ったことがある」

「……」

「お主がその裏を引き受けるのなら、ワシが手伝ってやろう」

「本当ですか!?」



 思わず椅子から立ち上がってしまった。

 

 テーブルの向こうから祖父が手をひらひらさせる。



「座れ座れ。はしゃぐでない、頭目殿」

「すみません、まだ頭目見習いなので……!」

「まずは人目のつかぬ場所が必要じゃな。……ふむ、そういえば」



 祖父は何かを思い出したように目を細めた。



「この領地には、昔使っておった隠された砦があったはずじゃ。今は封印しておるが……案内してやろう」

「……え、何それ聞いてない」



 屋敷の一番奥。普段は使用人も近寄らない古い廊下を歩きながら、私は思わず声を上げた。


 そこには隠し通路への扉があり、私のオタク心をくすぐってくる。



「聞かせておらんからな」

「お祖父様ぁ! 最高です!」

「ワシの若い頃はの、王都との関係も今より荒れておってな。何かあったときに備えて、避難路と、隠し通路と、地下の詰所を……」

「完全に戦時体制の遺物じゃないですか?! 素敵!」



 こんなにも異世界の建物と相応しい構造はない!



「そうじゃ。だからこそ、人払いして封印しておった。今の平和な時代には不要じゃからな」



 祖父は壁に手を当て、小さく呪文のようなものを唱える。

 

 淡い光が走り、古びた石壁の一部が、音もなく横へとずれた。


 地下へと続く階段が現れる。



「……最高」



 思わず本音が漏れた。


 ひんやりとした空気。古い石のにおい。


 ときおり灯る魔光石の光が、階段を青白く照らしている。


 私は全力で拍手していた。



 異世界転生……ありがとう……!



 階段を降りていくと、小さなホールに出た。

 

 三つの扉があり、そのうちひとつだけに鍵が刺さっている。



「そこが詰所じゃ。中は……多少、片づけがいるかもしれんがの、それに出口に町から外れた砦に繋がっておる」



 祖父が扉を押し開ける。中には、埃を被った木の机と椅子。壁際には、錆びた武器棚。地図が貼られていたであろう場所は、古い画鋲の跡だけが残っている。



 けれど、私にはもう、ここが見えていた。



 円卓を置いて。

 椅子を並べて。

 資料棚を置いて。

 地上には出せない書類と、裏の情報と、ひっそり集めた魔法道具を詰め込んで。



「闇の結社の本拠地……!」



 言った瞬間、背筋がぞわっとした。震えと、興奮と、ちょっとした楽しさ。



「気持ちはわかるが、大声で言うでない。闇とは何か分かっとるか?」

「すみません、今ので七割くらい気持ちよさが来てしまいました」

「残り三割は働いて稼げ」



 祖父は苦笑しながらも、否定はしない。



「ここをどう使うかはお主次第じゃ。ただし、条件が一つ」

「条件?」

「この組織が守るものは、まず何よりも、この領に住む者たちだ。それを忘れるな」



 冗談でも、ロマンでもない目だった。


 私は自然と、背筋を伸ばして頷く。



「……はい。約束します」

「よし」



 祖父はにやりと笑って、付け加えた。



「人材については、わしにも心当たりがある。訳ありで、腕は立つが、行き場のない連中がの」

「訳あり……腕は立つ……?」

「それとな、美形が多い」

「採用です」



 食い気味に答える私を見て、祖父は「やれやれ」と肩をすくめた。



「お主、顔で選ぶ気じゃろう?」

「イケメンばかりに囲まれて、世界の裏側で暗躍する人生、送らせてください」

「……まあ、王都の連中以外は損をせんじゃろう」



 辺境伯の妹として、表では「少し変わった令嬢」として。


 裏では、元・鉄血辺境伯をスポンサーに従えた、秘密結社の頭目として。


 新しい人生を、全力の厨二病とともに踏み出すことになりました。

どうも作者のイコです。


アーススターノベル大賞様用に考えた作品になります。


評価や応援いただけますと嬉しく思います。


どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ