0.0:不思議なアンティークショップ
はじめまして。
この物語は、とある挫折から始まり、少し不思議で、少しあたたかな旅へと続いていきます。
まずはプロローグとして、その入り口を覗いてみてください。
スマホの画面に表示された文字を、何度も何度も読み返す。
「この度は、誠に残念ながら…」
その先はもう頭に入ってこなかった。ため息しか出ない。
北川 心音。それが私の名前だ。
もう何度、この文章を目にしただろう。エンジニアになるため、必死で勉強して、憧れの資格をいくつも取った。面接練習では「問題ない」「とてもいい」と褒められたのに、結果はいつもこれだ。
報われない感情が、ずっしりと心にのしかかる。見えないレールの上を走らされているような、先が見えない閉塞感。自分の価値が、どんどんすり減っていくような感覚だった。このまま、またアルバイト先に戻るのだろうか。慣れたはずの場所なのに、今度は涙と絶望しか浮かんでこない。
雨が降り始めたことも気づかずに、傘も差さず、ただただ前を見て歩いた。
どれくらい歩いただろうか。見慣れたビルの合間に、ぽつんと灯りがともる、不思議な一軒家を見つけた。まるで、子どもの頃に読んだ絵本に出てくるような、懐かしくも新しい佇まい。入り口には、「不思議な品々、あります」と手書きで書かれた看板がかかっている。
冷え切った体で、そのドアをゆっくりと開けた。中に入ると、古書の匂いと、優しいアロマの香りが混じり合い、どこか懐かしい音楽が流れている。所狭しと並べられた品々は、どれもこれも見覚えのないものばかり。
その奥の棚に、一つの古いコンパスが置かれていた。針がぐるぐると不規則に動き、まるで何かを探しているようだ。そのコンパスを手に取ると、凍っていた心の奥底から、温かい高揚感がこみ上げてくる。まるで、自分の心の羅針盤が、ようやく動き出したかのように。
そして、忘れていた感情が蘇ってきた。
「なんだろう、このワクワクする感じ……」
抑えきれない気持ちが、心臓を跳ねさせる。それは、羽が生えたかのような自由さ。誰の評価も気にせず、ただただ、ありのままの自分でいられる感覚だった。
「それは、心の羅針盤ですよ」
背後から、優しい声が聞こえた。
物語の最初の扉を開いてくださり、ありがとうございました。
ここから彼女の旅がどんな景色を描くのか、私自身も楽しみながら綴っていきます。
次回、第1章「針が示す方角」でお会いしましょう。